第一冒険者発見
「それにしても、ほんまここは広いダンジョンやなぁ」
「いやぁ、あたしが頑張ったからね!」
ハナがどやぁしている。
まぁでもハナの功績はかなり大きい。へきへき含めて。
俺も結構頑張ったけどな。
「ん、何や。誰かまた来たみたいやで」
「せやかて工藤」
「お前は黙ってろ」
急いでモニターを確認する。
確かに二人組の若い男女が入ってきた。
様子を見てみよう。
二人はどうやら駆け出しの冒険者らしく、まだ戦闘レベルは4と3だった。
うーんカエルにやられちゃうんじゃないかなぁ。
まぁしばらく様子を見てみよう。
今回は殺すのが目的じゃないから、カエルは控えさせておくのもアリかもしれない。
そう思いつつ十分ぐらい眺めていたが、彼らは引き返してしまった。
道中でスライムが少し倒されたぐらいか。
まぁ、賢明な判断かもしれない。リン・テートかもしれないし、その場合は罠の恐れもある。
本当にそうなんだけどね。
足早に去っていく彼らを見て、以前の俺達の事を思い出した。
確か初めてリザードマンを倒した辺りはあれぐらいだったような。
あれから大分強くなった。何もかも懐かしい。
彼らを見送りながら、しばらくカロリーナとの談笑を楽しんだ。
「じゃあ、そろそろここらでおいとまさせてもらうで」
「なら、ハナも出入り口まで転送してやるから見送って来いよ」
「分かった」
「ほな、あんちゃんまたなー」
「おう!」
冒険者がいなくなってしばらくすると、カロリーナが帰る流れになった。
まぁ彼女はダンジョンに冒険者がめっちゃくるしなぁ。
大蛇がいるから少しの遠出は大丈夫だろうが、たしかに長時間留守にしていいという訳でもない。
二人を転送させる。
モニターでハナが見送りを終えるまで少し考え事をしていた。
他のマスターたちとの距離感か。
少し考えさせられるな。
あまり近すぎても遠すぎても良くない気がしてしまう。
カロリーナとはもうすっかり仲良しだが、全てのマスターたちが仲良しというわけにはいかない。
基本的には奪い合いだ。
自滅しない程度に冒険者を迎え入れ、撃退することで力にする。
俺達が好意的でも、殺しにかかってくる事だってあるだろう。
しかし、調味料は興味がないと言えば嘘になるよなー。
うーん。
考え事をしていたせいで、モニターでハナが早く転送しろとジェスチャーしている事に、少しの間気づかなかった。
■ ■ ■ ■ ■
「えー?流石にエビでしょ?」
「いやーカニだって、絶対」
俺達二人はモニターを眺めている。
画面の中では、二人のハイコボルドがヤンに机の作り方を習っている。
大まかな設計図と指示だけだが、意外に何とかなっている。
コボルドはやはりモンスターの中では比較的頭がいい方なのかもしれない。
「だってエビは先に大工として習ってるんだよ?」
「いや、カニは手先がかなり器用なんだって。見てろよ」
ステータス上では大きな違いがない二体のハイコボルド。
しかし、彼らにも個体差が存在する。
力はエビの方が強いし、足はカニの方が早い。
ヤンの説明が終わるのを合図に、各々机の作成に取り掛かる二体。
結果が出るのはもうちょっと先だろう。
今のうちに飯にしてしまおう。
「あ、カニ終わった」
「うっそ、エビまだ終わってないじゃん」
エビの方が先に完成はした。
しかし、ガタガタでその修正に時間を食った。
結果、正確に作ったカニが先に完成をさせた。
「じゃあこの鶏肉は頂いた」
「くっこの借りは必ず……!」
うん。なんだかんだで暇は潰せた。
現在絶賛二人組の冒険者を待っているのだが、一向に来る気配が無いまま既に半日が経過した。
外にも出れないし、リバーシも五目もやりつくした。
まぁ、そろそろ《採掘》でもするか。
あの二人のハイコボルドの休憩が終わったら、一気に処理をしよう。
俺とコータはまた補欠なんだけどね。
ちなみに今俺は迷路を書いている。
第二階層は迷路にする予定だ。その設計図になる。
後でハナと通信機を使いながらチマチマと土を配置していく事になるだろう。
ちょっとしたプライドだが、いわゆる『左手の法則』『右手の法則』の類は俺は嫌いだ。
そこで、その法則を使って解こうとした奴が引っかかりやすいような位置に罠を設置する。
転送の罠だ。
方向がわかんないように転送し、迷子にしてやる。ケッケッケ。
モニターを見てみる。
あ、ボムスライムだ。
まぁ遠距離担当はいっぱいいるから大丈夫だろう。
案の定、即座に処理されていた。
ふと、罠を思いついた。
正確には思いついてはいたが、実行に移す時間が無かった。
今の暇を持て余している状況なら、作れるんじゃないか?
