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「キャンセル?」

「そう、キャンセル」


 今俺達はメーシャの作ったシチューを飲んでいる。

 俺の知る限りバターやマーガリンなんてものもないはずだが、一体どういう魔法のような女子力を発揮したのだか。


「キャンセルってーと……どういうスキルなんだ」

「大体普通のゲームだと、今やってる行動を中断する事とかそういうのじゃない?」

「あー……なるほど?」


 メーシャは《敏捷力》50になってから二つのスキルを覚えた。

 一つは《衝撃軽減》、もう一つが《キャンセル》だ。

 にしてもキャンセルかー。俺RPGとかシュミレーションばっかだしなぁ。

 全然イメージが湧かない。


 しかし、弱いという事は絶対にないだろう。

 ハナが人質に取られた際、あの男が使ったのは十中八九これなのだ。

 ちょっと検証してみよう。




 外に移動してスキルを使ってもらう。

 ここで少し意外だったのが、メーシャは念じるというのを行動にしなかったということだ。

 彼女は左手でコントローラを握るようなイメージを持つ。

 そしてコントローラを操作する要領でスキルをあやつりたいらしい。

 何を言っているのか俺にはさっぱり分からんが、彼女もまたゲームが好きだからここにいるのだろう。



「じゃあ、やってくれ!」


 俺が言うとメーシャはこくりと頷いた。

 はじめという意味と解釈したのだろう。

 そして、《ハイジャンプ》を使ってぴょんぴょんし始めた。

 何をやってるんだ?

 しかし、六回目の《ハイジャンプ》でそれは分かった。


「おぉ!」

「たかーい!」


 彼女はハイジャンプでかなり高く飛んだ。三メートル以上だろう。

 普通のハイジャンプの五割増しと言ったところだろうか。

 正確には、二回飛んだ。というのが正しいだろうか。


 キャンセル。

 今使っているスキルを一度中断し、新たなスキルを発動させることが出来る。

 例えば《ハイジャンプ》の場合、一度使った後にキャンセルし、《ハイジャンプ》で上書きする。

 そうすると実質二段ジャンプをするように見える。

 ちなみに二回目の方は『足が地についていなければならない』という条件の対象外らしい。


 メーシャがスタッと見事に着地する。

 本来は足を痛めそうな高さだが、《衝撃軽減》とやらがきいているのだろうか。


 ちなみに、もう一度やってもらおうとしたがしばらくできなかった。

 これは彼女のセンスではなく、《キャンセル》を乱発できないようにという仕様なのだろう。

 次に彼女がキャンセルを使えるようになるまで、2分ぐらい必要だった。





「よーし!いいもん見せてもらったし、いっちょ掘ってくるか!」

「いてらー」


 メーシャの採掘をカートリッジごと借りて、採掘に向かう。

 ちなみにハナは巨大な紙を購入し、ジグザグになるよう折っている。

 使い道はあきらかだろう。

 メーシャよ、帰ったらみっちりしごいてやるからな。



 ■ ■ ■ ■ ■




「たっだいまー」

「おっかいりー」


 採掘を終えて、採掘カード等をハナに渡す。

 正直今ちょっと元気がない。

 採掘の際へきへきを連れて行ったのだが、へきへきのMP総量が物凄い多かった。

 俺の倍近くあった。成長を喜ぶべきなのだろうが、ちょっとプライドが……ね。


「で、アレは出来た?」

「できたーよ。二本特注品がね」


 お馴染みハリセンである。

 今からスキルの使い方、戦い方を教える。

 基礎知識として俺がハードヒット、カウンター、ハイジャンプやクイックヒットを覚えてるのは教えてある。

 ロックオンや衝撃波は教えてないが、まぁ今はいいだろう。


「じゃあ、メーシャ。やるぞ!」

「オネガイシマス」


 これだけハナに習ったのだろうか。

 メーシャはそういうと、ぺこりと頭を下げて紙を棒状に丸めたものを手に持った。

 二人して、マスタールームの奥に向かう。

 ついさっきまで俺が採掘していた場所だ。

 稽古をつけるぐらいはできる広さは確保した。


 メーシャが使う予定の武器。それはレイピアだ。

 一番の理由は片手で使えるという事。

 左手は例によってコントローラ状にしたいので、右手だけで軽く扱えるようにしたいらしい。

 そして片手で使えて敏捷に合いそうな武器を選んだ結果、レイピアになった。

 レイピアに合わせて、ハリセンではなく紙の棒みたいなものを持っている。

 じゃあ何でハリセン二本作ったかって?

