コボルド族
状況を考えよう。
相手は前衛二体、後衛二体。
このままでは遠距離攻撃での火力で負けてしまう。
前回と違いガタイの良いコボルドはナイフの代わりに分厚い板を手に持っていた。
盾の代わりだろうか。試しに石を拾って投擲してみるが防がれる。
見た目よりは丈夫そうな板を使ってそうだ。
もう一方の素早いコボルドも無理にこちらに攻め立てたりはしない。
あくまでこちらが近づくと迎撃してくるというスタンスのようだ。
防戦的な前衛陣とは対照的に、弓矢のコボルドは非常に積極的に射かけてくる。
俺は《ハイジャンプ》で何とか避けれるが、ハナは迂闊に木の陰から出られない。
俺も俺で一気に攻めたいところだが、もう一体の杖持ちが気になって踏み込めない。
完全に後手後手である。
ただし相手の盾はあくまで木製のただの板である。
ファイアを一発打ち込めれば状況は一変するだろう。
相手の弓からハナを守りつつ、魔法を撃つ時間を稼げばいい。
俺も盾を持っていればよかったのだが、そんなものは生憎持っていない。
仕方ないなー。しょうがないなー。
「ハナ、少し我慢しててくれ」
「わっ、えっ、ちょっ」
ハナをお姫様抱っこする。
そして全力でダーッシュ!
ハナは最初こそ動揺していたが、何をするか理解したらしい。
魔法は発動までに時間がかかり、そこでは隙が生じる。
しかし俺が抱えて走りまくって矢を避ければ撃つ事ができるという寸法だ。
ハナがファイアを出現させる。
機敏な方のコボルドはそれを察知するとこちらに向かってくるが《撹乱》で足止めをする。
弓のコボルドも射かけてきたが問題なく《ハイジャンプ》。
俺とハナの前に出現した火の玉は、さらに《ロックオン》によって輝きを増す。
コボルド達はそれを見て驚愕の顔を浮かべる。
盾のコボルドは体を張ってでも止めようという覚悟が見える。
こいつかっこいいな。
弓矢のコボルドはファイアから全力で逃げ出そうとするが、ファイアは《ロックオン》がかかっている為強い誘導がかかる。
盾のコボルドを嘲笑うかのようにファイアは弓矢のコボルドへ向かってゆく。
ファイアは弓矢のコボルドに命中……。
しなかった。
ハナのファイアが命中する前に、もう一つの火の玉が出現。
ハナのファイアを撃ち落した。火の玉の大きさからみても、ハナとあまり変わらない大きさだ。
杖のコボルドがやったのだろう。
ピイイィィィーーーーー。
まるでホイッスルのような音がする。
それと同時にコボルド達は一斉に足を止める。
何だ何だ?と音の方向を見ると、あの杖のコボルドがいた。
他のコボルドが軽装なのに対し、こいつはローブを纏い深くフードを被っている。
手には何かの機械を持っている。
アレが音を発生させたのだろうか。
杖のコボルドはゆっくりとこちらに歩いてくる。どうやら敵意は無さそうだ。
あれだけ矢を撃たれながら敵意が無いというのも変な話なのだが。
とりあえずハナを降ろして様子を見る。
コボルドが何かこちらに話している。
さっぱり分からん。魔物語とかわかるわけないだろう。
「……これ、訛りが強いけど英語だ」
「英語?魔物も人間の言葉を話すのか?」
「そう……みたい」
ハナが杖のコボルドに英語で返答している。
話の内容はまったく分からないが、これだけはわかった。
このコボルド、彼らのリーダーだ。
■ ■ ■ ■ ■
何度かの応答の後、ハナが耳打ちをしてくる。
「貴方たちはダンジョンマスターですかって言ってる。どうしよう」
「なんで人間じゃないってわかるんだ?何か判別方法でもあるのか?」
「いや、コウモリをそんな使い方する人間はいないって言ってる」
あーですよねー。
もう言い逃れは出来ないレベルにバレていると判断したので、肯定していいと言っておく。
杖のコボルドは少しホッとした様子で続ける。
「お願いがあるんだって。配下に加えてくれって」
「配下に?」
そりゃまぁありがたいけど、一体どうして。
以下そのコボルドの話。
まず二度の襲撃を謝罪された。
一度目は無知で攻めたが、二度目は実力を見るためのものだったらしい。
その割には本気で弓矢が襲ってきた気がするが。
以前よりこの一帯のコボルドとゴブリンは対立していた。
実力は拮抗していたが、ある時ゴブリンが武器を大量に持った商人への攻撃を成功、武器や防具を入手。
主力だったコボルド達は全滅。拠点も壊滅させられ、このままでは根絶やしの危機だそうだ。
「そこで、ダンジョンで非戦闘要員を匿って欲しい。って言ってる」
「なるほど、思ったより複雑なんだなぁ」
こちらとしても戦力は欲しいし、妊娠しているメスもいるとか言われるとちょっと断りづらい。
コボルドの要求は以下の三点
一つ目。ダンジョンの比較的安全な場所に居住スペースを作ってほしい。
二つ目。スライムを食べる権利が欲しい。
三つ目。ゴブリンたちが襲ってきた時は、助けて欲しい。
スライムを食べる権利?と思ったが、どうやらスライムはモンスターの共通の食事であり、いわば資源らしい。
スライムが湧く自然の洞窟はゴブリンと遭遇する可能性が高かった為、食べ物の確保もままならなかったとか。
ダンジョンは安定してスライムが湧く。ゴブリンも攻めて来にくい。
なるほど、ダンジョンマスターに助けを求めるのは合理的に思える。
少なくともこの四体のコボルドは戦力になりそうだし。
