女子力
「……ハァ!?」
「すごーい」
俺は目の前の光景に目を疑った。
メーシャが二人いる。
何だこれ、凄いってレベルじゃないんじゃ……
メーシャは戦闘レベル6になり、ポイントをドカッと《敏捷力》に振る事で75まで上昇した。
75になった瞬間、ステータス欄にスキルが二つ現れた。
一つが《急所突き》もう一つが……。
「《二重存在》。五秒間だけ自分を分身させ、いろいろ悪事が出来ると」
「すげー、一人で両手に花状態つくれる!」
五秒間だけというのはいかにも戦闘向けって感じだが、まぁ色々出来るよねっていう。
とはいえ普通の分身ではない。ちょっと仕組みが厄介なのだ。
この二人のメーシャ。どちらも本物であり、どちらも実体がないという非常にややこしい特性を持っているようだ。
メーシャは二人に分裂し、二つの行動をして好きな方の未来を選択することができる。
よく分からないので、俺が実験台になって受けてみることに。
さきほど特訓した場所に集合する。
まずメーシャが《二重存在》を発動させる。
すげー、メーシャが二人だー。
メーシャは紙の棒を握って俺に攻撃してくる。
さて、メーシャは二人いる訳だが、俺はとりあえず右だけを防御してみる。
するとどうだろう、右のメーシャは途中でボン!と煙になって消えてしまった。
残ったのは俺のわき腹をツンツンとつっつく左のメーシャだけだ。
やめろ、くすぐったい。だからやめっ……あっ……!
どうやら、分身を使っている時に両方で攻撃は出来ないようだ。
どちらかが攻撃した場合、都合の良い分身を残して都合の悪い分身が残る。
うん。何となく分かった。
強いという事はよく分かった。
問題もいくつかある。
まず、彼女の魔力ではあまり回数が使えない。
《敏捷力》75のスキルだ。必要なMPも多いのだろう。
まぁへきへき使って無理矢理MPを回復させて、いくらでも試せるか。
次に、片方が攻撃されると無条件にそちらは破壊されてしまうということだ。
同時に攻撃されると流石に対処できない。
まぁ、流石に当たり前か。
にしても、これに《キャンセル》と《ハイジャンプ》が絡んでくるのか。
予想はしてたが、《敏捷力》は上げれば上げる程トリッキーな動きが出来るようだ。
《敏捷力》特化は《カウンター》に弱いと言ってられなくなってきたなぁ。
ただし、これはメーシャが使いこなせたらの話だ。
今日はさすがにへきへきの魔力が底を尽きたのでこれぐらいにしよう。
残った光る壁の処理も含め、明日からやる事が多そうだ。
■ ■ ■ ■ ■
さて、夜もかなり深い時間になってきた。
多分現実世界では深夜0時ぐらいじゃないだろうか。
MPもすっからかんだしちょうどいいだろう。
「で、何でこうなってるんだ?」
「いやー何というかあたし得な展開だね!」
メーシャの部屋で俺達も寝る事になる。
しかしベッドをあと二つも増やすのはちょっとスペース的に問題がある。
採掘で部屋を拡張したり、サクっともう一つ部屋を作ったりしようとしたところ、メーシャが一緒の部屋で寝たいとのこと。
いやー仕方ないなー。一緒に寝てあげよう。
と思ったら、いつのまにかハナとメーシャが一緒のベッドに寝る事になっていた。
何で?そこはせめて俺とハナが一緒じゃねーの?
まぁ、いいか。俺とメーシャで一緒に寝るのは何かと問題があろう。
一人さみしくベッドの中に入る。
ハナとメーシャがくっつきながら寝入るのを、密かに眺めながら眠りについた。
翌朝、俺はガーーーという機械音で目が覚めた。
何だ?と思ったらミキサーの音だった。俺こっち来てからそういや使ってないな。
見るとメーシャが先に起きて朝食を作っている。
ハナは見事に爆睡中だ。
何だ、この女子力の違い。
「おはよー」
そう声をかけると、ぺこりと頭を下げてくれた。
リンゴをミキサーにかけているのか。
フレッシュリンゴジュースといったところだろうか。俺たちには出来ない発想だ。
その傍らでは目玉焼きを焼いている。
いやーいいね。目が覚めたら女の子が料理って。
おい、そこの奴。ちょっとへきへき借りてくぞ。
採掘をさっさと終えてマスタールームへ戻る。
俺もへきへきも採掘に全て魔力を使い果たすわけには行かないのでそこそこに。
マスタールームへ戻ると、ハナがちょうど食事を食べ終えたところだった。
入れ替わりで採掘道具をカートリッジごと渡して飯を食う。
ふーん、これが異国の料理か。
日本食とは雰囲気が違うなぁ。
メーシャが皿を洗っている間、暇だからマスタールーム内を見学。
すると、ノートが一冊無造作に置いてあるのを見つける。
読めないだろうけど凄い気になる。
メーシャの目を盗んでちょっと見てみよう。
QとかDとかHとかCとかが色々矢印でつながれて書いてある。
一体何だろう。
メーシャに気づかれて奪われた後も、このノートが何だったのかぼんやり考えていた。
それがハイジャンプとかクイックヒットとか、スキルをどうやって組み合わせたらいいかという研究ノートだと気づくのに五時間ぐらいかかった。
ということは、俺達が寝たあとこっそりノートに整理してたのだろうか。
この子、もしかしたらものすごい伸びるのかもしれないなぁ。
