甘え
その後、二度ほど《衝撃波》を見て大体の攻撃判定を学ぶ。
前方にかなり広い範囲に風の圧力を飛ばし、かつ地面を叩き付ける事によって衝撃を起こし周囲にダメージを与える。
一見強く見えるが、大振りでありなおかつ意外に脇が甘い。
ラッドが相手の攻撃を受け流しながら、もう一人が槍で突っついてダメージを稼ぐ戦い方だ。
彼らは二人とも《ハイジャンプ》を持っていない為この戦い方だが、俺の場合いざとなれば振ったのを見てから相手の後方に《ハイジャンプ》すれば安定して避ける事が出来そうだ。
しかし気になるのはこの部屋だ。
何やら雰囲気的にかなりボスっぽい感じだったが、正直こいつ一体では実力不足だ。
その割にはこの部屋は大きく作られている。まぁ俺達のボス部屋も予定がないのにムダに広いし、こんなもんか。
入口以外に道は見当たらない。後で隠し扉でもないか調べる必要はありそうだが、表向きダンジョンはここまでのようだ。
大分相手の動きを知る事が出来たので、俺も参戦することに。
ハイゴブリンはオークより体が一回り大きく、何より皮製の鎧を着ているので地味に硬い。
とはいえ二人の攻撃を地味に受け続け、体から血が流れるハイゴブリンはかなりの体力を消耗していた。
知性力も低そうだ。《衝撃波》もあまり打てないのだろうか。
ハイゴブリンの背後に回り、斧を持って負担がかかっている腕を殴る。
相手も痛みに耐えながらこちらに反撃に出ようとするも、フリーになったラッドに足の腱を切られる。
崩れ落ちて頭を下げたところを、槍でのどを貫かれてハイゴブリンは絶命した。
随分とあっさり倒せたものだ。
魔法使いが一枚魔法を使ったぐらいの消費しかなかった。
ハイゴブリンはカードを落とした。ラッドがそれを回収する。銀カードかな?
互いに大きな傷がないことを確認する。
魔法使いが部屋から出ようとすると、異変に気付く。
扉が開かない。ラッドが首を捻る。
「倒したはずなのにどういうことだ……?」
「ねぇ、アレ見て!」
ハナが指さした先を見る。
ハイゴブリンがどこからか現れる途中だった。それも二体。
転送の一種なのだろうか。くそ、ボス部屋の設定を後回しにしていたツケが回ったか。
「ラッドさん、俺たちで片方倒します」
「分かった。そっちは任せたよ」
「魔法を遠慮なく使って速攻で終わらせるぞ」
「おーけー」
部屋が妙に広かったのはこれを狙ったからか。
しかし相手が二倍になるだけで危険度は格段に増す。
俺は多少危機感を持ちながら、一方で嬉しくも思った。
他のダンジョンマスターのギミックを体験できたのだ。正直今まであったのはロベルトぐらいしかいない。
それにハイゴブリンは確かに強かったが、二体ぐらいならこのメンバーでどうにか出来そうな相手でもあった。
そしてその考えに対して「完全にフラグ立ててるな」と冷静に見れる自分もいた。
俺とハナは右のハイゴブリンを引き受けた。
二体とも先ほどと同様に斧を持っている、こいつも恐らく《衝撃波》を使うだろう。
相手の斧をいなして鎧を着ていない腕や足を叩きながら、ハナの魔法を撃ちこめる隙を作り出す。
「……来たっ! 気を付けて!」
「おうっ!」
ハイゴブリンが高く斧を振りかざしたのを見計らって脇から背後の方向へ《ハイジャンプ》
ハナも一応遠距離攻撃なので、さらに距離を取る。
完璧に回避出来た。いいコンビネーションだ。
ハイゴブリンが地面に斧を叩き付けた隙に、ハナが《コールド》で尖った氷を作り出す。
足に氷の刃を受けたハイゴブリンは溜まらず屈みこむ。
そこを俺の棍棒が頭部を捉え、ハイゴブリンは沈んだ。
「ふぅ……。ぅわっ!」
隣のハイゴブリンの《衝撃波》の余波がこちらまで飛んできた。危ない危ない。
やがてそちらのハイゴブリンも沈んだ。
槍使いが多少の傷を負ったようだが、問題ないレベルだった。
二体かー、俺とハナの二人だったら大変だったな。
カードを回収し、魔法使いが真っ先に外に出ようと扉に手をかけた。
お前はアレか。休み時間になった時のサッカー少年か。
……ガチャガチャやっても開かない。これは……まさか……?
