最弱
「何だこれ……」
基本的に隠密での行動のつもりだったが、思わず声に出る。
気合を入れた割に、洞窟は短く中は何か変な物体?があるだけだった。
青だか緑だかよく分からないが、こいつが何なのかは大体わかる。
不定形の存在。モンスターの中でも大体のゲームでは最弱の称号を欲しいがままにするアイツ。
そう、スライムだ。
でも何というか、形が崩れたゼリーとかそんな感じにしか見えない。
棍棒で殴って意味あるのか……?
どう扱うか悩んでいると、コータが嬉々として向かっていった。
そしてスライムに向かって体当たり。
そのまま噛み付いた。《警戒》で出たままだったコウモリ達もそれに続く。
まるで花の蜜を吸っている蝶のようだ。
というかコータがあんなに能動的に行動してるのを初めて見た。
パパ嬉しいぞ。
とはいえやっぱり気持ち悪いのでコータが満足するのを見計らって一発殴ってみる。
ペチャっという気持ち良くはない感覚の後、カードを残して光となり消えた。
銀カードですらないただのカードだ。モンスターが落としたカードは最低でも銀かと思ってたが違うのか。
後で鑑定してもらったら《スライムペースト》だって。
何に使うんだよ。食い物だとしても断固として俺は食わないぞ。
洞窟はむしろ横穴という表現が正しい程短いものだった。
念の為隠し扉を探してみたが見つからない。どうやら本当の自然洞窟らしい。
外に出て崖沿いを調べると、洞窟らしきものが他にいくつか発見できた。
警戒しておくに越したことはないだろう。
途中また例のゴブリンを発見したが、三体いたので見つかる前に逃げた。
それなりの収穫があったので一度戻るとする。
ハナをあまり放置すると自炊なんて物に手を出してしまうかもしれない。
一度ダンジョンに戻る。
《警戒》で出ていたコウモリの一匹が何か騒いでる。
モンスターでも入り込んだか?まさか冒険者がもう……!
と神経を尖らせて中に入ると、スライムがへばりついていた。
腹いせに殴って消しておく。
ダンジョン内では六匹程スライムがいた。途中から面倒になり無視するように。
コータはお腹いっぱいになったのかもうあまり興味を持っていないようだ。
隠し扉の先はまだスライムがいなかったのが救いか。
これから外に出る度にあいつを見なきゃいけないのかと思うと気が重い。
■ ■ ■ ■ ■
「ただいまー」
「おかいりー」
目立った収穫こそ無かったものの、周辺の状況が多少分かっただけでも良かった。
ついでにスライムをコータが嬉々として食していた事も報告。
「こっちにも三個報告する事項があるね」
「ほう」
まずスライムの件。
どうやらモニターを見る限り、自然的に沸いているらしい。
この話をしている間も、モニターでスライムが発生している瞬間を確認することが出来た。
地面からズゾゾゾと這い出る感じだ。
それと安全地帯の通路の脇に大きめの部屋を作り始めたとの事。
用途はまだ決まってないが、《採掘》を無駄にしないようにしたいらしい。
その際、光る壁が発見されたので後で処理しておこう。
「あと、ダンジョンを解放した時に使えるようになった機能が」
「ほほう」
《登録》という項目がコマンドに追加されたとのこと。
何を登録するのかと思ったらダンジョンの関係者を登録するらしい。
ハナは登録したらしいので俺も登録しておく。
「で、この《登録》をすると何が起きるんだ?」
「ふふーん。やってみようか?」
そう言うとハナはコマンドを弄り始める。
「さーん。にー。いーち」
突然のカウントダウンの後、パッと周囲が変化する。
何だ?と周辺を見回す。ここは…仕掛け部屋か。
自分がいる場所が仕掛け部屋だと確認出来る頃、もう一度パッと周囲が変化した。
ハナのマスタールームか。どうやら戻ってきたらしい。
