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1にちめ 「秘密結社」

主人公が秘密結社の総統になり活動します。ユルイ感じですがシリアスに向かって行く予定です。あくまでも予定です。こちらは気が向いたときに続きを書きます。向かなければ残念と言う事で。

誰しも幼馴染の一人や二人は居るはずだ。僕にも居る。

幼い頃に良く遊んだ相手が居れば幼馴染だ。殆どの人が居るだろう。相手が異性であるという事も普通にあると思う。当然だ。

だが歳を取っても相変わらず仲良くお互いの家に遊びに行ったりするとなると、その数は減ると思う。異性の幼馴染が毎朝起こしに来てくれたり、世話を焼いてくれるなんて事は漫画か小説かゲームの中だけだ。全く羨ましい限りである。僕がそんな立場なら、毎日神への感謝を忘れないだろう。ましてや過去にフラグを立てていて、相手がずっと自分に恋心を抱いているなんて事が起こりえるはずが無い。


しかし世の中どんなきっかけで何が起こるかわからない。


僕は椅子に深く腰をかけ半眼で目の前の光景を眺める。とある薄暗い部屋で数段高い位置にある玉座に座り両脇に女性を侍らせている。そして目の前には数十人の黒尽くめの集団がいた。何でこうなった今にも「イーッ!」とか言い出しそうな集団を前に自問自答する。



昨日の夜まではいつも通りの日常だった。今朝も変わらない朝だったと思う。いつもは白味噌なのに赤味噌だったのが原因か?もしかしたら何かの前兆だったのかもしれない。だとすると「赤味噌もなかなかイケルナ」等と思っていた朝の自分を殴りたい。味噌汁の所為であるはず無いけど。


今日は僕の誕生日だ。18歳になった。飲酒喫煙は出来ないとしてもある程度大人扱いされる歳となった。結婚も出来るし18禁ゲームも堂々と購入できる。堂々と購入する勇気は無いが。この誕生日が要因の一つだったのは間違いない。

「赤味噌もなかなかイケルナ」と呟きながら朝ごはんを食べてたら呼び鈴が鳴る。家の誰かが対応する前に玄関が開き幼馴染が入ってきた。

「裕也、誕生日おめでとう!」「おめでとう」そう言いながら入ってきたのは2人の女の子だ。

一人は長い髪を人括りにしたブレザー姿の元気な瑞貴。

もう一人は同じく長い髪をそのままにしたセーラー服姿の静かな環。

どちらも幼馴染だ。この事に関しては神に毎日感謝しても良いと思う。

小さな頃から家族ぐるみで付き合いがあったため、良く3人で一緒に遊んだ。そしていつも僕が"被害"を受けていた。この歳になっても。


一番多い被害は「自称恋敵」による闇討ちだ。瑞貴はその活発な性格から、環は物静かな性格からそれぞれに人気がある。見た目は可愛いから仕方ないとは僕も思う。

ただ問題なのは告白を受けた際の断り方だ。最初は普通に「付き合えない」と言うらしいのだが、それでも食い下がる相手に面倒になって「裕也と付き合ってるから」と断るらしい。

本当に付き合ってるなら本望だ。だが実際はそんな事も無く、ただただ面倒だから僕の名前を利用しているに過ぎない。そんな事で月に一回以上闇討ちされるのは勘弁して欲しい。僕は何か武道を心得ているという訳でもないので毎回逃げるのみだ。お陰で持久力だけはついた。

そして何より困るのが二人とも同じ言い訳で断る為に、瑞貴と環に二股を掛けているという疑惑である。その所為で闇討ち率が上がり、女の子に「最低」と敬遠される。無実の被害で彼女を作る機会がゼロになっているのだ。

これだけでも±でマイナスとなるだろう。毎日神に祈るどころか毎日神が祈りやがれ!



