カロリーナ
「でねー、あんの馬鹿。デンジャーが読めなくてさー」
「っはっは、ばっかやなー」
女子二人の姦しい声で目が覚める。
何だ何だ。
「あぁ、起きた。よう、負け犬」
「まーけーいーぬー」
寝起きで状況が分からないまま好き勝手言われている。
何だ?凄いピンクの部屋に来てしまったがここはハナのマスタールームでは無さそうだ。
「ここは、カロリーナのマスタールームなのよ。あんた寝かされてたからわざわざ運んできたの」
「あー、思い出した。負けたんだっけか」
何かよく分からないけど《天地逆転》をかけられて、柔道っぽい感じで組み伏せられた。
そのまま絞められて気絶したのだろうか。
あの胸は凶悪だった。
名前についたカロリーというものは、あそこに集中してるに違いない。
「柔道、お上手なんですね。すっかり絞められちゃいましたよ」
「ちゃうねん。柔道は上手いんやけど、絞めてはいないねん?」
「……え?」
「あんた、《スリープ》の魔法使われて寝ちゃったのよ」
な、なんだってー!
確かに、息苦しいという感じではなかった。
そうか、十秒間触れてさえいればいいから、絞め落とす必要がないのか。
となると、持っているスキルは……。
「もしかして、全部のステータスに25になるまで振ったんですか?」
「おうよ!カルテットスタイルって読んでるんや!」
確かに、手としてはアリかもしれない。
10から50になるまでは40もかかる。
しかし、25になるまで振るには15でいい。
四つ全て取れば60だ。確かに有効と言えそうだ。
このゲームには非常にスキル間の関連性が高い。
そう考えると、単純にスキルの種類が多い方が手数が増えて色々出来る。
相手にも読まれ辛くなる。器用貧乏という表現もできるが、現に俺は敗北した。
「いやーあんちゃんたち強いなー。最初あの妙な技受けた時は何やと思ったわ」
「あれ、知らなかったんですか?てっきり同じ技をあの鳥が使えるのかと」
「ちゃうちゃう、ウチのター君はあんなことできひんて」
よく見たらあの鳥、現実でも似たようなの見た事あるなぁ。
えーっと確か……。
「何だっけ、あの鳥」
「ばーか、九官鳥よ。オウムみたいに物まねが出来るの」
「へー……ってまさか」
「そうそう、ウチのター君があのコウモリ君の技を盗んで、やり返したんよ!」
《天地逆転》は最強な技だと思っていたが、やり返されるなんてこともあったのか。
まぁ、確かにコータにもあんな技があったんだ。他の金モンスターにも強い技があってもおかしくはない……か。
初見だから仕方ないとはいえ、《天地逆転》を初見の相手が何とかしたのだ。
俺は不意打ちとはいえ《天地逆転》の対策は打っていた。それなのに負けたのが何とも悔しい。
その後、俺は料理をごちそうした。
何と、食生活は今までベーコン買って丸かじりだったらしい。
あとはバナナとか適当に好きなものを食べていたらしい。
とりあえずパスタをゆでて、適当にトマトベースのソースを作ってかけた。
これで負けた分はチャラだ。
胸を堪能した件もな!
