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至福

 五つ目の部屋の前まで来た。

 恐らくこれがボス部屋的なものなのだろう。

 四つ目の部屋も大サソリ三匹でごく普通に倒した。

 最後の部屋は立派な敵がいるだろうか。


「あぁ……」

「何となくこんな気はしてた。うん」


 そこにいたのはコボルド六体。

 しかしぶっちゃけ強さを一切感じない。光る壁から出てきたコボルドをそのまま置いた感じだ。

 というか雑魚を複数って俺の《衝撃波》のいい的じゃないか。

 えーい食らえー。




「長く苦しい戦いだった……」

「まぁ、現時点で作れるダンジョンってこんなもんだよね」


 最初に入ったダンジョンが完成度高かったような気がする。

 いや、こちらが強くなったと考えた方がいいのかもしれない。

 ともあれダンジョン自体はこれでクリアな訳だが、俺達はこんなところで引き下がるわけがない。


「よーし散れー!」

「探せー!探すんだー!」


 皆で手分けをして隠し扉を探す。

 全員ダンジョンで隠し扉から出入りしているので、特徴は把握している。

 ダンジョンマスターを探し出して倒さないと、完全攻略にはならないはずだ。


「ねぇ、何か転送されてくる」

「本当だ」


 転送直前特有の空間のゆがみが最後の部屋の中で発生する。

 直後、金髪の少年が姿を現した。

 少年と言っても俺らよりちょっと下ぐらいだが。

 お?やるか?と身構えたが、少年は白旗を持っていた。

 よく準備してあったな、そんなん。


「どうする?降参認めちゃう?倒す?」

「うーん……」


 正直、他プレイヤーを殺すのは少々抵抗がある。

 彼らを殺すと現実でもその人が死ぬ恐れがあるからだ。

 よく漫画とかであるデスゲームものならそうなる。

 まぁ、あくまで可能性の域は超えてないわけだが。


 始めのダンジョンは別だ。

 あいつは俺を本気で殺しにかかってきた。

 それにあいつを倒さない限り、俺はあそこから出られなかった。

 正当防衛だと割り切っている。


 そして、彼を殺す利点というのも存在している。

 一つはあのカードだ。

 ダンジョンマスターを倒すと出てくるあのカード。何かしら意味はあるだろう。

 今のうちに収集しておいて損はない。


 もう一つは経験値だ。

 ダンジョンマスターを倒すと、かなりの経験値が入るらしい。

 ダンとヴァンはかなりの実戦経験を積んでいる。

 しかし、つい最近ヴァンはようやっと戦闘レベル10になった。

 ダンは未だ戦闘レベル9のままだ。

 実は今回のダンジョン攻略の途中の敵で10になったのだが、この時は知らなかった。


 一方で、コータは前回のダンジョンであの男を倒した時にはもう戦闘レベル10になっていた。

 ここから導き出される答えは一つ。あの男を倒した時、俺と、近くにいたコータだけに経験値が入った。

 そしてその経験値はとても多く、それだけでコータのレベルが一つ上がった。

 つまり、ダンジョンマスターは倒せば多くの経験値が手に入る。


 どうするか少し悩む。

 頭の中で倒してしまえという悪魔と、生かしておいて利用しようぜという天使が戦っている。

 おい、天使の割に腹黒いな。

 少年の顔を見るとどうされるかドキドキしてる顔をしている。

 あれが少女だったら文句なしで助けるんだけどなー。

 ……ん?あの脇に飛んでるのは……。


「助ける?」

「助けるって、あんたまさか理由は……」


 少年の脇に飛んでいたのはコウモリだった。

 きっと彼も金カードを掘り当てたのだろう。

 そしてそれは俺と同じコウモリだったと。


「いやー、コウモリ使いに悪い奴はいないわー」

「あんたねぇ……」


 そういう訳で、この少年は助けると決めた。

 いやーあのコウモリも可愛いなー。

 まぁ、ウチのコータが一番可愛いんだけどな!



 ■ ■ ■ ■ ■




 

 少年は助ける事にした。

 でもただで帰るというのもシャクなので、適当に何かいただく事に。

 いやぁ命を助けるってんだ。それ相応の情報をくれてもいいってもんだろう?

