茶色が始まりの色
目が覚めたら何やら茶色い空間だった。
どこだここは?周囲を見渡すが辺り一面茶色だらけ。匂いが完全に土なので、ここは地下なのだろう。
出口らしきものは一切見当たらない。しかし埋められたという訳ではないようだ。
ぽっかりと空間が存在するのだ。このまま酸素切れで死んだりするのだろうか?
その割には息苦しさを感じない。
ふと、昔読んだWeb漫画を思い出す。
確か気がつくと真っ白な部屋で、この部屋から脱出しろ!さもなくば命はない!みたいなの。
うーん。俺の命、実は危ないんじゃないだろうか。
とにかく現実世界では無さそうだ。
ゲームの中の世界に放り込まれたと言った方がしっくりくる。
いきなり水を注ぎ込まれて何とか脱出しろ!とか、壁や天井がどんどん迫ってくるとか。
昔読んだ漫画のその後の展開はそんなものだった気がする。
どちらにしても脱出しなければなるまい。だとすると、ヒントはコレになるのか……。
部屋の中央に何やらぷかぷかと浮かんでいるものがある。ものというか、文字だな。
しかし困った…これ多分英語だよな?俺英語全く分からないんだよな……。
文字の下に、気になる矢印がある。とりあえず押してみよう。
おぉ!文字が変わった。多分これは「次へ」とかそういうのだろう。
英語だから全く分からんが、とりあえず何か分かるものが出るまで進もう。
ん?何かいっぱい数字が出てきた。えーと一番上が50で、何やらよく分からないのがいっぱい書いてある。
お、これは自分のステータスじゃないか?ということは・・・これがアタックか。攻撃力だな。
ということはRPGか何かだろうか。まぁとりあえずめいっぱい上げて損は無いだろう。
ステータスに相当する部分は初期値が10らしい。アタックにだけ50振っても仕方ないか?
他のパラメータが一切わからない。いいや適当に振っておこう。次へ!
あー何かの説明っぽいが全っ然わからん。次!次!
お、『!』とかついてきた。多分説明が佳境なんだろう。
まぁ習うより慣れろって言うしな、ゲームが始まれば何とかなるだろ、うん。
お、ボタンがゲームスタートになった。ぽちっと。
目の前にあった文字がぱっと消えた。
………何も起こらない。えっ、これからどうすればいいの?これ。
二、三分待ってみたが何も起こらない。しかし文字も消えてしまった今、ヒントが何も無くなってしまった。
とりあえず周囲の壁を叩いてみるが、冷たい土の感覚しかない。
がんばれば掘れるが、効率が悪い上に非常に心配な点が一つある。
この部屋は周囲が土で出来ている。全て土だ。つまり坑道とかに不可欠な柱等も無いのである。
恐らくこれはゲームの世界的な空間だと思うので、空気を読んで崩落とかは起こらないと思う。思いたい。信じたい。
まぁ割と長い間密閉空間にいるのに息苦しくはないので、細かい事を気にしない都合のいい空間だと思いたい。
しかしこれからどうしたものか…操作方法の分からない、説明書も読めない上に投げ捨てた。
そんな状態でゲームなど出来るのだろうか。もしかしたら命がかかっているかもしれないゲームでだ。
何やら空腹も感じてきた。食糧を確保できる手段等ある訳が無い。
このゲームで飢えるとかあるのだろうか。あったらやはり死ぬのだろうか。
食糧に出来そうなものは、強いて言えば今来ているパジャマぐらいか…いやいやパジャマ食えるわけないだろ自分。
「俺は…こんなところで死ぬのかな…」
思わず呟いてしまった。どうせ聞かれる相手もいないが。
もう少し冷静に行動すれば良かったのか?いや、過ぎた事を嘆いても仕方ないか。
しかし出るのは打開策ではなく溜め息ばかり。
そんな時だった。目の前の壁が弾け飛んだのは。
俺に向かって飛んでくる土の塊。とっさに手で顔を守ったが腕やら腹やらに当たる。痛い痛い。
何事かと弾け飛んだ壁を見ると、ぽっかりと穴が開いていた。
そしてそこに一人の人影が…
「あ~~~!あんた!これどういうことなの!」
それは俺の台詞だ。どうしてお前がいるんだ。ハナ。
■ ■ ■ ■ ■
双代 奈々華
いわゆる幼なじみ兼腐れ縁って奴だ。
名前の読みはフタシロ ナナカだが、俺はもっぱらハナと呼んでいる。
家も隣同士。昔は風呂も一緒に入ってた。
ハナの両親はどこぞの会社の役員だそうで、ハナが小さい頃から年に数度の海外出張に行く。
場所によってはハナもついて行くが、両親共に出張先では常に忙しく放置されがちになる。
そこで長期の出張や、ハナが学校で忙しい時は俺の家で寝泊まりをする。
「お、俺だって分からねえよ!」
「どうせあんたが何かしたのが原因なんでしょ!あんたいっつもゲームばっかりやってるじゃん!」
「そんな事言われてもなぁ……」
ゲーム……そういえば最近何か買ったような……
そうだ。アメリカのどっかの会社のゲームのパッケージがかっこよかったから、ネットで取り寄せたんだっけ。
俺の家にはリビングの他にもう一台テレビがある。
普段そこは俺がゲーム部屋として使ってる訳だが、ハナが寝泊まりする際にはこの部屋を使用する。
確か昨日は親父がリビングで仕事をしていて、そのゲームをやろうとハナが寝ているのを見計らってこっそり忍び込んで……
それからの記憶が無い。
……どう考えてもこのゲームが原因だな。
「……何か心当たりがあるの?」
ハナはいい笑顔で覗き込んでくる。この顔の時は大体怒ってる時だ。
