ボス部屋
方針は大体決まった。
その後小一時間ハナと協議し、今日はとりあえずボス部屋の作成にとりかかる事にした。
内装や装置を設置、変更するのは後でも出来る。
今のところはマスタールームの前に広い部屋を作るだけだ。
と言っても、生半可な大きさではいけない。
学校の大教室ぐらいの大きさは欲しいところだ。
いるかは分からないが、いつか大型のモンスターを入手出来れば、配置したい。
ゴーレム、大巨人、ドラゴン。これらのサイズは分からない。
しかし狭いと十分な力を出せず、負けてしまう事が考えられる。
大型のモンスターでなくても、広さは必要だ。
序盤は強いモンスターを入手できない可能性がある。
モンスターの入手方法がまだ分からない以上、長引く可能性もある。
その場合、俺とハナが二人でボスとして降臨。
雑魚を大量に投入して凌ぐという手も考えている。
その場合でも、広ければ広い程こちらが有利になる。
「よし、どっちが早く《採掘》できるか競争しようぜ!」
「わかった。せっかくだし何か賭けない?」
「いいね、何を賭ける?」
「相手の言う事を一つ何でも聞く!」
「乗った!」
このゲームの中に入ってハナに申し訳ないとも思っていた。
しかし案外ハナもこういうゲーム世界とか好きなのかもしれないな。
そんなことを考えていたせいか、ハナが呟いていたのを聞き逃してしまった。
「勝てるわけなのにね。」という言葉を。
ノルマを決め、ハナの合図でスタートする事にする。
「よーい…スタート!」
それからは夢中になって掘った。
頭の中で「掘る!」「掘る!」「掘る!」と何度も考えながら。
現実世界ではありえない速度で目の前の壁が爆散していく。
やっばい、超楽しい。
ちなみに《採掘》の時に出た《土》カードは後で拾う事にしている。
さきほど実験も兼ねて1時間以上机の上に放置したが、カードは消えなかった。
かなりハイペースで《採掘》していたが、ノルマの7割を超えた辺りで《採掘》できなくなった。
最初は気のせいかと思ったが、何度やっても出来ない。
一日に出来る上限でもあるのだろうか。
疑問に思いながら後ろを振り返ると、ハナが既に自分のノルマを終えてカードを拾っていた。
え?もう?というか限界値が違う?
ハナは自分と同じく念じて発動する条件だったはず。
「掘れ」の二文字より短いワードだったのだろうか。
「ゐ」とか「ゑ」とか普段使わない言葉にすれば…いや、それにしても早すぎる。
顔にクエスチョンマークがついていたのだろうか。
ハナはとてーーもいい笑顔でこう言った。
「あんたのノルマもやってあげようか?」
「ぐぬぬ……」
まだまだ限界値は先って事か。
恐らく《知性値》が関係しているのだろうか。
さてはあいつそれを知っていたな。
いや、作業効率を見れば他の秘密もありそうだ。
くそーあの女狐め。
■ ■ ■ ■ ■
ハナに俺のノルマを掘ってもらうのはやめておいた。
俺達が今から作るのは一つのダンジョンだが、ダンジョンマスターは二人いる。
つまり、二つのダンジョンが存在してそれが合体している。という認識が正しいはずだ。
どちらがどこを掘るかを分かりやすくしておいた方がいい。
その後ハナはマスタルーム周辺にトイレや風呂用のスペースを作った。
それでもまだ余裕があったので、自分で掘った範囲を拡大していた。
その間、俺はカードの整理をしていた。
それによっていくつか分かった事がある。
まず、100%カードが出る訳ではないらしい。
最終的に二人合わせて90回程度掘った。
その結果、出たカードは69枚だった。
そしてここからが本題。カードは全て《土》ではなかった。
冷静に考えれば《採掘》なのだ。穴掘りではなく。
《土》カードは63枚。残り6枚がレアドロップなのだろう。
ハナが帰ってきたら翻訳してもらおう。
一度全て俺のバインダーに入れてしまっておく。
ハナが帰ってくるまでの間に俺のマスタールームの内装をいじる。
まずベッドとモニターを購入。机と椅子も買った。
あ、そうだ。着替えと下着も買っておこう
そして一番大事なのがノートと筆記具。
ハナから教わった単語等を書きまくる。
別の場所での作業をしている時に、言葉が分からないからと作業が滞ってはいけないだろう。
生まれて初めて、こんなに真面目にノートに英単語を書いた気がする。
ついでに今まで分かっている仕様等も書き連ねる。
ハナが帰ってくる。バインダーを出す。
あれ?カードが9枚しかない?
