二重存在
さて、散髪から帰ってきた俺はまず採掘へと向かった。
すぐ風呂に入って毛を流したいところだったが、ハナに占領された為泣く泣くだ。
いや、何だったら一緒に風呂入ってもよかったんだけどな。
一応恋人だし、ハナも多分拒否はしなさそうだ。
まぁメーシャがいるから一応自重ということで。
採掘自体は特に何もなかった。
強いて言えば第一階層ではちょっと貴重な《スリープ》があったが、第二階層で普通に出るしメーシャには使えないし。
それぐらいだった。
「よーし、始めるぞー」
「オネガイシマス」
そういえばハナに習ってたんだったな。
メーシャは紙の棒を手に取る。
今日のメインはずばり《二重存在》だ。
一応ジャンケンでの練習はやっているようだが、実際に出して人間に攻撃するのは初だ。
使い方を少しでも研究してもらいたいところだ。
メーシャが深呼吸している。
どうやらかなりの集中力が必要なのだとか。
まぁスキルの連続使用はかなり難しいからなぁ。
しかもキャンセルも二重存在も、どちらもそれを推奨しているフシがある。
「来い!」
「イエス!」
紙の棒を握りしめ走ってくるメーシャ。
彼女は俺に攻撃する少し前に二つに分かれた。
《二重存在》だ。
間近でみるとかなり驚異的なスキルに感じる。
というかプレッシャーが半端ない。
が、正直俺はゴブリン百体と戦った男だ。
二人相手ぐらい割と何とかなる。
それだけの経験は積んできた……のか?
ちょっと自信が無くなったが、メーシャの猛攻もいなすだけなら割と簡単だった。
いや、俺自身がある程度戦いに慣れてきたと言った方がいいかもしれない。
大体の腕の長さと獲物の大きさから間合いが分かるようになってきたのは大きい。
二重存在で両方を動かさないといけないから、ちょっとメーシャの動きがぎこちないのもある。
が、割と形になっているだけでも凄いのかもしれない。
とはいえ俺も色々教えなければならない立場だ。
違うスキルについても教えてやろう。
「うぉりゃ!」
「キャッ!」
《衝撃波》だ。
《クイックヒット》を見てから《カウンター》気味に出した。
片方のメーシャはその衝撃に飲まれて消滅した。
もう一方のメーシャは何とか《キャンセル》を起動して《ハイジャンプ》で距離を取る。
とっさにここまで対応できるとは流石だ。
でも俺のバトルフェイズは終了してないぜ。
そぉい!とハリセンを投擲する。
が、これはただの投擲ではない。《ロックオン》と《ハードヒット》を合わせた《ハードショット》だ。
俺も俺でこれを大分流れるように出す事が出来るようになった。
練習は大事だよ。うん。
硬直からギリギリで解除されて何とか避けようとしたメーシャだが、そんな生半可な回避では《ロックオン》は避けられない。
強い誘導がかかり、ハリセンの柄の部分がメーシャのおでこにスコーンと命中した。
メーシャは移動手段は豊富だ。
しかしロックオン等に対する対処も、とっさに出来るようにしないといけない。
ロックオンの誘導の強さに目を丸くして腰を抜かしているメーシャに、俺は手を差し伸べた。
■ ■ ■ ■ ■
「ん……」
「あ、起きた」
「おはよう、えっと……」
たしか風呂入って、メーシャが光る壁の処理に向かおうとするのを見送って……。
どうやら昼寝していたらしい。
メーシャはとっくに処理を終えて帰ってきている。
ふとモンスターたちを見てみる。
へきへきとへきへき二号が戯れている。
そこにコータが僕も混ぜて―とばかりにうろうろしている。
やっぱコータが一番可愛い。
「そういえばさ、メーシャのお供って名前何て言うんだ?」
「あれ?そういえば……」
メーシャがスッとカードを出してきた。
のなめ……じゃなくてノーネームか。
名前付けてないのか?どうして。
ハナに恥ずかしそうに耳打ちするメーシャ。
「何か現実で友達に名前のセンスが無いって言われたんだって」
「あー……でも俺達二人も大概だしなぁ」
コータにポチにタマである。
言い訳のしようがない。
「でも、何かあたしたちに付けて欲しいって言ってるわよ?」
「えー、大丈夫か?」
