第35話 薄れゆく前の世界の記憶
私は、しばらくアイテムボックスを眺めていた。
醤油、お酢、お酒、味醂。
どれも順調に仕上がってきている。
養殖場も問題なし。
これが全部揃ったら、アイテムボックスに入れて、
少しだけミランダさんにも分けてあげよう。
和食でお礼しなきゃね。
……地形変更は使うなって、みんながうるさいから。
迎えに来てもらうしかないわ。
楽しみ。
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「ねぇ、カイル〜。見て見て〜」
「……なんだそれ?」
(最近ちょっと冷たいのよね)
「はぁ〜?アイテムボックスよ!」
「なに!?」
「本当か!?どこで手に入れた!」
「深淵のダンジョンだけど?」
「……行ったのか」
カイルは一瞬黙ってから、私の肩を掴んだ。
「無事なんだな?怪我は?」
「大丈夫だってば」
「……そうか」
少しだけ、安心した顔をした。
「これで地面交換と組み合わせたら、
各地の食材、簡単に集められるわよ」
「その時は、俺もついていく」
……うん。ありがとう。
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報告も終わって、私は部屋に戻った。
メモをしなきゃ。
今、残っている前の世界の記憶。
母……父……
顔が思い出せない。名前も、出てこない。
祖母の料理は覚えてる。
醤油、味噌、自家製だった。
魚の捌き方、出汁の取り方。
共働きの両親で、
私は祖母に育てられた。
……これは覚えてる。
メモ、メモ。
友達は……
百人くらいいたはずなのに。
誰一人、顔が浮かばない。
おかしいな。
ミランダさん、頭良さそうだった。
私も偏差値55くらいはあったはずなのに。
知力Fって何なのよ。
あとで教会、行こう。
部活……してたよね。
運動は全部ダメだった。
……美術部だ。
風景画が得意だった。
これもメモ。
McDonaldのハンバーガー食べたい。
……これ、思い出すとちょっと辛い。
でも、書いとこ。
家は日本家屋だった。
古いけど広くて、太い柱と梁。
和室があって、障子に穴を開けて怒られた。
いっぱい、書いた。
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「……よし。教会行こ」
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「神父さ〜ん、いますか〜?」
「おや、エミリア殿。今日はどうされましたかな?」
「また、ステータス見てほしいの。
知力Fが納得いかなくて」
「……わかりました。こちらへ」
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【基礎ステータス】
レベル:2
体力 F
敏捷 E
魔力 S → SS
知力 F
魅力 A → S
【保有スキル】
・魅惑の笑顔 A
【固有スキル】
・土魔法 SSS
【派生スキル】
・ゴーレム召喚(Lv3)
・地面交換
・岩盤障壁
・岩盤浴
・地形変更
・最強震度
(……これ、絶対やばいやつ)
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「ねぇ、神父さん」
「なんでしょう?」
「上がってるのもあるから良いんだけどさ」
「なんで私の知力、Fなの?」
神父は一瞬、言葉に詰まった。
(……“Fだからです”とは言えませんな……)
「いえ……そればかりは、神の御心としか……」
「……ふーん」
私は少しだけ、むくれた。
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でも。
記憶は、書けば残る。
私は、忘れない。
そう、決めた。