「なぁ、ハナ。ちょっといいか?」
『ん?どうしたの?』
「あの爆弾スライム野郎を使った罠。一度検討してみたいと思うんだ」
『あー、で?』
「帰り際に、その事をヤンに伝えておいてくれないか?」
『おけー分かった』
よし、これで大丈夫だろう。
さーて、迷路の続きを考えるか。
これに俺のダンジョンも絡めないといけないからなぁ。困ったもんだ。
■ ■ ■ ■ ■
次のブザーが鳴ったのはそれから二時間後の事だった。
コータといちゃついてるのを一旦止め、モニターを注視する。
ちなみにハナはトイレに行ってた。
すぐに出てきたが。
「どうだった?冒険者?フマウン側?」
「あぁ、今度は一人みたいだ」
いかにも最近上達しましたみたいな青年だ。
《戦闘レベル》は6。
市販のちょっと良い剣を握りしめている。
ステータスはつい最近、《クイックヒット》と《ハイジャンプ》を体得しましたってところか。
この自信に溢れた感じからすると、怖くて逃げるなんて事は無さそうだ。
カエルぐらいなら倒せそうだし、一応期待しておこう。
彼は足元のスライムに気を付けながら、ズンズン進んでゆく。
二キロぐらい進んでもまだ余裕だ。
まぁ敵も出ないからね。
「おぉ、彼頑張ってるね」
「とりあえず期待しておくか。」
とはいえ、そろそろカエルゾーンだ。
せめてここにカエルがいるという情報を持ち帰ってくれれば、興味を持った冒険者が他に来てくれるかもしれない。
頑張れ、期待のルーキー。
ルーキー君は白い玉を持ったままカエルゾーンへと突入。
カエルは光源に過剰に反応する為、ルーキー君へと飛びかかる。
ここまでは予定通りだ。
ルーキー君は……おぉ、《ハイジャンプ》を使って避けた!
のまでは良かったのだが、ハイジャンプで飛んだ先のスライムでずっこけた。
その時持っていた白い玉も地面に落として壊してしまっていた。
「あちゃー」
「ダメだこりゃ」
「まぁでも白い玉なんてもう一つ使えば……」
ルーキー君は自分の荷物を漁っている。
そうだ、それで白い玉を取り出せば……
「何か彼、困り果ててない?」
「そうだな。持ってないんだろうな。予備のアレ」
「……アカン」
俺達が行ってこっそりと白い玉を渡してあげるという訳にもいかないだろう。
まぁ彼があと二キロぐらい頑張ってどちらかに歩ければ、あるいは……。
ルーキー(?)君は立ち上がり、一歩を踏み出した。
周囲は真っ暗。しかし足を踏み出さなければ未来はない。
一歩、また一歩先へと足を踏み出し……。
「見事に池の中に入ったな」
「ありゃ擁護のしようもないわねー……」
最近大きくなってきたダークネスフロッグの子供達の餌になっていた。
ポチよ、お前の育てたカエル達は順調に育ってるぞ。
人間一人食い殺せるぐらいにな。
あーもー上手く行かないもんだなぁ。
まぁあのカエル設置したのは俺達なんだけどさぁ。
「じゃあ、ちょっと処理行ってくる」
「あいよ、直接飛ぶ?」
「いや、コボルド達の居住スペース前で」
「はいよ」
居住スペース前まで転送されると、モニターで状況を確認できてたのか数体のコボルドがスタンバイしていた。
そのうち一人がザンなのはなんとか分かった。
ポチもカエルの様子が気になるのか準備している。
とりあえずついてくるように指示を出す。
次の冒険者が来る前に、後処理をしなくては。
■ ■ ■ ■ ■
「おぉう……」
「この子たちの餌になってちょうどよかったような気がします」
池に到着すると、冒険者は肉を全て食べられ骨だけになっていた。
ポチが凄いクールな事を言っているが、完全にホラー映画だこれ。
このカエルたち、俺たちに攻撃してこないというのが本当に助かる。
うわぁ、中ですげーでかいオタマジャクシとか足の生えかけがうようよ泳いでる。
仕方ない、とりあえず水から骨と持ち物、装備品だけ回収しよう。
それなりに良い剣はそのままザンにプレゼントした。
どのみちこの中で需要がありそうなのお前だけだしなぁ。
骨は死体置き場へと放り込む。
何と言うか、俺も大分精神が図太くなってきたのを感じる。
良い事じゃないかもしれないが、仲間やハナを少しでも守れる力になるのなら何でもいいか。
池の中では未だ残った肉をカエルの子たちが奪い合っている。
お互いを食べないように気を付けろよ?
死体の処理を終えた後、ふと自分のステータスを見た。
あれ?アモルがちょっと増えてる。
もしかして第一に死体に遭遇した人物とかマスターは、その所持金を得られるのだろうか。
モンスターはお金を持たないはずなので、最初に接した俺が入手したということか?
「ただいまー」
「おかえりー」
持ち物にもロクなものが無かったので、コボルド達に欲しいものをあげてそのまま処理もお願いした。
唯一の戦利品と言えば剣と600ちょっとだった彼の所持金ぐらいか。
うーんしょぼい。
何もなかったことにしてコータと遊ぼう。
「ねぇねぇ、相談があるんだけど」
「どしたよ」
へきへきといちゃついてたハナが思い出したように言ってきた。
何だろう。
「そろそろ一回外出したい」
「あー……」
要は飽きたんですね分かります。
どうしよう、まぁ。大丈夫かな?
一応鬼姉妹と一緒に行くという約束で、新コボルドチーム三人のカードも装備させた。
何かあったとしてもまぁ何とかなるだろう。
ハナを見送る。
そういえば俺が留守番してハナが外出というのも初めてのパターンかもしれない。
たまには、こちらの立場もいいものだ。
よーし、コータ遊ぼうぜー。




