エビ
コボルドの体格はそんなに大きくない。
体の大きいダンですら俺と同等ぐらい。体の小さなアンは一メートルを超えたぐらいだろうか。
一方、ハイコボルドはハイゴブリンほどではないが非常に大きな体をしている。
二メートルはいかないまでも、倍近い体格差がある。
そのアンが、巨体相手に説得しようとしている。
軍門に下れと。
二人の間に何か議論が起こっているのは分かる。
しかし、何を言っているのかさっぱりわからない。
何故ハイコボルドを勧誘しようとしたかと言うと、言語の問題だ。
ハイコボルドも一応はコボルドなので、会話は成立する。
コボルドとゴブリンの間では成立しないらしい。
第一階層にもコボルドは光る壁から出現した。
しかし、これらも勧誘はしなかった。
理由は、同じコボルド同士仲良くできるかと言えばそうでもないところだそうだ。
ハイゴブリンがいるのだから、ハイコボルドもいるのかもしれない。
アンもその話は聞いたことがあったそうだ。
もしもハイコボルドが出現したら、説得を試みる。そうアンは提案した。
普通のコボルドより戦力になるのが明白だからだ。
「おい、大丈夫なのか?」
「うーん、風向きはよろしくないなぁ」
ハナはコボルドの言葉をある程度学んでいる為、大体何を話してるかは分かるらしい。
まぁ、両者の様子を見ていれば大体分かる。
貴様らのような小さき者に仕えるほど弱くはないわ!というところだろうか。
ハイコボルドは三日月のような形をしている刀を持っている。
ハナ曰くシャムシールという刀らしい。かなりの大きさだ。
それがいつ振り下ろされるか、心配になる。
説得しようとするアンの努力も虚しく、ハイコボルドはついに激昂した。
シャムシールを光らせる。あのモーションは……《クイックヒット》か!
ハイコボルドの攻撃は一直線にアンの腹部目がけて突き進んだ。
まぁ、させないんですけどね。
呼び寄せをつかってアンだけ俺の近くに飛ばす。
刀は空を切り、アンも傷一つ無かった。
さて、作戦は第二段階だ。
仮に説得が失敗したら全員で痛めつける。
それから改めて説得を……。
ボンッ!
大きな音と共に、ハイコボルドの右隣に土の柱が現れた。
一瞬何が起こったのか理解できない。
そのまま左隣にもボンッ!と柱が現れる。
驚きを隠せないハイコボルド。
ハナが一歩だけハイコボルドに近づいた。
それを見て、ようやくハナが《土》のカードを使ったのだと理解した。
俺からはハナの表情が見えないが、後ずさりしているハイコボルドを見ると相当怖いのだろう。
しかし、ボンッ!という音と共に、今度はハイコボルドの背後にも土の柱が現れる。
ハイコボルドは完全に腰を抜かした。
一歩一歩、ハナがハイコボルドとの距離を詰める。
涙目になるハイコボルド。
彼にはこれが恐ろしい土の魔法に見えるのだろう。
彼の前にハナが立つ。目に見えて震えている。
ハナは顔をハイコボルドの耳の近くに寄せ、ギリギリ俺に聞こえる程度の大きさの声でこう言った。
「……殺すぞ?」
日本語だった。
ハイコボルドは失禁した。
そして震える手で、自身の銀カードを差し出した。
「それにしても、最後なんで日本語で言ったんだ?」
俺はハイコボルドの居住する場所の設定を決めながら聞いた。
ハイコボルドはボス部屋の近くにスペースを設け、そこに住まわす事にした。
銀カードがこちらにある為、反乱を起こす事はないだろう。
他の光る壁の処理は既に終えてある。
ハイコボルドが他にも出現したら、ハナに脅迫させてどんどん集める予定だ。
「いやー、言語ってさ。カタコトより母国語の方が迫力出る時あるんだよ」
「へー」
「例えばアメリカ人がカタコトで怒るより、英語でまくし立てられた方が怖いでしょ?」
「あーなるほど」
ハイコボルドはしばらく育てた後、ボス部屋に置いておく予定だ。
俺達が留守の間でも、即このダンジョンが攻略される可能性が減ると思いたい。
