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だんがー

「じゃあ《採掘》してくるか」

「あ、私先にシャワー浴びてくる」

「え?シャワー?作ったのか?」

「うん。トイレも作った」


 そういえばスペースは作ってたみたいだが、聞いていないぞ。

 ハナが入る前にチラっと見せてもらった。

 トイレはちゃんとした水洗、洋式のトイレ。

 風呂場はバスタブこそ無かったものの、更衣室まであった。

 ピンクで統一されていたのはもはや考えるまい。

 というかこの世界、上下水道どうなってんだ。考えないでおくが。


「じゃあ先にちょっと《採掘》してくる」

「わかった」


 恐らく買ったのだろう。タオルと着替えを持ってシャワールームへと向かっていった。

 こっそりとモニターをいじる。

 これを使えば堂々と覗きが出来る!




 と思ったらパスワードを要求された。

 ぐぬぬぬ。

 というか冷静に考えたら、俺のシャワーは覗けるのかよ。

 きゃーえっちー。


 《採掘》を始めて早々に、(ふち)が銀色のカードが出た。

 ヘビーなんたらって書いてある。武器だろうか。

 ハナが出てきたら翻訳を頼もうかと思ったが、装備してみればわかる事に気づく。


 マスタールームへ戻ってコマンドを出す。

 ヘビーなんたらを装備し、「出ろ!」と念じる。

 右手に何かを持っている感触。

 おぉ、棍棒か。序盤の武器の定番だな。

 試しに部屋から出て振ってみる。

 見た目は重そうだが、何故か軽く感じる。

 《攻撃力》が高いからだろうか。


 何度目かの《採掘》で土を掘っていると、光輝く土?が広がる壁が出てきた。

 白く四角い、異様に発光する柱が出てきたと言ってもいいかもしれない。

 その壁には、赤い字でこう書いてあった。



 Danger



「だ…だんがー?」


 だんがーって何だろう。

 まぁ、とりあえず調べてみない事にははじまらないだろう。

 そんな軽い気分で壁に触れてみる。




 壁が急に強烈な光を発する。

 あまりの眩しさに思わず目をつむる。

 チカチカするのを我慢して、壁の方を見る。

 な、何だったんだ一体。


 光る壁は無くなり、まるで一度《採掘》した位の空間が出来ていた。

 そしてそこには2mはあろう、もしかしたら3mはあるかもしれない。

 そんな巨大なオークが立っていた。

 オークは俺の身長ほどの棍棒を持っていた。

 仲間に出来るか?なんて事は微塵も思わなかった。

 そのオークは、全力の殺意をこちらに向けていた。



 ■ ■ ■ ■ ■



 この世界はゲームだ。ダンジョンというぐらいだから戦闘は当然あるだろう。

 相手は人間やNPCの可能性が高いが、モンスターと戦う事も十分考えていた。

 しかし、まさか初戦闘がこんなガタイの相手だなんて考えていなかった。

 ゴブリンとかスライム的な雑魚じゃないのかよ。


 オークの動きを良く見ながら「出ろ!」と念じる。

 手に棍棒が現れる。

 相手の棍棒に比べれば小振りで頼りないこいつしか、今は武器が無い。

 逆に考えればこの棍棒を装備している事自体ちょっとしたまぐれだ。


 ダンジョンを経営するということは、すなわち冒険者を排除するということだ。

 しかし、このゲームにはモンスターを獲得する手段が現状少ないように思える。

 つまりそれは、いざとなればプレイヤー本人がボスとして出る事が前提なのだろう。

 逆に考えると、通常の冒険者よりプレイヤーの方が強いと設計されているのだろう。

 大丈夫、俺のステータスは戦闘向きのはず。



「フゴオオォウ!」



 そんなことを考えていたら、オークが雄たけびを上げた。

 大丈夫、相手を良く見れば避けれるはずだ。


 オークが棍棒を振り上げる。

 流石に獲物が大きいだけある。振り下される棍棒は、楽に避ける事が出来た。

 オークの棍棒が床に叩きつけられる。

 そこにあった土の表面が弾け飛ぶ。

