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第4話 瞬と真美の出会い

 城田が右手を上げ、じゃんけんの世界に来た時と同じように白いドアが出現した。



「では開けるぞ」



「「お願いします!」」



 瞬と真美の声が揃ったところで、城田はゆっくりとドアを開けた。


 するとそこには、青く暗い照明の下、魚たちが泳いでいる巨大な水槽があった。それもいくつもだ。



「これは確かに……水族館だね」



「城田、この世界では何をしたら次の世界に行けるんだ?」



 瞬が城田に尋ねる。実際「水族館の世界」などと言って連れて来られても、何をしていいか分からない。瞬の疑問はもっともだ。



「ここでは、スタンプラリーをして貰う。スタンプを全て集め終わり、ゴールに持って行けば次の世界に行けるぞ」



「なんだそりゃ。前回とは違ってえらく平和なミッションだな」



「でもでも、楽しそうじゃない?ほら、なんかデートみたいで!」



「誰が先輩とデートしたいんですか。さあ、さっさとクリアして次に行きますよ」



「辛辣!!え、私とのデートってそんなに嫌!?」



 さっさと歩き出す瞬を、真美が慌てて追いかける。

 もちろん、瞬がここまで真美とのデートに拒否反応を示すのには理由がある。

 それは、瞬が高校に入ったばかりの頃。二人が出会った時のことだ。



 退屈な入学式を終え、気だるそうに帰宅する一人の男子生徒がいた。瞬だ。

 彼の家は父子家庭で、男手一つで育てられた。その為彼は高校では帰宅部になり、アルバイトをして少しでも家計を支えようと考えていた。健気なことだ。


 そんな瞬の耳に、きゃぴきゃぴとした会話が入って来る。女子生徒の声だ。



「えーまじ?高堀さんまた勝ったんだ!」



「そうなの!あんな大きな相手に勝っちゃうんだもん!うっちゃりって凄いよね!」



「ね!これだから相撲観戦は止められないよね!私たちと同じ女子高生とは思えないわー」



 話題が相撲であることにツッコみそうになったが、瞬はぐっと堪える。見知らぬ男子生徒から突然ツッコミを入れられたら、不審に思われることは間違いないからである。



「ほんとだよねー!あんな立派な相撲レスラー系女子いないよね!」



 女子高生にそれはもう悪口じゃないのか!?そう思ったが、またしても堪える。もう瞬はツッコミを入れたくてうずうずしていた。



「真美お願い!今度高堀さんに会わせて!」

 


「いいよー!夏帆ちゃんの為なら私頑張っちゃう!」



「ほんと!?ありがとう!嬉しすぎて道行く人に送り引き落とししちゃう!」



「おいやめとけ!?どんな技か知らないけど多分ダメだろ!!」



 瞬の口から思わずツッコミが飛び出した。慌てて口を手で抑えたが、幸い後ろの女子二人には聞こえていないようだ。



「あ、あたしこっちだから!じゃあねー真美!約束忘れないでね!」



「おっけー!夏帆ちゃんも気をつけてね!」



 ようやく二人の会話が終わったことに瞬がほっとしていると、彼の後ろから軽い足音が早いリズムで近づいて来た。



「ねえ君!新入生?新入生だよね?」



「あ、はい、そうですけど……」



 突然話しかけられ、瞬は思わずたじろぐ。

 振り返ると、大きな目をしたポニーテールの小柄な女子が瞬を見上げていた。



「だよね!私は野崎真美!2年生だよ☆新入生くんは名前なんて言うの?」



 テンション高ぇ……。語尾に星が見えたぞ?

 そんなことを思いながら、瞬は反射的に自己紹介をする。



「俺は瀬名川瞬っていいます」



「瞬くんかー。ねえ、一緒に帰らない?こっち方面の人少ないんだよねー!」



「あ、はい……」



 真美の勢いに押され、瞬は彼女と連れ立って歩き出した。



「へえー、先輩オカルトマニアなんですか」



 道中真美の話を聞いていると、どうやら真美の趣味はオカルトらしかった。相撲は趣味じゃなかったのかよ、と心の中でツッコミを入れる瞬。



「そうだよ!でもこの話をしたのは、瞬くんが初めてなんだ。なんで話したかっていうとね、実は付き合って欲しくて……」



「え!?付き合うってあの付き合うですか!?ええいやそんな、俺たちまだ出会ったばかりですし気が早いって言うか……でもまあ俺で良ければ……」



 思わぬ真美からの申し出に、瞬はあからさまに戸惑ってしまう。それでも可愛らしい真美の容姿を見て、彼の心は揺らいでいた。



「ほんと!?じゃあこれから付き合ってね!」



「まじでいいんですか……?じゃあぜひ……」



「人体実験に!」



「……すみません、なんか聞き慣れない言葉が聞こえたんでもう一回言って貰っていいですか?」



「うん、だから人体実験!私最近黒魔術の研究をしててさー、誰かに試してみたかったんだよね!」



「……」



「……?」



「さよならっ!!」



 瞬はその場を逃げ出した。この人、普通じゃない!瞬の本能がそう告げる。

 高校に入ったその日に、人体実験なんて物騒な単語が出てきたのだ。普通の人間なら逃げるだろう。

 


「あ!待ってよ!付き合ってくれるって言ったじゃん!」



「勘違いしてました!その話はナシで!」



「ダメだよ!男なら一回言ったことは守らないと!」



「それとこれとは話が別です!!」



 全力で逃げる瞬を、真美が追いかける。意外と足が早い真美に驚きながらも、瞬は限界を超えてスピードを上げた。



「ぐへへー、瞬くんを解剖して肝臓を取り出して、その後お腹空いたからラーメン食べに行ってやるう〜!」



「なんで肝臓は取り出して放置なんですか!!せめて有効活用してくださいよ!」



「肝臓の肝太郎だよ!」



「歌舞伎役者みたいな名前付けんな!」



「肝臓って神秘的だし、魔力とかありそうじゃない?」



「知らねえわ!!」



「待て〜肝太郎〜」



「もう肝臓置いて帰ろうかな」



 これが瞬と真美の出会いであった。これでお分かりいただけただろうか。如何に真美が危険人物かということを。


 こんな出会い方をしたのだから、瞬が真美とデートなんてするのを嫌がるのは当然である。何をされるのか分からないからだ。



 時は戻って現在。水族館の世界では、城田と瞬がさっさとスタンプラリーを始めようとしていた。



「ちょっと待ってよ!私とのデートが嫌ってどういうこと!?」



「まだ言ってるんですか?そりゃ嫌でしょ、肝臓の肝太郎とか言う人」



「そんなこと言ったっけ?まあいいや、いつか絶対瞬くんとデートしてやるんだから!」



 そんな決意を固めながら、真美は二人を追って歩き出した。

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