死への恐怖
翌日もダンジョンの完成へ向けての作業を急ぐ。
ベッドパワーで頭と足の痛みはすっかりと治っている。
二人して《採掘》しているが、金カードや光る壁は欲しい時には出てこないものだった。
ダンジョン完成前にハナの戦闘レベルを6にして、《器用さ》を25にしてスキルを覚えたいところだが。
物欲センサーってやつだろうか。
一方で各種謎の草や銀カードは着実に集まってはいる。
魔法カードがストック豊富なのは助かるが、武器がいっぱいあってもなぁ。
状態異常に対する薬は山程来るものの、ポーションや薬草のような即時回復できるものが無いのが気にかかる。
回復魔法もあるのだろうか。
二人で採掘を進めていると、遠くからハナの声が聞こえる。
二キロも離れているので若干ラグがあるが、一応ちゃんと聞きとれる。
どうやら光る壁が発見されたらしい。
移動も二キロあるので大変だ。
急いでハナの元に行く。
ハナは既に戦闘用に空間を作っていた。
いつものように壁を刺激し、モンスターを出して物陰に隠れる。
出てきたのは大きなサソリだった。
ヒソヒソ声でハナと相談する。
「うーん、サソリかぁ。間違いなく毒があるよなぁ」
「そうだね、一応ファイアは一発使えるけど」
不安といえば不安だが、《毒消し丸》を取りに戻るのは往復四キロぐらいかかる。
急ぎたい今、その往復の手間がちょっと気になる。
それより、やってみたいことがある。
「馬鹿な事言っていい?」
「うん」
「一度、毒を食らってみたい」
「ばーか」
隣でコータもばーかと言っているような気がした。気のせいだが。
しかし、毒がどういうのか食らってみないと分からない。
余裕のあるときに知っておきたい。
よって、こういう作戦にする。
ハナは真っ先に帰って《毒消し丸》を装備して帰って来る。
俺はその間サソリを挑発してマスタールームの近くへ誘導。
ハナと合流し次第相手を弱らせる。
毒を食らってハナがファイア等で相手を倒して治療。
ハナが足音を立てないようにこっそり帰る。
俺はハナが向かってしばらくしてから、床の石を一つ拾いサソリに投げる。
「やーい、お前のかーちゃん甲殻類ー」※違います。
サソリが向かってくるのを確認して、俺は走り始める。
ちょっと予想外だったのが、サソリが意外に足が速かった事だった。
まぁ見た目の割にではあるが。
■ ■ ■ ■ ■
大サソリとの追いかけっこが始まってしばらくが経過した。
仕掛け部屋まで来たので、ここで適当に時間を潰す事にする。
せっかくなので検証だ。
まず大サソリは、接近するといかにも毒がありそうな尻尾を光らせてくる。
発生までの時間が割とある為、《クイックヒット》ではないだろう。
《ハードヒット》にしても威力が無さ過ぎる。毒関係と見て間違いないだろう。
仮に《毒突き》とでもしておこう。
念の為に《ハイジャンプ》で距離を取っている。
さっきまで採掘中だったので、装備は棍棒一本しかない。
もちろん《二刀流》もない。
次にコータで《撹乱》してみる。
前からやってみたかったのだが、この状態で《警戒》するとどうなるのか。
やってみるとこの状態で《警戒》は発生しなかった。逆もしかり。
どうやら四匹が限度のようだ。
そんなことをやっていると、マスタールームの方から走って来る足音が聞こえる。
チラッと見るとハナがこちらに向かっている。
アイコンタクトしてから大サソリへ向き合う。
大サソリは直進は何故か妙に早いものの、旋回するのに時間がかかるようだ。
万が一にも《カウンター》があることを警戒してスキルを使わず棍棒で殴る。
はっきり言って毒のありそうな尻尾を注意すれば、さほど脅威とは思えない。
ただ殻が硬いので、防御力はかなりあるようだ。
ある程度弱らせてからハナを見る。
杖を構えている。準備は良さそうだ。
近づいて《毒突き》を受けてみる。
サソリの尻尾は俺の左の肩に刺さる。
熱い。体が熱い。心臓がドクンドクンと音を立てている。
