蛇の森
「そういえば、蛇って怖くないのか?」
「かわええやん。あのウロコの感じが」
かわ……いい……?
まぁ、カエルを飼ってる側が言えた事ではないのかもしれないが。
しっかし蛇かぁ……。
「そんなことよりあそこみてーや。あそこが蛇の森の入口や」
「あー……」
「ぎょうさんおるでー、真っ白な蛇ちゃんたちがな」
ター君のスキルを使うと分かるのか。
ぎょうさんおるかー嫌だなー。
森に一歩足を踏み入れると、まるで雰囲気が違った。
何と言うか、殺気に満ちているのを肌に感じる。
正直引き返したい気持ちでいっぱいだが、カロリーナが相変わらず腕をガッシリ掴んでいる。
どんどん先に進むので、仕方なく俺も足を動かす。
「そろそろ蛇ちゃんズとのご対面や」
「そのネーミングセンスどうなんだ……まぁコウモリ達も反応してるし、そうっぽいな」
前方から白い蛇が顔を出す。
以前テレビで大きな蛇を首に巻くというのを見たが、その時の大蛇がこれぐらいだった。
始めは一匹……さらに一匹……あれ、どんどん増えてね?
何かすごいうねうねと蠢いてるのが十匹以上いる気がするんですが。
「帰りたい。僕じゃない。僕じゃない」
「まぁまぁ、ちょっとやってみたい作戦があんねん。やってみーひんか?」
そう言うと、そっと耳に口を近づけてボソボソと作戦を告げるカロリーナ。
やだ、耳が幸せ。
でも耳ふーだけはやめてくれないか。そこ敏感なんだ。
「あー、やってみる価値はあるか」
「この世界がゲーム的なものなら、多分こういう発想は反映されるはずや」
そう言っている間にも蛇は終結している。
目の前に15ぐらいはいそうだ。
「じゃあ行くで、さーん。にー。いーち」
カウントダウンがゼロになると同時に耳をふさぐ。
そして蛇に向かって《天地逆転》を放つ。
ター君もいっしょに。
「……くっ」
「ヒャー」
二つ同時に放たれた《天地逆転》は、共鳴し合い目の前の蛇ちゃんズに襲いかかった。
木の上にいた蛇もボトボトと地面に落ちた。
「いやーやってみるもんやな」
「何か原理的におかしい気がするんだが……」
いくら共鳴と言っても、ここまでの効果が出るのは正直おかしい。
というか、そもそも蛇に鼓膜がないって聞いた事がある気がするんだが……。
「なぁ、あんちゃん。ええ言葉おしえたる」
「ほう」
「仕様や」
「仕様?」
「あぁ、このゲームはな。何か『イイ手』を思いついたら最大限反映されるようになっとるんやないかと思うわ」
例えば《ハイジャンプ》に《衝撃波》を加えれば威力と範囲があがる。
ハイジャンプは言ってしまえばただの移動技だ。
しかし、高いところから地面に打ち付けるという工夫。
その『イイ手』というか『アイデア』を思いついた人には、大きな効果を。
そういう風にこのゲームが設計されていると言いたいのだろうか。
正直共鳴と言っても現実ではさほど意味はない。
ヘッドホンの片方から聞こえるか両方から聞こえるかぐらいの差だろう。
しかし《天地逆転》という珍しい技を二つ同時に発動させる。
そういう工夫をこのゲームはくみ取れるようになっている。という事なのか。
うん、よく分からなくなってきた。
そういえば俺バカだったし。いいや。
とりあえず《天地逆転》を二つ重ねたらこういう事も出来るという事だけ覚えておこう。
「で、こいつらをどうするんだ?持って帰るのか?」
「いや、どうやらこの奥に蛇たちのボスがいるようなんよ」
「ほう」
「全長何メートルあるんや!ってぐらい大きい奴なんやけど、多分そいつシメたら終わりや」
「あの、帰っていいですか」
「よーし、行くでー!」
腕を強引に掴まれた。
気絶している蛇ちゃんズを踏まないように、俺は森の奥へと引っ張られていった。
■ ■ ■ ■ ■
「この先にその蛇ちゃんズのボスがおるで」
「お、おう……」
森を進むと、少しだけ開けた場所があった。
何だろう、白い何かが見える。
まさかあの高さ50センチ近くあるアレは、柵とか塀とかじゃなくて蛇の胴体とかそういうんじゃないだろうな?
「うーん、でかい」
「でっけー!」
でっけーじゃないですよ。
全長10メートルはあるじゃないですか。
そしてチラチラこっちを見てるようなので、奇襲は出来ないんですよ。
ね?カロリーナさん、帰りましょう?ね?
「たのもー!」
「たのもーじゃねえよ!頼みたいのはこっちだよ!」
カロリーナはよく分かんないけど堂々と前から挑む気のようだ。
いざとなったら彼女残して逃げてもいいよな?うん。
蛇ちゃんズの長はじっとこちらを見据える。
そして口を開いた。
「しゃ、しゃべった……」
「お、まかしときー」
大蛇が何かを言っている。
とりあえず人間の言葉には間違いない。
カロリーナがそれに対して言葉を返している。
正直凄い。
最近の爬虫類は進んでるなー。
そして俺にも進歩があった。
分かる、分かるぞ!
