空中戦
「肩に乗るんや!」
「おう!」
カロリーナが屈み、俺がその肩に両足を乗せる。
大鷲は地上十メートルちょっとの位置まで落下してきてる。
《天地逆転》のタイミングを見計らい、ちょうど俺達の真上でバランスを取ろうとしている。
ちなみに俺は今棍棒を外し、《短剣》を手に持っている。
カロリーナが俺を肩に乗せたまま《ハイジャンプ》をする。
さらに落下する大鷲、何とかバランスを取れたのは地上五メートルちょっとと言ったところか。
行くぜ!ジャンプがあるゲームでやってみたい事ナンバーワン!
カロリーナが最高地点まで到達した時、俺はさらにカロリーナを踏み台にして《ハイジャンプ》!
二段ジャンプだ!
普通の物理的な考え方をすれば、まず俺が肩にのった状態でカロリーナが《ハイジャンプ》をした時点で俺がバランスを崩して落ちる。
もしくは俺が《ハイジャンプ》を発動しても、カロリーナを地面に蹴り飛ばすだけで終わるだろう。
しかし、そこはコンボゲー。
こういう面白そうなものは出来るように設計されてるのだろう。
俺が肩にのってカロリーナが《ハイジャンプ》をしてもバランスは崩さなかったし、俺の《ハイジャンプ》もある程度ちゃんと機能した。
「いけー!やってまえー!」
「うおおおおぉぉぉ!」
高さではこれでもギリギリ足りない。
しかし俺にはまだ前進する方法が残ってる!
いけ!《クイックヒット》!
俺の右手に握られた短剣は、大鷲の腹部へと刺された。
それに驚き、体勢を整えて上空へと逃れる大鷲。
地上十数メートル辺りまで急上昇。
うひょー高い。
だが俺の本命はこれじゃない!
いでよ!コータ!そしてアン!
俺はコータとアンを呼び寄せを使って引き寄せた。
その時、アンは大鷲の背中に、コータは大鷲の真正面に出現。
アンが無事背中にしがみつくのに成功するのを目視できた。
大鷲は、上手く手懐ければ乗り物のような運用もできるのだろう。
背中には、ちょうど人が乗った時に掴めそうな突起まで用意されている。
さらに背中はお腹に比べてかなり羽の量が多く、つかみやすくなっている。
わき腹にナイフを刺すよりはよっぽど落ちにくいはずだ。
「コータ!アン!後は任せたぞ!」
俺は大鷲に振り回され、ついにナイフから手を放した。
落下しながら、コータに《撹乱》を発動させて大鷲の周囲にまとわりつかせる。
これはただの時間稼ぎだ。
アンはその間必死にしがみついている。
彼女は今を装備している。
十秒間、何とか彼女がしがみつき続ければ俺たちの勝ちだ。
それまでコータが大鷲の気を引こうとしてくれている。
大鷲はなおも高度を上げ続ける。
気づけば高度二十メートルは超えていそうだ。
落下しながら俺はふと、考えた。
あれ?俺どうやって着地するんだ?
「うおおおおおぉぉぉっ!」
落下の勢いがどんどん早くなる。
カロリーナが何とかして受け止めて……あ、思ったより遠くにいる。
うーん地面に衝突したら痛そうだなぁ。
骨折で済めばいいなぁ……。
そう思いながら、俺はどんどん落下していった。
■ ■ ■ ■ ■
あぁ、空が綺麗だ。
空で大きな鳥が戦っている。
空を飛べる生き物は何て素晴らしいのだろうか。
少なくても俺のようにただ落下する訳ではない。
それだけでも今は羨ましい。
俺は加速度的に地面に落ちて行く。
普通の人間よりは丈夫な為もしかしたら生き残れるかもしれない。
とりあえず頭だけは守っておこう。
「……ガッハッ……」
ビシャっという音と共に体に衝撃が走る。
真っ先に地面に衝突した背中から、全身へと痛みが伝わる。
しかし、何とか生きてるらしい。
幸い骨も折れてない。
……ビシャ?