「いいのを付けてあげれば大丈夫!問題ない!」
そう言ってさっそく名付けようとするハナ。
ちょっとまてい。
「まぁ待て、ここはジャンケンにしよう。勝った方が決める」
「ほほう、いいだろう。あたしの必殺の一撃が火を噴くぜい」
「ふん、かかってこい」
ジャンケンで決めることに。
メーシャは実際にジャンケンで物事を決める瞬間を見れてちょっと感動している。
「よっしゃ勝った!」
「くそー」
二度のアイコの末勝利を勝ち取ったのは俺だった。
しかしコータのように適当な名前はダメだな。
しっかりとした名前を付けてやらねば。うん。
三十分後、俺は意気揚揚と二人の前に立った。
「名前考えたぞー!」
「おー、おせーて」
「これだぁ!」
犬蛇鵜滅
どうだ、三十分考え抜いた名前だ。
強そうだろう。かっこいいだろう。
「……何て読むの?」
「ケンタウロス」
「はぁ!?」
凄い顔をされた。
酷い、一生懸命考えたのに。
というか一瞬で書いた紙破られた。
ぐぬぬ……。
「ちょっと、あんたこっち来なさい」
「……はい」
「正座しなさい、早く!」
「くぅ……」
それから俺は三十分間正座で説教された。
何でケンタウロスなんだ。
何で漢字なんだ。
何で漢字に馬が一文字も入っていないんだ。
てかこの子メスだし。
ばーかばーか。
ありとあらゆる責苦を言われた。
うすうす感じてたが《フラッシュボム》の恨みも入っていそうだ。
くそー……。
ちなみにへきへき二号はメーシャによって『キララ』と名付けられた。
ハナが発したこれキラキラネームじゃない!という響きに惹かれたらしい。
かっこいいと思うんだけどなぁ……ケンタウロス。
■ ■ ■ ■ ■
翌朝、俺が採掘へ行こうとするとストップがかかった。
へきへきを置いて行けという事らしい。
「なして?」
「メーシャが特訓したいんだって。採掘はもう十分だしさ」
「あー」
へきへきとキララのMPを可能な限り温存し、《二重存在》の練習をしたいらしい。
その為にわざわざ特訓部屋なんてものを設置していた。
俺達に隠れて特訓したいらしい。
わざわざモニターにこの部屋が表示されないよう設定までされている。
秘密の特訓という訳か。
へきへきにいざとなったら逃げろとは言ったが、俺達はもう流石にメーシャを信頼している。
何か問題が起こる事は恐らくないだろう。
うーんしかしそうなるとやる事がないな。
採掘もすぐ終わっちゃったし、どうしよう。
トーノで買ったトランプでもやろう。
とりあえずハナと二人でババ抜きと大貧民を始めたものの、二人でやるあまりの無意味さに挫折。
神経衰弱は記憶力の容量がけた違いのハナが圧勝だった。
ポーカーは役を知らない。
ということでインディアン・ポーカーをしている。
俺はルールを知らなかったのでハナに教えて貰った。
「あんた、降りた方がいいんじゃない?5よ?」
「そんなブラフに引っかかるか。それにお前は4じゃねぇか」
分かりやすい牽制のし合いだ。
ちなみにアモルを実際に賭けている。
まぁ財布は共同管理なんで意味ないんですけどね。
額も凄い小額だし。
「じゃあ俺はもう5アモル上乗せする」
「いいの?あたし勝っちゃうよ?」
「そういうお前もいいのか?俺絶対に勝つぞ?」
「いいさ、乗るよ。いっせーのーせ!」
「どうだ!」
ハナは8で俺はジョーカーだった。
ジョーカーと言う事は……。
「ジョーカーって俺の勝ちだよな?」
「いや、あたしの家では一番弱い手だった」
「なん……だと……?」
しぶしぶ賭けた18アモルをメモに書く。
普通ジョーカーって一番強い手じゃないか?
次の戦いが始まる。
直後俺は勝利を確信した。
ハナのおでこのカードはジョーカー!勝った!
「おう、俺はいくらでも積んでやるぞ?」
「あたしもいいよ。20賭けた」
「乗った!」
「いっせーのーせ!」
「よし、勝った!」
俺は3。ハナはジョーカー。
俺の3は相当弱い手だが、先ほどのルールが適用されるなら俺の勝ちだ。
「俺の勝ちだな?」
「何言ってんの?ジョーカー一番強いに決まってんじゃん」
「あ!?」
となるとさっきの試合は無効じゃ!