ちなみにハイコボルドは、自分の居住スペースの一角でパンツを洗っているところだ。
■ ■ ■ ■ ■
翌日も第二階層の採掘&光る壁の処理から始まった。
昨日始めた時はテニスコート二枚分ぐらいだったのもが、今はちょっと広めの校庭ぐらいの広さがある。
この効率の良さには理由がある。ハナが戦闘レべル10になり、全て知性力に振ったからだ。
俺は気にする余裕は無かったが、戦闘レベル10になるとポイントの使い道が増える。
《カートリッジ増設》のような、ポイントで獲得できるタイプのスキルが増えるのだ。
その中でも、俺たちが気になったのはこの二つだ。
《ゴーレム召喚》と《アンデット召喚》。
その項目に書かれてるのが、ゴーレム召喚は《土》カードを消費してゴーレムを召喚。
アンデット召喚は実際の死体を消費してアンデットを召喚。
ちなみに死体の状態によって出てくるモンスターが違うと書いてあった。
が、一旦それは後回しにすることに。
理由は、知性力上昇による語学力の上昇が今は欲しいからだ。
俺もハナも戦闘レベル15になると他に振る余裕がでてくる。
その時、これを一つずつ取得しようという計画に。
今ハナの知性力は指輪込みで46。
あと4つでスキルが二つ手に入るのか。楽しみだ。
さて、他のメンバーも変化がある。
まず、新チームの三人が待望の戦闘レべル5になった。
それに伴い、スキルをそれぞれ体得した。
《ハードヒット》や《ロックオン》等の事である。
が、ここで問題が発生する。
皆使い時が分からないのだ。
コボルドは他のモンスターと比べて格段に頭が良い。
しかし、あくまで比較的良いというだけであって人間ほどではない。
彼らの中から偶然人間並の知性を持ったアンが生まれた。
彼女は見どころのある若者を三人必死で育成し、何とか族を生存させる道を探した。
その中でダン、ヴァン、イアンは連携やスキルの使い方を身に着けた。
アンの導きと長い間の苦労があってようやく身に着いたものだ。
新人の彼らに最初から上手くやれというのは酷なのかもしれない。
もっとじっくり時間をかけた方がいいか。
そして新メンバーのハイコボルド。
最初のダンジョンのハイゴブリンは《衝撃波》を使ってきた。
これは《攻撃力》50のスキルだ。
ならば、《敏捷力》特化のこいつは50のスキルを使えるのでは?
と思っていたが、彼の持っていたスキルは《クイックヒット》《ハイジャンプ》のみだった。
彼の戦闘レベルは6。
始めからこのレベルと言うのは高い気もする。
そして、《敏捷力》は41だった。
これも高いと思うのだが、戦闘レベル10になるまでは50のスキルは使えないと。
考えてみれば、第二階層のハイゴブリンも《衝撃波》は使わなかった。
てっきり瞬殺してたからかと思っていたが、覚えていないだけだったのか。
もしかしたら、ハイゴブリンも戦闘レべルを上げていたのかもしれない。
それを六体も用意するなんて、あの男意外に苦労してたんだなぁ。
まぁ、それでも俺達の中で一番体格は良い。
クイックヒットでも、かなりの威力の攻撃が出るのは使えなくはないか。
ちなみに、こいつは名前が無かった。
ハナに相談してみたところ。
「なぁ、こいつの名前何にする?」
「エビ」
「……何でだよ」
「今食べたいから」
この発言でエビに決定した。
ハナに絶対忠誠を誓っているようで、ハナの指示で何でも言う事を聞く。
トラウマを植え付けられたからというのもありそうだ。
「よし、これで全部終わったかな」
「うん」
「ハナ、皆にいろいろ指示を出してくれ」
「分かった」
一通り処理が終わる。
残念ながらハイコボルドは出てこなかった。
一度シャワーを浴びたら、鬼姉妹と待ち合わせして墓参りへ行く予定だ。
留守の間、ハリセンをヴァンとザンに貸して色々と練習させよう。
■ ■ ■ ■ ■
「個人的にザンはかなり筋がいいと思うんだけど、何か上手くいってないみたいなんだよなぁ」
