混血至上主義の始まり
遠い昔、この村には狸の獣人が住んでいた。獣人達はとても仲がよく、賑やかな声がいつも響いていた。
「そんちょー、あーそぼー!」
「いいよ。何したい?」
「僕も混ぜて」
「私も!」
村長を務めている俺は、子供達にとても懐かれている。
友人によれば、狸の中でもタレ目で優しさが滲み出ているようだ。
治安も良く野菜もたくさん育つので、大きな喧嘩は起こらない。犯罪も起きない為、もちろん警察などはいない。
そんな平和過ぎる村で事件は起きた。
「ここはどこ?」
私は知らない場所をさまよっていた。旅がしたくて狐の獣人が住む村から飛び出した。新しい世界が知りたくて村を出た当初はワクワクしていたが、孤独でいる事に耐えられなくなってしまった。村に戻ろうと森の中を歩き回り、拓けた場所に出たが故郷とは違う光景が広がっていた。
「誰かいたら聞けるのに」
世界には狐の獣人しかいないのかと諦めかけた時、声をかけられた。
「そこにいるのは誰だ?怪しい動きをしているようだが」
「あ、あの…私は怪しい者ではなくて」
「ん?君は狸の獣人ではないな?何者だ」
「私は狐の獣人のレイラです。あなたは?」
俺は、うつむいた顔をあげて話す彼女の姿に一目惚れした。そこには見た事のない耳としっぽをつけた美しい女性がいた。
「お、俺はヘンリー。狸の獣人の村で村長をしている」
「私、道に迷ってしまって故郷に帰りたいのだけど、分かるかしら?」
「君は『狐』とやら言ったな?残念だが、君のような存在を初めて知ったからどこから来たのか分からない」
「そうよね。私もあなたのような耳としっぽの人は初めて見たわ」
「力になれなくてすまない。腹は減ってないか?よければ取れたての野菜でも食べてくか?」
「ありがとう。湧き水しか飲んでないからお腹がペコペコよ!」
こうして、俺は見ず知らずの狐の獣人を助けた。弱った彼女を放っておくのは性に合わなかったのだ。
「美味しいわ!なんという野菜かしら?」
「人参だ。レイラの故郷にはないのか?」
「見た事ないわ。大根より鮮やかな色ね」
「ダイコン?どんなものだ?」
「ニンジンより太くて真っ白なの。私のしっぽみたいに」
そう言ってレイラは真っ白でふさふさのしっぽを俺に見せてきた。思わず触りたい衝動にかられたが、頭を振って持ちこたえた。
「おいしいのか?」
「食べてみる?」
「え?」
「しっぽが気になるのでしょ?ニンジンをくれたお礼に食べさせてあげる♡」
「俺は『ダイコン』が気になるのであって、しっぽではな…」
「えいっ!」
レイラは俺の顔にしっぽを押し付けてきた。見た目よりふさふさした感触に思わずにやけてしまう。
「ふふ。ベンリーの笑顔が見れたわ♡」
「いや、『ヘンリー』だけど」
「あら失礼。人の名前を覚えるのが苦手なの」
「誰にでも苦手な事はあるから気にしてないよ」
「村人達の名前もよく間違うから怒られるの。『それでも村長か』って」
「君も村長なのか?」
「そうよ。言ってなかった?」
「俺の記憶では『道に迷った狐の獣人のレイラ』しか情報がないのだが」
「あら失礼。言葉が足りなかったわ」
「君の話を聞かせてくれる?」
「ええ。いくらでも話すわ」
彼女から聞いた話をまとめるとこうだ。
狸の獣人の村と似たような『狐の獣人の村』があり、彼女は父の跡を継ぎ、村長をしている。言葉足らずや記憶違いが多く信頼がうすいので、実質副村長(男)が村政を担当しているらしい。居場所を追い出される形で村を出たが、どうせなら楽しい旅にしようとポジティブな気持ちでいた。しかし、村を出た事がなく、方向オンチで途方に暮れていた所を助けられたそうだ。ちなみに治安や野菜の育ちは良いのでその点は変わらない。
「私、ここで暮らしたい。戻れたとしてもきっと同じ目に合うわ」
「狸の獣人達は穏やかだから、君の事も受け入れてくれると思うよ!」
「それなら安心ね」
「子供達を紹介したいから、青空教室に参加してくれる?」
