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さよならのそのさきで・・・   作者: mikioneko


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第2話 気のせい?

第2話です。


前回の投稿でなにかミスをしてしまったようで、一回きりのお話みたいになってしまいました。

このお話は全3話です。


  第2話


「にんじんは星形にしてみようかな・・・」

 玲奈がふざけた声で包丁を握ると、和也が笑いながら後ろからそっと腕をまわしてきた。

「星形って・・・小学生の遠足じゃないんだから」

「うるさいなぁ可愛いは正義なんですぅ~」

「はいはい、玲奈さんが一番可愛いですよ」

「知ってる・・・」

 玲奈がちょっと得意げに笑うと、和也がぷっと吹き出して、首筋に軽くキスをする。

「ちょっ・・・!」

「照れ方がまた可愛いんだよなぁ~」

「うるさい、包丁持ってるからね?」

 ふざけあいながらキッチンンに二人の笑い声が弾む。

 カレーの匂いが部屋に広がって、玲奈はなんだか夢の中みたいな気分になった。


 日曜の昼下がり、和也の部屋で過ごしていた。

 ワインで乾杯し、出来上がったカレーを食べていた。




「もう、また寝てる・・・」

 和也が横を見ると、ソファで寄りかかった玲奈がスウスウと寝息を立てていた。


 食事の後、二人で海外ドラマを見ながらツッコみあっていたのに。

 玲奈のまつ毛は揺れもせず、穏やかな寝顔をしている。


 和也はそっとブランケットを掛け、髪を耳にかけてやった。

「安心してくれてるってことだよな」

 その寝顔にそっとキスをする。

「好きだよ、玲奈」

 その声に応えるように、玲奈が微かに身じろぎした。

 その仕草すら愛おしくてたまらなかった。




 仕事終わりのある日、妹の茜と買い物に来ていた。

 妹は大学生でネット配信をしている。

 かなりの人気者らしく、登録者は数百万人もいるとか。


 一緒に街を歩いていると、よく声を掛けられた。

「いつも見てますよ」などと言われると、やはり茜は有名人なんだと実感させられる。

 姉としては嬉しい限りだ。

 買い物を済ませカフェでお茶をしていると、ここでも声を掛けられた。

 声を掛けられるたびに茜はニコっとして「ありがとう♪」と返していた。


「ねえ茜、ちょっと話がるんだけど・・・」

「ん?なに?」

 スマホを見ていた彼女は顔を上げた。

「じつは・・・わたし・・・結婚を前提にした人がいるの・・・」

「えっ?えぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「ちょっと!そんな大きな声出さないでよ!」

 周りの客たちが一斉にこっちを見ていた。

 すいません・・・とペコリとした。


「ちょっとお姉ちゃん!それホンマ?」

「うん・・・」

「そうかぁ・・・結婚かぁ・・・」

「いや、今すぐって訳じゃないよ?まだ先だし」

「そうだった・・・」

 そういいながら紅茶をすすった。


 彼との出会いからこれまでの事を、茜には包み隠さずに話した。

 私の話を真剣に聞いてくれた茜は「へぇ~なんか、良さそうな人だね」と笑顔で言ってくれた。

 そのうち親にも紹介しようと思っていると伝えると「それがいい!」と言ってくれた。



 それから数日後、和也と会った。

 待ち合わせの場所は、前にも一緒に訪れたお気に入りの小さな公園だった。

「寒くなって来たね」

 ベンチに座りながら、和也がマフラーを巻き直してくれた。

 その手の温もりに、思わず心までほころぶ。

「うん、でも・・・それ以上になんかぽかぽかする」

「それ俺のマフラーのせい?」

「違う。和也のせい」

 ちょっと照れながらそう言うと、和也は驚いたように目を瞬かせて、それからふっと優しく笑った。

「それ今までで一番うれしい言葉かも」

「ふふ、そんなことで?」

「そんなことじゃない。俺にとっては、すごく特別」

 穏やかな声が胸に響いた。


 この人と過ごす時間は、いつも優しくて安心できて、どこか夢みたいで・・・。