「おめでとう」と言いながら入ってくる二人に「どうも」と言いながら味噌汁をすする。母さんが「夜まで待てなかったの?」と笑いながら二人にお茶を勧めていた。夜に僕の誕生日会を盛大に行うと聞いている。数日前から準備が行われているらしい。この歳でお誕生日会ってとなると思うが、それはただの名目で親達が家族ぐるみで飲み明かしたいだけだろう。丁度明日は日曜なので今日はいつも以上に荒れるかもしれない。

「学校に行く前におめでとうを言っとこうと思って」と瑞貴が言う。

2人の制服が違うのは通う学校が違うからだ。僕とも違う。瑞貴はスポーツ推薦で全国クラスの女子校に行った。空手の有段者である。環は頭がすごく良くて名門学校に通ってる。学年主席らしい。そして僕は平凡な公立高校に通っている。

何故学校が違うのに僕の学校の女の子に瑞貴と環の話が知れ渡っているかと言うと、2人が悪目立ちしているからである。二人とも見た目が良い上に瑞貴は空手の全国クラスの選手、そして環は名門学校始まっての秀才との呼び名が高い。目立って当たり前だ。


そんな二人に対して僕も何も思わないという訳ではない。僕も健全男子だ。二人とも別々の魅力で可愛いと思う。だが付き合いが長いとわかる事もある。2人の僕への態度は子供の頃から何一つ変わらない。さすがに一緒にお風呂に入ると言うよな事は無くなったが。自分は"そういう対象ではない"という事が分かると急激に冷めるのだ。今の関係を崩したくないというのもある。なので二人に対して僕も"そういう対象ではない"と、いつの間にか思うようになった。可愛いというのは事実なので認めるけど。



朝食も終わりお茶を飲みながら「夜に会うから今言わなくても」という僕に「18だから」と環が言い「そうだよね!」と瑞貴が笑う。18がどうした?と思ったときに母さんが「そろそろ出ないと遅刻するわよ」と声を掛けてきて僕達は急いで家を出る。

「じゃ後でまた」「また」「おう」と声を掛け合い、それぞれの学校に向けて歩きだした。




学校はいつも通りだった。仲の良い友人と「今日誕生日だっけ?」「そうだよ」「まじで!」「おめでとう」「何も無いけどね」という心温まるやり取りが行われたぐらいだ。白状だが他の奴らの時も似たような対応なので仕方ない。因果応報という奴だ。3年ともなるとやはり受験の影がちらつき、まじめな奴らは休憩時間でも参考書などを広げている。僕がどうかは推して図るべし。


放課後になり何事も無く学校が終わった…はずだった。


靴を履き替えて校門に向かうと人だかりが出来ていた。「有名人でも来てるのか?何にせよ校門は邪魔だよな」と人だかりをさけつつ、なんだなんだ?と覗き込みながら通過しようとした所を「裕也」と呼び止められる。

身に覚えのありすぎる声にぎょっとして声のした方を向くと、人だかりの真ん中に瑞貴と環がそれぞれの制服姿で立っていた。僕に向かって手を降る二人にざわめきが広がる。無視することも出来ず「針の筵とはこの事か」と実感しながら二人に近づく。モーゼの十戒の様に人垣が二つに割れて僕と2人の間に道が出来る。


因みにモーゼはユダヤ人と共にエジプトの軍勢から逃げる為に海を割って逃げたのであって、十戒というのは逃げた後に長い旅を続けた後に神から授かった10の戒めの事だ。

僕は子供の頃に意味を割って逃げた行為を十戒と思ってた。今までの話と全く関係ないけど。


「…どうしてここに?」と僕が聞くと「一緒に帰ろうと思ってね♪」と瑞貴が言う。見ると環もコクリと頷く。それを聞きつけた友人達が「どうも始めまして。裕也の親友してます」と話に割り込んできた。この状況で物怖じしない度胸に驚嘆すら覚える。僕は手短に4人の友人を紹介する。それににこやかに「よろしく」と挨拶する瑞貴と静かに微笑み挨拶する環。

2人の対応の良さに舞い上がる友人の一人が「よければ一緒に帰りましょう」と言う。お前の家はは逆方向だろう。「一緒に帰る」と言う単語に周りの生徒にも緊張が走る。あわよくば自分も一緒に帰ってお近づきに、と思っているのがありありと分かる。分かるが女子も食い気味なのはどういう事なの?