「楽しそうね!あなたが先生なの?」
「子供が好きだし、小学生レベルなら教えられるんだ」
「賢いのね」
週に2回ほど、子供達を集めて授業をしている。親御さん達からも好評である。
「授業を始めるよ。今日は狐のお姉さんも参加してくれるよ!」
「狐の獣人のレイラよ。よろしくね!」
「『きつね』ってなに?」
「私のような耳としっぽを持つ獣人達がいるの」
「まっしろなおみみとしっぽだね!」
「私は白狐だけど、銀狐や赤狐もいるわよ」
「レイラちゃんかわいいね」
「ありがとう。嬉しいわ♡」
「皆落ち着いて!授業をしようね」
「はーい」
「今日は算数の授業だよ。りんごを昨日1つもらいました。今日も別の人から1つもらいました。りんごはいくつかな?」
「2つ!」
「正解だよ。じゃあ、式を書くとどうなるかな?レイラ、やってみて」
「えっと…1+1=田んぼの田!」
コケッ。
「レイラさん?ふざけてる?」
「えっ、違うの?」
「マジですか…。誰かレイラを助けてあげて!」
「僕できるよ! 1+1=2だよ。バカなの?」
「こら、そんな事言ったらだめだよ!謝って」
「だって大人でしょ?なんでできないの」
「算数苦手みたいで…」
「誰にでも苦手な事はあるから、とりあえず謝りなさい」
「…ごめんなさい」
「私こそ、空気悪くしてごめんなさい」
「気にしないで。授業を続けるよ」
「はーい」
なんとか授業を終えたが、空気は重いままだ。子供達を解散させて、俺は尋ねた。
「レイラって天然?」
「天然じゃなくてバカなのよ。根っからの」
「責めてるわけじゃないからね。終わってからも子供達には注意したし」
「ここでも幻滅されたわ…。褒められた事に浮かれてて、できない事を忘れてた」
「青空教室に参加させた俺も悪い。子供達と遊ぶ形にすればよかった」
「それは楽しそうね!」
「今度はそうしようか」
彼女の笑顔が戻ってよかった。疲れただろうからと家に案内した。
「さすが村長の家ね。広いわ!」
「俺の家は代々村長だからそこそこの広さだけど、レイラの家も代々村長でしょ?」
「父は村長だったけど、その前は違うわ。うちは成り上がりだから家は狭いの」
「そっか。嫌な事を聞いてすまない」
「いいのよ。知らない事だから分からなくて当然だもの」
「小粒のいちごがあるのだけど、食べる?甘いと思うよ!」
「ほんと?いちごなら故郷にもあるわ!」
いちごを水で洗ってお皿に盛った。ふと、彼女に聞いてみた。
「今、いちごを1つレイラに渡すね。その後5つをまたレイラに渡したら全部でいくつになる?」
「6つよ!」
「当たり!じゃあ、式に書いたらどうなる?」
「うーん…1+5=いちご!」
コケッ。
「数は分かるけど、式を書くのが苦手なんだね。よし、ドリルを作るから覚えられたらいちごを全部あげよう」
「確かに数はさっきも分かったの。でも、式を書けと言われるとできなかった。練習したらできるようになる?」
「大丈夫。コツをつかめばできるよ!」
俺は10問ほど紙に書いてレイラに渡し、式の書き方を教えた。
「問題文の答えは分かるね?」
「3よ」
「そしたら、初めの数が1、次の数が2、答えが3だから1+2=3と書けばいいんだよ」
「なるほど。簡単ね!」
「他の問題も同じ考え方で書くとできるよ」
「やってみる!」
無事に全問正解できたので、ごほうびのいちごをゲットした。
「わがまま言っていい?」
「何かな?」
「食べさせて欲しい♡」
「恥ずかしいな…」
「食べさせてくれるまで口を開けちゃうから」
「…俺の負けだ。どうぞ」
「うふふ♡甘くておいしい!」
俺は全てを手渡しで食べさせようと最後のいちごを渡した。その直後、レイラが俺の顔を掴んだ。
「!?」
「んー♡」
「むぐっ」
「口移し成功♡おいしい?」
「…お、いしいけど心臓に悪いよ」
「ヘンリーは1つも食べてないでしょ?あげたかったの」