「ねえ玲奈さん」

 和也がまっすぐにこちらを見た。

 その眼差しがいつもより少しだけ真剣で、どきりと胸が跳ねる。

「うん?」

「いつかちゃんと玲奈さんのご家族にも会わせてください」

 その言葉に、思わず息を飲んだ。

 そうだ・・・まだ家族には彼のことを話していなかった。

 妹の茜にしか話していない。

「・・・うん、そうだね。ちゃんと紹介しなきゃだね」

 それはうれしいはずなのに、胸の奥で何かが渦を巻きざわめいた。



 家に帰ると茜も帰っていた。

「茜、ちょっといい?」

 茜の部屋を開けるとネット配信の編集作業をしていた。

「なに?」

「えっとね・・・彼のことでちょっと話があるのよ」

「うんいいよ、なに惚気?」

 ハハハと言いながらコーヒーを飲み、私の方に向いた。


「それで、話ってなに?」

 彼から言われたことと、近いうちに両親にも紹介することを話した。ただし、ふいに浮かんだ違和感の事は黙っていた。心配させたく無かったからだ。

「なるほどぉ・・・よかったね。ちゃんと挨拶に来るんだぁ」

 茜はそう言って、ふふっと柔らかく笑った。

「てっきりお姉ちゃん、こっそり結婚して勝手に海外とか行っちゃうタイプかと思ってたわ」

「そんなわけないでしょ!」

 玲奈は苦笑いしながら、でも内心で「どうして私は今まで茜に彼の事をちゃんと話してこなかったんだろう」とふと考える。


 今こうして何でもないように話しているけれど、これまで一度も彼と茜を会わせようとすらしてこなかった。

 その理由が“タイミングの問題”だけでは無かったような気がして、ほんの少しだけ胸がざわつく

「茜はどう思う?彼の話を聞いて」

「う~ん、ええ人そうやん。まじめでちゃんとしてて、なんかお姉ちゃんに合ってるって感じするし」、

 茜はそう言って、ぽんっと玲奈の肩を叩いた。

「わたしも早く会いたいな。どんな人か直接見てみたいし」

「・・・うん」

 玲奈は小さく頷いた。

 けれどその心の奥では、さっき感じたあのふいに浮かんだ違和感が、まるで遠くで鳴るかすかな警鐘のように静かに響き続けていた。



 週末。

 夕暮れ時の公園は、オレンジ色の光に包まれていた。

 木々の間からこぼれる陽射しが、ふたりの影を長く伸ばしている。

「今日はちょっと歩きすぎたね」

 玲奈がそう言うと、和也は隣で苦笑いを浮かべた。

「ちゃんと休憩のタイミングを考えなかったの、俺のミスだな、ごめんね」

「ううん、楽しかったよ」

 玲奈はベンチに腰を下ろしながら、彼の手をそっと握った。

 その手は変わらずあたたかくて、優しくて包み込むような力があった。

「ねえ、和也」

「うん?」

「わたしね、最近すごく幸せなの」

「・・・俺もだよ」


 二人の視線が重なる。

 風が頬を撫で、どこか遠くで子供たちの笑い声が聞こえた。

「そろそろさ・・・」

 和也がポツリと呟いた。

「玲奈のご両親にちゃんとご挨拶に行こうと思ってるんだ」

 玲奈の胸がきゅっと締め付けられるように高鳴った。


 ――嬉しい。そう思ったはずなのに、なぜか一瞬、心のどこかがざわついた。


「・・・ちょっと待ってもらっていい?」

 玲奈はそう言いながら、何とか笑顔を作った。

「まだ心の準備ができてなくて・・・ごめんね」

「ううん全然。急ぐつもりはないから。玲奈がいいタイミングで言ってくれたら、それでいいよ」

 和也の声は変わらず優しくて穏やかだった。

 でもその時だった。


 ふと玲奈が顔を伏せた瞬間。

 ベンチに座る二人を、遠くからじっと見つめる視線に気づいた。

 反射的に顔を上げる。

 でもそこには誰もいなかった。

 木々が揺れ、風が吹き抜けるだけ。


「どうかした?」

「ううん、なんでもない」

 笑顔を浮かべながら、玲奈は再び和也の手を握った。

 その温かさを確かめるように、ぎゅっと指を絡める。


 あの時感じた違和感は、ただの気のせいだったとそう信じたかった。


今回もお読みいただきありがとうございます。

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