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人質

「うーん、何しよう……」


 俺は一人マスタールームで悩んでいた。

 時間があるから《採掘》に行きたい。

 しかしいつ冒険者が来るかも分からないので迂闊に行けない。

 ノートの書き込みも終わったし、ハナもいないので遊び相手もいない。

 アンと日本語の練習でもするか?うーん……。


 こういう時、ハナはいつも勉強してるか外国語の本を読んでいる。

 とはいえやっぱり寂しい思いをさせてしまってる気がしてきた。

 今度優しくしてやろう。



 何もやることが無いのでふとこの状況について考えてみる。

 まず一つ目、コータがいて凄い嬉しいということだ。

 俺たちはそうでもないが、他のマスターたちは基本的に開始時は一人だ。

 そんな中、お供というパートナーが出来る。

 これは本当に心強い。

 ネットゲームなんかではたまにペットシステムなんかがあるが、実際に体で体験すると非常に大事だ。


 今まで散々採掘をしているが、結局金カードは一人につき一枚しか出てこない。

 そして他のマスターを見ても、お供は一人につき一匹だけがついている。

 つまり、一人一匹供給されるペット。

 それが金カードであり、お供なのだと今になれば分かる。



 もう一つは、このダンジョンの経営というものを一人でやることの難しさだ。

 ダンジョンの防衛、拡張、外部の探索と三つを行わなければならない。

 俺達は二人いる上に仲間も充実している。

 しかし、他のマスターを見るにどこも苦しそうだ。

 カロリーナこそ蛇ちゃんズを確保して安定したが、他はかなり厳しい状態に見える。


 俺一人じゃ無理だよなー。

 英語読めなかったし、最初に《知性力》無振りだったから採掘もままならないし。

 いや、そもそも最初のオークにやられてたか?

 それ以前にマスタールームから外に出られず死んでた気すらする。

 ダンジョン解放すら出来ずに死んだマスターもいるんだろうなぁ。




 マスタールームに響くブザー音で我に返る。

 モニターを確認すると、フマウン側から三人の冒険者が入ってきた。

 ステータスは……ええと。

 つよっ全員戦闘レベル20超えてる。

 20代後半だろうか。ステータスを見ても全員何かしら50を超えたステータスがある。

 一人は攻撃力50超え、敏捷力も20そこそこ。

 もうすぐで俺と同じようなステータスになりそうだ。


 もう一人は逆に敏捷力が50を超えている。

 持っているスキルは分からないが、恐らく何か持っているのだろう。

 攻撃力が18だった。これを次は伸ばすのだろう。


 最後の一人は魔法使い。

 知性力が50。器用さが25で完全にハナの上位互換だ。

 かつて倒したダンジョンマスターと同じスキル配分のようだ。


 特徴的なのは、残り二人も15ぐらいまで知性力を振っている事だ。

 もしかしたら他の言語を習得する為に振ってるのかもしれない。

 中堅冒険者と言ったところだろうか。

 油断は決して出来なさそうだ。



 ■ ■ ■ ■ ■



 冒険者たちは警戒を怠らず、順調に足を進めていた。

 少し進んでは足を止めて相談し、壁に印をつけてはまた進むを繰り返している。

 うーん、この印は消しても良いんだろうか。


 やがて、彼らはカエルのいる池にまで到達した。

 少しカエルが殺されるか心配だったが、驚く事にカエルは姿を現すものの手は出さない。

 彼らは堂々と白い玉を使っている。

 どういうことだ?


 三人は少し道を引き返し、ヒソヒソと何かを相談し始めた。

 ダークネスフロッグは北部エリアではほぼ生息していないモンスター。

 彼らも手慣れた冒険者。何か引っかかるところがあるのだろう。

 正直ここで前進しても引き返しても状況は進展したことになる。



 やがて、彼らは再びナフィ方面へと歩き始めた。

 緊張した面持ちから察するに、このダンジョンがナフィ方面へと通じている事に気づいたのだろうか。

 こちらまで緊張する。

 やがて彼らはナフィへの出入り口を発見した。


「よっしゃ!」


 出入り口から外を見る彼らは、驚きのあまりだろうか、足を止めていた。

 いやーこれで山を越えるトンネルが生成されたということが冒険者の耳に入ったわけだ。

 この冒険者が街で言いふらすか、それとも自分たちで秘密の経路として使用するようになるかはまだ分からない。

 しかし、これで一歩前進だ。

 そう安心していると、通信機から連絡が来た。


『ねぇ、今大丈夫?』

「どうした?たった今一組の冒険者がやっとナフィ側まで行ってくれたところなんだが」

『うん。今、目の前にいるからね』


 慌ててモニターを再確認する。

 ……いた。

 ハナと鬼姉妹とへきへきだ。


「誤魔化せそうか?」

『ごめん、ちょっと厳しそう。ポチが偽りの帽子を脱いだタイミングで……』


 明らかにモンスターを引き連れているという事がバレている。

 冒険者の一人が剣を抜いた。

 敏捷力が高い男だ。

 ポチも柄に手を当てる。

 タマもいつでも弓を打てるよう構えている。

 恐らく居合で何とかしようとしているのだろう。

 もう一刻も猶予はない。

 迷っている暇は無かった。




 コータと一緒に転送で冒険者たちの後ろへと転送する。

 偶然身を隠せる場所があってよかった。

 辛うじてまだ俺の存在は気づかれていなかった。

 失敗は許されない。

 ここまで来たら仕方ない。

 この三人を……殺る!



