第10話 女神エミリアの護衛ですよ
翌日。
宿屋の扉が、朝からやけに重々しく開いた。
「失礼する」
入ってきたのは、騎士だった。
金髪。
背は高く、鎧の着こなしも様になっている。
「私は、王国中央部隊・第三騎士団所属
二番隊隊長――
疾風のカイルと申します」
……嫌な予感がする。
「本日より、王国命令により
女神エミリア様の護衛任務につきます」
え?
「女将殿。
可能であれば、一室ご用意いただけますか」
女将が一瞬だけ私を見る。
「……ああ、空いてる部屋はあるわよ」
ちょっと待って。
護衛?
女神?
私は庶民の高校生なんだけど。
昨日まで制服着てたんだけど。
卒業したけど。
(……とりあえず)
私は、そっと隙間から騎士を覗いた。
……まぁ。
悪くは、ない。
って!
「そういう問題じゃないわよ!!」
私は心の中で叫んだ。
(断るのよ、エミリア!
庶民として生きるのよ!)
女将に呼ばれた。
「この人が、今日からあんたの護衛なんだって」
「王国命令だからね」
「……はい。わかりました」
(断われ。
断われ。
今ならまだ……)
断れなかった。
それから数日。
特に問題は、なかった。
カイルは常に少し離れた場所に立ち、
無駄に近づいてこない。
部下が二人。
どちらも、それなりに強そう。
(金髪のイケメンね……)
いや、違う。
(私を護衛して、何になるのよ)
意味、ないのに。
今日は、久しぶりの休みだった。
「買い物、行こうかな」
最近、服が少しきつい。
……決して太ってはいない。
この世界、悪くないところが一つある。
服が、わりと日本に近い。
少し古い感じはあるけど、
ちゃんと可愛い。
――その頃。
◆ カイル視点 ◆
「ベッセル!」
「はっ!」
「お前は先回りして、
あの服屋の向こうを警戒しろ」
「ガゼル!
ここを押さえろ」
「俺は、反対側の通りだ」
「絶対に、見逃すなよ」
……護衛対象は、ただの買い物中だ。
だが油断はできない。
◆ エミリア視点 ◆
「あ、これ……かわいいかも」
「すいません。
これください」
よかった。
ちゃんと気に入るのがあった。
次は――
(最近噂のケーキ屋さん、行ってみようかな)
別に太ってるわけじゃないし。
「……美味しい」
「すいません!
おかわりください!」
気がつくと、
街の建物がオレンジ色に染まり始めていた。
「あ……もうこんな時間」
そろそろ、帰ろう。
◆ 再びカイル ◆
(……)
女って、
こんなにあちこち回るのか。
「……これは、大変だな」
任務の難易度を、
完全に見誤っていたことを、
このとき初めて悟った。