「登録すると、ダンジョン内の好きなところに転移できるようになるみたい」
「これは便利だなー」
一応試してみたら、俺がハナを転移させる事もできた。
出口まで往復四キロもあるので、これは非常に便利だ。
「ただし、二つ欠点がある」
「と、言うと?」
「まず、私の採掘した所しか飛べない」
今のところ俺しか採掘していない場所は少ないが、後々影響しそうだ。
「あとコマンドを開く必要があるから、一人の時だと帰りが使えない」
「なるほど」
どちらかがマスタールームにいると戻す事もできるが、そうじゃないと行きは良い良い帰りは徒歩だ。
まぁこの二つの欠点があったとしても、便利な事には変わりない。
十二分に活用させてもらおう。
■ ■ ■ ■ ■
「さーん。にー。いーち」
カウントダウンと共に、新しく作ると言っていた部屋に転送される。
ゲームなんかでは光に包まれたり、空を飛ぶエフェクトや翼が散るエフェクトだったりがあったりしたような。
しかしこの転送は本当に パッ と転送する為、違和感が半端無い。
早いうちに慣れておきたい。
ちなみに転送された際、コータも一緒に転送されている。
装備されているモンスターはこういう利点があるのか。
光る壁を刺激すると、お馴染みの強い光からの中からモンスターが登場である。
このシルエットは……リザードマンか。
《二刀流》は本当にお世話になってます。
リザードマンが出現するまでの間、前回との違いを感じる。
何というか、全く威圧感というか恐怖を感じないのである。
レベルの違い、戦闘経験の有無、コータの存在。
何より複数対一を二度も経験した後だと、タイマンではどうということもないのかもしれない。
一度勝ってる事だし。
とはいえ油断は禁物。勝って兜の緒を締めろとはよく言ったものだ。
コータに《撹乱》を出させつつ、《ハードヒット》を狙う。
仮に倒せなくても《撹乱》されていればすぐに反撃は難しい。
それにいざとなれば投擲派生がある。オークですら倒せたのだ。リザードマンも倒せるだろう。
「……と、思ったんだけどなぁ」
思わず嘆いてしまう。
リザードマンは《ハードヒット》の二発目で死んでしまった。
まぁ冷静に考えて《攻撃力》特化の火力スキルだ。相手が薄ければこうもなるか。
「あっぶな。ギリギリ間に合った」
「……おわっ。ビックリした……何でここにいるんだ?」
「いや、経験値が欲しかったから」
「あぁ……」
急に現れるな。ビックリするだろう。
ちなみにリザードマンが落としたのは《短剣》でした。
《採掘》によってもう在庫が十本はあるのでぶっちゃけいらない。
帰りがてら、ハナとこれからについて相談する。
「これからどうする?お前も外出たいだろ?」
いくらさほど問題がないといえ、やはり穴ぐらの中に数日間いた訳で。
日の光も浴びたいだろう。俺も浴びたい。
「うーん。村に行ってみたい」
「村かー」
ここは港町のフマウンと、漁村のマーシュと同じぐらいの距離に出現している。
フマウンは比較的大きな町の為、若干リスクが高い。
となるとマーシュが妥当だろう。ハナも納得した。
村に行くというのは割とリスクがある。
このゲームは言語が英語だ。村人は英語しか話さない可能性がかなり高い。
つまり俺一人が行ったところでどうにもならない。
しかし外には最低でもゴブリンとコボルドがいる。
ハナは戦闘自体はあまり得意ではないステータスなので、一人で行かせる訳にもいかない。
つまり、二人ともこのダンジョンを離れる必要がある。
その間ここはもぬけの殻。何かあったら即ダンジョン踏破されてしまう。
とはいえ逆に言えば出現させたばかりの今こそチャンスでもある。
ダンジョンの存在が知られてしまってからではなかなか二人とも外に出るのは難しい。
今回のマーシュへの訪問の目的はズバリ、塩の確保である。




