表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/150

油断

「ん、んぅ……ってて」


 目が覚めると妙に痛みを感じる。

 痛みじゃない、腕がしびれているのか?

 見るとハナが腕を枕にして眠っている。

 あぁ、そういや昨日はあの後腕枕しろって言ってきて……。

 確か昨日寝る時、「先に起きたらキスで起こせ」とか言っていたような気がする。

 外を見るに割と良い時間っぽいので起こすか。


 ハナの上に馬乗りになり、キスをする。

 そしておもむろに鼻をつまむ。

 さー何秒もつかな?

 深呼吸する。


 十二秒

 目が覚めたのだろう。

 舌を絡めてきた。

 ちょっとまだ酒臭いな。

 さて、ここからだ。


 二十秒

 暴れ始めてきた。

 しかし酔いがまだ醒めてないのだろうか。力が弱い。


 四十秒

 命の危機を感じてきたのか、本格的に暴れ始めた。

 タップしてきたが無視。

 いいだろう、攻撃力50の底力みせてやんよ。


 六十秒

 全身を使って抵抗を見せる。

 一瞬息を吸われてしまった。

 舌を噛もうとしてきた。危ない危ない。


 一分三十秒。

 抵抗がほとんどなくなった。

 流石に限界か?


「……ぷっはぁ!ゲホッ…ゲホッ……」

「おはよう。大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。変態な恋人に過剰なプレイで殺される」

「はいはい。ちょっとあの二人も起こしてくる」

「ったく……今度やり返してやる」


 ブツブツつぶやいてるハナを放置して鬼姉妹の部屋をコンコンとノックする。


「おはよーう。朝だぞー」


 やがてガチャリと扉が開く。

 寝ぼけたタマが寝巻で登場。

 胸元が凄い無防備でよろしい。


「おひゃーございます」

「あとちょっとしたら朝飯食って出るから準備しといて」

「ふぁーい」


 そういうとノソノソと戻って行った。

 キャラが崩壊してるな。



 朝食はパンに目玉焼きにハムだった。

 俺は別々に食べるのが好きだが、ハナは全部まとめてサンドイッチとして食べていた。

 牛乳が新鮮でおいしい。


「で、これからどうする?」

「モーニングマーケットというのが週に一度開かれてるんですが、それが今日だったと思います」

「へぇ、行ってみるか?」

「うん」


 食後、宿を引き払う準備をして宿の入口に集合という事にした。




「……たっか!?」


 明細を見てつい声に出してしまった。

 宿自体は安いが、昨日の夕飯が凄い高い。

 四人で500アモル以上て。

 更に詳細見たら大半が酒代だった。


 ペンを借りて、詳細に+100amolと書き込んで女将さんに見せる。

 理解したようで、操作をして支払い額が増える。

 チップ分だ。しかし思ったより高くついたなぁ、帰ったら狩りで稼がないと。



 モーニングマーケットは非常に活気にあふれていた。

 モンスターたちへのお土産をいくつか買う。

 ハナは花の種を買っていた。

 あ、酒も売ってるな。どうしよう。


「こちらのお酒は基本的にジュースで割って飲むんですよ」

「へー、じゃあちょっと安上がりになるんだな」


 日本では違法だが、この世界なら合法なら買いたい気もする。

 えーい買っちゃえ。ハナには内緒だ。

 しかし高いなぁ。この世界ではお酒はお金持ちのものなんだろうか。


「ねぇ、こっち来て来て」

「ん、何だ?」


 ハナがガシっと腕に組みついてきた。

 引っ張られた先にはアクセサリーがいっぱいおいてあるお店があった。