と思ったら、どうやら自動でまとめられるらしい。
一見《土》カードが2枚になってしまったように見える。
《土》カードの右下にちいさく算数字で40と書いてある。
その右にある《土》カードの右下には24。
試しに右の土カードから1枚取り出すと、数字が23に減った。
これはちょっと便利だ。
カードをハナに見せる。
出たカードは以下の通り。
《鉄の欠片》
これは2枚出た。
恐らく合成の素材だろう。
《麻痺消し丸》
麻痺があるのか。
ということは毒もあるのだろうか。
プレイヤーとしてはステータス異常は厄介だ。
ダンジョンを作る側としては逆にステータス異常を狙うのが有効な手段なのかもしれない。
《イスピ草》
一切不明。保留。
以上の4枚は《土》と同じカードのデザインだった。
しかし残り2枚はちょっと違った。
まず1枚はカードの縁が銀色のカードだった。
《ファイア》
流石に俺でも読めた。
魔法だ!魔法じゃないか!
使い方が全然わからないので、《知性力》の高いハナに渡しておく。
そしてもう1枚は金色だった。
かなりのレアカードと見て間違いないと思う。
《卵》
さすがにエッグぐらい俺も読める。
ただの卵という事はなかろう。恐らくはモンスターの卵。
「どうやって孵せばいいのかな」
「うーん多分しばらくこいつを装備するんじゃないだろうか」
カートリッジに刺してみるとちゃんと入る。
出ろ!と念じてみたが卵は出てこなかった。
うーん。まぁとりあえずしばらく刺したままにしてみようか。
《土》24枚、《鉄の欠片》2枚、《イスピ草》もハナに渡しておいた。
どさくさに紛れて《卵》は俺のものになった。
今日はそろそろ就寝する事にした。
■ ■ ■ ■ ■
あまりに色々な事がありすぎて興奮していたが、よく考えればゲームを始める時間は夜の十一時だった。
ということはある程度時間が経った今でも、真夜中の三時ぐらいと考えるのが妥当だろう。
窓が存在しない為日中なのか夜なのかわからないが、《採掘》が出来ない以上睡眠はとった方がいい。
一応俺もハナもパジャマのままだったので、そのまま寝る事にした。
床に座ったりしたはずだが、パジャマは不思議と派手には汚れていなかった。
周囲は土であって土でないって感じだな。
いやあんな爆発するのはもはや土ではないけど。
「じゃあ、俺はそろそろ寝る」
「ん、おやすみー」
ハナはまた何かをいじっているようだった。
そっとしておいてやろう。
マスタールームを含め、このダンジョンには光源がない。
じゃあどうやって見えているかというと、自動的に明るさを補正する機能がプレイヤーにあるらしい。
なので電気を消すとかは出来ない。
しかし《オプション》から《明るさ補正》を選択して補正を弱めてやる。
すると部屋がかなり暗くなる。疑似的に消灯として使える。
ベッドに入ってから色々な事を考えたが、眠りに入るとその全てを忘れた。
目が覚めると、まずは《明るさ補正》を元に戻した。
それから何か変化がないかチェックする。
《卵》はそのままだった。
ステータスは…お、何故か100アモル増えてる。
もしや毎日100アモルは入手できるのだろうか。
だとしたらしばらく飢える事は無さそうだな。
ハナは寝ているようだった。
今のうちに朝食を考えるか!と気合を入れたが、《ダンジョン操作》で大量の英語を見ていたらまた睡魔が襲ってきた。
うーん、朝から手間をかけたくない。
お手軽メニューは何かないものか。
我が家ではそういう時何を食べていたっけ…?
いつのまにか再び眠っていたようだ。
何かにつっつかれる感覚で目を覚ました。
つっついている本人を見ると、馬鹿がいた。
「……何その格好」
「いやー、ダンジョンの支配者っぽい格好をしてみようかと」
ぶわぁさー
ハナが黒いマントをつけてひらひらさせている。
吸血鬼とか魔王とかがつけてそうなマントだ。
でもピンクのパジャマの上にそれつけるなよ……。
まぁ楽しそうだからいいか。
ちなみに朝食はシリアルにした。
牛乳も買ってこれで済ます。
現実世界でも時間がないときはこれを食べていた。
ハナも割とシリアルは食べていたように思う。
無言でもさもさ食べている。
しかし、何か物足りない。
砂糖が少ないのかほぼ入ってないのだろう。味が薄いというか。
調味料がないのが悔やまれる。
これはこれで美味しいからいいか。




