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感触


 俺たちの間に緊張が走る。

 しかし、その金髪美人は警戒心もまったくないような感じで歩いてくる。

 はっきり言って凄い奇妙に見えた。


 俺たちは四人に対して、相手は一人。

 しかし、呼び寄せを行えるダンジョンマスターにおいて、その数は全くの無意味だ。

 こちらは即座にコボルドをハイコボルド含め七体呼び出せる。

 同様に相手にとってもそれは同じだ。

 相手がどれだけの戦力を保持しているかは分からないが、資金さえあれば百を超えるモンスターを呼び出す事だって出来る。


 金髪美人は顔が双方からはっきり見える位置までくると、口を開いた。

 非常に濃い赤の唇だ。色っぽい。

 話すのは英語なのだろうか。だったらハナが会話しやすくていいのだが。


「なぁ、あんさんたち、もしかして日本人かいな?」


 ……お、おうふ。

 関西弁?いや、何か違和感を感じる。

 あの容姿で関西弁というのも違和感の塊ではあるのだが。

 そうじゃなくてエセ関西弁にしか聞こえないというか。

 まぁ俺たちは東京生まれな訳だし、そういうのは突っ込んじゃいけないのか?

 いかんいかん、あまりの事にすぐに言葉が出てこなかった。


「え、えぇそうです」

「ほんまかいなぁ!こんなところで日本人に会えるなんて奇遇やわぁ」

「は、はぁ……」


 うーんギャップが凄い。

 何だろう。日本語で話せるから凄い便利なはずなのに、黙っててほしい。

 ともかく会話を試みよう。


「貴女はダンジョンマスターですか?」

「そうそう、ウチのダンジョンはこっから南んところにあるんよ」

「へぇ。探索ですか?」

「そうそう。あんさんたちは?」

「ちょっと彼女たちがこの辺りで用事があったので、その付き添いに」

「へぇーってその子たち、もしかしてモンスターかい?」


 鬼姉妹がぺこりと頭を下げる。

 こっそり耳打ちでホーガン語がわからないふりをしてくれと言い含めておく。

 というかハナが凄い黙ってる。

 迫力に押されたのだろうか。

 ともかく、一回ここは引きたいところだ。


「では、俺たちはここで……」

「ちょっとまってーな。戦わへん?実はウチ、他のマスターと会うの初めてなんよ」

「はぁ」

「模擬戦でええから、どうやろ?」


 模擬戦か。

 正直確かに他のダンジョンマスターの戦い方に触れる機会はそんなにない。

 あの鳥の能力も気になるところだ。


「互いに殺すのは禁止。戦うのは一人とお供の一匹。人間側がお供を攻撃するのは禁止。こんなんでどう?」

「なるほど」


 殺すのは禁止。というのは非常に怖い。

 要はベッドでいくらでも回復できるから、手足の切断ぐらいはいいだろ?ぐらいの意味で考えるべきだろう。


「ダンジョン、近いんですか?」

「ん、まぁまぁな」

「俺達のダンジョン、ここから遠いんですよ。万が一の際は、ベッドを借りていいですか?」

「別にえーよ?」

「分かりました。やりましょう」


 これで負けたとしても得られるものがある。

 まぁそれでも負けるつもりはないのだが。

 何かあったら、ハナが何とかしてくれると信じよう。

 別に運が良ければ体をタッチできるとか考えてないぞ?ほんとだぞ?