 何か妙に高いものもあるな。何だろうこれは。


「これは……ステータスが上がる指輪だね」

「へー」


 試着したが二つ以上は装着できないようだ。

 上がるのも1だけだと言う。

 しかしそれでも2000アモルかー。まぁいいか。


「えーっと、これとこれでいいかな?」

「買うの?」

「まぁ、せっかくだからな」


 俺は攻撃力、ハナは知性力が上がる指輪だ。

 ちょっとデザインが似てる。


「ペアリングだな」

「……女垂らしが」

「いやーお前が可愛いから、ついな」

「可愛いのは知ってる。……ありがとね」


 返答はサバサバしてるが、指に着けたその指輪をハナは嬉しそうに眺めている。

 はっきり言って、周囲からはバカップルに見えるんじゃないだろうか。




 欲しいものは一通り買ったので、ナフィを後にする。

 恐らく夕方までには帰れるだろう。



 ■ ■ ■ ■ ■




  帰りの道中、遠くに野生動物が見えた。

 一見すると鹿なのだが、顔が馬っぽい

 馬鹿と命名しよう。


 せっかくなので、タマに《矢の雨》についてレクチャーする。

 馬鹿に向かって試しうちしてみることに。

 使い方は説明してある。


「もうちょっと上かな、そうそうそのへん」

「じゃあ、やってみますね」


 タマが放った矢は上空に飛び、複数になって地面に降り注ぐ。

 が、馬鹿までの距離が遠かったのか手前でボトボトと落ちる。

 普通に射れば届きそうな距離だった。角度を上にする分射程が短くなったのだろうか。

 というか矢の数が多いな。確かイアンの時は六本だったが、タマの時は八本だった。

 戦闘レベルに依存してるのか?


「これは素晴らしいですね」

「ただ射程が短くなるんだな、遠くに試したことは無かったからなぁ」

「デメリットと言えば、洞窟内でも使いにくそうですねー」

「ボス部屋は天井高めに設定してるから、一応使えない事は無いと思う」


 タマは試したい事があると良い、もう一度矢をつがえた。

 今度は《ロックオン》を適用させて射る。

 やや誘導がかかったが、距離が伸びたかと言えば微妙なところだ。


「じゃあ、今度はスキル重複させてみますね」

「おぉ、その手があったか」


 《ハードヒット》を併用させて使うとどうなるのか。

 強い光を放った矢は、先ほどよりも遠くへ飛んだ。

 馬鹿もその矢にビビって逃げたが、《ロックオン》が適用されている矢なので避けられなかったようだ。

 ポチが嬉々として捌きに行った。


 その間、矢で《ハードヒット》が出る方法を教えてもらう事にした。

 試しに弓矢を借りてハードヒットを込めようとするも、何も起こらない。


「どうやってるんだ?」

「フフフ。これは《ロックオン》が必須なんですよ」

「ほー」


 対象にロックオンをする。

 その矢を放つ前のタイミングのみ、《ハードヒット》が矢に込められるらしい。

 《ハードショット》とでも呼ぼう。


 ということは俺は使えないと。

 そしてハナも《ハードヒット》を覚えてないから使えない。

 ちなみにこの《ハードショット》は弓だけではなく投擲にも適用できるのだと言う。

 そういえばこの前タマが見せてくれた流れの最後が、投擲でのハードショットだった気がする。


 ふと思ったのだが《ロックオン》に《ハードヒット》を適用すると《ハードショット》。

 ならば、《ロックオン》に《クイックヒット》を適用すると《クイックショット》になるのだろうか。

 弓矢の場合もし可能ならばかなり有効な技のように思える。


 俺も確か器用さは20ある。

 戦闘レベルが15になったら、器用さに5振るのもアリか?

