そんなバナナ!
バカっぽい雰囲気をお楽しみ下さい
「大変です、社長!時限爆弾が届きました!」
「そんなバナナ!」
「ふざけてる場合じゃありません!後30分で爆発するみたいです!」
「そんなバナナ!」
「いい加減にして下さい!そんなバナナとか面白くないですし、古すぎますよ!親父臭い!」
「そんなバナナ!」
ちょっと悲しそうな顔で社長はそう言うと、近くにあったメモ用紙にペンをはしらせる。
「何々…、朝起きたらそんなバナナとしか喋れなくなっていた」
横でウンウンと頷く社長。
…いろいろとツッコミたくなる秘書だったが、とりあえず一言叫んでみた。
「そんなバナナ!」
※社長の話す言葉は全てそんなバナナと聞こえている事になっています。
爆発まで28分
電話の前で話す秘書。非常に切羽詰まった表情のまま、受話器に叫ぶように話している。
それはまるで神に嘆願する純真な教徒の様な悲痛な声。
「チャーシュー麺と炒飯セット、大至急お願いします!」
「警察に電話しろ!」
爆発まで24分
「警察ですか!」
「はい、そうです。事件ですか、事故ですか」
「ば、爆発しそうなんです!」
「爆発!?何がですか、落ち着いて話して下さい」
「爆弾が今にも…っ!」
「わかりました、その爆弾についてわかる事があれば教えて下さい」
「形はありません!それはある時、突然爆発する様な危険な爆弾で私の胸の中ににあるんです!」
「なんですって!爆弾を取体にり付けられているんですか!?」
「…え、違いますよ」
「…はい?」
「知らないんですか。ふふっ、流行に遅れてますね。私の言ってるのは恋の爆弾って奴の事ですよ」
「……悪戯は止めて下さいね」
ブツッ、ツー、ツー。
振り向いて肩を竦める秘書。
「…ふっ、これだから頭の固い警察は」
「お前が馬鹿なだけだ!」
爆発まで18分
刻々と近付いてくるタイムリミット。だが焦って良いことなど一つも無い。落ち着いて冷静さを失わない。それこそが非常事態で一番大切な事だ。
ずずー、ずるずる、ごくん
「意外に早かったですね」
「…そうだな」
因みに秘書が食べているチャーシュー麺の値段は社長の炒飯セットより二倍近く高い。
爆発まで15分
タイムリミットまで半分をきった。膠着状態の事態は急展開を見せる。
「警察は頼りになりません!私が解体します!」
「止めてくれ!もう一度警察に電話しろよ!」
「大丈夫です、私学生の時は技家の成績は5だったんです!」
取り出したのはしゃもじ。それはご飯をよそうものであり、決して爆弾解体で使うものでは無い。
爆発まで14分
ガギッ!ガギッ!ガギッ!
爆弾等の危険物は決して乱暴に扱ってはいけない。しゃもじを叩きつけるなんて以っての外だ。
爆発まで11分
奪いとったしゃもじ片手に社長は叫ぶ。
「警察は間に合いそうに無いし、秘書はダメダメだ!一体どうすればいいんだ!」
「しゃもじは駄目だと言うんですね、ではこの爆発物解体セット税込み二千八百円で解体を」
「あるなら最初から使ってくれ!」
それはとても切実な声だった。
爆発まで9分
技家5の実力は半端なく、手際良く進められていく。だが突然その手はピタリと止まり動かなくなった。
「どうした?まさか最後に切るコードが二つあるというよくある展開では…」
「…社長、最後に切るコードが」
少し俯きながら秘書はぽつりと呟いた。
「百本近くあるんですよ」
「そうきたか!」
爆発まで6分
様々なハプニングを乗り越え、とうとう最後のコードを切る工程まで来た二人。
だがその肝心のコードが百本近くもあるという過酷な現実が二人を襲った。
「どれが本物なんだ…、多過ぎて検討もつかないぞ」
あまりの多さに頭を抱え悩む社長、すると隣から恐ろしい言葉が聞こえた。
「…仕方ない、全部切りますか」
そんな事を呟く秘書の手には電動のこぎりが握られている。
爆発まで3分
凄まじい音で鳴り響く電動のこぎり、それはまるで人の断末魔のよう。
「待て!よく考えろ!全部切っても止まる保証はどこにも無いぞ!落ち着け!」
どれだけ理性的な事を言ってもそんなバナナ、としか他の人間には聞こえない。
だが秘書はまるで社長の声が理解出来たかのようにその動きを止めた。
「まさか、私の言葉が…」
「私、最近付き合っていた人がいたんです」
「は?」
唐突なカミングアウト。社長は訳がわからないという顔になる。
「でも、最近別れちゃって」
そう言って思い切り電動のこぎりを頭上に振り上げた。
「だから、全部どうでもよくなっちゃって。ここで死んでも良いかなって思えるようになったんですよ、だから」
「え?」
私の命は?
爆発まで1分
大ピンチの社長、秘書を説得しようと必死で言葉を紡ぎだす。だがその言葉の意味を伝える術を持たない彼に何が出来るというのか。
「そんなバナナ!そんなバナナ!」
「…さよなら、私。来世は絶対私だけの逆ハー王国を作りあげてやるんだ」
ザシュ
「そんなバナナっ!」
何も出来なかった。
爆発まで0分
「…止まっちゃいましたね」
驚くべき事に本当に百本切るのが正しかったらしい。切った本人もビックリしていたが、社長は驚きを通り越して呆れていた。
…いろいろとツッコミたくなる社長だったが、とりあえず一言叫んでみた。
「そんなバナナ!」