表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/150

チョーカー


 ダンジョンの中は、基本的に一本道だった。

 とはいえダンジョンを作ってる側だからこそわかるが、各所に姿を隠せる場所がある。

 これは恐らく奇襲用だ。

 相手が通り過ぎてから、暗闇から奇襲をかけられるような死角が意図的に作られている。

 そしてそのちょっと先で交戦した形跡がある。

 何人の冒険者がここで命を落としたのだろうか。

 やがて訪れる階段。降りてまっすぐ行ってまた降りる。

 ダンジョンマスタールームは第三階層にあるのか。


 第三階層への階段を降りると、すぐ前にマスタールームがあった。

 その先も採掘されていたようだ。割と大きなスペースがあった。

 ここが大蛇の住処になるのかな?

 後ろについてきてる大蛇がカロリーナの説明でそこへ向かったので、恐らく合ってると思う。


「ただいまー」

「おかえりー」


 マスタールームの中に入ると、ハナがまったりしていた。

 へきへき以外誰もいなかったので、呼び寄せは使ってないようだ。

 恐らく冒険者が誰も来なかったのだろう。


「モンスターのスカウトはどうだった?って、アン呼び寄せられたの?」

「うわー怖かったよー」


 子供のようにハナに抱き着く。

 つられてアンもハナに抱き着く。

 何だろう、この光景。

 両手に花なのか?

 片方コボルドだし、片方ある意味ハナではあるんだが。

 何より抱き着かれてるのはハナだし。


「おーよしよし、怖かったんだねー」

「えっ俺は?」

「けっ、知らん」


 ハナは俺を無視してアンをなでなでしてる。

 くそう、俺だって頑張ったのにこの扱い、何か納得がいかん。


 カロリーナに一言声をかけてから帰りたかったが、カロリーナは蛇が来てから物凄い忙しそうだった。

 とりあえず帰るという旨の置手紙だけを置いて、俺たちのダンジョンへ帰る事に。

 何となく邪魔したら悪そうな感じだったし。


 ちょっと予定よりダンジョンを留守にしてしまった。

 まぁコボルド達と鬼姉妹がいるから大丈夫ではあるが。





「お、すげー上がってる」

「何が?」

「いや、戦闘レベルが」

「おーほんとだ」


 皆でぞろぞろ夜明けの空を見ながら帰宅なう。

 道中でふとステータスを見ると、俺とアンとコータがかなりレベルが上がっている。

 俺とコータは一気に13。アンも12になり、一気にコボルド最高レベルになった。


「あの大鷲、そんなに戦闘レベル高かったのかなぁ」

「あたしは見てないけど、そうだったんじゃない?」


 まぁ、何はともあれレベルが上がるのは良い事だ。

 もしかしたら、強い敵を倒す方がレベルが一気に上がるのか?

 経験値の詳しい入り方が未だによく分からないから何とも言えない。



 俺たちがダンジョンへ戻る頃には、日はすっかり高くなっていた。

 朝帰りですよ朝帰り。立派な不良ですよ。

 まぁ、ダンジョンマスターには関係ないんですけどね。



「よし、じゃあ寝ようか」

「いや、あたしは《採掘》してるわ」

「あれ?寝なくて大丈夫か?」

「だいじょーぶ、あっちのダンジョン留守番してる時寝てたし」


 おい、留守番しなさい。

 何事もなくて本当に良かった。

 ともあれ、ハナはMPが余ってたので採掘に行った。

 俺はもう寝る。流石に疲れた。



 ■ ■ ■ ■ ■




 ゴリラ。

 学名はゴリラ・ゴリラ。

 さらにゴリラ・ゴリラ・ゴリラという学名のゴリラもいるらしい。

 なんと言うゴリラ。


 ゴリラが踊っている。リンボーダンスを踊っている。今度はロシアンダンスか。

 いや、俺の上に乗った。

 重い。そしてゴリラ臭い。

 何だ、この状況。何だ。何だ。な……ん……。





「…………何だ?」

「おはよう」


 ハナが俺の上に乗っている。

 手に何か漬け物のようなものを持ってる。

 あぁ、これな。納豆みたいな匂いってこの前話題にしてた、あの……。


「何だ、この状況」

「いや、この前のキス事件のお返しに」


 あぁ、そんなんあったな。

 妙に納得したというか、逆に納得出来なさすぎてどうでもよくなったというか。

 まぁ、アレだ。うん。

 何で俺、あの匂い嗅いでゴリラの夢見たんだ?