「……ねぇ、大丈夫?」

「どうだろう、相手は相当な手練れだと思う。何かあったら任せた」

「了解」


 ハナとこっそり話した。

 金髪美人の肩に留まっている鳥。

 あいつは、おそらくコータと同じで最初の大きさではない気がする。

 そう考えると、本人とあの鳥のどちらも戦闘レベル10は超えていると考えていいと思う。


 開けた場所に出た。

 もともと平野の為開けてはいたが、モンスターの気配がなく冒険者に見つかりにくい場所に移った。

 それから、少し細かいルールの確認をする。

 相手が降参ないし戦闘不能になったら(可能な限り)手を止める事。

 コマンドを使って新しいカードの補充はなし。

 お供からお供への攻撃はアリだが、致命傷に至るようなものはもちろんNG。

 それと、ハナに何かメモを渡していた。

 彼女のダンジョンの位置だそうだ。彼女に何かがあったらここへ運べと。


「それと、手持ちのスキルは何でも使ってええか?」

「えぇ、いいですよ」


 スキルを使うの禁止なら、一体何をするつもりだったんだろう。

 ちなみに今回の審判はハナだ。

 俺と金髪美人を見渡しやすい位置に立っている。

 ハナは右手を高く上げた。


「では、よーーい……どん!」


 バッと手を下げる。

 それと同時に、俺と金髪美人が動いた。

 というか、その掛け声はどうなんだ。



 先手必勝!とばかりに両手に棍棒を出して駆け抜ける。

 何があるか分からないので《ハイジャンプ》は使わない。

 金髪美人は、こちらに手をかざして何かを念じ始めた。

 何だ?魔法か?いや、杖は持っていない。



「何だ!?」


 直後、俺の前に光る塊が現れた。

 それもかなりの数だ。10……20……いや、もっといるな。

 警戒して少し距離を取る。

 光はすぐに収まり、俺は全てを理解した。

 土の人形だ。

 一体一体の体格はヒョロいが、数が非常に多い。


 手持ちのスキルは何でも使ってもええか?という言葉が脳裏に浮かぶ。

 あの金髪、このことを言いたかったのか。

 これは……《ゴーレム召喚》だ。



 ■ ■ ■ ■ ■



 まずは落ち着け。落ち着いて整理しろ。

 《ゴーレム召喚》と言っても、それぞれはさほど強くは無さそうに見える。

 泥で作られた人形という程度だ。いざとなれば《衝撃波》でほとんど倒せそうな位に脆そうだ。


 ただし大量に敵がいるので、金髪美人と俺との間にかなりの距離が発生する。

 このアドバンテージを活かす方法は限られる。

 俺だったらこういう時、どういう戦術を立てる?

 もし俺だったら……。


「弓矢を持って《ロックオン》、ゴーレムの頭上ギリギリを撃ち、誘導に任せる……」


 即座に走った。

 そして、敵のゴーレムの内の一体の懐へともぐる。


「……あっぶね」


 目の前のゴーレムの背中に一本の矢が刺さった。

 おそらくこれは小手調べだろう。


 ダンジョンマスターとのタイマン。

 俺はこのゲームにおいて、最も重要なのは情報だと考えている。

 相手がどんなスキルを使うのかによって、相手の出方は大体考えられる。

 例えば今回の場合、相手は《ロックオン》を使った。

 つまりポイントの内、15ポイントを《器用さ》に振ったというのは確定した。

 そしてもう一つも……。


「コータ!行くぞ!」


 特に意味はないが、コータへと激励を飛ばす。

 さきほど撃たれた矢から逆算して相手の大体の位置を割り出し、《撹乱》を行う。

 若干ズレててもコウモリたちが自動で修正してくれるはずだ。

 コウモリが一カ所に集まってるのが見える。そうか、あそこか。

 じゃあ、この面倒なゴーレムたちは吹き飛ばす!


「おらぁ!」


 地面に爆音が響き渡る。

 《ハイジャンプ》と《衝撃波》を使って、目の前の敵を一掃した。

 十体以上は倒す事が出来たはずだ。

 少なくとも、俺と金髪美人の間に立っているゴーレムはいない。

 金髪美人はコウモリに襲われていた。手には弓矢。

 ここまでは予想通りだ。

 唯一の予想外としては、鳥が一匹一匹正確にコウモリを仕留めている事ぐらいか。

 しかしこれは距離を詰める好機だ。

 一気に駆け寄る。

 相手に《ロックオン》があるので、緊急回避として《ハイジャンプ》は使わないでおく。

 金髪美人は何とかコウモリを追い払うと、こちらに弓矢を向けてきた。




 ところで、ここでカードのスタックというものについて改めて説明したい。

 カードはたまにスタックできるものがある。

 例えば《土》カード何かがそうだ。

 このスタックできる枚数には《攻撃力》が関係している。

 俺は一つの枠に50枚、ハナは10枚しかスタックできない。


 今回現れたゴーレム。二十は超えていた。

 正確に数えたわけではないが、俺の予想だと二十五体だと思う。

 《ゴーレム召喚》は土カードを消費する。

 出てきたゴーレムの数は恐らく二十五。

 つまり、アイツの《攻撃力》は25だろう。




 金髪美人は弓矢を激しく光らせた。

 俺はアレに見覚えがある。

 《ロックオン》に何かのスキルを混ぜると発生するあの光。

 間違いない。《ハードヒット》を混ぜて《ハードショット》にしている。

 しかし、分かってしまえば問題ない。

 相手の手の動きを見ながら、ピンポイントで《ハイジャンプ》をする。


「……っと危ない」

「おぉっ」


 金髪美人の口から驚きの声が聞こえた。

 俺の腕にややカスったぐらいで済んでよかった。

 そして、あの金髪美人の攻撃の後は少し大きな硬直があるはずだ。

 そこを……狙う!