食事をしながら、俺達の事を話しつつ彼女の事も聞いた。
彼女はアメリカのニューヨーク出身だそうだ。
中学の頃に日本に留学し、六年程日本語を学びながら柔道も学んだらしい。
現在は大学生らしいが、テスト休み明けにゲームをしようとしたら巻き込まれたそうだ。
ちなみに日本語以外にもいくつか話せるものはあるらしいが、イタリア語は出来ないのでナフィでは苦労しているとか何とか。
「で、一個聞いてええ?」
「何でしょう」
「モンスターって、どうやって仲間にしたらええのん?」
「えっと……ちなみに今いる仲間はこの鳥と後は?」
「この子だけや」
おぉう。
よくそれで出歩けるなぁ……。
■ ■ ■ ■ ■
カロリーナの一日は外出から始まる。
主にこの近辺の探索だ。
彼女の相棒のター君は、周囲の警戒に特化したスキルを持っている。
仮に肩に乗っかってる時でも、空を飛んでいる時の視点を得られるという凄すぎてよくわからない能力を持っているそうだ。
ちなみにダンジョンの中にいる時は無効らしい。
屋根を貫通する事は無理だとか。
森の中は大丈夫らしいけど。
そんな訳で周囲数キロは出歩いても、冒険者がダンジョンに向かってきても急げば問題ないらしい。
ちなみにこのダンジョン、既にナフィでリン・テートとして認定されているそうだ。
たまに冒険者が来たら単独で返り討ちにする……何か凄いな。
戦闘レベルはすでに18らしい。
仲間を率いず単独で冒険者を狩っていると、割とすぐ上がるとか何とか。
「でも、それじゃあ遠出もできないですね」
「そうやねん。二人を見つけたあそこが限界やねん」
「あーだから他のダンジョンマスターにも会えないんですねー」
「せや。なぁ、あの姉妹とか貰えへん?」
「無理です」
鬼姉妹の事だろう。
ちなみに当の本人たちはポチがそろそろカエル達の世話が気になるという事で先に帰ってる。
とりあえず、三つの案を提案してみる。
一つ目は何とかして、コボルドや鬼姉妹のようなモンスターを見つける。
二つ目はアップルティー少年のように、採掘したモンスターをどこかに貯めておく。
三つ目は、ダークネスフロッグのように言語が話せないようなモンスターを無理矢理連れてきて、この中で繁殖させる。
が、一番目はぶっちゃけ出来たら既にやっているという話だ。
二番目に関しても、本人が何か良い反応をしていない。
守りとしては心細いのだろうか。
「最後に関しては、心当たりがあんねん」
「ほう」
「でも、ちょっと遠いところやさかい、ちょっとダンジョンを留守にせんとアカンねん」
「あー」
そうなると、俺らが留守番すれば行けなくはないか。
よし、行ってらっしゃい。
「ということで、留守番を頼めるか?ハナちゃん」
「おーけーですよー」
「ハナちゃんって……俺は?」
「あんちゃんは一緒にモンスター狩りや!」
お、おう……何やら凄い嫌な予感がする。
とりあえずハナに新チームのコボルド達と鬼姉妹、エビのカードを渡しておく。
もうそろそろ日が落ちる頃だが、冒険者が来ないとも限らない。
いざとなったら使ってもらう。
俺は今までのコボルドチームだけ確保し、あとはコータだ。
何というか、凄い強制感を感じる。
まぁカロリーナは強いから、今のうち恩を売っておいても問題はないかもしれない。
しかし、これだけは聞いておかなくてはいけない。
「で、何のモンスターなんですか?」
「ん?蛇や」
俺は 逃げ出した!
しかし 回りを囲まれてしまった!
■ ■ ■ ■ ■
「うわ、すっげぇ」
「ふふーん、せやろ?」
マスタールームから出入り口まで転送する時に、ちょっとだけダンジョンの全景を見せて貰った。
何と、カロリーナのダンジョンは既に第三階層まで到達していた。
冒険者を十人ちょっと撃退した辺りで出現したらしい。
「じゃあ、行ってきます」
「いてらー」
カロリーナと一緒にサクっと転送する。
目標はここから更に南にある森だ。
カロリーナ曰く『蛇の森』と呼んでいるらしい。
「こっから南のとこに森があんねんけど、ター君のおかげで存在は知っててんねんけど、遠くて行けんかったんよ」
「へぇ、俺は今すぐ逃げ出したいです」
「まぁまぁ、仲良く行こうや!」
そういうと、カロリーナは俺の腕に抱き着いた。
