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第25話 お刺身が食べたいの!

最近どうも、太ってきた気がする。


 


最初の頃、女将に買ってもらった服は、

もう全部着られない。


 


特に――

お胸とか、お尻とか。


 


キツい。


 


メジャーもない。

体重計もない。

鏡までない。


 


この世界、無い無い尽くしなのよね。


 


全部、お肉のせいだわ。


 


だって前は、魚も食べてたもん。

刺身もあったもん。


 


……海はどこよ。


 


「刺身、食べたい……」


 


 


カイルはどこかしら。


(もはや呼び捨てである)


 


「あ、いたわ!カイル!」


 


「ねぇ。魚が食べたいの。海の近くの街に行きたいんだけど、連れて行って!」


 


「海の街?」


カイルは眉をひそめた。


 


「ここからだと馬車で二日はかかるな。無理だ」


 


「地面交換で行けばいいじゃん」


 


「……それ、何人かで行けるのか?」


 


「多分大丈夫だよ!」


 


「“多分”か!?」


 


「練習しようよ!副団長なんでしょ?早く来て!」


 


 



 


草原。


 


「なぁ……念のため聞くけど」


 


カイルが、真剣な顔で言う。


 


「俺の腕とか、千切れたりしないよな?」


 


「うーん。わかんないけど」


 


「でもね。千切れたとしても、100号がくっつけられるって言ってたし」


 


「ちょっと待ってくれ!!」


 


「なによもう!」


 


「一応、魔法かけとく!」


 


カイルは深呼吸して、


 


「身体強化!魔法耐性!」


 


「……よし」


 


「何で足震えてるのよ」


 


「知らねぇよ!」


 


(出世してから、やけに馴れ馴れしいわね。まぁいいけど)


 


 


「いくわよ!」


 


「ああ!!」


 


 


(イメージよ。

 二人分の地面を交換する。

 交換する地面も、二人分)


 


 


「地面交換!」


 


 


一瞬、視界が揺れた。


 


 


「……できた!」


 


 


「おお……!」


 


カイルが周囲を見渡す。


 


「街が、あんな遠くに……」


 


「前はこれに感動して、連発して使ったの」


 


「そしたら、現在地が分からなくなった」


 


「……わかってくれる?」


 


 


「……ああ」


 


カイルは少し気まずそうに言った。


 


「その時は怒って悪かった。でもな、一言言ってくれたら、夜中まで探さなくて済んだんだ」


 


「わかったって!」


 


「じゃあ、海の街に行こう!」


 


 



 


翌朝。


 


「全員揃ったな」


 


「じゃあ、みんな手を繋いでください。行きますよ」


 


 


「地面交換!」


 


 


南の森の近くに出た。


 


この森を抜ければ、南の街カレアンヌらしい。


 


 


「見えない場所は、地面交換できないのよね」


 


「道はあるけど……こまめにやるの、めんどくさいなぁ」


 


 


「ねぇ」


 


「やったことないんだけど、“地形変更”ってスキルがあるの」


 


「使っていい?」


 


 


「……ここなら被害も出ないだろう」


 


カイルは少し考えてから言った。


 


「あまり魔力を込めるなよ」


 


「はーい」


 


 


「まっすぐな道。まっすぐな道」


 


(魔法はイメージ……)


 


 


「地形変更!」


 


 


――次の瞬間。


 


馬車で一日かかる距離の森に、

一本の、完全に平坦な道が出現した。


 


 


「「「……は?」」」


 


 


一同、絶句。


 


私もだけど。


 


 


カイルは、ゆっくりと言った。


 


「……うん。すごいな」


 


「もう、そのスキルは、あまり使わないでくれ」


 


 


「はーい」


 


 


「じゃあ行くわね」


 


 


地面交換。

地面交換。


 


 


わずか二十分ほどで、南の街カレアンヌに到着した。


 


ほとんどの時間は、雑談だった気がする。


 


(……これは、どう報告しよう)


 


カイルは、遠い目をしていた。


 


 



 


市場には、魚が大量に並んでいた。


 


鮮度も良さそう。


 


私は一尾買って、

その場で捌いて、生で食べてみる。


 


 


「……美味しい」


 


 


でも。


 


 


「醤油……」


 


 


それだけが、足りなかった。

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