「なぁ、アレは何だと思う?」
「同じ敵だな」
「何体いるように見える?」
「三体だな」
俺達の目に映ったのは、ハイゴブリンが部屋に三体まとめて出現するところだった。
これは、割と本気で殺しにかかっていると見て間違いないだろうか。
■ ■ ■ ■ ■
戦いは長期に渡った。
まず、前衛三人でそれぞれ一体ずつ担当する。
槍使いが負傷している為、魔法使い二人で集中してまず槍使いが担当するハイゴブリンを倒す。
正直これはかなりの賭けだ。
何せこれまでの二戦で魔法をかなり消費している。
もう一戦が無い事に賭けただけであり、次は四体出てきますよーなんて言われた日には完全に詰みである。
まず槍使いが迎撃するハイゴブリンに魔法が二つ打ち込まれる。
ハイゴブリンの腹にブスっと一突き。普通の敵ならこれで死ぬだろう。
しかしハイゴブリンは違った。槍を掴んでそのまま引き抜き、半分に割ってしまった。
どうなってるんだよこの身体能力。
ちなみに俺はそれを横目で見ながらひたすらハイゴブリンの攻撃を避けている。
よそ見をしているのではなく、他方から《衝撃波》が来ないかとチェックもしている。
うぉ、あぶねっ。こっちに飛んできた。
槍使いは槍を折られても動じなかった。
すぐさまカード装備していたであろう剣と盾がシュっと手に出現する。
ヴァンもそうだったけど、状況に応じて戦う為に両方持ってるのか。
剣は明らかに《短剣》より長く、殺傷力がありそうだった。
というかどうしよう、槍使いなのに槍持ってない。まぁ槍使いでいいや。
やがてハナから撃たれたファイアがハイゴブリンに決定的なダメージを与え、ハイゴブリンは命を落とした。
しかしこれで魔法使い二人の魔法は使い切ってしまったようだ。ピンチには変わらない。
俺はまだ無傷だが、何度か衝撃波を受けてしまっているラッドは体力をかなり消耗していた。
槍使いは俺の方に援護しようとしていたが、俺がジェスチャーでラッドの方に行く事を指示するとそちらへ向かった。
ラッドがピンチなのは分かっていたのだろう。
意外だったのが魔法使いだ。
杖で一緒に物理攻撃に参加している。意味あるのか?
よくよく見たら杖の先端が金属でできている。
アレは殴るのにも使えるのかな?使い道は分からないが。
いざという時殴れるという魔法使い系の武器は、その分魔法攻撃力が低下するのが定番のような気がするが。
うお、あっぶね。今完全によそ見してしまった。
服の先端が切れたぐらいで済んでほんとによかった。
ちなみにハナがマネしようとしていたがやめさせた。
一体を倒してからは大分楽になった。
常日頃からオークと戦い続けたおかげか、俺はいつの間にかこんなに避けれるようになっていたのか。
まぁ回避専念してるから攻撃はほぼ当たってないわけだが。
さらにしばらく避け続けたらもう一体も息の音を止めた。
最後の一体は四人でぼこぼこにしてやった。
長く苦しい戦いだった……。
カードは後で分配することにした。
というかカードのチェックをするだけの気力がない。
MPはあまり使ってないんだけどね。
「なぁハナ、このダンジョンもうちょっと調べないか?」
「やっぱり思う?マスタールームがどこかにあるはずなのよね……」
一度マーシュに帰って出直してもいいのだが、これでボスが再登場されては面倒にも程がある。
ラッド達は帰るムードまんまんなので、一度別れる事にした。適当に言い訳をして。
俺達は彼らが去るのを見ると、とりあえず白い球を投げ捨てる。俺らにはいらん。
水筒を鞄から取り出すと、ガブガブ飲んで汗を拭く。
立ち上がって探索を再開だ。
さて、どこかに隠し扉があるはずだ。
もしくは何か仕掛けがあるとか。
今までの経験上、《採掘》で堀った壁は規則性がある。
普通の冒険者には分からないだろうが、俺らには分かる。何百回も何千回も採掘を繰り返した俺らには。
違和感があるとすると……ここだな。
「行くぞ、ハナ」
「うん」
相手に殺意があるかどうかは分からない。このダンジョンはよく出来ている。