「その気持ちはとても嬉しいけど、普通に食べたかった」
「カップルはこうやって食べるのよ♡」
「え?まだ恋人じゃないよね。付き合ってたの?」
「あら失礼。勘違いしてたわ。私、ヘンリーが好きなの!付き合ってくれる?」
「俺も君に一目惚れしたんだ。抜けてる所がかわいいし、守りたいと思った」
「嬉しい!これで正式なカップルね♡」
そう言ってレイラは僕にキスをした。いちごなんかより全然甘かった…。
その後もレイラは事あるごとにスキンシップを取ってきた。
「スリスリスリスリ〜♡」
「いつまでそうしてるの?お顔がすり切れちゃうよ」
「もしかして、嫌だった?」
「嫌じゃないけど飽きないのかなって」
「好きな人の肌を感じたいのよ。もちもちのほっぺがたまらない♡」
「喜んでくれてるならいっか」
数日後、この日は子供達と遊ぶ約束をしていた。
「村長、今日はレイラお姉ちゃんも一緒なんだね!」
「そうだよ。仲良くしてくれたら嬉しいな♡」
「鬼ごっこしようぜ!レイラは鬼な」
「走るのは得意よ!どんどん捕まえちゃうわ」
「スタート!」
合図と共に皆で走り出す。得意なだけあって、レイラは次々と子供達をタッチしていく。俺は運動が苦手だからすぐに捕まってしまったけど。
「バカレイラは僕を捕まえられるかな?」
「こないだの子ね。かかってきなさい!」
「鬼さん、鬼さんこっちまでおいで!」
彼は全速力で走り、高い木に登った。
「危ないから降りて来なさい」
「やーだよーww」
「はぁ、はぁ…速いのね」
「どうせ登れな…うわっ!」
足を滑らせて落ちかけた時、レイラが素早く木に登って彼を助けた。
「無茶しちゃだめよ!ケガしたらどうするの?」
「うわーん。怖かったよー!!」
「レイラありがとう。俺では助けられなくて」
「いいのよ。これくらいしかできないから」
「ほら、助けてくれたのだからお礼を言いなさい」
「あ、ありがとう。それと、バカって言ってごめんなさい」
「許してあげるわ。これからは気をつけるのよ」
「うん!」
鬼ごっこの後は、休憩を兼ねて皆でシロツメクサの花冠を作っていた。
「おねいちゃん、どうやってつくるの?」
「ここを持ちながら編むと簡単にできるわよ」
「すごーい!きようだね」
「ほら、被せてあげるわ」
「ありがとう」
「じゃあ、君の分は俺が作ろう」
「あら、ヘンリーもできるのね!」
「どうぞ…うん、きれいだ」
「ふふ♡作ってくれたお礼よ」
レイラがほっぺにキスをしてきたので、子供達からからかわれた。
「ヒュー♪」
「レイラちゃん大胆だね!」
「村長はしてあげないの?」
「恥ずかしい思いをさせてごめ…」
「もう恥ずかしくないよ。俺だって、君が愛しいから」
口にキスをしたら、レイラは顔を真っ赤にしていた。どうやら相手から迫られるのに弱いみたいだ。
子供達と別れた後、2人で庭の野菜を収穫した。晩ご飯を天ぷらにする為だ。
「それっておいしいの?」
「これは『かき揚げ』って言って、色んな野菜の旨味とサクサク食感が楽しくて俺は好きだよ」
「カラフルな見た目でおいしそう!」
「揚げたては熱いから気を付けてね」
「はふっ。おいしい♡」
「気に入ってくれてなにより。レイラの故郷の味ってある?」
「『油揚げ』よ。大豆から作るのだけど、板みたいにぺらぺらだから、甘い出汁で煮ると味がしみておいしいのよ!」
「大豆はここでも育てているから作り方を教えてくれれば再現できると思う」
「ほんと?ちょうど故郷の味が恋しかったから食べたいわ」
「楽しみが増えたね!」
「ええ」
レイラが狸の村になじんでいる事が嬉しかった。もし、逆の立場だったら俺は狐の村から孤立していたに違いない。
他愛のない話をしたり、スキンシップを取ったりしていたら気付けば夜になっていた。
突然、戸を叩く音が聞こえた。俺は警戒しながら戸に近づいた。
「誰だ?」
「夜分遅くにすみません。私は狐の村の前村長を務めていたジャックですが、そちらで娘を預かっていると聞いたもので」