 ■ ■ ■ ■ ■




 最初に動いたのは俺だった。

 《ハイジャンプ》で飛びながら、一番後ろの魔法使いに向かって《天地逆転》で寝かせにかかる。

 そしてすかさず《ハードヒット》を叩き込む。奇襲は決まったらしい。魔法使いは完全に沈黙させる事はできた。

 攻撃力特化はこちらの奇襲に驚いてこちらを見た隙に、右足をタマの弓矢で射抜かれていた。

 体が崩れ落ちる。


「チッ」


 残り一人は、矢を受けた仲間の襟をつかむとそのまま自分の前に引っ張った。

 直後ポチの剣が攻撃力特化の体の中に沈んだ。

 完全に盾にしたのだ。仲間を。


「コータ!」


 俺はわざと大きな声をあげた。

 理由は気を引くためだ。

 《撹乱》用のコウモリ達が、ワラワラと敏捷力特化に押し寄せる。

 男はそれを見るなり、《ハイジャンプ》で飛んだ。

 飛んだ先は……。


「ハナ!」

「分かってる!」


 男はハナへと一直線に飛んだ。そしてハナの襟を掴もうとかかる。

 しかしハナも身をかわしてそれを回避し……。


「キャッ!」

「Don't move!」

「くっ……」

「ハナさん!」


 男は自らの剣をハナの首元に突き付けている。

 流石にこの状況、英語の分からない俺でも動くなと言っているのは分かる。

 男はご丁寧にこの暑いのに長袖に手袋までしている。

 確かハナは念の為に《スリープ》を持っていたはずだが、これでは素肌に触れない。

 スリープは布一枚でも互いの間にあると発動しない。

 上手く触れたところで、十秒以内に気づかれてしまう可能性が高い。

 《天地逆転》を使うか?

 いや、誤ってハナの首が切断される可能性がある。


 それにしても、何が起きたのだろう。

 ハナは確かに回避したはずだ。

 しかし気が付いたらハナは男に捕まっていた。

 いや、男が軌道を変えた?

 《ハイジャンプ》の軌道を変える何か。

 《敏捷力》50で得られる何かか?

 くそっ、情報不足がここで足枷になるか。


 俺達は動けない。

 コータも俺が指示を出せないでいる。

 しかし男もこれからどうしたらいいのか分からない様子だ。

 何とか出口はすぐそこにあるが、彼にはそこがどこだか分からない。

 そしてフマウンまで戻るにしても四キロ以上ある。

 今必死に考えているところだろう。

 俺達の正体を。何故モンスターを扱っているかを。

 そして、自分が生き残る道を。


 この場にいる皆が、動けなかった。

 ただ、彼を除いて。

 彼は悠然と男の前まで歩いて行った。

 そして、何も言わずに男の顔を見上げた。


「……へきへき?」



 ■ ■ ■ ■ ■




 へきへきはじっと目を見ていた。男の目を。

 男は不審そうな顔をしていたが、急に体が固まった。


「……おい、どうなってるんだ?」

「わかりません……」


 近くにいたタマとこっそり言葉を交わすが、状況が分からない。

 ただ分かるのは、へきへきが今何かをしているということ。


 やがて、男は手に持った剣をポトリと落とし、崩れさるように倒れた。

 急いでハナの元へと駆け寄る。

 ポチとタマは男の様子を伺っている。


「大丈夫か?」

「ごめん、腰抜けた」


 崩れそうになるハナを抱きかかえる。

 ええい、お姫様だっこじゃ。


「ポチ、タマ。そいつの処理任せた」

「はい!」


 俺達は一度マスタールームへと戻った。

 途中、コボルド達とすれ違った。

 今回のケースの場合、ヘタに呼び寄せを使うと逆に危険だと思って呼べなかった。

 とりあえず残り二人の処理を任せてとっととマスタールームへ。




 マスタールームへ到着すると、ベッドに降ろしてハナの体に異常がないかチェックする。

 首元……大丈夫。チョーカーにも傷はついてない。

 太もも……大丈夫、ちゃんと良い肉感だ。

 パンツ……今日はピンクのフリルか。可愛さ重視だな。

 とりあえず問題なさそうだ。


「で、あの場はどうしてどうなったんだ?」

「あぁ、へきへきが助けてくれたのよ」


 あぁそうだ。へきへき……ってお前、何かでかくなってないか?

 大人になった猫よりでかい気がする。

 というか中型犬ぐらいあるな。


「これは、コータと同じ……」

「そう、レベル10になったみたい」


 ステータスも軒並み上昇。

 ただ一つ残念なのは、抱っこができない大きさになってしまったことだろうか。


「どうやら、最初の二人が倒された時点でレベル10になってたのよ」

「へー。で、新しいスキルを体得したと」

「そういう事」


 あの冒険者たちは凄いレベルが高かった。

 事実、あの三人を倒しただけで俺とコータを含め、あの場にいた全員が一つレベルを上昇させたのだ。

 へきへきも、二人目の時点でこの大きな姿になるだけの権利はあったはずだ。


「でも、この子我慢してたのよ。大きくなるの」

「我慢?なんでだ?」

「だってさっきまでちっこかったのが、いきなりこんな大きさになったらびっくりするでしょ?」

「まぁ、確かに」

「警戒してスキルが入らないかもしれないじゃない」


 へきへきは自然に大きくなろうとする現象を気合で止めていた。

 そして何食わぬ顔で男の前に座り、技をかけたのだ。

 ハナはステータスでへきへきのスキルを確認する。


「えーっと、《催眠術》と《威嚇》みたいね」

「みたいねって、お前知らないで使ってたのか?」

「違うわよ、この子が自分で発動させたの」


 コータもたまに《警戒》を指示なしでする時がある。

 それはコータ自身の判断だ。

 同様に、今回もへきへきは自らの意思で《催眠術》とやらを発動させたらしい。

 にしても《催眠術》か。凄い技を覚えるんだな。お前。

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