友人の申し出に瑞貴が手を合わせて「ごめんね」と言う。「車なんだ」と指差すほうを見ると黒塗りの高級車が止まってた。何あの高級車!?と混乱する僕を他所に「いこう」と環が僕の腕を掴む。瑞貴が友人達に「ごめんね。それじゃまた」と言い「ごきげんよう」と環が言う。異様な雰囲気に呑まれたのか、友人を含めた周りの生徒が「ごきげんよう…」と返す。絶対「ごきげんよう」なんて日常会話で使ったの初めてだろう!僕も無い!!


何がなんだかか分からないうちに車に環が乗り込み僕が押し込められ瑞貴が乗り込む。ドアが閉まると車は静かに走り出した。

こういう車は初めて乗ったけど3人並んでもゆったり座れるのは、さすが高級車という所なのだろうか。余りの事にどういう感想を抱いて良いかも分からない。

「一体どういうことなの?」と僕が聞くと「サプライズ」と環が言う。「折角だから驚かせようと思ってね。高級車を用意したんだ」と瑞貴が笑う。確かに驚いた。

「高級車には美人なお姉さんが付いてくるのか…」と向かいに座るスーツ姿のお姉さんを見て言う。「そんなわけ無いでしょ!」「羽月さんは秘書。この車の手配をしてくれた」という2人に「なるほど秘書か」と頷く。確かに秘書っぽい。落ち着いた雰囲気と黒スーツが秘書っぽいというか葬式帰り?


そんな僕に「よろしくお願いします」と頭を下げる羽月さんに「初めまして。こちらこそお願いします」と頭を下げる。何をお願いするのかは分からないが、初対面の挨拶などそういうものなのだ。羽月さんは少し笑うと「昔にあった事があるんですよ」と言った。

「10年前くらいによく家に来てたじゃない」という瑞貴の言葉に記憶を探るが思い出せない。「私も覚えてる」と環が静かに言い「裕也は羽月さんと結婚するって言ってた」と言った。そんな事を言ったの、僕!?

羽月さんは「正確には12年ほど前ですね」と言うと「4番目の奥さんにしてくれると言いましたよ」と笑った。言ったんだ!というか4番目って他に3人もいたの??

聞くと1番目は母さんだったらしい。それはそれで死にたくなる答えだ。2番は2人居て瑞貴と環だったらしい。「2人は一緒だから!」という理由だったらしい。子供の頃の僕って、ある意味すごい。そして死にたい。

「すみません…よく覚えてません」と言うと羽月さんは笑って「小さい頃だから仕方ありませんよ」と言う。


秘書なのも昔に逢った事があるのも分かったが、どうしてここに羽月さんが居るのかが良く分からなかった。それが顔に出ていたのだろうか。羽月さんは「私はお父様の秘書でした」と言った。

父さんは警備会社を運営している。そしてそこの重役として瑞貴と環の父さんも経営に携わっている。その関係で家族ぐるみの付き合いをしているのだ。

父さんの秘書だからわざわざ僕の誕生日なんかの為に色々(高級車とか)手配してくれたのか。

なるほどねと頷く僕に「正確には秘書見習いでした」と羽月さんが言う。「今日からは裕也様の専属秘書となります。よろしくお願いします」と改まって会釈する羽月さんに「いえ、此方こそ宜しくお願いしまうぇぇぇええええ!」と驚くと、横の環が「お願いしまうぇえええ」と小さく言って肩を振るわせた。環はこう見えて笑い上戸である。ツボがいまいち分からないのだが。

「驚きすぎ」と瑞貴に言われるが、これを驚かないで何に驚けと言うのだ。秘書だよ!秘めた書!!しかも専属。専ら属した秘めた書!!さらに美人と付いた日には、18歳の健全男子には果てしない申そうと書いて「ゆめ」と読むアレやコレやが広がるわけで「羽月さんに変な事をしたら…分かってるわよね?」「…捥ぎ取る」何を!?