これは……英語じゃない!それが理解できる!
ん?じゃあ何語なんだって?知らんよ。
意外と話は長引いていた。
緊張感は持ったままだが、どうやら敵意はなさそうなので俺も警戒は解いていた。
カロリーナは身振り手振りも交えて会話してるので、現在拘束はされてない。
暇を持て余してたのでカロリーナの髪の端っこを触ってみる。
すげー金髪だ!今更だけど!
でも良く見たらちょっと先っぽ痛んでるな。
こいつちゃんとケアしてないな。
「うし、話がまとまったで!」
「おおう……そ、そうか」
そう言うと、俺の腕にガシっと組みついて再び進んでく。
方向は森の奥。道中で白蛇がいたが、長が話をつけたのか道を譲ってくれている。
ありがたやありがたや。
「で、これからどうするんだ?」
「どうやらな、ここの蛇やその卵を餌とする奴がおるようなんや」
「へぇ」
「で、それを倒してくれるんならあのボスともども配下についてやるって言うとった」
「ゲームのクエストみたいな事を言う蛇だな」
とりあえずあの大蛇と戦わなくていいのは助かる。
が、あいつでも苦戦する相手だろ?
何だろう、蛇の天敵。
マングース?確かワニとかイノシシとかも蛇食べたよな。
でも普通はワシとかタカとかかなぁ。
大蛇に教わった、その天敵とやらが出没するポイントで待機している。
かれこれ十分ぐらい待ってるけど、特になにも来ない。
てかカロリーナは空ばっかり見てるけど、やっぱりそういう相手なのね。
「……来たで!」
「おう!」
やはり鷲だった。
凶悪な爪を持ち、バッサバッサと羽ばたいている。
……何かどんどん近づいてきてるけどあいつどれぐらいの大きさあるんだよ。
とりあえず人間の大きさよりは全然大きいのは分かったけど、予想より数倍大きい気がするんだが。
カロリーナはそれを見ると、意気揚揚と歩き出した。
「よーし、行くでー!」
「で、策は?」
「ない!」
俺はカロリーナの襟をつかんで強引に木の陰に引っ張った。
こいつ俺にも負けずバカだろ。
今からでも遅くない、作戦会議だ。
■ ■ ■ ■ ■
「……という作戦で行こうと思うんだけど」
「うーん、豪快やな。でも面白そうや」
「じゃあ、彼女との翻訳お願いしたい」
「わかった、英語で本当にええんやな?」
俺とカロリーナは少し大鷲を観察し、作戦を決めた。
この作戦の主役は俺でもなければカロリーナでもない。
来い!我が部下よ!
俺の呼び寄せによって、一人のコボルドが現れた。
コボルド達の長、アンだ。
一瞬周囲の様子にびっくりしていた。
まぁ急に呼び寄せてしまったから仕方ない。
「とりあえず、呼び寄せて大丈夫だったか聞いてくれないか?」
「あいよ」
カロリーナが英語でアンに話をする。
まぁ要約すると今戦闘中とかじゃなかったか?という内容だ。
とりあえずアンは小さく丸を手で作っていたので多分大丈夫だろう。
にしても様子がおかしい。どうしたんだ?
「あ、もしかしてウチがハナちゃんの代わりにいるからびっくりしてるんとちゃうやろか」
「あー、その辺の説明もお願いする」
「あいあい」
アンに何かを説明するカロリーナ。
真っ赤になってこちらをチラチラみながら顔を隠してるアン。
ちょっとまて、お前何か違う事吹き込んでるだろ。
それから、今回の作戦についてアンに説明する。
それと同時に使用するカードを手渡す。
流石にちょっと無茶な作戦だからなぁ、拒否られても仕方ない。
説明が終わるまで、じっと黙っておく。
何かを考えてる様子のアン。
いや、覚悟を決めているのかもしれない。
「で、大丈夫そうか?」
「作戦は理解できてるみたいなんやけど、ちょっと迷ってるようやね」
「まぁ無理もないか」
そう話してると、アンがバッと顔を上げた。
そして、カタコトながらこう言った。
「ダ……イジャ……ジョゥブ。」
……大蛇の丈夫?
「あぁ、大丈夫って言いたいんとちゃうか?」
「まさか、日本語……ホーガン語の勉強したのか?」
俺の言葉を聞き取れないながらも、何となく理解した感じで首を縦に振るアン。
すげぇな。日本語が喋れるようになってくれるだけで、大違いだ。
え?俺が英語を学べばいいって?
やだなぁ、そうなるとタイトルの『馬鹿でもできる~』が使えなくなっちゃうじゃないか。
残念だわー。英語勉強できなくて残念だわー。
とにかく、アンは大丈夫と言った。
作戦決行だ。
俺とカロリーナは、大鷲が俺達を視認できる位置へと移動する。
アンには念の為まだ隠れてもらっている。
ちなみに大鷲は今、獲物を見つけようと空をくるくる旋回している。
やがて、俺たちを見つけた大鷲はこちらにむけて一直線に飛んできた。
「来たな。カウントダウンよろしく」
「行くで、さん。にー、いち」
俺とカロリーナは手で耳を塞ぐ。
行け!コータ!そしてター君!
ダブル《天地逆転》!