震えが止まらない。体から汗がどっと噴き出す。目も霞み音も自らの鼓動しか聞こえない。
目の前の大サソリはハナの魔法で倒されたようだが、ハナが何か言いながら駆け寄ってくるも何を言っているか分からない。
ハナが《毒消し丸》を出して俺に飲ませる。すると……。
何も起こらなかった。
そんな馬鹿な。毒消し丸はちゃんと飲んだ。遅効性なのだろうか。
しかし一向に治る兆しはない。心臓はまだバクバク言っている。呼吸も苦しく指一本動かせない。
ハナが俺を抱きかかえる。何かを言っている。しかし何も聞こえない。
一秒ごとに命を削られている。そう思うと体中を恐怖が支配する。しかし体は動かせない。
以前やったゲームで毒と猛毒が別物だったものがある。サソリの毒は毒消し丸では打ち消せない毒だったのだろうか。
何かハナに伝えたい。しかし喉から言葉が出ない。
いつのまにか目から涙が溢れてくる。
死が身近に迫ってくる気がする。
こんなところで俺は死んでしまうのか。
俺が死んでしまったらハナはどうなるのか。
死にたくない。しかし死神はすぐそこまで迫っている。
ハナを残して、死ぬわけにはいかないというのに。
せめて声を、一声聞いてから死にたい。
ハナが何かを言っている。
聞き取れないが、口の動きで何となくわかりそうだ。
マ
ヒ
ナ
ン
ジャ
ナ
イ
ノ
しばらく時間が経ったら体が動かせるようになりました。
そうだよね、サソリだからって毒じゃなくて麻痺も出来る可能性があるよね。
何が死神がすぐそこまで迫ってるだよ。
■ ■ ■ ■ ■
その日のうちに目標の長さまで採掘は終了した。
自然な洞窟を目指す為に通路の幅をランダムにしたりする作業を行ったが、結局光る壁は大サソリ以降出なかった。
魔法はかなりストックが溜まり、使用用途の分からない程多くの武器の銀カードがある。
最初は縦長のLみたいな形を目指していたが、突き当たりに隠し扉も芸が無いので ト に近い形になっている。
ハナ曰く ト というよりトンファー型とかなんとか。
ハナのベッドで体を休ませながら、今後の打ち合わせをする。
有事の際を考えて外の探索は一人。
町等に出る場合は英語が必要だと考えられる為二人。
ダンジョンを留守にするのは怖いので、用事は可能な限り手短に。
出来ればモンスターをある程度確保したいところだが、ぶっちゃけ外の様子が分からない。
まずは情報収集が最重要ということで。
ちなみに探索の間ハナはダンジョン内で作業する事もあるだろうと考える。
そこで『どんなに長くても最長一日』を鉄の掟とすることに。
光る壁が出てきた時を考えての事だ。
また保存食を今の設備では用意し辛いのもある。
食後ハナのベッドで横になりながら最終チェックを行う。
肩の傷がまだ微妙に跡になっているので、今のうちに少しでも回復しておきたい。
いつのまにか眠っていたのだろうか。コマンドを開きっぱなしで寝てしまっていたらしい。
そろそろ自分のマスタールームへ戻ろう。と起きようとすると、左腕に何か重みを感じる。
「……おぉう」
ハナがいつのまにか布団の中に入っている。
左腕が腕枕として使われている。流石にちょっとびっくりする。
シャワーを浴びてきたのか、まだ髪が少し濡れている。
ちょっと腕が痺れている。
最近は無かったが、小学生の頃はたまに一緒に寝ていたなぁと思い出す。
確か最後はハナが受験を失敗し、慰めるときだったか。
まぁそのお陰で一緒に地元の公立中へ行く事になったんだが。
ハナにはかなりお世話になった。
ゲームでも現実にいたときでもそうだが、そもそも一緒にいるだけで心強い。
この暖かさ、頑張ろうという気になる。
パジャマに着替えてなかったが、まぁ仕方ない。
右手でそっと光度を下げ、コマンドを閉じる。
特に意味も無くほっぺたにキスをしてみた。
明日は大事な一日になる。少々難しくても無理やり寝る事にした。
夢の中で俺の左の頬が少し暖かくなった気がした。
余談だが、翌朝何故か凄い怒られた。