そんなやり取りを行っているうちに高級車は高級ホテルに乗り付ける。ドアマンが居るようなホテルに来るとは思わなかった。自宅まで送り届けられるとばっかり思っていたのに。

高級車が乗り付けてドアを開けたら自分みたいな若造が出てきてすみません、という気持ちで一杯になる。車を降りると羽月さんを先頭にエレベーターに乗り込む。全てが仰々しいホテルの雰囲気に、何でこんな所に来ているのか良く分からなくなる。

エレベーターが止まって降りるとすぐ目の前に「秘密結社2代目総統就任会場」という文字が飛び込んできた。格式高いホテルに似つかわしくない噴出しそうになる。秘密結社なのに堂々と「秘密結社」と書いてる上に、こんな所で2代目就任とか笑える。と思ったら僕の誕生日会場のことだったらしい。

ウチの両親達のやりそうな冗談だ。僕達3人の両親はこういう冗談が好きである。面白いから別にいいんだけど、こういうホテルでやるのはどうよ?瑞貴も環も羽月さんですらスルーしている。まあホテル側が許可したのでやれてるんだろうけど。

通路の奥に行くと瑞貴が「じゃ後で」と僕に言った。後で?と聞くと今から着替えるそうだ。瑞貴と環が同じドアの中に消える。「此方へ」という羽月さんの案内で向かいの部屋には言った僕に「此方の服に着替えてください」と羽月さんが僕に着替えの服を渡してきた。


「これって…マント?」渡された服を着替えながら羽月さんに聞く。「マントです」「ですよね。コレも着るんですか?」「総統ですから」どうやら服装まで凝るらしい。というか全身黒い服は別にいい。ただ黒尽くめの上に黒マントというのはどうなんだろう。中が赤いけど外と中の色を入れ替えたほうが…黒尽くめに赤マントも変か。しかしどう止めるんだ?と思ってたら羽月さんが止めてくれた。いい匂いにドキドキする。


着替えが終わると「参りましょうか」と羽月さんが僕を促す。なるほど。黒スーツは秘密結社を意識していたのか。宴会場の扉の前たつ。中から声が聞こえるので式は既に始まっているようだ。扉が開くと僕にスポットライトが当たる。周りが暗くスポットライトが眩しい為に出席者の顔が一切見えないが、拍手の音から結構な人数が居る事が分かる。というか何なの?誕生日会という名の飲み会に何人来てるの?


羽月さんの案内で主賓席に連れて行かれる。見ると「ザ・玉座!」というような椅子が鎮座していた。鳴り止まない拍手の中、椅子の前に立たされると「お忙しいかお集まりいただき、ありがとうございます。」と父さんの声が聞こえた。暗くてよく見えないが近くに居るらしい。

「皆様のご協力のお陰で我が組織もここまで大きくなりました」なんだ会社の人達なのか。「色々困難な状況にも耐えここまでやって参りましたが、この度、息子が18になるのを機に組織の運営を譲り、コレからは若い世代に頑張ってもらいたいと思います」ええええ!会社経営を僕に!?まだ高校生だよ?父さんの発言に会場から盛大な拍手が送られる。

父さんが暗がりからスポットライトの中に入ってきた。その姿は僕の格好そっくりだ。そして僕の横に立つと「後は頼むぞ」と手にした細い剣を差し出した。呆然とそれを見つめていたが父さんの顔に浮かぶ真剣な表情に冗談ではないと悟る。そこまで僕を買ってくれていたとは…家業を継ぐ事なんか全く考えてなかったけど、そこまで言われて拒否をするほど親不孝ではないつもりだ。僕は「微力をつくします」と言うと剣を手に取った。ん?剣…?さらに盛大な拍手が会場を包む。父さんは頷くと「これからはお前の席だ。座りなさい」と玉座を手で指した。

僕は「ここまで凝った趣向は初めてだな」と思いながら頷くと、マントが邪魔にならないように払ってから座る。すぐに羽月さんが来ると「剣は此方へ」と剣を受け取ると玉座の横に立てかけた。座る時に邪魔で仕方なかったので「ありがとう」と言うと目礼だけして下がっていった。するとすぐに部屋に明かりが薄く入る。何で全部明るくしないんだ?という疑問よりも、その部屋の状況を見て僕は驚きに心臓が止まるかと思った。


黒!


何がって人がだ。2~300人くらい居るような大広間に並ぶ人たちが全員黒い。黒いスーツとかそういうレベルじゃなく、全員が黒マスクまで着用しているのだ。「秘密結社」という言葉が頭をよぎる。どうやら会社の社員一同もこの冗談にのっているようだ。その徹底振りにも驚くが、2~300名の黒尽くめの集団が整列していると言う事に驚きだ。学校の全校集会で上から見たらこんな気分なのだろうか?


