チュートリアル
《合成》に関しては、今はハナもよく分からないようだ。
恐らく複数のカードを合わせる事でグレードの高いカードを作るとかそういうのだろう。
《オプション》を開いてみる。
まず目に入るのが音声の調整らしい表示。ステレオ、モノラルと書いてある。
NPCやSEの音量調整もできるようだ。
まぁ現状はそのままでいいか。
ハナの説明を聞く限り、《オプション》で一番大事なのがもう一つの設定だろう。
《アクション起動動作》
例として挙げるとするならば、装備してある剣を出現させる動作を設定する。
腕を高く上げる。「出ろ!」と念じる。腕を凝視する。手に力を込める。
といったように、好きな条件で出すように設定を変更できる。
「神に祝福されし古の剣よ、汝との契約により命ずる。邪悪なる者どもを滅する力を、我に貸せ!」
こんな恥ずかしい台詞で弱っちい剣を出す事も出来る。
まぁやらないけど。
《採掘》は「掘れ!」
それ以外のものはデフォルトとして「出ろ!」と念じると出せるようにしておいた。
「そういえば、ハナの《戦闘レベル》が1になっていたけど、あれは何でだ?」
「あぁ、チュートリアルをやったら、自動で1になるみたい」
ちゅー…何だったかわからないが、確か最初にいろいろ教えてくれる奴だろう。
英語満載の予感しかしないが、ハナ曰く今までの説明でチュートリアルで行う事は大体できるらしい。
ちなみにここまでの間、俺はずっとハナのマッサージをしていた。
最初は肩を揉んでいたが、《ステータス》の説明が終わる辺りから、足を揉む方にシフトした。
テスト前で分からない事がある時は、割とよくある光景だったりする。
田舎の爺ちゃんにはよく褒められる腕前だ。
くそーいつか尻を揉みしだいてやる。あ、何でもないです。
チュートリアルはすぐに終わった。
《採掘》の動作のチュートリアルの際に、土を破壊したら何かカードが出てきた。
何だろう、後で聞いてみよう。
自分のマスタールームへ戻り、《ステータス》でレベルが上がってるか確認する。
Amol 1100
《戦闘レベル》1
《ダンジョンレベル》1
《攻撃力》40
《敏捷力》20
《器用さ》20
《知性力》10
??? 1
《カウンター》
《ハードヒット》
お、上がってる。のはいいとして、アモル……?
しばらく考えた末、通貨だと納得した。数値が何か微妙だが。
《知性力》の下の1は何だろう。あぁ、レベルが上がったから好きなものに1つ振れるのか。
ハナのステータスも、《器用さ》が21だった。
微妙な数値だった理由はコレなのだろう。
俺がチュートリルを行っている間、ハナは自分のマスタールームを改装していると言っていた。
どうやら《ダンジョン操作》で、自分の最初に出現した部屋を好きにいじれるらしい。
謎のカードの事もあるし、ハナのマスタールームに顔を出すか。
ハナのマスタールームは俺のマスタールームの本当にすぐ近くだった。
前から好きなんだろうとは思っていたが、部屋は家具から床から天井までピンクで統一されていた。
なんて趣味が悪い……。
「おう、終わったぞー」
「んー」
「土掘ったら何かカードが出たんだけど、これは何だ?」
「そのまんま《土》のカードよ、掘り過ぎたところをそれで修正するの。」
なるほど。
ハナのマスタールームは色調こそふざけているが、割と機能性はあるらしい。
水道完備のキッチン。二人で座れるテーブルとイス。すぐ近くにベッドとテレビ…テレビ?
「このテレビは何だ?」
「ダンジョン内の様子を見れるモニターみたい。とりあえず買ってみた」
ちなみにこのモニターで対象を指してコマンドの《ステータス》を使うと、その対象のステータスが分かる事が判明した。
侵入者の情報が一方的に分かるとか便利すぎるだろ。
判明してすぐに購入したのは言うまでもない。
■ ■ ■ ■ ■
どうやら食糧もここで買えるらしい。
現状の上下関係を考える以前に、ハナを厨房に立たせるのは危ない。
「それ、味付けしたのか?」
「え?した方がいい?」
「そりゃ焼きそばだからな」
「ん、わかった」
とケチャップを持ち出してきた事件以来、あいつをキッチンに立たせてない。
何で塩焼きそばとか普通のウスターソースとかの発想が出なかったのか、今でも不思議で仕方ない。
せめてあの付属の粉末ソースでよかったのだが。
《ダンジョン操作》での買い物の方法を学ぶ。
今夜の食事を作る代わりに~という事で、マッサージとかする必要はなかった。
《ダンジョン操作》→《マスタールーム》→《買う》
うわっ、英語が大量に出てきた。もうやだ。
ハナの助けもあって以下のものを買った
《フライパン》
《包丁》
《ベーコン》
《卵》
《パン》
《冷蔵庫》
《炊飯器》
選択する際、多少のデザインや形状が選べる。
俺の趣味ではないが、フライパンと包丁は柄がピンクのものを選んだ。
冷蔵庫、炊飯器もそれっぽいのにした。趣味が悪いがコンセプトを統一しないのも、それはそれで気分が悪い。
パンはベーグルを選択。種類が多すぎて食パンまで辿りつかなかった。
ハナは結構アモルを使ったらしく、もう半分を下回ったそうだ。