 すぐに体制を立て直す。

 《ハイジャンプ》を使って一気に距離を詰める。

 硬直から解けた金髪美人は距離を開けようとするが、俺にはまだ最後の切り札がある。


「やれ!」

「なっ……!」


 コータの《天地逆転》が炸裂する。

 金髪美人の体が崩れ落ちる。

 この距離ならギリギリ届く!《クイックヒット》で相手の武器を叩き落とす!



 ■ ■ ■ ■ ■




「……あっ」

「セーフ、あっぶないあぶない」


 金髪美人は完全に体制を崩した。

 しかし俺の《クイックヒット》は彼女を捉えることはなかった。

 無理な体制から後ろへと跳んだのだ。間違いない。《ハイジャンプ》だ。


 《器用さ》か《攻撃力》が50と踏んで《ハイジャンプ》は無いかなと思ってたが、読み違えた。

 いや、俺も戦闘レベル15になったら《器用さ》を25にしようと考えてたんだ。

 25を超えるのが三つあっても不思議ではない……か。


「まだまだぁ!」

「……って!」


 俺はスキルを外しながらも、投擲へと派生させた。

 右手の棍棒を金髪美人に向かって投げる。

 棍棒は金髪美人の弓矢に当たって、彼女の手から弾き飛ばした。


「いやーあんちゃん強いなー」

「いえいえ、それほどでも……ありますよ」

「あるんかい!」


 金髪美人との距離はそれなりに広がってしまった。

 どうでもいいやりとりをしながら、俺は内心焦っていた。

 《天地逆転》《衝撃波》という二大俺の切り札を両方晒しているからだ。

 なおかつ、相手に知識があれば《攻撃力》50以上、《敏捷力》25以上ということも露呈している。


 一方で金髪美人は《攻撃力》《敏捷力》《器用さ》が25ということだけしか分からない。

 強いて言えば《ゴーレム召喚》という切り札は晒してるが。

 そして、《ハードヒット》と《ハイジャンプ》が使えるということは……。


「……だよなぁ」

「ですよねー」


 金髪美人は俺の棍棒を拾い上げた。

 近接用のスキルを持っているということは、近接戦もいけるということだ。

 仕方ないのでそのへんの木の棒でも拾っておく。

 これでも一応《二刀流》は発動するはずだ。

 攻撃力は俺の方が恐らく高い。そこに勝機があるはずだ。


 フッと息を吐き、再び金髪美人との距離を詰める。

 金髪美人は棍棒を振りかぶる。

 ちょっとぐらい怪我をさせちゃったら申し訳ないが、そうも言ってられない。

 最悪ハードヒットの使用も考えよう。

 そう考えていたが、金髪美人は予想外の行動を起こした。


「っ痛ぇ!」


 そのまま棍棒を俺に向かって投げたのだ。

 今までスキルの応酬だったので、スキルを使わず光らない攻撃に全くの無警戒だった。

 とっさに腕をクロスさせて防いだが、鉄の仕込まれた強棍棒はめちゃくちゃ痛かった。

 骨にまで衝撃が響く。


 そして、それに気を取られて金髪美人がこちらに駆け寄ってくるのに一瞬気づかなかった。

 痛む腕を我慢して、迎撃の体制に!





 気づいたら、世界が回っていた。

 何だ?何が起きたんだ?

 いや、この感覚は知っている。

 これは……《天地逆転》だ。


 体が完全に地に伏せる前に、何とか足を踏みとどまった。

 以前からたまに《天地逆転》をわざと食らって感覚が狂った時の対策はしてあった。

 しかし、何故《天地逆転》を……。


「……くぅ~」

「おっほ、それを耐えるんかいな。でも終わりや!」


 体のバランスを崩した俺の襟を、金髪美人は強引に掴んでそのまま華麗に一本背負いした。

 ゴフッと口から息が出る。

 そしてそのまま俺の首を抱えて腕を持ち、固めた。

 後から知った事だが、これは袈裟固めというらしい。

 そしてこの体制は……。


 胸が、胸が顔に当たる!

 冷静な思考が削がれる。

 いやいや、まだあきらめるな!そうだ、コータが《毒攻撃》でこいつを攻撃すれば……。


 と思ったが、相手の鳥に取り押さえられていた。トリだけに。

 いや、《ハイジャンプ》だ!こういう体制でも、少しは飛び跳ねる事はできるはずだ!

 ……でももうちょっとだけ。

 もうちょっとだけこの体制でもいいかな……なーんて。

 そんな事を考えながら、俺はいつの間にか意識を手放していた。

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