 朝食を食べる。

 今日は野菜中心のスープにアクセントとして粒マスタードを使用している。

 正直、この世界に来てから便秘というものはない。

 好きなものを食べていればいいような気もするが、もし現実世界に戻ってもこれが続くのもよくない。

 たまには食べさせないと。という妙な使命感を感じている。

 それと食パンだ。

 一応ジャムっぽいのを作ってはみたが、砂糖が無いのでいまいちピンとこない。

 まぁ、作ったのには変わりないので、捨てるのももったいないので食べるけど。


「それでは、とうとう今日アレを行います!」

「いえーい!」


 おぉ、何も言わずにわかってくれたか。

 そう、アレだよアレ。


「で、アレって何?」

「分かってねーのかよ!そろそろここを冒険者に教えようと思って」

「おー……」


 今俺達が苦労して採掘だのなんだのしてるのは、別にただ延命する為ではない。

 自然のトンネルに見えるよう偽装して、冒険者を招き入れて、リスク少ない感じで虐殺する為だ。

 俺達は他のダンジョンに比べ、大分戦力がそろってる事が分かった。

 つまり、何とかなるという判断だ。


 そこで、今日を持ってこのダンジョンを隠すというのは終わり。

 町へ行き、こっそりと情報を流してみようという作戦だ。


「という訳で今日は情報を流す作業を行いたいのです。が!」

「が?」

「その前にやる事があります」

「やること?」


 ハナはすっかりと忘れてるようだが、俺達にはお隣さんがいる。

 俺達がダンジョンを宣伝するようになるということは、相対的にそのお隣さんも危険性が上がるという事。

 とりあえず菓子折りならぬ粒マスタード入りのサンドイッチを差し入れとして持って行こう。




「こんばんわー」

「おじゃましまーす」


 ロベルトのダンジョンに入る時、一応小さく声はかけた。

 かつてダンジョンマスタールームがあった位置はただの空間になり、奥深くまでダンジョンが続いている。

 ロベルトが留守だったらどうしよう。

 とりあえず、奥へと進む事にした。



 ■ ■ ■ ■ ■



「うーん。結構掘り進んでるみたいだけど、罠とか仕掛けとかは無い感じかなぁ」

「というか、《採掘》の痕跡がないわね。ぽつぽつとはあるんだけど」


 いわゆる他のダンジョンに見られるような《採掘》しました!って感じの掘り方ではない。

 何だ?この感じ。まさか手掘りでやってるんじゃ……。

 とりあえずもうちょっと先に進んでみよう。



「本当にそのまさかだったよ……」

「いやー、馬鹿っているもんだね」


 一生懸命土を掘っている奴がいた。

 もう四百メートルは歩いたはずだ。

 まさか全部堀ったのだろうか。


 ロベルトはこちらに気づくと凄い嬉しそうにしていた。

 いや、この反応は違うな。ハナを見て喜んでるだけだ。

 サンドイッチ受け取ってデレデレしやがって。

 だが残念だったな。それを作ったのはハナじゃない。俺だ。



 まぁでも正直、二人の間の会話は分からない。

 分からない会話というのは時として物凄い退屈なものだ。

 暇なので、状況の整理をしつつ周囲を観察してみる。


 ダンジョンマスタールームの移動の操作はできてる。

 ちょいちょい採掘も出来ているようだし、もしかしたら英語はかなり身についているのではないだろうか。


 今日来た理由はポイントの振り方他、ちゃんと色々教えるという目標があるからだ。

 意図して情報の遮断をしていたが、この辺りに冒険者が来るという事になるとそのままにしておくのは流石に可哀想だと判断した。

 まぁこの野生児というかサバイバーっぷりを見てるとどうにかなりそうな気がした。


 うーん後は……何か肩にとまってる。

 緑の……えーっと何だっけアレ。

 そう、カメレオンだ!

 こいつのお供だろうか。

 うーんこれはこれで可愛いな。ハナの顔が引きつってるけど。


 それと同時に不安な点もある。

 こいつはあまりに色々と分かりやすい。

 明らかに隠密とか得意なスキル持ってるだろ。ステルス的な。

 舌を伸ばして獲物を取ったりするはずだから、ある程度戦闘も行けるようになるはずだ。

 気づいたのがまだ小さな今でよかった。

 いつかこいつもそれなりの脅威になりそうだな。チェックしておこう。



「んじゃ、行こうか!」

「あれ、早いな。説明終わったのか?」

「まーね」


 予想より早くハナが説明を切り上げてきた。

 移動しながら聞いた話だが、どうやらポイントの振り方等結構自力で判明してたらしい。


「じゃあ何で手で掘ってたんだ?」

「《攻撃力》全振りだからよ」


 おぉ、馬鹿だ。馬鹿がいる。

 いや、攻撃力が高ければ手掘りも効率よくなると考えられる。

 うーん、正しいのだろうか?

