第1話 目が覚めたら、森とゴーレム百体でした
少しまったりとした内容で、ファンタジー作品書いていきます。代表作、扉を継ぐ者達と同時進行となるため、不定期投稿となりますが、よろしくお願いします。
……あれ?
私、さっきまで自分の部屋で寝てたはずなんだけど。
目を開けた瞬間、まず感じたのは――冷たい空気だった。
エアコンの風とは違う。もっと生っぽくて、湿った匂いがする。
「……さむ」
反射的に布団を引き寄せようとして、そこで違和感に気づいた。
天井が、ない。
「……え?」
ゆっくりと上体を起こす。
視界いっぱいに広がっていたのは、青空と、見覚えのない木々。
太い幹。生い茂る葉。鳥の声。
――森。
「……ここ、どこ?」
頭が追いつかない。
夢?
いや、やけに空気がリアルだし、地面の匂いもする。
そのときだった。
「……?」
視界の端で、何かが動いた。
視線を下げる。
私のベッドの周り。
そこには――
「……なに、これ……」
小さい。
丸っこい。
石でできてる……?
身長はせいぜい三十センチくらい。
手足があって、顔っぽい凹凸もある。
そんな“それ”が――
わらわら。
わらわら。
わらわら。
「……いっぱい、いる……?」
一体や二体じゃない。
数えようとして、途中で諦めた。
ざっと見ても――百体くらい。
小さな石の塊たちが、私のベッドを囲んで、
ぴょこぴょこ跳ねたり、手を振ったり、
「わー」「わー」みたいな、よく分からない音を出している。
「……ゴーレム?」
口に出してから、我ながら冷静すぎると思った。
「いやいやいやいや」
私は両頬をつねった。
「いった」
……夢じゃない。
「え、ちょっと待って。
これって、もしかして……」
最近、ラノベとか全然読んでなかったはずなのに。
「……異世界転移、とか?」
そう呟いた瞬間。
ゴーレム(仮)たちが、一斉に反応した。
「わーっ!!」
「わー!」
「わわー!」
「え、なに、なに?」
一体が私の布団の端を掴んで、ぐいっと引っ張る。
別の一体は、私のスリッパを両手で持ち上げて、誇らしげに掲げている。
「……ちょっと待って。
それ、私のだから」
言ったら、通じたのか分からないけど、
スリッパを持っていたゴーレムは首を傾げてから、ぺこっと頭を下げた。
「……かわいい」
思わず本音が漏れた。
その瞬間、ゴーレムたちの動きが止まる。
次の瞬間――
「わーっ!!」
「わーわー!!」
さっきよりもテンションが上がった。
「ちょ、ちょっと……」
ゴーレムたちが、今度は競うようにベッドの周りを片付け始めた。
落ち葉をどかす。
小石を拾って並べる。
なぜか地面を平らにする。
「……え、なに?
私、今、世話されてる?」
どうやら、この子たち。
――私に、懐いている。
「……えっと」
私は、そっと深呼吸した。
昨日、高校の卒業式が終わったばかり。
名前は、白石美香。
友達からは「天然」とか「ドジっ子」とか言われてたけど、
別に嫌われてたわけじゃない。
……たぶん。
でも。
「さすがに、ゴーレム百体は初めてだよ……」
森の中。
ベッドだけがポツンと置かれて。
その周りを、可愛いゴーレムが百体。
どう考えても、普通の人生じゃない。
こういう世界だと、名前とかも変わるんだよね?
呟くと、またゴーレムたちが反応した。
「わー!」
「えみー!」
「えみ!」
「……え、今の、私?」
試しに胸を指差す。
「私?」
「わー!」
即答だった。
「……そっか」
「エミリア」
「エミリア」
「エミリア」
これが私の名前のようだ。
なんだか、少しだけ笑ってしまった。
不安はある。
怖くないと言えば嘘になる。
でも。
この子たちがいて。
この世界で。
「……なんとか、なる、よね」
ゴーレムたちが、いっせいに頷いた。
こうして。
私――エミリアの、
ちょっと不思議で、ちょっと騒がしい新しい人生が、
静かな森の中で、始まった。
――つづく。




