土下座
目を覚ましたら、天井がピンク一色だった。
ハナの部屋だ。ベッドに寝かされていた。
ハナが運んでくれたのだろうか。
部屋にハナは居なかった。《採掘》に行ってるのだろうか。
とりあえず天国では無さそうだ。
体を起こす。掛け布団をめくると、昨夜(?)買って着ていた服がボロボロになっていた。
服の継ぎ目が派手に裂け、オークの棍棒が命中した場所が派手に破けている。
さきほどの出来事が夢ではなかったという証拠だ。
一方問題の負傷したわき腹は…ちょっと赤みがかってアザがある。
そして違和感が少々。それだけだった。
間違いなくアバラは数本折れていた。吐血も考えると内臓にささっていただろう。
軽く見積もっても緊急手術からの長期入院。
腹時計から半日は経過していそうだが、明らかに回復スピードが異常すぎる。
回復と言うのすら怪しいレベルだ。自然治癒じゃこうはならない。
ハナのベッドは俺のベッドに比べて5倍ぐらいの値段だった。
恐らくこのベッドが治癒力を大幅に上げるのだろう。
どうしてもコレが良いと言っていた。何か効果があるのかと思っていたが、これは必須だな。
これが無ければ今頃と思うとぞっとする。
RPGの世界では一晩寝ると全快になる。
死にかけから無傷まで回復するというのは、こういうことなのか。
自分が体験すると少し気持ち悪いが、この仕様は命の恩人でもある。
部屋を見回すと、机の上に棍棒が置いてある。俺が気絶していたからそのままなのだろう。
意外に攻撃力あったな。雑魚ならこれだけでも何とかなりそうだ。
手を伸ばして取って消す。
《ステータス》を開いて状況を確認する。
《戦闘レベル》が3にまで上がっている。流石に雑魚ではなかったようだ。
振る事が出来るポイントも3に増えている。
どれかに振った方がいいのだろうか。
一応卵を確認したが、特に変化は無かった。
こいつが生まれてオークとかが出て来て殴られたらどうしよう。
流石にアレを見た後だと流石に心配になる。
《戦闘レベル》以外に変化したものがもう一つあった。アモルだ。
戦闘前と比べて40増えている。40かー、少ないな。
破られた服を考えても一応黒字ではあるけど。
いや、確かハナの放った魔法。恐らく《ファイア》だろうか。アレが決め手になった。
と考えたら、ハナも交戦した扱いなのだろう。
ハナにもいくらかアモルが入っていると考えるのが自然か。
リスクは大きかったが、結果的に多くの教訓を得る事は出来た。
敵はスキルも使うし、多少賢くはある。しかしレベル1でも倒せなくは無い。
ちゃんと準備をして、二人がかりで戦えばオークも何とか倒す事はできそうだ。
…もうちょっと強くなってからだな。
そういえば、ハナが持っていたあの杖は何だったのだろう。
オークの落としたカードも気になる。
恐らくハナが後で拾っただろう。会ったら聞いてみよう。
……ハナはバスタオルだったな。
その状態でこのベッドに運ばれたのだろうか。
ということは……バスタオルのまま……。
いつの間にか取り付けられていた扉がガチャリと開く。
ハナが《採掘》から帰ってきたのだろう。
昨日のマントは着ていなかった。もちろんバスタオルでもなく、普通の服装だ。
「お、おかえり……」
「……ふん」
ハナから不機嫌なオーラが漂ってくる。
俺が瀕死まで行ったのでご機嫌な訳がないのだが。
ハナは俺が起きているのに気付くとバッとこちらに振り向いた。
少し固まった後ツカツカと無言で歩いて来る。
そして割と全力のデコピン。痛い。
「……ばーか」
なんだよと言いたくなったが、やめておいた。
ハナの目が赤く腫れている。長い間泣いていたのだろう。
代わりにささっと姿勢を正した。
「心配をかけてごめんなさい」
綺麗な土下座をお見舞いした。
顔を上げたらもう一度デコピンをされた。痛い。