おう出るとこ出るぞ!ウチの弁護士は優秀なんじゃい!
「お前さっきと言ってる事違うじゃねぇか!やるか?」
「ん?あたしを怒らせていいのか?その気になればここで全裸になって、放送禁止用語叫んでもいいんだよ?」
「ま、まさか……」
「日間に乗ったばかりのこの作品、ノクターン行きにしてやろうか!」
「や、やめろー!」
そんなアホな事をやっていると、ドアが開いた。
クタクタになったメーシャがヨロヨロとベッドに向かって進み、バタっと倒れた。
どんだけハードな特訓していたんだこいつ。
まぁ、アレだ。ゆっくり寝かせてやる為にも静かにしようか。うん。
■ ■ ■ ■ ■
「あれ?メーシャまた特訓行ったのか?」
「うん、何か打倒あんたを目標にしてるっぽいわよ」
「ほー、楽しみにしておこう」
とはいえ、彼女のスキルが相当強力なのは明白だ。
大抵の格ゲーは一発を狙う大男より、チョロチョロ動く忍者の方が強いと相場が決まっている。
今でこそ優位に立っているが、それはあくまで彼女が力を使いこなせていないからだ。
彼女は特訓してるか寝てるか家事してるか以外では、大体絵を描いたりジャンケンしたりしている。
まぁさっきまで草の合成についてハナから講習受けたりしてたが。
食事中は利き手ではない左手で食事をしてみたりと、細かい努力を積み重ねているようだ。
「さて、と。じゃあ作業を始めるかー」
「作業?何すんの?」
細かい部分の修正は残ってるものの、さきほど行った採掘でメーシャのダンジョンはほぼ完成している。
いままで通路にしていた場所は通行者を制限する壁に置き換えたし、各種仕掛けも設置し終えた。
「鬼姉妹の二人をこっちに呼ぼうと思ってね」
「タマとポチを?」
「そうそう」
しばらくこのダンジョンを、あの二人に守ってもらおうと思う。
一つは念の為だ。
このダンジョンは一応万全の守りのはずだ。
それにこのダンジョンは冒険者が自ら好んで向かってくる要素も少ない。
通常他のダンジョンの場合、冒険者が挑んで亡くなる程懸賞金が上がる仕組みだそうだ。
今頃カロリーナのダンジョンはそれなりの懸賞金がかかっているのではないだろうか。
ただ、この仕組みだとメーシャのダンジョンは発見されても、懸賞金の上がりは相当遅いはずだ。
とはいえ彼女が外出している時の守りは必要だろう。
まぁ、そこまで世話を焼く義理は本当は無いんだが。
「あと、ポチとタマは人間が死ぬのは拒絶するタイプだろう?」
「あー、確か一緒に暮らしてたんだもんね」
「計画が成功すると、結構な数が死ぬ。あの二人にはちょっとつらいと思うんだ」
フマウンがナフィに攻撃する。
これは俺たちにとっては本来どうでもいいことだ。
しかし俺達も慈善事業であのダンジョンを作ったわけではない。
稼ぐときは稼ぐ。この世界のNPCの命を心配する心はあの夜切り捨てた。
しかし鬼姉妹は人間と一緒に住む環境にいた。
恐らく彼女たちには見せられないものがこれから起こる。
その為、こっちに一時的に置いておこうと思う。
「という訳で、あの二人の部屋を作ろうと思ってな」
「分かった」
「そういう理解が早いとこ好きだぜ」
「はいはい」
そういう訳で、MPも余裕があるので採掘で新しい部屋を作る。
それなりの家具を置いてはおくが、俺達のダンジョンの方がちょっと良い家具を置いている。
こっちの方が住み心地が良いとか言われたら困るもんな。
しばらくして、メーシャが出てきた。
部屋の設置も終わったし、ちょうどいいタイミングではあった。
ただいつもの特訓よりちょっと出てくるのが早かった気がする。
何か凄い達成感に満ちた顔だ。
ハナにそっと耳打ちをするメーシャ。
「えっとね、明日あたしたち帰るじゃない?」
うん。
「で、それまでに自分の成長を師匠であるあんたに見て欲しいと」
うん。てか俺師匠だったのか。
「これから模擬戦をやって欲しいみたいなんだけど」
うん。
「本気の自分の実力を知ってもらいたいから」
うん。
「実際の武器使って本気でかかって来て欲しいって。メーシャもレイピア使って」
……うん?