胸が当たって気持ちいい。
だが、外は大分暖かくなってきたので暑苦しいともいえる。
「あのー、一応俺彼女持ちの身なんですけど」
「ええやんええやん、ウチもずっと一人ぼっちで寂しかったんよ」
こう言われると、強く引きはがすのを躊躇ってしまう。
唐突にこの世界に飛ばされ、それからある程度のNPCとの関わりはあるものの一週間程度孤独に過ごす。
これは相当な寂しさを感じるに違いないんだ。
俺はハナがいてそうでもなかったけど。
まぁ、腕組みぐらいいいか。隣のコータからの視線が気になるが。
とにかく、沈黙はマズイ。何でもいいから話題振ろう。
「そういえば、そのター君だっけ?他にどんな能力があるの?」
「んー、実は上空から視界を得る以外はあんま強くないねん。この子」
「へ?」
どういう事だろうか。
俺へのカウンター《天地逆転》は間違いなく強かったと思うが。
「えとな、魔力を分けてくれるんと、伝言をしてくれるんと、音の攻撃を覚えるんと、上空からの視界を得る。この四つなんよ」
「ほう」
最初のはへきへきも持っていたものだろう。
二つ目は……確かにいらない気がする。
「ハナの持ってるへきへきも魔力を分けてくれるの持ってますけど、十分強いですよ?」
「ハナちゃんにもそれは聞いたけど、あの猫ちゃん知能のステータスええやん。ター君未だに4しかないんよ」
「あー……」
へきへきの活躍は今は《採掘》だ。
掘っている最中に俺やハナのMPが切れた時に、へきへきが自分のMPを分けてくれる。
そして、それはへきへき自体のMPが増える程役に立つ。
しかし、このター君はMPの総量が少ない為、へきへき程その方面では役に立たないらしい。
「でも、あの技を返したのは強くないですか?」
「あーあれな。確かにあんちゃんには有効やったけど、基本的に効果の対象になる技使う敵がおらんねん」
「あー……」
ター君のスキルは音の技を一度だけ覚えてやり返す技。
しかし、そもそもこの世界には音を使った攻撃が現在ほとんど見ない。
皮肉な事に、《天地逆転》は初めての成功例だったらしい。
しかも成功したとしても一度しか使えない。
高確率で一度その技を受ける必要もある。
なかなかハイリスクローリターンと言えなくもない。
「ただ、あんちゃんのコウモリちゃん見てて思ったんやけど、もしかしたら対お供特化のスキルかもしれへんな」
「あー、なるほど」
つまり、お供のカードであるコウモリや猫、鳥などはあのスキルの対象になる技をいくつか覚えるのではないかと言いたいらしい。
対お供特化の技。そう聞くと聞こえはいいが、はてさて。
「で、ウチのたー君については話したんや。あんちゃんのコウモリちゃんの技も教えてーな」
「あー、まぁ確かに」
情報を貰ったのなら情報を返した方がいいか。
まぁコータのスキルの根幹は見せちゃったしなぁ。
とりあえず《警戒》を見せる。
八匹のコウモリが一斉に散開し、周囲の警戒に当たる。
「おぉ、何と統率の取れた」
「俺達の探索の要で、凄い役に立つ」
「確かに、これは便りになるわ。ター君程ではないねんけどな!」
「ふっふっふ、ダンジョン内でも使えるんですぜ?」
「くっ……」
《撹乱》は実際にカロリーナに放ったので説明を軽くするだけにした。
《毒攻撃》も説明はしたが、実際のところ俺もよく分かってない。
「あとは、見事に返された《天地逆転》。この四つかな」
「あ、そや。あれもう一回かけてくれへん?」
「へ?」
マゾ?という言葉を飲み込んだ。
そしてすぐに理解した。
ター君のスキルは一度しか技を撃てない。
だから今のうちに《天地逆転》を覚えなおそうという事だろう。
「じゃあそこに立って。行きますよーさん、にーいち」
「……おぉう」
カロリーナは一瞬よろめいたが、何とか耐えた。
《天地逆転》は非常に初見殺しになるが、一度受けてなおかつタイミングが分かれば大体耐えられる。
それだけ万能ではないという事だ。まぁそれでも初見相手にめっぽう強いだけで十分か。
「……どや!耐えたで!」
「すごい、です」
まぁ耐えるだろうなと思いながら撃ったが、気分は害さないようにしておこう。
これで、ター君も一回だけならまた《天地逆転》が使えるようになったはずだ。