気が付いたら泥だらけになっていた。
どういう事だろう。周囲を再確認する。
この場所だけ高く粘度の高い泥が積まれている。
いや、これは手足か?
遠くでカロリーナの姿が見える。
こちらに走ってきながら、ぐっと親指を立てている。
少し時間がかかったが、ようやく理解した。
「大丈夫か!あんちゃん」
「あぁ、なんとか。これは……」
「ウチのゴーレム達を思いっきり柔らかく設定して、落下地点に設定したんや」
「なるほど……」
俺の落下の場所まで間に合わないと判断したカロリーナは、とっさに俺の落下地点にゴーレムを召喚。
かなり泥に近い状態で召喚し、彼らが受け止めてくれたようだ。
衝撃を完全に消す事は出来なかったが、おかげで大けがをしなくて済んだ。
「あのコボルドの娘、めっちゃ頑張ってるで」
「本当だ。もうあんな高さまで」
「もうそろそろ十秒や」
もう三十メートル以上、もしかしたら五十メートルは地上から離れたかもしれない。
それほど激しい動きを大鷲は見せていた。
コータはもう振り切られた。
あとはアンが耐え切るだけだ。
心の中で応援する。
しかし、次の瞬間大鷲の体から一つの陰が離れるのが見えた。
「ダメだったか!?」
「いいや、見てみぃ。大鷲の動きがおかしいで」
大鷲はしばらくもがいていたが、やがて体の動きが鈍くなり落下し始めた。
……っと、こうしてる場合じゃない。
アンを助けないと。
まぁ、呼び寄せるだけなんですけどね。
呼び寄せを使ってアンを引き寄せる。
落下の慣性がそのまま呼び寄せ後にも適用されたらどうしようかと思ったが、その心配はいらないらしい。
へたりと座り込んでいるアンが隣にちゃんと呼び寄せられた。
「おーよしよし、怖かっただろう」
「あーあー泣いちゃってるで。可哀想に」
「あんたの作戦手伝った結果だろうが」
アンは涙目で腰が抜けてしまっているようだった。
頭を撫でようとする直前に、少し大きな地響きが起こった。
あの大鷲が地面に落下したのだろう。
アンをお姫様抱っこしてその音の方向へと向かう。
上空からコータが下りてきてる。お前も今回はご苦労様。
さて、こいつをどうするか……。
■ ■ ■ ■ ■
大鷲は地面に打ち付けられながら寝ている。
地上で見ると凄いでかい。両翼を広げたら五メートル以上ありそうだ。
普通に考えたら降参安定だなこりゃ。
さて、こいつをどうするか。
皆でタコ殴りにしても怖い。
ポイズンでじわじわと殺すのも面白いかもしれないが、状態異常が重複しない可能性がある。
殺しきる前に起きてしまう可能性もあるし。
「なぁ、ちょっと周囲を見てみぃ」
「どうした、今ちょっと考え事してるんだが」
「いやそれどころやないて」
「何だよまった……」
四方八方に白蛇が湧いていた。
そして一緒に例の大蛇も。
何だ何だ。
大蛇がカロリーナに何かを話し始めた。
とりあえず喧嘩腰ではないようだ。
てかそういやこれ何語なんだろう。あとでカロリーナに聞いてみよう。
またしばらく話し込んでいる暇だなぁ
今度はアンの毛を弄ってみる。
うわぁ、しっとりしてる。さっきの作戦で汗かいたのっかな
「よし、話しまとまったで」
「どうなった?」
「この大鷲は大蛇が敵討ちとして始末したいそうや。それでええか?」
「分かった。俺たちの手には負えないもんな」
それを聞いたカロリーナは、承諾の旨を大蛇に伝えた。
大蛇はそれを聞くと、ゆっくりと大鷲に近づいた。
それに合わせて白蛇たちも近づいてゆく。
気が付けば大量の白蛇たちが大鷲を取り囲んでいる。
大蛇が巨大な口を開けて、大鷲の喉元に齧り付く。
喉に穴を開けられた大鷲は、声も出せずにもがき苦しんでいる。