レイラの父が訪ねて来たと分かり、戸を開けた。
「ええ、レイラさんがこちらに迷われてきた為かくまっています。俺は村長のヘンリーと申します」
「娘が迷惑をかけているだろう。すまなかった。明日連れて帰る」
「パパ!?どうしてここにいるの?私は帰らないわ!」
「レイラがいなくなった日に私も追いかけたのだが、道に迷って迎えに来るのが遅くなった」
(方向オンチは父譲りだったんだ…)
「その間どうやって過ごしていたのですか?」
「昔からアウトドア派でな。サバイバル術には長けているから食べ物を探したり、雨風をしのげる小屋を建てながら移動したんだ」
(体力があるのも同じだ…)
「私はヘンリーが好きなの!付き合っているの♡」
「何!?異種同士で付き合っているだと?」
「信じられないかもしれませんが、俺達は恋人同士です」
「レイラ、お前には許婚がいる。どこの狸の骨だか分からない男とは別れなさい」
「許婚なんて初めて聞いたし、彼は私を助けてくれた優しき村長よ!」
「許婚の相手は誰ですか?」
「副村長だ」
「あいつは1人でいるのが好きな変わり者よ!」
「そうなのか?女好きに見えたが」
(これ、どっちが合ってるの?)
「仕事だと女相手でも平気だけど、終わった途端に逃げ出してるわ」
「そうだったのか。知らなかった…」
「じゃあ、許婚の件は解消でよろしいでしょうか?」
「他の狐を充てるだけだ。もちろん狸は論外だ」
「どうして…どうして分かってくれないの?」
パンッ!
レイラが父にビンタした。驚く俺と父。しばらくの沈黙が続く中、レイラが口を開いた。
「帰って!金輪際、関わらないで!!」
「分からず屋はお前だ。もう知らん」
そう言い残した父は戸を乱暴に開け、出ていった。その衝撃で戸が壊れた。
(…弁償してくれませんかね?)
「パパが色々ごめんなさい。来るなんて思わなかった…」
「誰にも予想できなかったから気にしないで」
「今から修理用の木を取ってくるわ」
「迷子になるからやめて」
「忘れてた。明日にするわね」
「寒いよね。一緒にお風呂に入ろうか」
「嬉しい♡」
いつもは別々にお風呂に入るのだが、彼女の精神状態が不安な為に2人で入る事にした。
「ある意味パパが来てラッキーだったかも」
「俺にとっては不運でしかないよ。今だって理性と戦っているんだ」
「別々に入っている理由ってそれ?私が魅力的だから?」
「そうだよ。でも、戸が壊れていてはゆっくりできないから早めに上がろうね」
「残念…」
お風呂をさっと済ませた僕らは寝床についた。すきま風が吹く中、抱きしめ合って眠った…。
翌日。目が覚めた俺は、レイラを起こした。
「レイラ、朝だよ。起きて!」
「…パパ、ひどいよ」
「レイラ…」
どうやら夢を見ているようだ。涙がこぼれた跡があり、俺は思わず彼女の目元にキスをしてそっと頭をなでた。
「ん…ヘンリー?」
「レイラ、おはよう。怖い夢を見たの?」
「パパがここに来て私を連れて帰る夢を見たの。そして知らない狐と結婚させるのよ」
「それは辛かったね…。夢でよかった」
「そうよ。これはただの夢なのになんで泣いてんだろ」
「おいしい空気を吸いに森へ行かない?」
「いいわね!ぜひ行きたいわ」
斧など木を切る道具と、朝食のおにぎりを持った俺達は森へと出かけた。森の澄んだ空気の中で食事をすれば、彼女の気分転換になると思ったからだ。
「この辺でいいかな。なるべく平らな所で食べた方がいいから」
「朝の森は涼しいわね!リフレッシュできそう」
「それはよかった。朝ご飯食べようか」
「そうね。私これにするわ」
「大き目だけど、交換する?」
「このくらい食べなきゃ元気でないから!」
(それ、レイラの顔くらいあるよね)
「酸っぱーい!梅干し入れすぎたかしら?」
「あはは!レイラには酸っぱ過ぎたみたいだね」
「ヘンリーは平気そうね」
「いつも食べてるから大丈夫なんだよ」