 俺が両方使うんだよ言わせんな恥ずかしい。


「来い!」

「イエス!」


 メーシャが右手に棒を握りしめ、走ってくる。

 俺はこちらからは攻撃しない。基本的に受け止める側に徹する予定だ。


 メーシャは愚直に突っ込んできてクイックヒットを放つ。

 左ハリセンで軽くいなしながら、右ハリセンでメーシャの腕をポンと叩く。

 ダメだ、このゲームは基本的に工夫が全てだ。

 今持っているスキルを存分に活かさないと相手は倒せない。

 特に俺はクイックヒットとハイジャンプの仕様をよく知っているしな。


 勢いを殺しきれないメーシャは、そのまま俺の後ろの壁にぶつかった。

 一応そこの壁には布団をマット代わり設置してあるので多分大丈夫だろう。

 《衝撃軽減》のおかげもあってか、メーシャは全くダメージがなかった。良かったよかった。


 メーシャは再び立ち上がって向かってくる。

 今度はハイジャンプで左に飛んで、角度を急に変えて《クイックヒット》で攻撃する作戦のようだ。

 ぶっちゃけ避ける事も出来るが、まぁ一度味わってもらおう。

 《カウンター》付き《クイックヒット》だ!


 勢いよく突かれた紙の棒は、俺の胸にヒットはする。

 しかし肌に触れたと同時に俺のクイックヒットの一段目がメーシャのおでこに命中する。

 そしてそのまま二段目でメーシャの紙の棒を弾き飛ばす。


 敏捷力特化はカウンターを持っていない。

 つまり、カウンター対策を体に叩き込んで貰う必要がある。

 正攻法ではダメだ。何かその手段を見つけて貰わないといけない。

 《キャンセル》を使って。



 メーシャは飛ばされた棒をシューンとしながら拾いに行く。

 しかし女の子にしては勇敢だと思うよ?ハリセン使った模擬戦だけど。

 まぁ、ほめるのは後でだ。


 三度メーシャは突撃してくる。

 横方向がダメなら縦方向とばかりにハイジャンプを活かし、やや上の方向から《クイックヒット》を繰り出してくる。

 それじゃ同じだぞ?

 俺はハリセンを光らせた。


 メーシャはそれを見ると、空中なのにピタッと動きが止まった。

 そしてすぐに後方へ《ハイジャンプ》を使って距離を取った。

 《キャンセル》を使ったのか。いい使い方だ。

 でも残念だったなー、俺はスキルを念じただけなんだよなー。発動させてないんだよなー。


 わざとらしくハリセンを光らせたのはフェイントだ。

 メーシャは二回のハイジャンプにクイックヒット、キャンセルと色々使ってしまったので硬直が長いはずだ。

 俺はスキルを中断し、即座に右のハリセンをメーシャに投擲した。

 ハリセンは綺麗にメーシャのおでこにスコーンと当たった。

 コレで投げたのが棍棒だったら、馬鹿にならないダメージになっていたところだろう。



 メーシャは立ち上がって、首を横に振った。

 諦めたのかと思ったが、どうやらMPが尽きたらしい。


「へきへき、頼んだ」


 へきへきに《魔力譲渡》をさせる。

 一応特訓を見越して、俺もへきへきもある程度MPは残してある。

 さて、メーシャ。MPはまだまだ大丈夫なはずだ。

 来い!何度でも!



 ■ ■ ■ ■ ■



「ただいまーってどうしたの!?」

「いやー、ちょっとやりすぎちゃって」


 ハナが帰ってきた時、部屋にいたのはベッドで横になっているメーシャ。

 いや、俺が殴っちゃったとかそういう訳じゃない。


 事の発端はコータの《天地逆転》だ。

 メーシャにはコータのコレを使ってもらう事もあるだろう。

 そう思って説明しようと思ったのだが、実際に体で体験してもらった方が早い。

 そこで、注意するようジェスチャーした後メーシャに向かって天地逆転を使った。

 結果、メーシャは予想通りバランス感覚を失い倒れた。

 ここまでは良かった。


 メーシャは立ち上がるとワンモア!と言いながら人さし指を立てた。

 多分もう一度という意味……だと思う。

 本人がやる気まんまんなので、もう一度かけた。


 その後、倒れてはワンモア!倒れてはワンモア!と繰り返したメーシャ。

 俺は三回ぐらいで倒れるのを耐えた事を考えると、バランス感覚が無いのかもしれない。

 何回チャレンジしたんだろうか。

 ついにメーシャは、ダウンしてしまった。


「というわけだ」

「あんたも馬鹿だけど、この子もこの子ねぇ。まぁ起きるまで待ちましょう」


 それから、ハナからいくつか情報を貰った。

 まず、メーシャの持っているお供。

 これは、ダンジョン解放した際に入手したのだという。

 採掘しても得られる。採掘しないで解放した場合、解放した時のボーナスとしてもらえる。

 こういうシステムだったのだろう。


 そう考えると、ほぼ全てのダンジョンマスターはお供を連れていると考えて良い。

 死亡した場合は除く。

 マーシュで挑んだあのダンジョンマスターも、どこかにお供を隠していたのだろうか。


「あと、この子ロシア人みたい」

「ロシア人か。出た所の近くの町と言語が合うのは珍しいな」


 ハナがいろいろ話せたので助かったが、大半の場合近くの町の言語と自分の言語が一致しない場合は多い。

 幸いどこの町も英語が通じるのは救いだろうか。

 まあ、俺には関係ないんですけどね!