というかよく分かったな、エスパーかお前。
「いや、心当たりがあると言えばあるんだが……」
とは言え、流石に俺もこんな事になるとは思わなかった。というか誰も思わないだろう。
きっと殴られるとかは無いだろう、うん。
ペシッ
デコピンされた。痛い。
「何でだよ!俺だってこうなるなんて知らなかったんだよ!」
「それはそうだけど、それ以前に私の部屋に勝手に入るんじゃないよ!」
ごもっともです。
「…とにかくここから出る方法を考えようぜ」
「それもそうね。コマンド見る限りそれらしきものは無いみたいだし…」
「コ…コマンド?」
「えっ?」
ハナはしばらく考える。
何だろう、すごい嫌な予感がする。
「そうか、ナオキは英語が分からないんだっけ」
「ま、まぁな……」
ハナは小さい頃からちょくちょく両親に連れられて、様々な国に行っていた。
そのおかげで英語は朝飯前。英語教師の大崎がねがてぃぶ?ねいてぃ?と褒めていた。
英語ぐらい出来ないとやってられないと本人談。
「ということは、もしかしてほとんど説明は理解出来てない訳ね……」
「お、おう……」
おい、口がにやけてるぞ。
「私が何も教えなければ、あんたとーーーーっても困るんだよね?」
「そ、そうだな……」
「ふふ…ふふふ……」
怖いよハナさん、いやナナカさん。
この瞬間、二人の間の立場が決定した。
「とりあえず肩でも揉んで貰いましょうか?ってね。ふっふっふっ」
「……はいはい」
なんと恐ろしい事を考えるんだお前は。
まぁ、ある程度仕様が分かるまでの我慢だろう。
その時の俺は、そうタカをくくっていた。
■ ■ ■ ■ ■
Amisagan
それがこのゲームのタイトルらしい。
アミサガン大陸のどこかにダンジョンを構え、ダンジョンを経営していくゲームだそうだ。
プレイヤーはダンジョンマスターになり、冒険者を迎え撃ち、ダンジョンを完全攻略されたら敗北となる。
「敗北はいいとして、どうやればこのゲームでの勝利になるんだ?」
「それは書いてなかったのよね……」
「おおぅ……」
基本操作は コマンド と アクション の二つ。
コマンドは装備、各種設定、ダンジョンの操作等。
これはダンジョンマスタールームと呼ばれる場所でのみ出来る。
アクションはコマンドであらかじめ設定したものをそれ以外の場所で使用する為のもの。
例えばコマンドで弓矢を装備。
ダンジョン内で敵を発見したらアクションを行うと、何もない所から弓矢を呼び出せる。
両手に弓と矢が出てくるが、それ以上は何もない。
狙いをつけるのも撃つのも手動になる。
便利なのか不便なのかよく分からない。
ちなみに今いるのがダンジョンマスタールームだと言う。
試しにハナの言う通り、指を縦に動かしながらコマンドと念じてみる。
…おぉ、出てきた。
「とりあえず見て大体分かると思うけど……」
「ごめん、カードしか分からない」
「……えー《カード》《装備》《ダンジョン操作》《ステータス》《合成》《オプション》があるわ」
「おぉ、分かりやすい」
《カード》
このゲームは主にカードを使用するらしい。
ちょっと特殊なアイテム欄と見て問題なさそうだ。
試しに選ぶと、カードのバインダーが出てくる。
ハナ曰く、バインダーの大きさが俺の方が大きいらしい。
《装備》
これを開くと小さな箱が出現する。
箱には3つのカードが刺せる場所がある。
きっとこれに剣を刺したら、剣が使用できるのだろう。
よく見たら最初から1枚カードが刺さっている。
「あれ、これ何だ?」
試しに抜いてみる。
「それが《採掘》のカードよ、さっき私がそれを使って穴を掘ったの」
「へえー」
ということは重要カードっぽいかな。まぁ最初から持ってるカードだしな。
《ダンジョン操作》を開いてみたが、MAPと一緒に何やら大量の英語が出てきた。
ええい面倒だ、後にしよう後に。
「あれ、《ステータス》で何も見れないぞ」
「それは片手で対象を指さしながら、《ステータス》を押すと開くわ」
えーっと、おぉ出た。
ハナに説明を受けながら自分のステータスを見る
《戦闘レベル》0
《ダンジョンレベル》1
《攻撃力》40
《敏捷力》20
《器用さ》20
《知性力》10
初期値が10だから、上から順に30、10、10に振ったのだろう。
いや、自分の事なのだけれど
それはともかく、その下に書いてあるものがある。二つ。
これは…スキルか。俺にもあるのか。
「俺にもスキルがあるのか…うーんわからん」
「ん、どれどれー?」
ハナに見てもらう。
《カウンター》《強い命中》
「強い命中?」
「ハードヒットだから、強打の方がいいかもしれないわね」
「ハードヒットのままでもそれはそれで」
どちらにしても戦闘用のスキルらしい。
「それで、お前のスキルは?」
そう言いながらハナのステータスも見てみる。
《戦闘レベル》1
《ダンジョンレベル》1
《攻撃力》10
《敏捷力》10
《器用さ》21
《知性力》30
あれ、俺と違ってステータスに50使ってない?
その代わり、何やらスキルがいくつかある…が英語なので読めない。
あと何で器用さが21なんだろう。
「これ何て書いてあるんだ?」
「えへへー秘密ー」
……可愛くねえな
現在細かくなっている話を統合中
■で区切られているのは、以前話として区切られていた場所です
《》の中は基本的にハナが和訳したものです
大体本編の三話ぐらいまでがチュートリアルになります