俺もうかうかしてられない。
■ ■ ■ ■ ■
さて、これから特訓再開だ!と身構えていたが、一つ問題が発生した。
《二重存在》は非常に強い反面、操作が難しいとのこと。
例えば、右手と左手でペンを持って別々の絵を描くと難しい。
それを全身でやるようなものだ。確かに難しい。
三人で対策を考える。
「まぁ、練習するしかないよな」
「うーん、何か手軽な方法ないかなぁ」
「あ、ジャンケンってどうだ?」
「あー……」
右手と左手でジャンケンする。
意外とこれが上手くいかない。
リズムよく右が常に勝つようにジャンケンをし続けるというだけでも割と難しいのだ。
という事をメーシャに説明しようとしたが、いまいち伝わらない。
何でだろう。
「あぁ、分かった。この子の住んでた地域、ジャンケンないみたいなのよ」
「なん……だと……」
これがジェネレーションギャップという奴か……。
とりあえずハナがジャンケンについて教える。
まずはここからとは……。
「じゃーんけーんぽん!」
「ジャーケッポン」
ちょっと発音がおかしいが、何とかジャンケン自体はできるようになった。
それから、まずは両手でジャンケンをする練習をさせる。
「チェンジ!」
「……っ!」
右手で勝てるようになったら、チェンジという声と共に左手で勝てるように変更する。
これが意外と咄嗟にできない。
何だろう、この困ったメーシャの顔。
ちょっと興奮を……いや何でもない。
この練習が大体10分。
さて、これからが本番だ。
おなじ事を《二重存在》を使ってやる。
これから複雑なスキルの連携をするのだ。
最終的にはこれぐらいあっさりできるようになってもらわないと話にならないだろう。
ハナが採掘を行っている間に何度かチャレンジした。
休憩やイメージトレーニングも兼ねて十回ぐらいチャレンジした所で終了。
魔力供給をするへきへきの魔力がかなり削られたからだ。
やはり《二重存在》はかなり魔力の消費が大きいようだ。
MPを使わないトレーニングを考えた結果、とりあえず今は両手で違う絵を描いているというのに挑戦している。
メーシャが挑戦しているので俺もついでに。
意外と難しいな。そしてメーシャ絵ぇうまっ。
何か風景画を描いてる。
夢中になって左手止まってるけど。
さて、ハナが帰ってきたのでメーシャは意気揚揚と光る壁の処理へ向かった。
あ、そういえば《急所突き》について何も検証してなかったな。
まぁ、どうにかなるか。
そしてハナよ、新たに30以上の光る壁が出現した訳だがちょっと本気を出し過ぎじゃないだろうか。
まぁ、俺も頑張ったんだけどね。
■ ■ ■ ■ ■
「……出た!行くか?」
「待って、本人がやらせてくれって言ってる」
メーシャが光る壁を刺激すると大サソリが出てきた。
加勢に行こうとしたところ、メーシャが通信機を使ってやらせてくれと言ってきた。
まぁいざとなれば毒でも麻痺でも何とかなる。
本人がやりたいのならやらせてみよう。
メーシャはコータに指示して《撹乱》をさせる。
大サソリには有効な手だ。
そして《急所突き》を大サソリに放った。
急所ってどこなんだ?
と思ったら、レイピアは凄い勢いでしっぽの付け根を突き刺した。
へーあそこなんだ。本当のサソリは知らないけど。
サソリの背中からレイピアを突き立ててトドメをさすメーシャ。
うーん果敢だ。
メーシャは予想以上に刃物を扱うし、攻撃することに躊躇いがない。
理由を考えてみたが、冷静に考えればメーシャも基本はゲーマーなのだ。
こういう攻撃したりするゲームは普段からやってるんだろう。
まぁコントローラを使ってキャラクターを操作して、だけど。
その後、一度リザードマンの攻撃が腕にカスって切り傷が出来たハプニングがあったが概ね順調だった。
《二重存在》はMP消費が激しく扱えてないので自重しているらしい。
それでも《急所突き》は見た目以上に高火力で便利だ。
《キャンセル》の扱いに慣れてきたのもありそうだ。
急所突き。
名前の通り、相手の弱点や急所を突く攻撃。
急所が分かりづらい相手でも急所を勝手に突いてくれる。
威力は《クイックヒット》より圧倒的に高く、突きという性質上レイピアと非常に相性がいい模様。
対モンスターには強いが弱点もありそうだ。
例えば弱点しか攻撃出来ないという点。
急所突きとクイックヒットでは武器の光り方が若干違う。
俺みたいに何度か見てしまった人間相手だと、《急所突き》を使うなっていうことがバレる。
威力こそ高いものの『伸び』や『速さ』や『硬直』と言った色々な面でクイックヒットの方が優秀だったりもする。
まぁ、要所で使えば強いんだけどね。
「さて、じゃあ行くか!」
「おー!」
「イエー!」
メーシャが全ての光る壁を思ったより早く処理できたのでかなり時間が余った。
ということでこれからトーノに行って買い物タイムとしたいと思う。
メーシャも懐が潤っているようで何よりだ。
俺たちもロシア語が分からないので、彼女と一緒にトーノに行くのは心強い。
ダンジョンが留守になるが、一応セキュリティ的なものは設置したので大丈夫だろう。