 まぁそんな正面切って恐喝するわけにもいかないが、やんわりと何か情報くれと言ったらマスタールームへ案内された。


 隠し扉はダンジョンの入口すぐ近くにあった。

 灯台元暗し作戦なのか、それとも利便性重視なのか。

 まぁ俺達は気づかなかったけど。


 マスタールームへは俺とハナの二人とコータ、へきへきで向かうことにした。

 いざとなったら呼び寄せあるからまぁ大丈夫だろう。

 罠の可能性もあるが、かけるなら本人が体を張らない方法もいくらでもあるはずだ。


 やがて、マスタールームらしき場所へとたどり着いた。

 少年の部屋は水色を基調にした部屋だった。

 本人の趣味だろうか、ちょっと珍しい色の石なんかが置かれている。


 アップルティーが出された。

 彼が家でよく飲んでいた味をなるべく再現したのだと言う。

 砂糖が無いので甘味は薄いが、ほのかなりんごの甘味が引き立っている。

 でもたまには甘ったるいミルクティーも飲みたいなぁ……。


 彼の名前はニータ。

 アメリカの西海岸で暮らしている少年だそうだ。

 このゲームは俺達の一日遅れで始めたらしい。


「何で第一階層のモンスターばかりを配置してたんだ?」

「えーっと……説明書にそうしろって書いてあったって……」


 ハナさん、そのジト目やめてください。くせになってしまいます。

 そうだよな、俺とかロベルトがおかしいだけで、普通は英語が分かるからこのゲームやってるんだよな。

 ちなみにあくまで一例で挙げられた方法であって、俺たちのように外のモンスターを勧誘することも(言語が合えば)出来るそうだ。

 しかし英語が出来るモンスター自体は稀で、彼は英語しか出来ない為上手く勧誘出来ないのだと言う。


 またポイントは敏捷力に振った為違う言語も覚えられず、思うように採掘も出来ないと。

 モンスターはなるべく応戦に回す為、経験値にも出来ず戦闘レベルもようやく5になったところだとか。

 モニターを使って見たら明らかにモンスターをぞろぞろ連れてる二人組が来たら。

 それも隠し扉を探し始めたら、そりゃ白旗を上げるかもしれない。

 俺達の方が年上っぽいし。


 うーん正直、面白い情報は無いなぁ。

 彼が何故二人で行動してるのかとか、モンスターはどうやって仲間にしたのかとかの経緯を聞いてきたため、それぐらいならとハナが答えた。

 ロベルトもそうだが、他の人の状況を見るに二人でこの世界に飛ばされるというのはあまりないのかもしれない。

 モンスターたちを余り待たせるのもいけないし、彼の状況だとあまり良い情報も無さそうだし。

 もう帰ろうと席を立つと、彼が呼び止めてどこかへ行った。


「どうした?」

「何かね、渡したいものがあるからって。見逃してくれるお礼に」


 うーん期待しないでおこう。

 という気持ちは、彼の持ってきた小瓶を見て一変した。

 あの黄色いものは、あれは、まさか……!