「どう思う?」
「うーん。あたし達だけじゃ不安だし、悪くない話なんじゃないかな」
「やっぱりそう思うか」
意見が一致したので可決ということに。
大丈夫だと伝えると、杖のコボルドがフードの上からも分かる程喜んでいた。
後ろの三体も先ほどまでの殺気は消え失せていた。
杖のコボルドはこちらに四枚のカードと小さな機械を二つ渡してきた。
服従の印らしい。
片方はモンスターカードだろうか。銀色をしている。
恐らくここにいる四体のカードだろう。
そしてもう一つは……音が出そうだが何だろう。
「えーっと……これは通信機だって」
「通信機!?」
結構ハイテクなものだ。良い値段がしそうなものだが。
試しに少し距離を取って使ってみる。
「あーあー、聞こえるか?」
『うん大丈夫、聞こえる聞こえる』
ちなみに使用するにはMPを使うらしい。
しかしそんな大量の魔力は使わない上、電波ではないのでダンジョン内でも通じると。
何これ凄い。
十キロ程度までなら問題なく繋がるらしい。
コボルド族恐るべし。
■ ■ ■ ■ ■
コボルド達を受け入れるとなると早急に体制を整える必要がある。
コボルドは全部で五十体ちょっとらしい。以前は倍以上いたようなのでかなり苦渋を舐めさせられたようだ。
一方のゴブリンはというと元から繁殖力が高いせいで二百近くはいるのではないかとのこと。
戦闘要員だけでも五十体は超えそうだな。
そんな数が一度に攻めて来ようものなら一たまりもない。
それまでに対策を考えておかないといけないな。
現在ハナは《採掘》で出入り口から百メートル程の地点の横穴を拡張中だ。
ここにコボルド達の居住スペースを確保する。
ある程度大きめの部屋をとりあえず十。
それとは別に居住スペースの入口に小さな部屋を設置する。
将来的にはそこにモニターを設置。交代で監視してもらう。
そこには俺達のマスタールームへの連絡用のブザーのようなものと、隔壁的なものを居住スペースの前に設置する装置を取り付けようと思う。
もし侵入者が来たら隔壁で閉鎖。俺達へ連絡してもらう。
とはいえ、正直金欠だ。
明日のアモルが入るまで俺らの食事が精いっぱいである。
そこで金策を考える。
ガンガン採掘をし、コボルド達と協力してガンガン狩るのだ。
コボルド達の戦力の底上げにもなるし、どのみち居住スペースは必要なのだ。
現在戦力になるコボルドの内、弓矢以外の三人は他のコボルド達を迎えに行っている。
その弓矢のコボルドはハナの手伝いをしている。
銀や金でない普通のカードを拾う作業だ。結構しんどいんだよな、アレ。
拾う専門のアシスタントがいると大幅に採掘の効率が進むのも事実だ。
コボルド的にはさほど苦にはならないらしい。まぁこのコボルドも命をかけて戦ってきた戦士だ。
死闘に比べれば楽なものだろう。
俺はというと絶賛パシリ中である。
食材がこのままだと腐ってしまうので、冷蔵庫へと格納する為だ。
二キロという道のりが長く感じる。
コボルド達の居住スペースに俺とハナ用の部屋を一個作っておくのもいいかもしれない。
外で作業する際、そこで寝泊まりできるようにするのも面白いかも。
マスタールームに到着すると、とりあえず食材を冷蔵庫へ。
そしてバインダーを取り出して武器カードを取りだす。
二キロ以上もの採掘で、俺達は結構な数の武器のカードを入手…いや持て余していた。
しかしこの武器カードこそ今必要なのではないだろうか。
コボルド達は粗末な、武器とは言い難いものを装備している。
弓矢と杖はそれなりの出来だが、前衛の武器であるナイフは手入れこそされているが、はっきり言ってポンコツだ。
そこで持て余しているカードを連中に渡すことで、ゴブリンとの差を埋めようって寸法だ。
杖のコボルド曰く魔法カードもほとんど持ってないらしいので少し分けようと思う。
とはいえ魔法カードはハナが管理しているので俺は口を出せないが。
目ぼしい武器カードを取り出すと、通信機が振動を始めた。
これはハナから何か連絡が来たということみたいだ。とりあえず出る。
「ん、もしもし。」
『あ、出た。今ちょっといい?』
「おう。どうした?変なものでも食ったか?」
『違うわよ。装備してた《卵》が孵化したの!』
おぉっコータが生まれたあの金カードか。
モニターをいじってハナのいる位置を確認する。
弓矢のコボルドと何か白いもじゃもじゃの塊が戯れている。
こいつ……猫か!
ちなみに俺は犬より猫派だ。
母ちゃんは飼うのを許してくれなかったけどな。
『今からあの子抱えるから、マスタールームに飛ばしてくれない?』
「分かった」
モニターでもじゃもじゃを抱えるのを見ると、マスタールームへ飛ばす。
弓矢の子よ、ちょっと待っててな。
操作を終えると、ハナが音もなく出現する。
ちょっと心臓に悪い。
ハナがステータスを確認している。
「そうだ。そいつの名前って決めたのか?」
「名前?名前……うーん……」
まぁ、何が生まれるのか分からないから考えようがないか。
「よし、決めた」
「おぉ。何だ」
言っちゃ何だが、俺のネーミングセンスは抜群に悪い。
コウモリだからコータってつけるぐらいだしな。
ハナのネーミングセンスにちょっと期待。
ハナは新たな仲間を抱えながらこう言った。
「お前は今日から『へきへき』だ!よろしく頼むよ!」
……アカン。




