第7話 ロックンロールの世界
白いドアを開けると、そこは小さなライブハウスだった。
しかも三人が出たのはステージの上。満員の観客たちが、奇異の目で城田たちを見ている。
「え、なんかこんなとこに出ると思ってなかったんだけど?気まずいよ……」
「仕方ないであろう。この世界を出るには、このステージでロックンロール対決をして勝たないといけないのだからな」
「ロックンロール対決……?誰とそんなことするんだ?」
瞬が不思議に思っていると、舞台袖から勢いよく走り出て来る三つの影があった。
「イェェエエイ!!お前ら、もりあがってるかあああ!?」
「「「「イエエエエエエイ!!!」」」」
「おお!?なんだ!?」
ステージに上がってきたのは、長い髪を見事にセットしたビジュアル系ロックバンド。
レザーの衣装を着て、顔には化粧をしている。塗りたくりすぎて花魁のようになっているが。
「うん塗りすぎだわそれは!真っ白じゃねえか!」
「うむ。ぜひ食してみたいものだな」
「ああほんとだ城田さん消えかかってる!ちょっと瞬くん、じゃんけんの世界から持ってきたミルク飴早くあげて!」
「めんどくせえ神だなお前!?」
ミルク飴を食べて体が元の濃さに戻った城田は、改めてこの世界の説明を始めた。
「ここはロックンロールの世界。常にロックバンドがこのライブハウスでライブをしている。観客の盛り上がりによって、ここを出られるかどうかが決まるぞ。心してかかろうではないか」
「盛り上がりって……既にここまで盛り上がってるバンドを相手にするのってめちゃくちゃ不利じゃ?」
「大丈夫だ。この世界の観客は公平。新人バンドが出てきても同様に盛り上がってくれるぞ。ちゃんとコールもしてくれる。「飲んで飲んで飲んで!」とか」
「飲み会のコールじゃねえか!!」
城田の説明にツッコミを入れている瞬に、先程ステージに上がってきたビジュアル系ロックバンドのボーカルが話しかけてきた。
「お前ら、この俺たちと対決するって?絶対負けないぜ!」
「お、おう……」
「じゃあ早速、俺たち「BLACK ROSE」からだあ!まずはイカれたメンバーを紹介するぜ!ギターのYOSHIMUNE!」
呼ばれたギターの男は、抱えたエレキギターを掻き鳴らす。
「そしてドラムのTSUNAYOSHI!!」
呼ばれたドラムの男は、派手にシンバルを叩いてアピールする。
「最後にこの俺、ボーカルのIEYASUだあああ!!」
「なんで全員徳川将軍の名前なんだよ!!」
ボーカルの声量にも負けない、瞬のツッコミがライブハウスに響き渡る。
「じゃあ俺たちの演奏を始めるぜ!魂込めた曲で、心を震わせてやるぜええ!!『黒薔薇の乙女』!!」
IEYASUが叫ぶと、ギターとドラムの演奏が始まる。アップテンポで激しい曲だ。
前奏が10秒ほど続き、IEYASUが歌い出す。
「君と出会ったのは満点の星空の下♪
君は寂しい目をしてたね♪
僕はそっと君を抱き締め♪
淡い口付けを交わした♪」
「なんかめっちゃラブソングなんだね」
「既におかしい気もしてますが……大丈夫なんですかね?」
「まあまあ、最後まで聞いてみるが良い。意外と良い曲かもしれないぞ?」
三人は小声で感想を言い合う。演奏は続き、IEYASUの歌声はサビに入った。
「もし君を世界中が敵と呼んでも♪
僕だけは君の味方でいよう♪
約束するよマイガール♪
世界が終わるその日まで♪」
「うんやっぱりちょっとおかしいな!?バラードで歌う内容じゃないか!?」
歌い終わると、メンバーたちは感情を入れすぎたのか、泣き崩れてしまった。
「いや何してんだ!?泣いちゃったよ!!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
瞬のツッコミとは裏腹に、観客は大歓声を上げる。熱気に包まれたライブハウスは、「BLACK ROSE」が支配しているようだった。
そして次は城田たちの番。真美が張り切って腕まくりをする。
「これは負けてられないね!瞬くんはドラムをお願い!私はギター、城田さんはボーカルね!」
「え、先輩ギター弾けるんですか?」
「大丈夫だ。我の力で演奏ができるようにしてある。無論瞬、お前もだ」
「おお珍しくナイス!」
観客たちの歓声が収まった頃、三人はそれぞれの楽器の元へ向かった。
「それでは行くぞ。我々「WHITE LOVERS」の演奏だ」
「おいバンド名が白い恋人じゃねえか!お菓子だろそれ!」
「お菓子だけにおかしいよね」
「先輩は黙ってて!!」
瞬の一声で、真美だけでなく全員が黙り、ライブハウスは静寂に包まれた。
どうしようかと瞬が考えていると、体が勝手に動き出し、瞬の両手はドラムを叩き出した。
真美もエレキギターを掻き鳴らし、「BLACK ROSE」にも負けない激しい演奏が始まった。
そして城田がうたいはじめる。
「富士にかかる薄雪よ〜♪
ひとり酒場で泣かせるな〜♪
恋しさ胸にしみる酒〜♪
冷えた心を溶かすよう〜♪」
「演歌!?演歌だよね!?メロディと歌詞が合ってなさすぎるぞ!?」
ドラムを叩きながらツッコミを入れる瞬を無視して、演奏は続いていく。
「愛しい人よ忘れない〜♪
この腕にもう一度〜♪
酔えば浮かぶあの日の影〜♪
涙と共に溶けてゆけ〜♪」
歌い終わると、城田はまるで歌舞伎役者のように片足を高く上げ、真美はギターを掲げながら睨みを利かせる。まさに堂々たる見得だ。
「演歌風だけど歌詞うっす!!ていうか最後のキメが見得ってどういうこと!?」
「「「「「イエエエエエエエエエイ!!!」」」」」
瞬の心配を余所に、観客たちは今日一番の盛り上がりを見せる。
勝ち誇る城田と真美は、観客に手を振っている。
「よし、これでこの世界は脱出だね!」
「え、ほんとに!?これでいいの!?観客のセンスはどうなってんだ……」
「ああ。見てみろあの情けないバンドを。泣き崩れてしまったぞ」
「それは前からだろ!!」
勝ったことには変わりがない。城田が右手を上げると、ステージ上に白いドアが出現。次の世界に渡れるようになった。
「なんかもう楽しみになってきちゃったね!次はどんな世界?」
「次はB級グルメの世界だ。白いものがあると良いが……」
「もうお前予め持ち歩いとけよ!なんで持ってねえんだよ!」
こうして、三人はロックンロールの世界を後にした。