「……これは、本当にいいのか?こんな素晴らしいもの」

「良いって言ってるけど、コレ何なの……ってあんた何泣いてるのよ」

「だって、だってお前これ……」


 笑顔でソレを渡す少年。

 彼が俺には天使に見えた。

 俺が待ちに待った調味料。

 粒マスタードだった。

 俺は彼を抱きしめていた。

 ハナが一瞬腐った目をしていたが、そんなものを気にする余裕はない。






 今から三日前。

 彼がダンジョンを開通させてその情報を流そうとナフィへ向かおうとする途中、一人の冒険者が倒れていたそうだ。

 冒険者はかなりの手練れだったようだが、強敵と戦いそれを倒したものの仲間を失い、自身も重傷を負ったのだという。

 結果その冒険者は亡くなった。彼の持ち物に、この粒マスタードがあったのだという。


 その敵というのはここから東の山に生息しているらしいが、粒マスタードがあるかは不明。

 割と多くの量を保持していた為、一人では使い切れないという。

 いつか分からないが、賞味期限もあるかもしれない。


 前言撤回だ。

 想像以上の大きな収穫があった。

 少年の話では冒険者は戦闘レベル30はあろう強さだったらしい。

 それだけに、迂闊な挑戦は控えた方がいいかもしれない。


 強くなろう。

 食を追い求めるには、それしかない。

 しかしまずはこの粒マスタードを使った料理を帰って作ろう。

 俺は少年に深く頭を下げ、ダンジョンを去った。



 ■ ■ ■ ■ ■



 自分たちのダンジョンへと戻ってきた俺達は、とりあえず全く使ってないMPを消費する為に採掘をした。

 今日は皆、特に初遠征の新チームにとっては疲れてると思うので、光る壁の処理は明日まとめて行う。

 ちなみに今回はそれなりの数が出た。


 夕食……というか外はすっかり暗くなっているので夜食と言った方がいいかもしれない。

 今日はさっそく分けて貰った粒マスタードを使った料理だ。

 いつもは食パンだが、今日は特別にバンズを買う。

 それなりに良いベーコンにチーズ、今日は贅沢に目玉焼きもつける。

 そして粒マスタードをつけて、完成だ。


「何か今日は気合入ってるわねー」

「おう!お酒も解禁だ!」

「いえー!」


 ナフィで買ったお酒を今度はオレンジジュースで割って飲む。

 ハナにゲロゲロ吐かれても困るので、ハナの方は薄めに作る。

 コータとへきへきにもちゃんとご飯は出しておく。


「さーて、かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 お酒を軽く一口飲み、ベーコンレタスバーガーにかぶりつく。

 口の中に広がる香ばしいベーコンの風味。

 これは正直ほとんど毎日食べている。

 しかし、舌先にピリッとくるこの感覚。

 このスパイス独特の刺激。この感覚は、どうやってもこの世界に来てから味わう事が出来なかった。


「うんめぇ!これだよこれ!……ってどうした?」

「いやぁ、実は粒ガラシって食べた事無くて」

「あぁ、大丈夫。お前の胃は俺が握ってるから、多分俺が好きなものはお前も好きだって」

「何というジャ〇アニズム……とりあえず食べてみる」


 ハナが大きく口を開けて一口。

 ハンバーガーはやっぱこうでないと。ハンバーグじゃないけど。


「……どや?」

「美味しい」

「うし」


 粒マスタードは本当に助かる。

 色々なものの代用としても使いたいぐらいだが、瓶一つ分しかない。

 まぁ現実世界でスーパーにあったものよりは大きい瓶なのだが。

 大事に使いたいところだが、賞味期限が分からないしなぁ。

 現実のものと同じ賞味期限とは限らないし。




 翌朝、一通り採掘を終えた後にコボルド達を招集した。

 今日は鬼姉妹はお休みだ。

 タマはいつのまにか買っていたらしい酒を飲んで二日酔いで倒れてるとか。

 ポチは嬉々としてカエルの世話へ行った。

 さて、俺達はというと……。


「何だこれ」

「えーっと、例のスライム対策だって」

「ほー」


 ヤンに皮製の小手のようなものを渡された。簡単に説明を受ける。

 コレであの爆弾スライムを受ける。

 軽めに留められたボタンを外すと、小手そのものが簡単に取れるという仕組みか。

 ちなみに馬鹿とかイノシシの皮から作ったものらしいので、使い捨てでOKとのこと。

 凄いな。これは便利だ。

 ただしあくまで一匹相手に有効なものであって、アレの集団が来たら危険なことに変わりない。

 とはいえ第二階層の光る壁の処理を行う上では、有効なものだと見て間違いないだろう。

 しかも俺、コボルドの前衛四体、それにポチの分もある。

 予備まで作るとか彼は凄すぎるだろう。

 これを二日以内にこれだけの数作るとか……。




 さっそく小手を装備して光る壁の処理を開始する。

 最初の相手はオーク。俺とコータ、新チーム三体で戦う。

 今日の目標は《天地逆転》のタイミングを彼らに教える事だ。

 まずサンが弓で気を引く。

 俺がコータに《天地逆転》を指示する訳だが、その時コボルド達に合図を送る。

 相手がバランスを崩した瞬間、全員でぼこぼこにする。

 これが光る壁での処理の一つの重要な連携になる。


 一度目は何かタイミングが合わない。

 それでも三人がかりなので倒すには十分な火力なのだが。

 まぁこういうのは練習だ。次行ってみよう。


 途中、例のスライムが出てきた。

 皆に離れるように指示、サンに弓を撃つようジェスチャーを送る。

 サンの矢はスライムに命中。一撃で倒れた。

 やはり脆いと言えば脆いのか。しかし危険な相手には変わりない。



 八つ目の光る壁を刺激する。

 このシルエットは見覚えない。新しいモンスターだろうか。

 一気に片づければ問題はない。

 しかし、俺は一度ストップをかけた。


「ハナ、アンに試させてみてくれ」

「分かった」


 アンに指示を出し、アンが少しだけモンスターの前へ出る。

 周囲に緊張が走る。何かがあれば即助けに入る。

 相手はハイコボルド。

 アンは、こいつを勧誘しようと試みているのだ。

粒ガラシは自分の家だけの表現だと知った時の悲しみたるや

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