 まぁ、本人が選んだ道ならいいか。

 一応冒険者を呼び寄せるという事も説明してある。

 これで心配事は無くなった。




 さて、これから目指すはフマウンだ。

 ナフィとフマウン。この二つの都市は非常に仲が悪い。

 しかし、両方の都市に情報を流すのはちょっとリスクが高い。

 どちらか片方にするとなると、情報を先に得られた方が有利なのは当然だろう。


 仮に一方の都市が、相手より先に俺たちの自然トンネルが発見したらどうなるだろう?

 相手に気づかれずに手を打つはずだ。何か自分に有利になることを。

 その先手を打つ権利をどちらにあげるかという話でもある。



 俺達は、今は恐らくサロメに世話を焼いて貰ってるアリサの件がどうしても脳裏に焼き付いてしまっている。

 まぁ、俺もハナも奴隷を根底から否定する訳でもない。

 しかし快くも思ってはいない。

 彼らも良い事だとは思ってないだろうし、多少の反対意見は封殺してきたのだろう。

 まぁ、いつかはナフィにも教えてあげよう。

 気が向いたときにだけど。



 ■ ■ ■ ■ ■




 さて、フマウンに到着した訳だが噂の広め方というのは決めてある。

 ズバリ、冒険者掲示板である。


 カロリーナの証言で発覚した事だが、冒険者掲示板には一定のルールがあるらしい。

 この掲示板は大きく分かれて三つに分けられるとか。

 一番左は討伐や重大な依頼が連ねられているそうだ。

 ここに何かを張るには、許可された有料の紙でなければならない。

 また、報酬未払いを防ぐ為身分証明が必要であり、前払いでそれなりの額も必要だそうだ。


 真ん中は軽い依頼のコーナー。

 ギルドのスタンプさえあれば適当な紙でもよく、報酬はそんなにかからないものがほとんどな為ギルドに前払いで全て払うのが通例となっているらしい。


 そして右側が冒険者間の情報をまとめたもの。

 最近の大事なもので言うと、『リン・テートらしきものを発見した』とか。

 ふざけたものなら『彼女募集中!』はよく発見されて剥がされるらしい。

 これは紙なら何でもいい。

 脇に真ん中及び右用のメモが置いてあるのでそれを使えという事らしい。



 というわけで冒険者ギルドに到着し次第、ハナがメモ用紙を取ってカリカリと書いている。

 内容は大体以下の感じ。

 ちなみに英語で書いたらしい。


『この洞窟が様子がおかしい。この辺りで見覚えのないモンスターがいるし、やけに深い。リン・テートかどうか分からないが、誰か調査してくれないだろうか。』


 今回のポイントは、筆跡だ。

 日本語で男っぽい、女っぽい字があるように英語にも存在するのだとか。

 冒険者掲示板に張られる噂のほとんどが男の殴り書きみたいなものらしいので、女性っぽい筆跡のものはそれだけで注目されやすいとか。




「よーし、ミッションかんりょー」

「おー」


 終わったのでとっとと退散するに限る。

 この町もこの町で、決して治安がいいという訳でもない。


「……どうした?急に立ち止まって」

「いやぁ、何か急にこれが欲しくなってさ」


 ハナが急に立ち止まった。

 アクセサリー屋のようだ。何か欲しいものでもあるのか?

 一本のヒモのようなものを手に取っている。

 ハナの手からそれを奪い取り、さっさと会計を済ませる。


「これでいいのか?」

「お、イケメン。ありがとう」


 現実の価格で五千円ぐらいだったのでサクっと買ってやった。

 ちょっとした緑のアクセントのついた黒い革のヒモにしか見えないけど、何だこれ。


「へへー、ちょっとこれつけてくれない?」

「首につけるのか?」

「うん。ちょっと自分じゃやりづらくて」


 チョーカーというものらしい。

 ネックレスよりももっと密着して首に装着するものだとか。

 でも何というかコレ……。


「首輪っぽいな」

「へへー、これで遠慮なく甘えられるね」

「理屈は分からないけど来い!」

「おう!」


 ガシっと腕に組みついてきたので適当に頭を撫でてやった。

 正直暑苦しいが、まぁイチャイチャしてやるか。

 そんなこんなでフマウンを後にした。


 この日、とうとう俺たちのダンジョンは洞窟としてではあるが知られる事になる。

 ようやくここまでたどり着いたという気分だが、不安の気持ちもある。

 しかし、俺達には目標がある。

 その為ならどんな事だって乗り越えてみせる。


 太陽を反射して、ハナの首のチョーカーについてる小さなエメラルドが、キラリと輝きを放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