 それから、料理のレシピをいくつか教えてもらったりしたとか言っていた。

 俺達のダンジョンに帰ったら作ってみよう。





 メーシャが目を覚ましたのは、彼女が倒れてから30分後だった。

 思ったより時間がかかったのでちょっと焦った。

 というか、普通に昼寝じゃないか。


 さて採掘と言えば、その後には問題が付きまとう。

 そう、光る壁の処理だ。

 しかし大丈夫、やる事は決まっている。


「さぁ行け!我が弟子よ!」


 翻訳を聞いたメーシャが動揺を隠せない様子。

 何言ってるんだ。俺達が処理したらこっちに経験値回っちゃうだろ。

 まぁ、コータとへきへきを貸してやるから何とかなるさ、きっと。


 重い足取りで処理に向かうメーシャ。

 一応基本的なシステムは教えてあるはずだ。

 まぁ、問題があるとしたら一つだけだな。うん。

 ハナとへきへきが本気出し過ぎて、光る壁が28個出ちゃった事ぐらいだな。うん。



 ■ ■ ■ ■ ■




 さて、初めての実戦にメーシャが挑む訳だが、流石に何もフォローしないという訳ではない。

 まず俺の通信機を彼女に渡してある。

 戦闘の際、相手の特徴や使うスキルなどをハナが解説する。


 次に、俺が待機している。

 ハナと俺はこのダンジョンで転送できるよう既に登録してあるので、いざとなったら俺が飛び出して参戦する。

 メーシャが致命傷を受けた場合もとっさにここに転送できるよう待機している。


 これに加えコータとへきへきも一緒に狩りをするのだ。

 彼女の使うレイピアも俺達が渡したものだし、初戦闘で望んだ武器があってここまでフォローがある。

 この世界にしては破格の待遇だろう。

 俺なんて棍棒でロクにスキルも知らない中、相手がオークだぜ?

 まぁハナが助けてくれた分俺も幸運なんだけどさ。

 さて、じっくり観戦させて貰うか。

 モニターの前に座ると、ハナが俺の膝の上に乗っかってきた。

 ええい邪魔くさい。いちゃいちゃするぞコラ。

 あ、それはダメなんですね。すいません。




 メーシャは緊張した面持ちでレイピアを握りしめ、そっと光る壁を刺激した。

 うーん大丈夫だろうか。凄い不安で仕方ない。


 初戦の相手はモグラ男だった。

 レイピアを持ってビクビクし、上手く扱えない!

 助けて!師匠!

 という反応を期待したが、思ったより冷静のようだ。

 刃物を使うという事を余り恐れず、果敢に攻め込むメーシャ。

 攻撃の直前、相手を《天地逆転》で転ばせてモグラ男に突きを入れるメーシャ。

 《クイックヒット》で喉元に突き入れて見事初勝利。

 いやー頑張ってるなぁ。



 鬼門と予想されたオークだったが、案外普通に倒した。

 正直、《天地逆転》が強すぎる。

 カロリーナですら有効打だったのだ。このレベルのモンスターでは簡単に崩されてしまう。

 そして、鬼門となるモンスターは別にいた。


「あー、こいつか。ちょっとマズいな」

「行く?」

「あぁ、ちょっと俺が相手する」


 俺はコマンドを開いてメーシャの元へ飛んだ。

 メーシャも困惑の色を隠せない様子。

 確かにこいつはダメだ。


 大サソリ。俺にとっては敵じゃないが、メーシャにとっては脅威となる。

 まず、足がいっぱいあって《天地逆転》がほとんど意味をなさない。

 そして所詮サソリなので《催眠術》が効く相手でもない。

 メーシャの攻撃は火力はないのであの硬い甲羅(?)を貫けるかどうか怪しい。

 関節の間をチマチマ攻めるのが正攻法だが、まだそれは荷が重いと判断した。


 俺がパッと現れたら、メーシャは少し安堵した表情になった。

 こいつが自分と相性が悪いと気づいただけでも上出来だと思う。

 さーて、とっとと片づけるか。

 へきへきに《威嚇》を指示し、飛び込んで《ハードヒット》を放った。





 メーシャがギブアップしたのは十体ちょっとを倒した辺りだった。

 流石に全部は無理だったか。

 しかし、まぁ予想よりは頑張ったと思う。

 戦闘レベルも6に上がった。これで75まで到達できる。

 続きはそのスキルを練習した後、明日にでもやればいい。

 さて、見せて貰おうか。《敏捷力》75のスキルの性能とやらを。

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