「ずっとそうしてろ。ばか」
五分ぐらいで許してくれた。
■ ■ ■ ■ ■
ボロボロになった服を着替える為にも、一度シャワーを浴びてくる。
お湯は出なかったが、水が凄く冷たいという訳でもない。
この世界の季節は冬ではないのだろうか。
夕食にすることにしたが、この世界のお米は正直言って美味しくない。
いわゆるタイ米のようなものしかない。
パエリアなら作れるかもしれないが、調味料が無いので自信がない。
体を拭いて服を着ながら、とりあえず俺はシリアルでいいかという結論に。
外国の病院食として使われていると聞いた事がある。
ハナは…俺の自腹で肉でも買おう。
この世界では肉はちょっと高いが、命の恩人でもあるしな。
肉をジューと焼きながら、玉葱をみじん切りに。
トマトを潰して適当に鍋で煮込み、酸味のありそうなものを適当にプラス。
お酢が何故か無いのがつらい。ケチャップとかマヨネーズとか作れるんだけどなぁ。
ケチャップもどきの完成だ。
ステーキのソースとしてケチャップもどきをつけ、ハナに渡す。
味はまぁまぁ良かったらしい。罵倒が「馬鹿」から「アホ」になった。
俺は栄養の為にシリアルに苺を入れた。
甘味が補充出来ればと思ったが、あまり甘い苺ではなかった。
それなりにおいしかったが。
「それで、これからどうする?」
サクサクとシリアルを食べながらハナに聞く。
「傷は大丈夫なの?」
ステーキをつつきながらハナが聞いてくる。
傷を心配するなら代わりに料理してくれればとも思ったが、ハナに料理を任せる訳にもいかないしなぁ。
「全然大丈夫。あのベッドはすげーよ」
「……あっそう」
何故か機嫌が悪そうだったが、気にしないでおく。
「ただ、一応モンスターは装備整うまで放っておこう」
「そーね」
瀕死者が出たので当然といえば当然か。
オークが落としたカードを見せて貰う。
《こんぼう》
こんぼうかーい。もう持ってるわ!
と思いながら一応装備してみる。
二刀流は出来ないかなと。
「出ろ!」と念じる
右手に元から装備している棍棒がにゅっと
左手には…お、出てきた。
二刀流できるのか。棍棒二刀流ってどうなんだとも思うが。
ちなみにハナは30アモルを入手できたらしい。
与えたダメージによって貰えるアモルが変化するのだろうか。
俺が入手できたのは40アモル。
棍棒でのハードヒット4発で倒せたということかな。
弱点とか急所とかあれば別だが。
検証が必要そうだ。
《ファイア》について聞いてみる。
ハナ曰く、魔法には杖が必須との事。
杖は昨日の《採掘》でこっそり拾ったレアカードの内の一枚という。
まだあるのかよ、隠してるレアカード。
《ファイア》をもう一度見せて欲しいと言ったが、もう無いという。
「え、何で?」
「アレ、使い切りだったのよ」
使い切りか。銀カードを消費して銀カードを入手。
確実に銀カードが出るとは限らないので、毎回魔法を使う訳にはいかなそうだ。
つまり、魔法なしに相手を倒せるぐらいまで準備する必要がありそうだ。
まだ問題はある。
装備上限の問題だ。
初期カートリッジが三つしかない。
杖が必須で魔法を装備したら残り一つしかない。
つまり二発分しか魔法が装備出来ない。
必中である保障は一切ないので、その部分も考慮しなければならない。
MPを消費するかも分からない。
魔法も万能ではなさそうだな。
その分威力はあるみたいだが。
しかし《戦闘レベル》は上げておきたいところでもある。
とはいえMPを温存する事を考えると、その分《採掘》がおざなりになる。
うーん。バランスが難しい。
とりあえず今日は《採掘》をしてカードを整理して寝る事にしよう。
魔法カードが消費品と分かれば、出来るだけ確保したい。
そしてこれだけは言える。
あの光る壁が出現しても、絶対に触らないようにしよう。
