即答
ハナが来るまでの間、今までの動きを大まかに説明している。
今までは冒険者の撃退は主ではないと言う事。
護衛と光る壁の処理等が求められ、今後は他のダンジョン……リン・テートも攻略するかもしれないこと。
呼び寄せをする事もあることや、つい最近死者が出たということも包み隠さず伝えた。
鬼姉妹は黙ってそれを聞いている。
良いとも悪いとも言わない。ありがたいと言えばありがたいのだが、凄いやりづらい。
バイトや就職の体験はないが、そういうものの面接や説明会はこんな空気なのだろうか。
というか正直姉妹の反応が良くない気がする。何故だろう。
「おまたせー」
「おぉ、来たか」
「あ、はじめまして」
大体話す事が尽きたので、どうしようか悩んでいるとハナが来た。何と言う救世主。
鬼姉妹の弓の方が立ち上がってぺこりと頭を下げる。もう一人も続けてぺこり。
礼儀正しいモンスターだなぁ。
ハナを見てからというもの、鬼姉妹の反応があからさまに良くなった。
ハナから仲間になった後の待遇についての話を聞きながら、ときたま質問を返すようになった。
何だろう、女性好きなのかな?ハナは渡さんぞ。
しかし鬼姉妹はそれなりに美形なので、夢が膨らんでくる。
一通り説明の後、質問が無いか聞いたら弓の方が物凄い躊躇しながら口を開いた。
「あのー……お二人は恋人なのですか?」
「はい。ラブラブです」
ノータイムで即答してやった。
恋人かそうじゃないかと聞いたらまだそういう関係ではないが、ハナをくださいとか言われたら困る。
それにハナに対してのちょっとしたドッキリでもある。いつかやってみたかった。
即答ではいと答えたからハナも赤面してうつむいてるんじゃ……あれ、真顔だ。
不思議なことに、彼女たちはその即答を聞いて完全に安堵した。
どういうことなんだ?
俺の顔にクエスチョンマークがついていたのが、ハナには分かったらしい。
そっと寄って来て耳打ちしてきた。
「彼女たち、性的な奉仕させられるんじゃないかと警戒してたのよ」
あー。確かにありえないことではないか。
彼女ら美人だし、おっぱいでかいし。
俺の協力者が存在しているが、性別は分からなかったと。
仮に男だったら奉仕させられる可能性も十分にあった。
だから片方が女性だと聞いて安堵。
恋人なので奉仕の可能性が完全になくなって更に安堵と。そういうことか。
そういう意味では即答で肯定はよかったのかもしれない。
……あれ、ってかハナとの関係は恋人じゃないと訂正するチャンスを完全に失った?
■ ■ ■ ■ ■
何となく鬼姉妹が興味を持ってくれたところで、今度は鬼姉妹の話を聞く事に。
一応マーシュで買った歴史の教科書は(フランス語で書かれてるのでハナが)読んでいる。
しかしそこには奴隷制度なんてものは無かった。
中央部最大の町 ナフィ。
畜産と銅鉱石の生産で有名なこの町だが、その柔らかな名前に似合わぬ裏の顔があるそうだ。
それが奴隷制度である。
奴隷制度にもいくつか段階があるそうで、鬼姉妹はさほど重いものではなかったそうだ。
軽い方では例えば冒険者の両親を失った孤児や、軽額の借金を返せなかった者等が該当する。
彼らはせいぜい召使いやお店の手伝い、牛や豚の面倒を見る程度の軽いものだそうだ。
働き口の見つからない際の救済措置に近いそうだ。
しかし重いものはそうではない。
危険な鉱山でのほぼ休みなしの重労働や、娼婦、性奴隷と言ったものだ。
