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願願(ねがねが)  作者: いちの くう
3話 夢じゃない
7/9

   主な登場人物

星川 一矢(ほしかわ かずや)

姫島 唯(ひめじま ゆい)

龍野 舞(たつの まい)

四ノ宮 若葉(しのみや わかば)








 太陽が爆発しないかぎり日が昇り、朝が来る。昼が来て夜が来て、次の日がやって来る。

 ピピピピピピピピピッ

 親切なことに目覚ましは最初アラームが小さくそこから徐々に大きくなっていく。しかしながら鳴り出した音量では起きるわけがなく、結局気付くのは何秒後かで意味がない。

 やかましく鳴る目覚ましを止めて一矢は起きた。カーテンは閉まっているが隙間から眩しい光がさしている。

 今日から憂鬱な日々が始まる。

 舞はすでに起きていて布団はきれいにたたまれていた。

 登校日である以上、その気がなくても遅刻はしたくない。一矢は仕方なく立ち上がった。

 トイレに行き、顔を洗ってダイニングへ向かった。

「!」

 すでに席についてトーストを食べている舞がいた。しかも制服姿だ。ということは自分が寝ている間に着替えていたというのか。惜しい……というよりこいつは寝巻きといい異性を意識するという事がないのか。

「おはよう」

「ああ」

 挨拶をされて軽く受け流すとすかさず母親から注意された。

「コラ、一矢。舞ちゃんが挨拶しているんだからしっかり挨拶しなさい。クセは外に出るんだから直しなさいよ」

「はいはい……おはよう」

 ギリギリまで寝ていたかったので目覚ましの設定もしかり。15分後には出ないといけないのでゆっくりと朝食をとっている時間はない。しかし母親はこういったところに厳しいので少しでも口に入れないと学校に行かしてもらえない。

 好みもあってほんのりキツネ色に焼かれたトーストと目玉焼きに牛乳。定番すぎるメニューを一矢は目玉焼きをトーストに乗せて食べながら牛乳で流し込んだ。

 約1分の朝食の後は部屋で制服に着替え、寝癖を直して2人で学校に向かった。



 やや混んでいる電車内。

 隣で歩いている時も、ホームで待っている時も、今こうして人ごみの中向き合っている時も会話はない。

「なぁ」

 聞かずにはいられない内容を、勝負に負けるような形で一矢が口を開いた。

「何?」

「オマエの立場と、俺とオマエの関係ってどうなの?」

「親が海外に行く都合で1人になる私は姫路のおじさまの提案でここへお世話になっている、という事よ。だから私と貴方は赤の他人で私はただの居候。大丈夫よ、同じ部屋にいるなんて言わないから」

「その……空からの……みたいな話は?」

 一矢のこの言葉に、舞はまさしく天使のような悪魔の笑顔という言葉が似合う笑みを見せた。

「信じていたんだ」

「え……ウソなのか?」

「いいえ、本当の事だけど。この時点で信じてくれるなんて思ってもいなかったから。もう少し先だと思っていたから」

「もう少し先……って何かあるのか?」

「駅に着いたらわかるよ」

 含みのある言葉と笑みに一矢が言葉を詰まらせ、それ以降は再び無言が続いた。



 電車を降りてコンビニの交差点を右折、公園が見える交差点を左に曲がれば目の前に高校が見える。歩いて15分ほどの距離だ。しかし舞はコンビニ前を直進した。

「おい、どこに行くんだよ」

「どこって?」

「学校は向こうだぞ。そっちは……」

「……そっちは?」

 一矢は黙ってしまった。気づいてしまった事実とこれから起こるのではないかという憶測と。それらが複雑に入り混じって言葉を失っていた。顔が引きずっている。

 本来言いたいことはわかる。舞が代弁した。

「そっちは彼女の家。どうしてそこに行くのか。私は天界の学生。ここに来た役割は監視と介入。必要とあれば世界を少し変えることができる。……と、こんなところかな。答えになっていた?」

「……なん、なんだよそれ。そんなのありかよ」

「あってもいい世界なんじゃない?」

「……本当なのか?」

「今ここで答えるよりも自分の目で見たほうがいいんじゃないかな」

 聞き終ると同時に一矢は走った。

 走りにくい革靴、暖かく汗ばみやすい気候、部活をやめて相当落ちている体力、それでも走り続けた。ただでさえ駅から学校までは緩やかな上りだ。息が切れる。それでも足は止まらない。家4軒分くらいの小さな公園でショートカットし、足を緩めた。

 遠くに姫島唯の家が見えた。

 呼吸を整えながら頭の中を整理する。

 果たして本当に……いいや、そんなのありえない。天界から来たなんて本当に信じているのか? 今までに彼女は何をした。不思議な事はいくつかあったが、スプーン曲げも瞬間移動もしていないでないか。ましてや死んだ人間を生き返らせるなんて。

 足を止めた。目の前にインターホン。これを押せば全てがわかる。……万が一、万が一にもウソだったらその時は線香をあげに来たとかそんな理由にすればいい。

 一矢はゆっくりと、ボタンを押した。

 ピィンポーーン

 既に懐かしい気の抜けるような音が一矢には運命のチャイムに聞こえた。さあ、誰が出てくる。誰が。

「はーい」

 女性……でも唯の声じゃない。しかしよく考えれば唯の母親の声だった。

「あっ、星川です」

「一矢くん? ちょっと待っててね」

 そして切られて数秒後。鍵がカチャと開けられる音が聞こえてきてドアが開いた。

 これほど早く開くとは思っていなかったので最終的な心の準備をしきれなかった。だが、現れたのはサンダルを片方履いた母親だった。

「ごめんなさいね、ちょっと待っててくれる?」

「は、はい」

 そして、数分後──

『お母さん、どこにやったの?』『何が?』『私の携帯』『知らないわよ。2階は?』『さっき調べた』『じゃあ、トイレ?』『持ち込まないって』『自分が置いたんでしょ。しっかりしなさいよ』『もういい!……椅子の上にあるじゃん!』『知らないわよ。それより、だいぶ待たせているんだから早くしなさい』『わかってるって。ねえ、髪はねてない?』『大丈夫よ』『じゃあ、行ってきます』

 ショック死しそうだった。

 全ての『まさか』が今この場でまさかでなくなる瞬間が訪れようとしていた。鼓動の音が空気中に伝わりそうだった。軽い眩暈が起こる。

「寝坊しちゃった。ごめんね」

 再び、開かれたドア。

 今、目の前に奇跡が起こった。






「……」






「どうかした?」

「……あ、いや、別になんでもない」

「……誰?」

 唯にとっては呆然と立ち尽くす一矢よりいつの間にかいた隣の舞が気になったようだ。

 言われてようやく一矢は隣にいた舞に気付いた。いつからいたのだろう。

 実際にどう説明すれば自然に感じるか、一矢が口をぱくぱくさせている間に舞が答えた。

「訳あって一矢くんの家に居候させてもらっています。龍野舞です」

「え、居候?」

「姫路のおじさんがさ、その……色々事情があるみたいでさ、面倒を見てもらえないかって相談があってさ、親が引き受けたって感じでさ、転校してきたんだ。同じ学年」

 途切れ途切れのぎこちない説明でも何とか伝わったらしい。

「そうなんだ。はじめまして、姫島唯です……えーと、一矢から聞いてる?」

「付き合っていることは……」

「ならよかった。よろしくね……舞ちゃんって呼んでもいい?」

「はい……じゃ変だね。私も唯ちゃんでいいかな」

「うん、いいよ」

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