それをきっかけに、白蛇が大鷲の体中に噛みつきにかかる。
気づけば大鷲は全身白蛇たちに覆われ、真っ白になっている。
何て恐ろしい光景なんだ。これじゃ蛇ちゃんズなんて呼べないじゃないか。
やがて、大鷲は光となって消えた。
割と時間がかかった辺り、かなりの体力を有していたのではないだろうか。
後には一枚のカードが残った。
もしかしたら調味料が出るかと期待したが、銀カードだった。
しかし、予感ではかなり貴重なものな気がする。
「今回はあんちゃんが頑張った結果や。ウチは蛇ちゃんズがおるし、これはあんちゃんにやるわ」
「分かった」
「お疲れさん」
「本当に疲れた。いや、一番疲れたのはアンか」
アンはぐったりとしていた。
今回の功労者は間違いなく彼女だ。
今度何か買ってやりたいところだ。
ハナが心配なので早速カロリーナのダンジョンへと帰る事に。
蛇ちゃんズは大蛇含めてもうカロリーナの配下なので、大量の白蛇の群れが俺たちの後ろをぞろぞろとついてきてる。
アンもコータも怖がってる。
俺も怖いよ。早く帰りたいよ。
■ ■ ■ ■ ■
「んー直訳すると毒の小瓶ってとこやと思うわ」
「毒の小瓶かぁ」
俺は大鷲が落としたカードをカロリーナと一緒に眺めながら歩いている。
何故大鷲が毒なんだ?蛇が落とすならともかく。
「大鷲の爪見てないのんか。あの爪、緑がかってたんや」
「あー……必死だったから覚えてないかも」
「多分、餌の白蛇から毒の成分を抽出して、爪に塗りこんでたんやと思う」
「なるほど」
長い間白蛇を餌にし続け、その毒を爪に染み込ませていた。
その爪は一度引っ掻くと猛毒に侵され、一撃死を免れてもやがて死を迎える。
爪に引っ掻かれるような事は無くて本当に良かった。
多分犠牲になったのはコータの出したコウモリ数匹ぐらいだろう。
「で、これは何に使うんだろうか」
「多分合成素材か何かやと思うで。毒薬を作ったり、武器と調合して毒武器にしたり」
「なるほど、ありうる」
ちなみにこの談義をしている間、カロリーナは腕に組みついてはいなかった。
なぜなら、アンが俺の腕に組みついていたからだ。
時折震えている。
どうやら割と深刻なトラウマを植え付けてしまったらしい。
高所の作戦はあまり彼女を使わないでおこう。
「そういえばさ、大蛇と話してたみたいだけどアレ何語なんだ?」
「あぁ、アレな。ロシア語や」
「ロシア語かぁ、喋れるのか」
「まぁ、ちょっとなら大丈夫や」
知性力が25あるのも関係あるのだろうか。
ただ、彼女の場合結構他の国にも興味を持っているみたいなので元から知っててもおかしくはないか。
後ろの白蛇は何も言わずぞろぞろとついてきている。
非常に怖い。早く帰って忘れたいところだ。
「あ、それもしかして……」
「そや、あの蛇ちゃんズのカードや」
「えーっと……」
「ホワイトスネークズ。あの白蛇たち全体でこの一枚のカードみたいやな」
あーそうなのか。
てか、人型とかお供じゃないとカードに名前が出ないのか?
もしかしたらいつの日か、カエルのカードを手にする日が来るのかもしれないなぁ。
「そういえば、大蛇を仲間にした時何かカード以外にも貰わなかったか?」
「あー……秘密や!」
「お、おう……」
コボルドの通信機や鬼姉妹の偽りの帽子のように、何かを貰ったらしい。
まぁ、モンスターとダンジョンマスターとの間の絆みたいなもんだしなぁ。
秘密にしておきたいというのなら、それに越したことはないだろう。
それからしばらくして、俺たちはようやくダンジョンに帰ってきた。
そういえば、この中はダンジョンマスタールーム以外初めてみるな。
出入り口に直接飛ばされたり、スリープで寝かされてたりしてたせいで。