楽しく朝食を食べた後、戸を直す板を確保する為の木を斧で切っていた。
「2人でやれば早いわね!」
「手際がよくて助かるよ」
「ありがとう。力仕事には自信あるの!」
無事に木を切り終えた後は運びやすいサイズに整えていく。大きな木を切った為、修理するのに充分な量を手に入れる事ができた。
「帰ろうか。重い方は俺が持つから貸して!」
「ええ、助かるわ」
俺達は歌を歌いながら、森から帰路に着いた。
休憩後、確保した板で戸を手際よく直していく。スムーズな開閉ができる事を確認した俺は、彼女にとあるプレゼントをする為の計画を立てていた。
「頑丈になったようね!」
「また壊れたらたまったもんじゃないからさ」
「そうね。穴が開いていたら、イチャイチャできないもの」
「それはさておき、レイラはまだ体力残ってる?子供達と遊んでいて欲しいのだけど」
「無茶したでしょう?わざわざ重い方を持って息を切らしていたのを知ってるわよ」
「ばれてた。俺は少し休むよ」
「お疲れさま。私は彼らと遊んで来るから、ゆっくり休んでね♡」
レイラと別れた俺は、余った板の破片を使って『あるもの』を作った。彼女に喜んで欲しいな!
彼女が帰って来るのを待っている間、うたた寝をしていた。外が騒がしく感じた為、家を飛び出した。
「村長!大変です。レイラのような狐の獣人達がこちらへ来ています!」
「なんだって?レイラは無事か?」
「子供達と隠れているようです」
「分かった。すぐ行く!」
俺は気が気じゃなかった。さっきまでの浮かれた気分を切り替えてレイラを探した。
「レイラ!どこにいる?」
「そんちょー!レイラちゃんはわたしたちといっしょだよ」
レイラの無事を伝えに来た子供と共に彼女の元へ走った。
「ヘンリーが来たわ。もう大丈夫よ!」
「うん。お姉ちゃんありがと!」
「レイラ!君が無事でよかった。1人にさせてすまない」
「いいのよ。子供達と遊ぶのは楽しかったから」
「今、何が起きている?森の方から煙が立っているようだし、狐の獣人達がこちらに来ていると聞いたが」
「故郷の方で山火事が起きたのかもしれないわ。狐の獣人達が『火事だー!』って言いながら走って来るのが見えて、慌ててこの子達と影に隠れたのよ」
「そうか。子供達を守ってくれて助かった」
彼女や子供達の無事を確かめ合っていると、男が声をかけてきた。
「狸の村長はおらぬか?話を聞いて欲しいのだが」
「ジャ、ジャックさん。どうされましたか?」
(会うのは気まずいな…。てか、副村長はどうしたんだろ)
「ヘンリー、探したぞ。うちの山で火事が起きて皆で逃げてきた。申し訳ないが、村人をかくまってくれないか?前村長としてこの通り頼みたい!」
「頭を上げてください。話は分かりました。ただし、条件が1つあります」
「なんだね?」
「娘さんを俺にください!狸と狐が仲良く暮らすには異種同士の結婚は必須です。その先駆けとして俺とレイラの結婚を認めてください」
「わ、分かった。確かに君の言う事には一理ある。それで村人の命が救われるのなら、2人の結婚を認めたい」
「パパ、やっと分かってくれたのね!『関わらないで』なんて言ってごめんなさい」
「私は、狐と狸が上手くやれるわけがないと思っていた。しかし、狸の獣人達は見ず知らずの私達を快く受け入れてくれた。その気持ちに感謝したい」
「ところで、あいつはどうしたのよ。前村長のパパが村人の居場所の確保を頼みに来るのはおかしいじゃない」
「副村長は山火事を知らせに村中を走り回って転び、腕を骨折したんだ。仲間と共にじきに来るだろう」
「それは大変でしたね。お大事にとお伝えください」
「あいつはそういう奴よ。心配して損した」
(不憫な人だな。仕事はできるんだろうけど)
「唐突で申し訳ありませんが、ジャックさん、狐の獣人をできるだけこの広場に集めてもらえませんか?」
「もちろん構わないとも」
「君はここで待ってて。狸の獣人達を連れてくるから」