扱いが酷い場合は奴隷同士で無理矢理妊娠させ、出来た赤子を売り払うなんてこともあるらしい。
「彼らには脱走した場合、非常に重い罰が課せられます」
「罰?」
「足ですよ。足が切断される魔法具が、足首に常時付いています」
「おぉぅ……」
ナフィはフマウンと対立している。
この二つの町が対立しているのは、表向きフマウンが鉱山や畜産を求めたから。
もしくはナフィが海産物や農場を求めたからと言われている。
しかし実際はフマウンの子供を拉致し、記憶を消して奴隷として売りさばいている裏業者の存在が発覚したかららしい。
その話を聞いて、ちょっと怖がって裾を握ってきたハナが可愛かった。
「で、二人は何故奴隷に?」
「父が奴隷だったので、形式上はその子供も奴隷になるんですよ」
どうやらこういうことらしい。
冒険者の中にはモンスターを使役するものがいる。
鬼姉妹の父はその使役される側だったらしい。
しかし町中で堂々とモンスターが出歩いているのは問題がある。そこで奴隷になる事で町中でも例外として認められていたと。
「父は一応奴隷でしたが、何か悪い事をしたわけではありません。酷い扱いを受けることもありませんでした」
「なるほど……」
彼女たちも雇い主の一行として、ついていくことが多かったそうだ。
そこで弓と剣の腕を磨いたと。
二年前冒険者のパーティーが大損害を受けた。
彼女たちの父は死亡。冒険者も重傷を負い、彼女たちを養う事が難しくなった。
そこで冒険者は奴隷としての権利を放棄。姉妹二人でそれ以来ここで暮らしているのだという。
冒険者がホーガン出身だったのでここまで話すのが上達したそうだ。
逆に同族相手でも、モンスターの言語を話す事は出来ないらしい。
「なまじ人間社会で生きちゃったから、生活が不便なんじゃない?」
「そうですね……」
彼女たちは口には出さなかったが、ここにはトイレが無い。
恐らく外で泣く泣く済ませてるのだろう。
だからこそ、風呂とトイレを付けると言った時の彼女たちは動揺を隠しきれていなった。
キッチンに収納も付けちゃうぜ?どうよ?
「俺から一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「人やモンスターを殺すかもしれないが、それに対して躊躇とかないか?」
「そうですね……」
冒険者として戦っていたので、モンスターと戦うのは問題ないという。
人間と戦うのも問題ないと彼女たちは主張している。
強い相手と戦いたいという気持ちもあるようなので冒険者と戦わせるのは問題ないかもしれない。
ただ、山賊まがいの事をして弱い商人を襲う。何てことが今後あるならば、コボルド達にお願いした方がいいかもしれない。
一応気にしておこう。
そんな事を考えてると、ハナが近くに寄って来て耳打ちしてくる。
「ねぇ、あたしも質問していいかな」
「いいんじゃないか?」
「好きな質問でいい?」
「……常識の範囲内でな」
何か凄い嫌な予感がする。
ハナは手をワキワキさせながら、鬼姉妹にこう言った。
「ねぇ、ちょっとおっぱい触っていい?」
「……どうぞ」
常識の範囲内でって言っただろーーっ!
あぁ気をつかってOKしてくれてるよ。ほんとウチの馬鹿娘が申し訳ない。
……羨ましい。
「あの……触ります?」
「ぃぅえ!?」
変な声を出してしまった。
え、いいの?俺触っていいの?
