リン・テート
翌日、俺とハナはマーシュへと向かった。
例のチャラ男と会う為だ。存在しない荷物の回収などありえないことだが、一応は五枚用意してある。
何か凄いものが入った荷物が発見されて、誤解でこちらに渡してくれようものなら《ファイア》五枚で引き取る算段だ。
ちなみにコボルド達には昨日の今日なので呼び寄せの可能性があるとだけ伝えておいた。
まぁ大人しく帰る予定ではいるが。
「あれ、何か騒がしくない?」
「確かに。冒険者ギルドの方か。行ってみよう」
マーシュに到着したら、妙な人だかりができていた。
何があったんだろう。しきりに『リン・テート』という言葉が聞こえる。
しかしハナ曰くそんな言葉英語にもフランス語にも無いそうだ。
冒険者ギルドの中の人だかりに、あの三人組がいた。
チャラ男はこちらに気が付くと、駆け足でこちらへと向かってきた。
「何かあったんですか? 凄い人だかりですけど」
「それが、リン・テートが見つかったんだよ!」
「リン・テート?」
「そう。洞窟の中にいつの間にか出来ていて、中にはモンスターがうようよいるんだ」
間違いなくダンジョンの事だ。
この世界の住民は、ダンジョンの事をリン・テートと言うのかな。
しかし何でそんな大騒ぎを……。
「そのリン・テートってのは珍しいんですか?」
「あぁ、六十三年前に確認されたのを最後に情報が無かったんだ!」
「へぇ……」
「それを見つけたのはこの僕さ!君たちの依頼を進めていたら発見したんだ!」
「それはそれは」
予想通り例のゴブリン族は他のダンジョンマスターの支配下になってたわけだ。
しかしどうしてダンジョンだとバレたんだろう。中に入ったらダンジョンだと気づかれるようではマズい。
これは調査する必要がありそうだ。
「それで、君たち冒険者なの?」
「いえ、あたし達は違います」
「でも戦えるんでしょ?ファイアいっぱい持ってるみたいだし」
まぁ、ファイア持ってて戦えないってのは無いな。うん。
ちなみにダンジョンを見つけたという有力な情報があったので、ファイア一枚渡しておいた。
「そこで、一緒にリン・テート攻略しないか?どうもここの冒険者は弱くて戦力にならない」
「そうなんですか?」
「あぁ、護衛とかばかりでモンスター退治もあまり経験してないみたいだ」
フマウンは違うんだけどねと続けるチャラ男。
確かにダンジョンが無かったこの地域には、ゴブリンとコボルドぐらいしかいない。
ダンジョン内は少数で多数相手に勝ち抜く必要がある。
ちょっと戦ったあるぐらいでは使い物にならないということか。
「……どうする?」
「あたしは行っていいと思う。いざとなれば呼び寄せあるし」
昨日の騒動があったので、俺もハナも多少MPを残してきている。
情報収集のためにも、彼らについていくのもアリのような気がする。
「分かりました。お力になれるかはわからないですが、よろしくお願いします」
「ラッドだ。魔法と剣を得意としている」
俺とハナも適当な偽名でお茶を濁した。
魔法と剣?知性力と攻撃力に振ったのか?意味なくね?
道具屋で必要そうなものを買いそろえた後、俺達はリン・テートとやらへ向かった。
ちなみに俺が力になれないというのはあながち間違いじゃない。
モンスターの力も出せないし、一応素早さ重視と言ったので《ハードヒット》と《カウンター》は封印だ。
ハナも《ロックオン》は使わないように言ってある。
例のダンジョンの近くまで来たが、ゴブリンの気配は無かった。
ラッドの導きでダンジョンと思われる洞窟を目視できた。
「えーっと……」
「あー……」
ダンジョンの入口の上に大きく英語とフランス語で『リン・テート』と書かれた看板があった。
俺でも分かる、あれがリン・テートだ。
■ ■ ■ ■ ■
ダンジョンに入る前に装備を確認する。
俺は余計なことを詮索されない為、二刀流は装備はするが一本だけしか出さない。
基本的には《ハードヒット》は封印の方向だが、まぁこっそり使ってもバレない気がする。
それとマーシュで買った白いボールをハナに渡す。
基本的には後衛が光源である白いボールを守るそうだ。
確かに俺も光源を攻撃するのは考えた。
まぁ俺たち二人には不要なんだが、使わないと不審に思われてしまう。
あ、そういえば今朝の光る壁の処理でレベルが9になったんだった。
ポイント振っておこう。
ダンジョンはロベルトのものと違い、かなりの長さがありそうな雰囲気があった。
しかしダンジョンマスターには分かる事だが、採掘をしたというのがよく分かる。自然では中々再現できない形の洞窟になっている。
採掘を使うと、四角く掘れるのだ。その四角が長く続く道は、まず採掘で掘られたと見ていい。
俺はたまに律儀にスコップで崩す作業をしている。
あくまで俺たちの場合ダンジョンではなく自然の洞窟を目指しているからである。
長いのでチマチマとやっているが、はっきり言って腰が痛くなる。
このダンジョンはわざわざ看板があるように、ダンジョンであることを隠していないのだろう。
しかしその分罠やモンスターが待ち構えている可能性があるので気をつけねば。
百メートル程進んだ先に、一つの小部屋があった。
そこは扉で塞がれている。鍵はかかっていないようだ。
そーっと扉を開けると、中には六匹ほどのゴブリンが。
既に臨戦態勢に入っていた。まぁモニターあるしね。
こんなところでファイアを使っていたら後が続かない。
三人組の一人は魔法使いなので、前衛三人でぱっぱと倒してしまおう。
……と思いきや三人組のうち自称魔法剣士と魔法使いの二人は早々にファイアを出していた。
えっ何で。
というか自称魔法剣士の方はわざわざ杖も出して魔法撃つって、それ剣と杖と魔法だけで枠埋まってるんじゃないの?