俺は家に置いてきた『あるもの』を取りに向かった後、狸の獣人達を広場に集める為奔走した。息を切らしながら広場へ戻ると既に狸と狐の獣人達で賑わっていた。俺はプロポーズする為に膝をついた。
「レイラ、遅くなってごめん。こんなつもりじゃなかったけど、結婚してくれないか?」
俺はポケットから木製の指輪を取り出した。
「嬉しい♡もちろん、答えはOKよ!」
答えを聞いた俺は、彼女の左薬指に指輪をはめた。
「俺の手作りで悪いけど大丈夫か?」
「いつ作ったの?よくできてるわ!サイズもぴったり♡」
「君が子供達と遊んでいる間に、戸の修理で余った板をくり抜いて作ったんだ」
喜ぶ彼女を抱き上げ、キスをした。周りからは祝福の声や口笛が鳴り響いた。
「ヒュー♪」
「おめでとう!」
「末永くお幸せに」
俺は、これからの村人達の生活について説明する為、声を上げた。
「皆の者、賑やかな所に申し訳ないが聞いてくれないか? 此度の山火事により、狐の獣人達は故郷を失った。俺は狸の村の村長として彼らを見過ごす事はできない。よって狸と狐が共存する村にしようと考えた。その名も『たぬきつね村』だ!」
(ヘンリー、そのネーミングセンスはどうかと思うわよ)
「それと、これからの狸と狐の人口バランスを考え、異種同士の結婚を義務付ける!」
(表向きは皆祝福しているようだけど、狐である私と結婚する事に対して不満を感じる人もいるだろうから、それをさけたいのは分かる。でも、苦しい言い訳に聞こえるのは何故かしら)
「何も義務にせんでもいいだろう。レイラはすぐになじめたようだが、他の狐は分からんぞ」
「お試しでもいいから異種同士で付き合ってくれないか?お互いの良さが分かるはずだ」
「そこまで言うなら狐の女と付き合ってみたいかもしれないな」
「狸の男性は優しいのかしら?」
(なんだかんだ素直でよかったわね)
こうして無事に結婚できた俺達は将来の事について話し合っていた。
「レイラは子供が欲しい?」
「ええ、もちろん!赤ちゃんは特別かわいいわよ♡」
「俺も欲しいけど、狸と狐をかけ合わせたらどんな『ハーフ』が産まれるのか気になるな」
「前代未聞よね!どうなるのか試してみましょうよ」
「じゃあ、今夜辺りどう?」
「喜んで♡」
気付けば朝になっていた。俺は窓から差し込む日の光に目を細めた。
「…朝?」
「そうだよ、レイラ。体は大丈夫?」
「ええ、平気よ。今からでもできるわよ♡」
「休んだ方がいいよ。俺は逃げないから」
「どこへ行くの?温もりが冷めちゃうわ」
「朝ご飯の準備だよ。お腹空いたでしょ?」
「じゃあ、ご飯食べたら続きをしてくれる?」
「…分かったよ。今はとりあえず休まなきゃダメ!」
「はーい」
レイラは底なしの体力があるようだ。俺の方がバテてしまうくらい、色んな意味ですごかった…。
あくる日、レイラは出産した。妊娠中もとても元気なのはよかった。激闘を耐え抜いた母子を労いつつも、俺は疑問を感じていた。
「この子、どう見ても狸だよね?」
「そうよ。あなたそっくりの狸ちゃんじゃない!かわいい♡」
「もちろんどんな子でもかわいいのは確かだけど…」
産まれたのは狸の女の子で、狐であるレイラの要素はどこにもなかった…。
村人からは祝福を受けたが、皆不思議そうにしていた。狸と狐のハーフが狸そのものだとは思わなかっただろう。
「体が回復したばかりで悪いんだけどさ、2人目って考えられる?」
「もちろん、弟か妹がいた方がこの子も寂しくなくていいわね!」
レイラから同意を得て、2人目がどうなるのか試した。結果としては狐そのものの男の子。その後、何度か子供を作ったが、産まれるのは全て狸か狐そのものだった。
村人達もこの事実が信じられず次々と結婚して試したが、結果は全て同じだった。これが長きに渡る『掟』の始まり。
完
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