 たまにゲームにいるガタイだけの敵とは違う。少しだけ期待していたんだが。


 大きな隙を見せるオークの足に向けて「打て!」と念じる。

 自動で棍棒がオークの足に振られる。

 棍棒が少し光り、風を切るような効果音が発せられる。

 あらかじめ決めておいた《ハードヒット》がオークの足に当たる。



 オークは悲鳴を上げて怯む。

 《攻撃力》が40になるほど振っている俺の、スキルでの攻撃だ。

 痛くないわけがないだろう。


 オークはなんとか踏みとどまるものの、明らかにダメージは通っている。

 …行ける!勝てる!

 体制を立て直してもう1発!「打て!」

 わき腹に強打。大丈夫。ダメージは入っている。


 しかしオークも闘志を失ってはいない。背後に回った俺に向かって棍棒をブン回す。

 しゃがむ事で回避する。頭があった辺りでオークの棍棒が風を切る。

 おぉ怖い怖い。


 しかし、相手はまた隙を晒すだろう。これはチャンスだ。

 あと何度か叩けば相手は倒れるだろう。

 「打て!」


 ……何も出ない。

 念じ方が悪かったかな。

 もう一度念じてみよう。

 「打て!」

 ……ダメだ出ない。何故だろう。



 戦闘中に余計な事を考えていたせいだったか。

 相手が隙を晒していると思っていたからか。

 棍棒でしか攻撃して来ないと思い込んでいたのか。


 俺はその時飛んで来ていたオークの蹴りに、気付かないでいた。



 ■ ■ ■ ■ ■




 俺の倍近くの大きさの足が、俺の腹部へと命中する。

 息が詰まる。一瞬何が起きたのか判断できない。

 少し時間が経って、痛みが脳に到達する。


 オークは棍棒を振る勢いを利用して、蹴りを放ったのだった。

 多少無理な体制で放ったからなのか、大ダメージには至らなかった。

 しかしぬくぬくと平和な世界で育った俺には経験した事のない痛みでもあった。

 ヤバい。一度距離を取らなくては。


 その時、信じられないものを見た。

 オークは無理な体制から蹴りを放ったのだ。すぐに追撃がくる訳がない。

 だが、近くまで棍棒が迫っていた。

 その棍棒が俺のわき腹に命中して初めて、オーク棍棒自体が少し輝いていたのに気付く。

 こいつも《ハードヒット》を使えたのか……!


 棍棒がわき腹にめり込む。

 木の枝を折ったような感覚が広がる。

 体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 何かが喉からこみあげてくる。


「お、ぅおおおぉえぇ……」


 唾液、胃液、血液。

 何が入り混じったかよく分からないものを吐く。

 先ほどの折れた感覚は…アバラか。何本か折れている。

 意識を失う事はかろうじて耐えたが、足がガクついて立つ事ができない。

 オークが近づいて来る足音が聞こえる。


 頭を上げると、オークは既に棍棒を振り上げていた。

 ダメだ。体が動かない。

 振り下ろされる棍棒を眺める事しか、俺にはもう出来なかった。


 あぁ、短い人生だった。

 色々やり残した事があった気がするが、今となってはもう遅い。

 恐らくあのだんがーは、触れてはいけないという意味だったのだろう。

 次の人生ではもっと勉強しよう…。



 振り下ろされる棍棒がスローモーションに見えている間、そんな事を漠然と考えていた。

 だから巨大な炎の玉がオークにぶち当たった時、何が起きたのか理解が出来なかった。

 オークが悲鳴と共に消滅し、後に銀色の縁のカードが残る。

 炎の出た方向を見ると、短いステッキを持ったハナがいた。

 ハナはタオルだけ体に巻いていた。

 何かを言いながらこちらに駆け寄って来る。

 全く聞き取れないが、とりあえず俺は助かったのだろう。

 その安堵感からか、俺は意識を手放した。


 昔からそうだった。

 喧嘩の時、宿題の時、テストの時。

 何かとハナには助けられてばかりだ。

 やっぱり、ハナには敵わ……ねぇ……な。

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