思わずゴクリとつばを飲み込んだ。
ぽよんぽよんと二人分、四つの山を堪能したハナが満足した顔で帰ってきた。
そして俺の腕に抱き着いて、笑顔でこう言った。
「大丈夫だよね?だって こ・い・び・と がいるんだもんね?」
「あぁ、そうですよね。失礼しました」
そこに山は存在していない。ただ平野が広がるのみ。
くっそおおおぉぉぉ…………。
■ ■ ■ ■ ■
「あと、何か要望なんかはあるかな?」
「うーん、そうですねぇ……」
大まかな約束としては、人間並の待遇をする事。
余りに無謀な作戦、捨て駒のような使い方はしない事。
呼び寄せをする可能性がある時は可能な限り申告して欲しいという事。
最後に関しては、風呂やトイレの途中で呼び寄せられたら大変というのが大きい。
二番目に関してはちょっと例外がある。
例えば、リン・テート攻略の際俺が一人飛ばされて呼び寄せを使った。
こういう場合、俺が殺されるとカードが敵に渡る事になる。
カードを奪われるのは心臓を奪われるに等しいそうだ。
本格的な危機の場合は、多少の無茶無謀でも呼び寄せて構わないとのことだった。
「……部屋」
「へ?」
「契約を結ぶ前に、自分たちの部屋が見たい」
ほとんど口を開かない剣の方が口を開いてちょっとびっくりした。
契約と言っても所詮口約束。
いざとなれば捨て駒に使われる事もあるし、前告知なしで呼び寄せる事もあるかもしれない。
ただし、風呂とトイレに惹かれた面がある彼女たちにとって、契約後に風呂トイレなしだよーと言われるのが一番困る。
だからちゃんと自分たちの部屋を見てから契約をしたい。
とこういう意図が今の会話で隠されているのだと勝手に解釈した。
流石に今日あったばかりの相手の部屋は完成していない。これから作成する予定だ。
今夜作成して、明日合流かなー。
「じゃああんたパパッと作って来てよ」
「え?あぁ、うん」
「あたし達はここでガールズトークしてるわ」
「お、おう……」
うーん完全にパシリだ。
まぁ俺の方が敏捷力早いから急いで帰るのには向いているか。
一応コボルド達のカードをハナに渡し、へきへきのカードを受け取る。
採掘用のカードに装備を変更し、長い道のりを走り出す。
新しいコボルド達の居住スペースの近くに、何か作れないかと少し掘ってあった部分があったなぁ。
そこを手直しすれば、あまり時間をかけずに部屋を作れると思う。
最悪光る壁が出てきても、俺とコータだけで十分対処できると思う。
『よーし邪魔者はいなくなった。ここからは女の子の時間だー』
『フフフッ』
繋がりっぱなしの通信機からガールズトークの内容が聞こえてくる。
これは凄い気になる。
そういえばこちらに来てから、ハナは同年代の同性と話す機会は無かったのか。
こういうトークをしたかったのかもしれない。
『そういえばダンジョンマスターさんは……』
『あたしの事はハナでいいわ。そういえば、貴女たちの名前聞いてなかったわね』
『実は……名前が無いんです。奴隷時代は番号で呼ばれてました』
『私がD-23で、お姉ちゃんがD-22でした』
『へー。ちゃんとした名前なくて不便じゃない?』
『うーん。どうでしょう、実感はないですが……』
『じゃあさ、つけてあげよっか。名前』
『えっ!』
『いいんですか!?』
何か嫌な予感がする。
俺もコウモリでコータだが、あいつもへきへきだぞ?
ネーミングセンスなんて投げ捨てて生きてきたような存在じゃないか。
『うーんよし、思いついた』
『あー、緊張しますね』
『ドキドキする……』
『あなたたち二人の名前は「タマ」と「ポチ」!』
「おい、ちょっと待てやコラ」
『なによ、神聖なガールズトークにいちゃもんつける気?』
思わず声に出してしまった。
その名前は無いだろう……。
しかも通信機を通して、何だかんだで彼女らが喜んでいる声が聞こえる。
そうか、俺達の現代の世界でどういう扱いされてる名前なのか知らないのか……。
「おまえさーいくら何でも……」
『はいはい。じゃあね』
ブツっと切られた。
俺、知らんからな。
三時間後、コボルドの女の子とへきへきの助けもあり、彼女たちの部屋は完成した。
内装は土に囲まれた穴ぐらだが、姉妹それぞれに自室を設け、バストイレ別。
3LDKもあれば十分だろう。
ベッドとタンスも設置してやった。
鬼姉妹に部屋を案内すると、とても喜んでいた。
水洗トイレが一番うれしそうだった。ようやく文明らしい生活ができると。
ちなみに主食はやはりスライムらしい。
キッチンに調理器具も買ってやった。
鬼姉妹は頭を下げ、俺達に二枚の銀カードを渡した。彼女たちのモンスターカードだ。
そのカードには「Tama」「Pochi」と書かれていた。
俺は深く考えるのを放棄した。