ある程度のアモルを残しておきたいので、共同で使う事になるものは俺のアモルも使う事に。
装備がアモルで買えないので、結構使ってしまってもいいかもしれないが。
まぁ仕様が分からない以上警戒した方がいいだろう。
冷蔵庫、炊飯器は置きたい所に自動でセットされた。
食糧はキッチンの開いたスペースに自動で出現。便利だなぁ。
フライパン、包丁はカードで出てきた。
カードで装備して使わなきゃいけないのか。
ベーグルは2個出した。卵は5個セットで出てきたので、使わない3個は冷蔵庫にしまった。
どっちがどっちのカードなのかは買った時に単語を見たのでまだ覚えている。
試しに《包丁》を出してみる。
《装備》を開いて包丁のカードを差す。
「出ろ!」と念じる。
手が煙に包まれ、いつのまにか右手に包丁が握られている。
のはいいのだが、コマンドも同時に出てきてしまった。
急いでコマンドの出現条件を「コマンド!」と念じる事に変更。
ちなみに包丁に限らず、武器になりそうな日用品は意図的に攻撃力が低く設定されているらしい。
しかし食糧へ使った時はちゃんと切れる上、耐久の減りがかなり少ない。
使わなくなったナイフとかを包丁代わりに使うと、もりもり耐久が減るってことか。
というかそれ以前に武器に耐久があるのか。気をつけよう。
ベーグルを半分に、ベーコンも食べやすい大きさに切る。
フライパンを出してまずベーグルを軽く焼く。
ベーコンを焼き、卵も焼いて目玉焼きに。
まぁお手軽に作れる食事としては優秀だよな。
ベーコンエッグサンドの完成だ。
卵を焼きながら考える。
日本の食事では卵は生が安定だが、これはアメリカのゲームだ。
食中毒なんか無いと信じたいが、大丈夫かどうかちょっと自信がない。
卵ごはんやすきやきは、しばらく諦めてちゃんと焼いた方がいいか。
「できたぞー」
「んー」
皿は大きいのと小さいの、しょうゆ皿、コップの4種類を2個ずつ買う事に。
俺が食事を作っている間、ハナが買っていた。
コップは蛇口の水を汲んで使う。
綺麗な水だったので飲めるだろう。
アメリカの水道水を飲めるかは知らないが。
「はい、いただきます」
「まーす」
おぉ、我ながら悪くない。
出来れば塩かケチャップが欲しかったが、調味料は買えないらしい。
ベーコンの塩みが結構強かったので無くてもなんとかなるが。
ハナも無言で食べている。
おいしいの一言ぐらいあってもいいとは思うが。
まぁ俺のかーちゃんがいない時は俺が作ってるが、ハナはいつもこんな感じだ。
「さて、とりあえず飢えて死ぬ事はなくなったけど」
「うむ」
「これからどうするか。相談しよう」
「ここから脱出したい」
脱出。その方法が残されていればいいんだが。
■ ■ ■ ■ ■
脱出。それにはざっと考えて4つの道がある。
その1。クリアする。
ある意味王道な考え方。
しかしそもそも条件が分からない。
その2。脱出経路を発見。
実はセーブポイントから脱出出来るとか、実は現実世界のどこかの島で船で脱出出来るとか。
前者はあるかどうかが分からない以上期待しない方がいいだろう。
後者はコマンドがニョキッと出せる時点で諦めた方がいい。
その3。開発者等を発見し、帰還を促す。
割と現実的に考えてもいいかもしれない案。
しかし、説得できるかどうかは別だ。
発見出来るかどうかも分からないし、可能性は低いだろう。
その4。死んでみる。
怖い。危ない。却下。
何も手がかりが無い以上、1を目指すのがやはり一番いいだろう。
ではクリアするための条件とは何だろうか。
世界征服……無いな。
他のプレイヤーを全て駆逐……だとすると俺かハナかどちらか死ななければならないので考慮しない。
ある一定の大きさまでダンジョンを拡大する。
勇者が攻めてくるので、それを撃退する。
全てのカードを収集。
まさかの恋愛もので、ハナとくっついてハナルートのエンディング!ねぇな。
ダンジョンの拡大だろうと、撃退だろうと、カードを収集だろうと。
とにかくガンガン進まなければならない。
幸いこちらは二人組だ。初期費用や作業効率は圧倒的に違う。はず。
しかしそれにも心配な点がある。勇者の撃退という点だ。
勇者はいっぱいいるという事はない。
仮にいたとしたら、一番弱い勇者を倒してクリアにはならないだろう。
一人しかいない勇者を倒して、二人とも帰れるとは思えない。
まぁ、帰るのはハナかなぁ。
一緒に帰れるとしたらそれに越した事はないが。
だが、勇者が一人しかいないとしたら自分が倒すのだろうか。
自分がいて、ハナがいる。
他のプレイヤーがいてもおかしくはない。
とすると、勇者の早狩り対決になりかねない。
時間をかけてダンジョンの拡大するよりは、多少のリスクを背負ってでも急いで拡大すべきだろう。
一応あのゲームは発売日に買ってはある。
しかしこちらは外国勢、恐らく本国の方が早く入れる可能性は高い。
カードの収集に関しても同様だ。一枚しかないカードがあったら、それの争奪戦となる。
ただのダンジョンではダメだ。何かこちらが二人である事を活かす方法を考えなければ。
自分一人ならともかく、ハナを巻き込んでしまった以上責任はとりたい。
幸い、案はある。
急いで形にして、早期に打って出たい。