僕が固まっていると羽月さんが司会進行を始めた。部屋がまた薄暗くなり羽月さんと僕だけスポットが当たる。

「裕也総統の2代目就任に合わせまして、最高幹部も新しく3名就任する事になりました」2代目ってアレだよね。組み関係の方っぽいよね。「科学部門、環総帥」って環!?見ると扉が開きスポットが当たると全身黒尽くめの環が入ってきた。なんというか白衣ならぬ黒衣?長い黒髪と相まってかっこよく見えるけど、良く環がこんな茶番に付き合ったな。環は僕の席の所まで来ると僕に向かって膝を折る。何なのこの儀式。僕はどうしたら良いの?

「戦闘部門、瑞貴総帥」瑞貴も!?スポットライトを浴びた瑞貴はヘソ出しといより「上半身は水着だけです」といういでたちで、下半身はさすがにズボンを履いているが、女王様的なコスチュームにマントを羽織っている。同じように僕の前まで来た瑞貴は悪戯っぽい笑顔を見せると膝を折った。

羽月さんが僕の所に近寄ってくる。そして「これをお渡しください」と言うと杖を渡してきた。それを受け取ると環が立ち上がる。環に渡すのね。僕が杖を差し出すと環は黙って僕を見つめるだけで何も言わない。何でだろう、と思って先程の父さんとのやり取りを思いだす。「よろしく頼む」と言うと「仰せのままに」と言って受け取った。盛大な拍手が鳴る。

そして今度は鞭を渡される。鞭いぃぃ!?すぐに瑞貴が立ち上がる。えっと…鞭なんかでいいの?瑞貴が面白そうにしているので良いのだろう。環と同じ言葉では芸が無いと思いながらも「宜しく頼む」と言って渡すと「わが身果てるまで」と言って受け取った。さらに盛大の拍手が響く。何てノリの良い人達だ。

会場がまた少し明るくなる。瑞貴と環は僕の両脇に控えている。

羽月さんが僕の父は総統を僕に譲って最高幹部の一人として組織の運営を手伝っていく事が告げられる。さすがにいきなり会社経営を任せられたりしない様でほっと胸を撫で下ろす。どんな事をするのかも分からないのにいきなり経営トップとか無理だしね。そして今までの最高幹部も引き続き最高幹部として新しい総統を支えていく事が告げられる。見ると僕の母さんと瑞貴、環の両親が最高幹部だった。とうか環の母親が前科学部門総帥で瑞貴の父親が前戦闘部門総帥だった。そもそも戦闘ってなんだ?


その後、各自自由に飲食を楽しむ歓談の時間が取られ、その間に祝電が読み上げられる。


「新総帥就任おめでとうございます。しかし世界征服は我々が行います。西日本秘密結社連合会長様」世界征服!と言うか西日本って!!「新総帥就任おめでとうございます。新しい兵器がご入用の際はお声をおかけ下さい。巡航艦ミサイルまででしたら当日手配します。デョポソ社社長様」"まで"って何?何基準の"まで"なの?「新総理就任おめでとうございます。お前達の野望は俺が潰す!五色戦隊代表あずき様」秘密結社の総統就任の祝電にヒーローからとか。というかリーダー小豆色って他の4色何色だ!!

その後は名前だけが読み上げられる。どの人もバラエティに飛んだ名前だ。後でどういう文面か読ませてもらおう。


やはり何故か薄暗い室内に黒い集団が動き回っている。会話…しているのだろうけど、小声で話しているようなので静かで会場が若干不気味である。僕の横に立つ瑞貴と環に「座れば良いのに」と言うがどちらも「そんなに長い時間じゃないから大丈夫」と首を横に振る。「環の杖は分かるけど、瑞貴は何で鞭なの?」女王様スタイルだからか?「秘密結社の女幹部は鞭だから」と納得するような、したら負けのような複雑な気分だ。「風引くなよ」と言うと「マントは以外と暖かい」と笑った。まあマントを羽織って立っている限りは上半身も殆ど隠れるので良いか。


