第10話 レーシングゲームの世界 その1
もう幾度目かのドアを開ける動作。城田を先頭に、瞬、真美の順で続く。
三人が出た場所は、灰色の道路がうねうねと広がり、出発地点と思われる場所にはチェッカー柄の太いラインが引かれている。
まさにサーキットと呼べる場所だ。
「まだレースが始まるタイミングじゃないのかな?車が一台も無いね」
「いや、レースはもうすぐ始まるぞ。見てみろ。準備を終えた車からスタート地点に並び始めているぞ」
城田の言葉で二人がスタート地点を見ると、確かにそこには車が並び始めていた。
だがその車は、普通ではない。レーシングカーが並ぶ中に、ぽつぽつとバイクやバギー、かぼちゃの馬車の姿も見える。
「わおほんとだ!バイクなんかもあるんだね!バリエーション豊か!」
「いやかぼちゃの馬車にツッコめよ!あれだけメリーゴーランドと勘違いしてないか!?」
「いや、あのスクワッシュダブルホースは優勝常連だ。ちゃんとエンジンも付いているぞ?」
「ああほんとだマフラーが見えるわ……じゃねえよ!!あんな冗談みたいなのに負けんなよ!!あとかぼちゃの英訳がパンプキンじゃないのが腹立つな!!」
「パンプキンはオレンジのかぼちゃのことだけを言うのだぞ。一般的なかぼちゃはスクワッシュだ。あの馬車はオレンジだがな」
「じゃあパンプキンじゃねえか!!そこまで分かった上で二択外す!?」
エンジン音に負けない瞬の大声が響く。そんな中で、城田は右手を上げながら言った。
「では我々もレースに参戦するべく、麻森を与えよう。行くぞ?」
「マシンの漢字それであってる!?危ない匂いしかしねえが!?」
ボワッと煙が上がり、三人の元にそれぞれマシンが出現した。
「やった!速そうな車だ!」
真美のマシンはオーソドックスなレーシングカー。ただし、禍々しい呪いのような文字が車体に刻まれている。
「先輩本当にそれで喜んで良いんですか!?」
「瞬くん、私より自分の心配した方がいいよ?」
「え?」
瞬の元に現れたのは、円柱型の缶に紐が付いたもの。そう、缶ぽっくりだ。
「なんでだよ!!前話の最後に竹馬って言ってただろ!?」
予告されたものがそのまま出てくるとは限らない。現実は非情である。
「いやまあ竹馬でも缶ぽっくりでも変わらないけどさ……」
「それより瞬くん、城田さんの姿が見えないんだけど……」
「そう言えばそうですね。どこ行ったんだあいつ……?」
二人が辺りを見渡すと、すぐに白を基調として青のラインが入った流線型の巨大なマシンが目に入った。
「先輩、まさかあれじゃないですよね?明らかに新幹線なんですが……」
「東海道新幹線だね。どこに座ってるんだろ?」
「運転席じゃなかったら困りますけれども!?」
瞬の予感は的中した。新幹線の中から、城田の声がしたのだ。
「我の麻森が最速であろうな。缶ぽっくりはともかく、レーシングカーには負けんぞ」
「いや缶ぽっくりには勝て!?絶対勝て!?」
「やっぱり城田さん新幹線だったかー!ねえねえ、どの辺に座ってるの?」
真美が目を輝かせて尋ねる。実は真美は家に籠って魔術の研究をしているか、相撲中継を見ていることが多い為、あまり新幹線に乗って出かける機会が無い。
珍しいものを見て、テンションが上がってしまっているのだ。
「我の座席は2号車の4列目だ。3列シートの真ん中の席だぞ」
「おい自由席じゃねえか!!せめて指定席に座らせて貰えよ!!」
「新幹線は何もせずとも漢字で書くから良いな。こちらも変換先を探さなくて済むから楽だ」
「お前変換機能使って漢字探してたの!?なんて無駄な努力!!」
すると城田がいるであろう辺りの窓のロールスクリーンが開き、城田が顔を出した。
「我々は、それぞれ与えられた麻森でレースに挑まなければならない。心の準備は良いか?」
「お客様、2座席の占領はおやめください!」
「あ、はい……すみません……」
「お前ほんと神の威厳ゼロだな!?あとなんで車掌乗ってんだよ!!」
「満員なのでな。座れただけありがたいと思っているぞ」
「自分で新幹線出したんだからそこは運転手だけにするとか出来たろ!!なんで敢えて満員電車を選んだ!?」
アホな会話をする城田と瞬を置いて、真美はスタート地点に車を向かわせていた。
「さあ二人とも!早くスタート地点に来て!レースはもう始まってるんだよ!」
「あちょっと先輩早いですって!なんで急に熱くなったんです!?」
「そりゃ私と車が化合したら熱を発するからね」
「聞いたことない化学反応来た!!」
「よし、我もスタート地点に行こう。しばし待て。出発時刻まであと3分ほどあるからな」
「お前もう自分で運転できる乗り物に変えろ!?」
「仕方ないであろう。これが一番速いと思ったのだ」
城田が窓にへばりついて話していると、城田の後ろに人影が見えた。
「お客様?さっきも申し上げましたよね?ルールが守れない方は降車していただきますよ!」
「ちょっと待ってください、それだけは……!」
「もう神辞めた方がいいよお前!!」
なんとか車掌に頼み込んで座席に残った城田と、缶ぽっくりに乗った瞬がスタート地点にやって来る。
これでスタートの準備は整った。三人はレースに向けて、それぞれスタンバイをした。
さあ、レーススタートだ。