体を動かしてみる。
ほぼ完治と言ってもいいぐらいに問題ない。
赤みや違和感も、このベッドで寝ていれば今日中に無くなりそうだ。
■ ■ ■ ■ ■
今回の《採掘》の限界は、予想以上に早く来た。
昨日の夜(?)や今朝(?)と比べて、半分ぐらいしか進んでない。
魔法カードや金カードはおろか、銀カードも一枚しか出なかった。
《短剣》
英語でそのままショートソードだ。
待ちに待った刃物ではあるが、ソードというよりほぼナイフと言っていい位短い。
このゲームはリーチはかなり大事っぽいので、あまり使う機会は無さそう。
あのオーク相手にこんなちゃっちい剣で戦ってもなぁ。
今朝の分も含めて、その他の気になるカードは以下。
《毒消し丸》
やはりあった毒。
オークに殴られた時の痛みから察するに、このゲームは苦痛部分はかなりのリアリティがある。
HPが減るだけなよくあるゲームの仕様では無い可能性が高い。
注意したい。
《止涙丸》
何だろうこれは。
状態異常で涙とかあるんだろうか。
催涙ガスとかやってくる敵がいると考えたらちょっと怖い。
《ランニ草》
ランニって何だよ。
うーんこれだけか。
あとは《イスピ草》とか《鉄の欠片》とか。
ちなみにそこらへんのものはハナも一通り既に持っているらしい。
魔法カードが出たかと聞いたが、首を横に振っていた。
結構なレアカードなのだろうか。
ちなみに、ハナが《採掘》している時に例の光の壁が発見された。
ハナはだんがーが読めたらしく、そこで切り上げてきたらしい。
「デンジャーって書いてあったじゃない!」
とわき腹に腹パン食らった。
先生、そこ結構治ってるんですが重傷だった箇所です。
また骨折したらどうするんだ。
カードを眺めながら考える。
危険とはいえ、《戦闘レベル》は今のうちに上げておきたいのも事実。
どうやらハナは《採掘》が出来る回数が増えているらしい。
《戦闘レベル》が上がるとMPの上限が上がるのかもしれない。
となれば、戦闘はしておいた方がいい。
とはいえこのままではちょっと危険だ。
何か強化できる策は無いか…。
せめて魔法があれば保険として効くんだが…。
ふと《鉄の欠片》に目が行く。
うーん…。これで何か合成を…。
「……あっ」
「ん?どうしたの?」
「これで《棍棒》と合成して、強化できないか?」
「……あー」
釘バットとかが出来るかもしれない。
《合成》はいつかやってみたかったものではあった。
ならいつやるの?今でしょ!
「じゃあ俺がやってみる」
と意気揚々とカードを二枚出した。
「ダメ、私がやる」
何故か奪われた。
抗議をすると、予想外の答えが返ってきた。
「だって私、《合成成功率上昇》のスキルあるし」
何それ凄い。
ハナの《ステータス》を見てみる。
確かにスキルの一つが《合成》と同じ英単語を使っているものがある。
最初のステータスの決定でこれを取るとか、結構勇気が要りそうだ。
ハナが早速コマンドから《合成》を試みるが、頭を横に振った。
「どうだった?ダメだったのか?」
「合成には内容によって、必要なアイテムがあるみたい」
今回の場合は《ハンマー》がないといけなかったらしい。
《ハンマー》と言っても武器ではなくトンカチの方っぽい。
《包丁》が武器にしにくいように、《ハンマー》もそうなのだろう。
ただ《ハンマー》は買えなかった。
恐らく《採掘》で出るのだろうと信じたい。もしくはどうにかして《合成》するのか。
成功した時に入手できる武器の名称も判明することができた。
《強化された棍棒》らしい。
《棍棒(強)》っていう表現でもいいかもしれない。
《強棍棒》でいいや。
ちなみに試しただけなので、武器や素材が消失するとかはまだなかったらしい。
逆に言うと失敗したら消失するかもしれないのか。怖いな。