一発しか撃てないんじゃないの?
部屋自体は小さいのでファイアを撃てば誰かしらに当たる。
一発につき一匹のゴブリンを倒したところで交戦に。
俺も一日二十ペースで光る壁を処理してきただけあって、ゴブリン程度では引けをとらない。
スキルを使うまでもなく一匹を処理。ハイジャンプを使って相手の後衛に肉薄して処理。
ね、簡単でしょ?
戦闘が終わると、カードを回収して先に進む…とはならず、一度引き返すことに。
あぁ、最初だからすぐ装備しなおせるのか。
その次の小部屋は四匹のゴブリンだったが、流石に魔法を自重していた。
二度の戦闘で大分連携の取り方を把握した。
俺と魔法剣士が撹乱する。
もう一人の槍持った奴がフォローに回る。という形になりそうだ。
三つ目の部屋は十二匹。ハナも魔法を解禁した。
何だかんだでこいつらも多少の場数を踏んでいるようで、ゴブリン程度ならそんなに苦戦はしないようだ。
魔法を割と消費したので引き返す。
なるほど、こういう風に進むのと撤退するのを繰り返すのか。勉強になった。
■ ■ ■ ■ ■
四つ目の部屋を突破した時、俺達が倒したゴブリンの数は三十を超えていた。
その際ラッド側の一人がゴブリンの短剣で怪我を負ったので、ハナが持っていた救急箱で治療している。
ラッドは饒舌に自分の事を語っていた。
自分がいかにしてここまで来たという事をそれはもう美談のように。
恐らく盛っているであろう部分を削除すると以下のようになる。
ホーガンにはモンスターが出現しやすい森がある。
そこで修行を積み、実力を付けたラッドたちは中央部へと向かった。
調子にのった一行は山越えを狙いフマウンへ行こうとするも、ラッド以外のメンバーが全滅。
中央部にて二人と出会い、他の冒険者のパーティーに混ぜて貰って何とか山を越えてきたそうだ。
全滅したという山超えについては聞きたいことがいっぱいあったが、冷静に考えると俺達もそっちの方向から来た設定なので深くは聞けなかった。
それにしても、ボンボンのチャラ男かと思いきやそれなりの修羅場は潜っているようだ。
まぁ魔法使いの顔を見ればかなりの苦労も強いてきたんだろうなって感じも分かるが。
それにしても山はそんなに大変なのか。迂闊に近づかずに実力をつけてからの方が無難そうだ。
逆に言えば山に強いモンスターが存在するとなるともしかしたら調味料を入手できるかもしれない。
彼らの話からは調味料の話題が出なかったので、彼らでも到底倒せない敵が持っている可能性も考慮しておく。
「……この扉は何かあるな」
「確かに、油断せず行こう」
五つ目の部屋の入口は木の扉だったそれまでとは違い、妙にデザインが凝った金属製の扉だった。
俺とハナはそれに見覚えがあった。俺達もボス部屋に使用している扉だ。
これは入ると中に鍵がかかり、敵を倒さない限り扉が開かないシステムになっている。
間違いなくこの先にいるのがボスだろう。
念の為外で拾ってきた棒をつっかえ棒にして閉じないようにしてみようかとも思ったが、何となくムダな気がしたのでやめておいた。
使用できる三人が魔法を上限まで持っている事を確認すると、中に足を踏み入れる。
中は非常に広かった。
俺達が作ったボス部屋には満たないが、それでも今までの部屋の倍以上ある。
そして一匹のモンスターが中で陣取っていた。
それはゴブリンだった。
しかし明らかにサイズが違う。オークと比べても見劣りしない程の巨体だった。
そして何よりも恐ろしいのが手に持っている獲物だ。
巨大な鉄製の斧を持っている。
ハイゴブリンとでも呼んでおこう。
殴りかかろうとしたら、ラッドからストップがかかる。
「こいつは見た事はないけど、上位スキル持ちのような気がする。僕は見た事があるが、初見では避けるのが難しいものだ。君たちは見た事ないと思うので、僕らが囮になってスキルを引き出す」
おぉ、言い方が時々気になるがかっこいい事を言っている。
俺達は《攻撃力》が50になると新しいスキルを覚えると踏んでいるが、それのことだろうか。
お言葉に甘えて見学に回る。
ラッドはハイゴブリンに向かって駆け出す。
相手の間合いの少し外でスキルの発動を待ちながら、隙を見て剣で相手に傷を付ける。
もう一人の援護もあるが、俺達いなくても倒せそうな雰囲気がある。
ハイゴブリンは《ハードヒット》を放つも、大振りなので当たらない。
ダメージを蓄積させていくと、ハイゴブリンはイライラを募らせてとうとうスキルを発動させる。
両手で斧を持ち、大きく上へ振り上げる。
その斧は《ハードヒット》とは大きくモーションが違い、光も強かった。
ラッドはそれを見ると急いでハイゴブリンと距離を取った。そんなに危険な攻撃なのか。
ハイゴブリンが振り下ろした斧はそのまま地面に当たり……。
「うおぉっ!」
「ごめん、ちょっと盾になって」
部屋中に爆音が響き渡り、地面にクレーターを作りながら強い衝撃波を打ち出した。
咄嗟に三メートルぐらい距離を取ったラッドですら頬に小さな傷が出来た。
間近で食らえばかなり危険だった。確かに初見では避けられそうにない。
《衝撃波》と仮命名しよう。
というかハナ、さりげなく俺を盾にするんじゃない。




