第3話 人はどこにいるの?
「……南って言ってたよね」
私は森の中で、ぐるっと周囲を見回した。
「ってことは……」
少し考えてから、ゴーレムたちを見る。
「北に行けば、人がいる?」
「わー!」
「わーわー!」
全力の肯定だった。
「……だよね」
私は自分の足元を見た。
スリッパ。
ふわふわの、完全に室内用。
「……きついけど」
苦笑して、一歩踏み出す。
「行ってみるしか、ないよね」
⸻
歩き始めて、すぐだった。
「……あ」
地面、でこぼこ。
枝、石、草。
「足、痛い……」
その時。
「アイテム〜」
一体のゴーレムが、ぴしっと指をさした。
「……アイテム?」
その先にあったのは――
「……ベッド?」
さっきまで寝ていた、あのベッド。
「でも、これ……持っていけないよ?」
重いし、邪魔だし。
すると、そのゴーレムが、胸を張って一言。
「しゅうのう〜」
「……え?」
次の瞬間。
ゴーレムがベッドに触れた。
――すうっ。
消えた。
「……えぇぇぇ!?」
思わず声が裏返る。
「え、消えた!?
どこ行ったの!?
盗まれた!?」
「だいじょうぶ〜」
別のゴーレムが、ぽんぽんと地面を叩く。
「また、だせる〜」
「……それって」
私はごくりと息を飲んだ。
「収納、スキル……?」
「わー!」
即答だった。
「……すごい」
思わず、そのゴーレムの頭を撫でる。
「君、すごすぎない?」
ゴーレムは、誇らしげに震えた。
⸻
どれくらい歩いただろう。
「……多分、二キロくらい?」
足が、限界だった。
「疲れた……」
お腹も鳴る。
「……お腹すいた……」
その声を聞いた瞬間。
「わー!」
ゴーレムたちが、一斉に走り出した。
「え、ちょっと待って!」
また置いていかれた――と思ったけれど。
すぐに戻ってきた。
木の実。
山菜。
果物。
「……すご」
その中に、赤い果物があった。
林檎と梨を混ぜたような形。
「……食べられる?」
「だいじょうぶ〜」
一口、かじる。
「……おいしい!」
しゃりっとして、甘くて、少し酸味。
「これ、好き」
「わーわー!」
ゴーレムたちも嬉しそうだった。
少し元気は出た。
でも――
「……もう、歩けない」
スリッパの底は、完全に限界。
その時だった。
ゴーレムたちが、私を囲む。
「え?」
次の瞬間。
ふわっ。
「――きゃあああ!?」
体が浮いた。
「ちょっと!?
ちょっと待って!?
低い!低いけど怖い!!」
地上、約三十センチ。
ゴーレムたちは私を担いだまま、進み始める。
「止まってー!!」
完全無視だった。
半泣きのまま運ばれた先――
⸻
森が、途切れた。
木々の向こう。
石の道。
屋根。
人の気配。
「……街?」
少し先に、確かに街らしきものが見える。
ゴーレムたちが、そっと私を下ろした。
「……ありがとう」
膝が、まだ笑っている。
でも。
「……人がいる」
私は、深く息を吸った。
異世界。
森。
ゴーレム百体。
そして――
ようやく、スタート地点。
「……行ってみようか」
ゴーレムたちが、嬉しそうに揺れた。
⸻
こうして私は、
スリッパ姿のまま、
異世界の街へ足を踏み出した。
……この先、どうなるかも知らずに。
――つづく。