「恐らく、彼が剣の練習相手に選んだのはイノシシ等の四足動物がほとんどなのでは?」
「ザン君が一番槍を中々買って出ないのは、自分の実力を踏まえてないと感じてるからですよ」
ポチの提案通り、今日の予定は墓参りだ。
タマに行く事を告げると少しためらった反応があったが、昔のダンジョンの場所の確認もあると言ったら了承した。
それと今回はコータとへきへきが一緒だ。
しばらくやんややんやと新しいチームとハイコボルドについて談義しながら歩く。
道中で馬鹿がいたが、今狩ってしまうと荷物にしかならない。
せめて帰り際に狩ろう。
ダンジョンを出てから五時間ぐらい経過しただろうか。
結構な道のりを歩いてそのダンジョンは存在した。
鬼姉妹も微妙な表情をしている。
父の敵であるダンジョンでもあるのだ。あまり良い思い出ではないはずだ。
タマの先導で、お墓の場所にたどり着いた。
俺達のお墓でタマが思う事があったというのを、このお墓を見て納得した。
高台にあった。
立派な石細工の洋風のお墓だ。
小さくヨーゼフと日本語で彫られていた。
タマ曰く、雇い主の名前だそうだ。
ダンジョンの脇から山に入って少し歩いたところにある高台。
そこからはナフィはもちろん、俺達のダンジョンまで見える程眺めの良い場所だった。
広大な草原。高くそびえる山々。
ここを舞台に、鬼姉妹の父と雇い主は冒険していたのだろう。
「ハナさん、よろしいですか?」
「あい」
ハナが袋と取り出す。
ナフィで買った種の残りだ。
一度ナフィに寄って花を買ってからでも良かったのだが、タマたっての希望で種を撒く事に。
彼女の希望で俺とハナも少し撒くのを手伝った。
お墓を布で綺麗にし、手を合わせる。
彼女たちは立派な戦士になりました。
リーダーとして、彼女たちを望まぬ形で死なせはいたしません。
どうか、安らかに眠ってください……。
「さて、準備はいいか?」
「……大丈夫」
「じゃあしゅっぱーつ」
日の高さから、大体正午を過ぎたあたりだろうか。
俺達は山を下り、ダンジョンの前にいた。
「ダンジョンの中を見ますか?」
「いや、いい」
タマの話によると、彼女たちの父と雇い主は相当な強さだったらしい。
推定だが、戦闘レベル30を超えていたのではないだろうか。
彼らの片方が命を落とし、片方が重傷を負ったダンジョンだ。
今の強さでは迂闊に入るのは危険だと判断した。
せめて全員が戦闘レベル20を超えた辺りで、フルメンバーで挑戦するぐらいじゃないと。
「何?どうしたの?」
ハナが突然そう言ったので見ると、へきへきが暴れてハナから降りたようだ。
そして南の方角へと威嚇を始めた。
以前こんな事があったような……。
そうだ、ロベルト!彼のダンジョンを見つけた際も、へきへきはこのような反応を示していた。
《嗅覚探知》によって。
ということは、それに相当する強力な何かがいるということか?
「皆、気を付けろ。何かがいる」
「確かに、何かが来ます。敵意は感じないようですが……」
やがて、鬼姉妹も何かを感じたようだ。
いつでも戦闘に入れるよう、心構えはしておく。
コータの出したコウモリも、何か反応を示している。
やがて、一人の女性が姿を現した。
黄金の綺麗な髪、青く澄んだ瞳。
白人特有の顔立ち。ハナは持ち合わせてはいない大きな胸。
俺達よりやや年上の印象を受ける。
外国人の美しい女性はどういう感じ?と言われたらこんな感じだろう。
そんな女性が立っていた。
しかし、彼女の肩には一羽の黒い鳥が乗っていた。
カラス?いや、違うな。何だ?
しかし、その鳥は心当たりがあった。
こいつはコータやへきへきと同じ金カードのモンスターだろう。
そして、それは一つの事実を表している。
「ハナ、気を付けろよ」
「分かってる。あの人は……」
あの女性は、ダンジョンマスターだ。
しかも、相当手練れの。