僕もノンアルコールのシャンパンを飲みながら玉座にひじを付き頭を支え足を組んでみる。何か本当に秘密結社の総統っぽくない?と聞いたら「悪そうだね」「なかなか」という反応が返ってきた。この場の雰囲気、地味に薄暗い感じや全身黒尽くめの社員さん達の「黒尽くめはしゃべらない」という感じの役作りを見やり、そして周りに美人幹部を2人侍らせている状況に本当に秘密結社の総統になったようで楽しくなってきた。

「何かここで秘密結社の新総帥らしく、ババンと何か言っちゃう?」と僕が言うと環と瑞貴が「いいね!」「ごー」と言う。だが言うとなるとインパクトのある事が言いたい。ん~と考えた僕に2人が「世界征服とか言っちゃう?」「いっちゃう?」と言う。ありきたりだな~。まあでもそんな事くらいしか言う事無いしね。


僕はゆっくりと立ち上がる。その動作だけで静かになり皆が僕に注目する。僕はマントをバサーっと払うと「宣言する!!」と叫んだ。「いいね。ノリノリだ」「ノリノリ」と楽しそうな2人の声が僕を後押しする。「僕が総統になったからには、この組織を世界最大の組織にしてみせるっ!!」左腕を前に突き出しどや顔を決める。僕の言葉に会場が一瞬ザワッっとしたのを感じ、意表をついた事に満足すると僕はマントを払い腰掛ける。


言葉、いや身動ぎ一つ無い会場に「あれ?」と思う。ハズシタ?恥ずかしい気持ちが湧き出す直前に瑞貴の声がかすかに響く。「それが…どういう事かわかってるの?」うん?言葉のままだけど?「そう…」環が頷くと瑞貴が一歩前に出て宣言した。「総統の言葉を賜った!邁進せよ!!」その言葉に全ての人が姿勢を正す。


あ…あれ?何この雰囲気。


瑞貴が「裕也の…総統の気持ちは分かった。私もその野望が叶えられるよう全力を尽くす。」と言い「組織に全てを捧ぐ」と環が言う。え?あれ?「"世界最大の組織"というのは世界征服より難しい事よ」どういう事なの?「世界征服はただ各国に負けを認めさせ服従させるだけ。でも世界最大の組織は他の組織を潰すか吸収しないとだめ」環の言葉に僕は言葉を詰まらせる。何でそこまで真剣に捉えているの?「総統の言葉は絶対」「裕也の言葉で全員の緩んでいた気持ちが引き締まったわ」2人が僕に頷く。いや、全然分からないから!


2人が言うには僕たちが、せめて大学を卒業するまでの数年間は僕たちが組織の運用を覚える準備期間として秘密結社もまったり活動する予定だったらしい。だが今さっきの僕の言葉によりそんな甘えは必要なく、すぐに野望に向けて動き出すという言質が下ったのだ。


「大丈夫よ。ここに居る皆は組織と総統に絶対の中世を誓ってるわ。もちろん私達も」「途中で倒れる事があっても野望を実現させる覚悟は出来てる」2人の言ってる意味が分からないよ。「当面は警備会社としてのみ動く予定だったけど、早急に準備を始めないとダメね」「大丈夫怪人なら数体用意できている」「なら近日中に動けるわね。明日にでも会議を開いて方針を決めましょう」どんどん話が進んでいく。じゃ無くて怪人!?ネタだよね?


2人の話を纏めると「警備会社」というのはダミー会社のようだ。そして秘密結社と言うのは本当で僕の2代目総統就任と瑞貴や環の就任はおろか、父さんが前総統で母さんや水木と環の両親が最高幹部なのも本当らしい。そして秘密結社は悪の組織のようだ。大抵の悪事はするらしい。怪人も実戦配備可能らしい。だから怪人って何だ!

今までの話が本当なら祝電の「西日本秘密結社連合」とか「デョポソ会社」あまつさえ「五色戦隊のリーダーあずき」も本当にいるの!?いや、他の色が判明しそうで嬉しい気もするけど、なら本当にヒーローに新総統就任が筒抜けって秘密結社としてどうなのさ!!というか正義のヒーローの他にも別の秘密結社とも戦わないとダメなの!?