ハイゴブリンをどうやって入手したのか。どういう仕掛けを施したダンジョンなのか。
そこらへんの情報交換もできたらいいと思う。
そんな甘い考えだった。
その装置が発動するまで、俺はどこか気が抜けていたのかもしれない。
あるポイントを踏み抜いた時、視界がガラと変わった。
この感触……俺には覚えがある。
これは転送だ。罠か何かで飛ばされたのだと直感的に感じた。
視界が変わった時、俺はどこかのお城にいるかのようなデザインの部屋の中にいた。
隣にハナはいない。俺だけが飛ばされたのか。
この時、初めてオークと戦ったあの時に感じたのと同じ死への恐怖という感情を覚えた。
そして明確な殺意というものを一身に浴びた。
目の前にはゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリン……。
何体いるんだろうか。
明確な数字は分からないが、恐らく八十は超えている。
奥に立派な椅子が置いてあり、金髪の男がこちらをにやにやしながら笑っている。
冷や汗が流れた。
男の合図で、ゴブリンたちは一斉に俺に武器を向けた。
俺は今、あの時の泥棒の少年の立場だった。
■ ■ ■ ■ ■
前方には大量のゴブリン。背後には壁がありこのままでは戦うのもままならない。
このままでは勢いに飲み込まれると判断した俺は、《ハイジャンプ》で真上へとのがれる。
幸いこの部屋はかなりの高さがある。適当な壁のでっぱりに捕まりながら、現在の状況を整理する。
部屋はとても広い。お城の王の間をイメージしているようなデザインだ。
ここからかなり遠いところに扉が一つ見える。
が、あの扉は見覚えがある。アレはデザインがさきほどのボスラッシュの部屋と同じだ。
ボス的な相手を倒さないと開かなそうだ。
あの堂々と椅子で座ってる男がボスだろうか。
下のゴブリンを見ると、何やら短剣を投げてこっちを攻撃しようとしているようだった。
しかし腕力がないのか器用さが足りないのか、こちらに一向に届かない。
弓矢持ちも何人かいるが、力が無いのかここまで矢が届かないものが多い。
とりあえず弓矢を渡してみたという感じだ。
下のゴブリンたちの何体ががその流れ弾を受けて痛そうにしている。
『ねぇ、大丈夫!? どうしたの!』
「ハナか、転送されてその先がモンスター祭りだった。多分中に入れないと思う。ワンチャン死ぬ」
『そんな……』
ハナがラッドに援護を頼もうかと言っていたが恐らくムダだろう。
ハナにはこの場所がどこかの特定をお願いすることにした。
同じダンジョン内に間違いないはずだ。
このまま壁をつたってアイツのところまで行けば、ゴブリンたちを無視できるんじゃないか?という案を思いつく。
打開を期待して《ハイジャンプ》で次のでっぱりまで飛ぶ。
何だ、やれるじゃないか。
男の方を注視する。いつのまにか杖を手に持っている。魔法使いか、撃ち落される可能性があるな。
男はにやにやしながらこちらを眺めている。
火の玉が現れる。ファイアか。アレなら《ロックオン》さえなければ避けられる。
「……おいおい何だそりゃ」
つい呟いてしまった。
火の玉が男の前に三つ(・・)現れていた。
どれもハナが出すことができるものより大きい。
若干の時間差をかけて、三つのファイアが俺の方へと飛んでくる。
「うおおおぉぉぉっ」
足に力を入れ、ゴブリンが少ない場所に向かって飛ぶ。
ファイアは俺がいた場所の壁に立て続けに命中。
俺は上手く受け身を取れず、肩から強く地面に激突してしまう。
大きな擦り傷が出来ていそうだ。
《知性力》が50で覚えられるものだろうか。
連射なんて初めて聞いたぞ。
しかし、このゴブリンがほとんどいない場所なら可能だろう。
痛む左肩を押さえながら、俺は自分の部下を呼び寄せる。
俺達のダンジョンで出来るんだ、恐らくここで呼べなかったらお手上げだ。
バッグの中にいるコータを取り出して《撹乱》でこちらにくるゴブリンどもをけん制する。焼け石に水だが仕方ない。
来い、コボルド達。来てくれ。
すがるような思いで、俺はコボルド達を呼び出した。