 さて、そろそろポチの解体作業も終わりそうなので運ぶのを手伝うか。




 ダンジョンに戻った。

 コボルド達に馬鹿の肉とお土産の干し肉詰め合わせセットを渡す。

 コータにはハムを、へきへきにはキャットフードを。

 ちなみにキャットフードと言ってもこの世界ではあまり量産されていない金持ち向けのものらしい。

 結構良い値段がした。


 さて、マスタールームへ戻ると真っ先にしないといけないことがある。

 酒を管理することだ。ハナの手に入るところに置いたら、どうなるかわからない。

 冷蔵庫に鍵をかける。鍵付きの冷蔵庫とか何に使うんだと思っていたが、まさかこんな需要があるとは。


 お金をかなり使ってしまった為、第二階層の採掘を急ピッチで進めている。

 出てくる魔法がファイアやフリーズ等が主体だったのに対し、第二階層ではポイズンやスリープのような異常魔法の割合が増えた。

 ただし一つ階層が違うだけではあまり出てくる武器に違いはないようだ。


「うーんしけてるなぁ」


 つい愚痴がこぼれる。

 中々光る壁が出てこない。出て欲しい時に限って出ないというのは物欲センサーというものだろうか。

 へきへき込みの俺とハナの採掘の結果でも、僅か三つしか光る壁が出なかった。

 まぁ愚痴を言っても仕方ない。


 今回はコボルド達+タマ+コータ+へきへきのメンバーだ。

 ハナは買ったものの整理をしている。

 ポチはカエルの世話だ。

 へきへきは戦力にならないが、経験値をこういう機会でしか貯められない。


 合図を送り、光る壁を刺激する。

 出てきたのは……骨?

 スケルトンか。初めて見るな。

 まるっきり人体から肉等をすべて取り除いた、骨だけのものが動いている。

 手に弓を持っているが、弓矢を扱うのか。


 二本足という事なので《天地逆転》を起動させて倒す。

 ……と思いきや何も反応がない。

 そうか、三半規管が無いから効かないのか。

 しかし所詮は弓兵。一気に囲んでしまえば矢を構える隙もなく倒れた。


 二つ目はリザードマン。

 第一階層では《二刀流》をありがとう。

 じゃあ死ね!


 そして三つ目の光る壁を刺激した。


「……何だこりゃ」

「スライム……ですね」


 スライムだ。

 しかし普通とは色が違うな。

 さっさと倒してしまおう。


 近づくと、何やらプルプル動いていた。

 普通のスライムも極たまに攻撃してくるが、その前にこの動作が入る。

 まぁ奴らの体当たりなんてちょっとぷよっとした何かがぶつかったぐらいのもんだが。


 一応警戒はしていたが、油断をしていなかったと言えば嘘になる。

 そのスライムは凄いスピードで俺に向かって飛んできた。

 咄嗟に右腕でガードする。スライムはベチョっと腕に貼り付いた。

 しかし何でこんな奴が光る壁から出てきたんだ?

 とりあえず剥がそうと左手を伸ばすと、そのスライムは突然光を放ち始めた。

 スキルか……!