自分の発言の重さに今更ながらに気が付いた。ただもう「さっきのはウ・ソ!」と言えるような状況ではない。


僕は椅子に深く腰をかけ半眼で目の前の光景を眺める。とある薄暗い部屋で数段高い位置にある玉座に座り両脇に女性を侍らせている。そして目の前には数十人の黒尽くめの集団がいた。今にも「イーッ!」とか言い出しそうである。


その中の一人が手を足を「タン」と踏み鳴らし、右脇をあけて指先をまっすぐに胸の当たりから斜め上に振り上げながら「いーっ!」と言った。というか言った!!色々大丈夫か!?すると周りの黒尽くめもタイミングを合わせたように足を踏み鳴らすと一斉に「いーっ!」と言った。


すごい。色々突っ込みたい事はある。何故「いーっ!」としか言わないのか。それで意思疎通が出来るのか?そもそも何でこんな組織に忠誠を誓っているのか?だがそんな事よりも統率された動きに恐怖を覚える。この人達の上に立つの?悪の組織の総統として?悪事を働くの??そんな事が出来るのだろうか?そもそもどんな事をするんだ?

僕は両脇に控える瑞貴と環を見やる。

どちらかと言えば戦隊ヒーローのピンクのような瑞貴と現実的に物事を冷静に判断する環を見やって、どう考えても悪の秘密結社という想像は出来ない。どうせ大した事は出来ないのだろう。


「まずは資金の確保」「そうなると銀行強盗かしら?」「お札は通し番号でバレるから、すぐには使えない」「なら小銭になるの?かさばるわね」「金塊」「なるほど!金塊ね」「いくつか候補があるので明日決めよう」「どうせなら一回で沢山手に入るほうが良いね」


繰り広げられる幼馴染の会話に冷たい汗が流れる。冗談…だと思いたい。が、目の前にいる黒尽くめの集団がその思いを打ち砕く。一斉に「いーっ!」と叫んで手を上げたまま微動だにしない。疲れないのかな。僕が「そろそろ腕を下ろすように言ったほうが良いんじゃない?」と幼馴染に言おうと手を上げた所、ザッと音がして全員が腕を下ろす。

何か雰囲気的に僕が片手で「もうよい」という身振りをしたように見えなくない。というか絶対に見える!どうにかそんなんじゃないと伝えたいけど、どう伝えたらいいんだろう?

そう考えていたら羽月さんが近寄ってきて「そろそろ退出願えますか?」と言ってきた。この空気に耐えれなくなっていた僕はぎこちなく頷くと立ち上がる。するとまた全員が脇をあけて指先まで真っ直ぐにした手を胸に当てた。アレってこの組織の敬礼なのか!

その事実に驚いて一瞬止まる。そして羽月さんが手渡してきた剣を掴むと急いで部屋を退出する。後ろには瑞貴と環、そして羽月さんが従う。部屋を出て廊下を歩き先程の控え室に入ると椅子に座り脱力する。疲れた…。


続いて入ってきた3人は先程のもくの姿を褒め称えだす。

「あのいきなりの宣言は良かったわね」ただ調子に乗っただけです「そうですね。裕也様の野望の高さが伝わりました」ネタのつもりだったんです「手の振りだけで皆を動かしたのもすごい」それも勘違いです「そうそう!アレは貫禄だったわね」たまたまそう見えただけなんです「最後の退出も素晴らしいと思いました」え?何が??「立ち上がった時に敬礼を一瞬待ったのが素敵」逆だから!敬礼に驚いて止まっただけだから!!「最後の剣を受け取ってマントを翻しながら颯爽と会場を出る姿もかっこよかったわ」もうやめてあげてよ!

「明日から頑張らないとね」という瑞貴と頷く環。そして「明日は日曜なので昼前にお向かいに上がります」という羽月さんを無表情に見やる。




こうして僕は18歳の誕生日に父親の後をついで「秘密結社の総統」となった。

シリアスとは一体なんだったのか?本当に銀行は襲うのか?

そもそも続くのか!?



次回予告


何故戦闘員は「いーっ!」と言うのか?

羽月の過去!?

怪人を作る「魔法の粉」とは!?


ヒーローのジツリキが明かされる…


2にちめ「ヒーロー」



僕「羽月さんの過去話がもう明かされるの?」

羽月「隠すほどの事でもないですし」

環「魔法の粉の正体はハ―」

瑞貴「ここでいっちゃダメ!」

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