 これは普通じゃない、声を上げる。


「何かやばい、離れろ!」


 腕を他のメンバーのいない方向に向ける。

 次の瞬間、第二階層内で爆音が響き渡った。



 ■ ■ ■ ■ ■




「ガァッ……っつぁ……」


 右腕に今まで感じた事の無い程の痛みを感じる。

 神経をそのままナイフでそぎ落とされ続けるような痛みだ。

 こちらの世界に来て痛みには大分慣れたと思ったが、そんなことは無かったのか。


 火薬のような臭いが周囲に漂う。

 黄色い煙が晴れると、俺の右腕の状態がよく分かった。

 えぐれている。

 手首と肘のちょうど真ん中辺りの肉が大幅に吹き飛ばされ、骨まで見えている。

 あまりに強い痛みのせいか、逆に冷静になっている。

 しかし長い間このままだと間違いなく出血がひどくなり、死に至る。


「大丈夫ですか!」

「……大丈夫じゃなさそう」


 タマが駆け寄って来て、傷の様子を見ている。

 が、一目見ても普通じゃないことだけは確かだ。


 とにかくまずは状況の整理だ。

 恐らくあのスライムは自爆するスキルを持っていた。

 スライムは跡形もなくいなくなっている。倒した訳ではないのでカードも落としてないし、恐らくお金も得られていないだろう。


『ねぇ!転送するよ!』

「あぁ、頼む」


 ハナが通信機を使って連絡してきた。

 ちゃんとモニターをチェックしていたのだろう。


「皆は一旦戻って部屋で待機しててくれ!」

「分かりました」


 それだけ言い残すと、俺はハナによってマスタールームへと転送された。



「こっち!」

「あぁ」

「うわぁ、ひっどい傷」


 俺のベッドに横たわる。

 どこまで回復するかは分からないが、ベッドの謎パワーに賭けるしかない。

 ハナが救急箱を持ってくる。

 とりあえず止血をしようとしているが、痛みで俺が動いてしまって上手くいかない。


「ちょっとごめん」

「くっ……悪いな」


 ハナが俺の顔に手を当てる。

 体から力が抜ける。痛みが薄れ、徐々に意識が遠のく。

 《スリープ》を使ってくれたのだろう。



 夢の中で、現実世界の事を思い出した。

 自転車で派手に転んで足に大きな擦り傷作って。

 ハナに支えられて泣きながら家に帰った記憶だ。

 懐かしいと言えば懐かしいけど、今でも関係あんま変わってないな……。



「……っつぅ」


 痛みで目が覚める。

 腕は包帯でかなりぐるぐる巻きにされている。

 モニターで外を確認すると日が落ちかけている。

 たしか昼前に起きた事件のはずなので、五時間ぐらい寝ていた計算だろうか。

 一度包帯を巻き直してもらおう。


「……おはよう」

「あ、馬鹿が起きたか」


 ハナは熱心に読書をしていた。

 以前買った植物の本だ。専門用語が多くて思うように読み進められないと言ってたが。


「ここにさー、痛みどめの薬の作り方が書いてあるのよ。試してみていい?」

「えーっとどうやって?」

「合成よ、合成」


 ハナはそういうと、バインダーから二枚のカードを取り出した。

 《イスピ草》と《クーヴァ草》だ。

 どちらも採掘の途中でよく発見される謎の植物カードだが、薬を作れるのか。

 二枚のカードを合成すると、ハナの手には錠剤の薬が握られていた。

 《イスヴァ薬》と言うらしい。なんと短絡的な。

 ちなみにこの合成、一回100アモル必要らしい。


「これ、常備とか出来ないのか?」

「うーん眠くなる作用があるらしいし、毒消し丸より期間短いみたいなんよ」


 毒消し丸はいつの間にか使い物にならない程ボロボロになっていた。

 あれと同じように使えなくなるのなら、確かに持ち運びは無理かもしれない。


 とりあえず食事にすることにした。

 と言ってもパスタに予め作り置きしたソースを温めて絡めるだけだ。

 ハナでも失敗しようがないものだが、俺が利き手を使えないのでハナが用意する。

 大丈夫だと思うが、大丈夫だと思うが一応監視しておく。

 皿に盛られた状態を見るまで、内心ドキドキしていた。


「どう?味は問題ない?」

「うん。んまい」

「よし、食うか」

「ひどっ!」


 ハナに毒見をさせてから食べる。

 まぁ、普通の味だ。

 しかし利き手が使えないと凄い不便だ。

 どうしても時間がかかる。


「……食べづらそうだね」

「まぁな」

「ちょっと貸して」


 そう言うと、ハナは俺のフォークを奪い取ってパスタを巻きつけた。

 おい、まさか……。


「はい、あーん」

「……やだ、恥ずかしい」

「危険な目にあったら孕ますって条件、今回の件で達成にしてもいいんだよ?」

「……あーん」


 脅しをかけてくるとはなかなかやるな、流石俺の幼馴染。

 まぁせっかく恋人になったんだ。こういう時ぐらい甘えさせて貰うか。



 食後、薬を水で流し込む。

 錠剤なので苦いと言えば苦いが飲みやすかった。

 効き目が出るのが三十分後との事なのでそれまで包帯を変える事に。

 何度か巻いてたせいか、最近ハナの包帯を巻くスキルが上達している気がする。


「……ベッド効果凄いなぁ」

「肉が中から生えてきてるね」


 肉がすっかり吹き飛んだはずなのに、もう半分ぐらい肉が付いている。

 まだ動かすには至らないが、一日も経たずに元通りになりそうだ。

 もはや回復、再生ではなく構築と言った方がいいかもしれない。

 ちょっとしたホラーである。


 とはいえ痛みはまだまだ続く。

 包帯を再び巻いて貰う事にする。

 うーん大分うまくなってるなぁ。包帯の扱いが。


「ところで、植物の本の翻訳進んでるのか?」

「うん、まーね」

「あれって専門用語多いんじゃないか?フランス語苦手なんだろ?」

「まぁ、あたしは天才だからね!……って言いたいけど、実は秘密があるのよ」

「秘密……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