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JKブラックアウト  作者: 胡桃藍藍
第一章
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喪失

 電話越しで死んだ父。神無とさおりは恐怖と驚愕でしばらくその場を動けなかった。

 流石にずっとこのままうずくまっていては時間ばかりすぎるだろう。神無たちはさおりの家に向かった。

 警察署には行かなかったし110番もしなかった。神無たちが何を言っても信じてくれない気がしたのだ。「父が電話の向こうで銃で撃たれて死んだのです!」と言ったとしても、現代は銃の使用は認められてないし、もしそんな事が起こったら警察だけの騒ぎではないだろう。マスコミやネットの興味を引いてしまう。何より面倒くさいと思う。だから近隣住民がいち早く救急車を呼んでほしいと願った。

 神無たちはどこで父が死んでいるのか皆目見当がつかなかった。

 神無には自分の家に帰る勇気がない。今日は家で小説を書くって言ってたなと、朝の父の言葉を思い出す神無はぼーっと空を見つめる。

 今、家に帰っても父はいない。

 最後の電話からは父の声に混じって船の音が聞こえた。おそらく海の近く。でも神無の住む県は内陸である。父は海の方まで必死で逃げたのだろう。車で逃げたのか。流石に自転車や自分の足で遠くの海の街へ逃げるにはきつすぎる。

 父の車でないとしたら公共交通機関であるが父はバスや電車、タクシーの乗り方を知らないためその線は薄いだろう。やっぱり自分の車で逃げたのだ。

 神無が考えを張り巡らせていると、気づいたらさおりの家に到着していた。

 さおりの家は洋風の一軒家で、こぢんまりとした庭と二台の車がある。玄関は神無のぼろぼろアパートより圧倒的に広い。家の中はきれいで清潔感があり、二階のさおりの部屋は可愛い小物がたくさんあるが散らかっているという印象はない。

「神無、とりあえずほら。お茶飲みな?」

「......うん。ありがとう......」

 さおりの部屋で用意された座布団に座り、出してくれたお茶に手を付ける。

 お茶を一口飲み神無はやっと息を吸えた心地がした。

 すると突然神無のスマホが鳴り、神無は反射的にスマホを掴み応答ボタンを押した。

「谷崎喜助さんのご家族の方ですか?」

「っ......!......はい、そうです」

 神無は震える手でスマホを握りしめた。

「近隣住民の通報で谷崎喜助さんが横浜市立病院に運ばれたのですが......。先程息を引き取られました」

「っ............」

 神無は声を押し殺して泣く。

「我々も最善を尽くしたのですが、運ばれてきた時にはすでに、もう......。」

 電話の声がすごく遠く感じる。神無の背中を一緒にいたさおりが優しく撫でた。

「神無、横浜だって。一緒に、向かお」

「うん......」

 神無とさおりは家を出ると駅から横浜行きの電車に乗った。乗っている間はものすごく長く、遠く遠く感じられた。実際は、横浜はすぐ隣の県だったため時間的にはものすごく早いのだが。

 神無たちは横浜の駅につくとスマホの地図で横浜市立病院を調べた。どうやらその病院は駅から徒歩十五分で着くらしい。神無たちは徒歩で向かうことにした。

 病院に着いて最初に目にしたものは、日が暮れ始めているのにもかかわらず人が多いロビーだった。子どもからお年寄りまで受付の椅子に座っている様子が見られる。忙しそうにしている受付の看護師に谷崎喜助の名前を出すと、ロビーとは対照的な静かで閑散としている奥の方に案内された。

 一つの部屋の前まで行くと家族関係にでないさおりはそこで看護師にストップさせられた。神無は一人でドアの前に立つ。

 厳重な扉を開くとそこには一つのベッドと、顔は見えないが横たわる人。その前には一人の医者がいた。

 「谷崎喜助さんの娘さんで間違いないですね?」

 「......はい」

 冷たい声とひどく冷静で感情が見られないその医者を前に、神無は足が震えた。

 「顔を確認して、喜助さんで間違いないかお確かめください」

 神無は一歩ずつ横たわる人に近づき、顔に被せている白い布をそっとめくった。

 「っ!......はい......父で、間違いありません......」

 自然と神無の目から涙がこぼれる。手に持っている白い布を優しく父に被せた。俯くと涙がぼたぼた落ちる。

 「谷崎喜助さんは、銃弾で両肩にそれぞれ一発、右の太ももに一発、心臓に一発、肺に一発、合計五発撃たれていました」

 医者が詳しく父の状態を教えてくれるがその言葉たちは神無の耳から耳へただ通り抜けるだけで、脳にはなんの情報も入ってこない。

 なんで?

 どうしてお父さんが、殺された?誰がお父さんを殺した?お父さんが、何をしたっていうの?

 という疑問ばかりがぐるぐると神無の頭を満たす。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

 憎い憎い憎い憎い憎い。イヤダイヤダ嫌だ。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!殺してやる!!!!

 お父さんを殺したやつに、絶対に、復讐してやる!!!!

「神無っ!!」

「はっ」

 気がつくと目の前にはさおりがいて、神無の肩をがっしりと掴み目線を合わせるように前で立っていた。

「神無。神無が今、何を考えてるか、分かるよ。表情に出すぎ。......でもね神無」

 私は、今、どんな顔してた?

 自分から出てくる黒い感情にぞっとした。

 さおりは涙で濡れている目で神無をキッと見つめ、震える芯のある声で言う。

「復讐だとかは考えちゃだめ!もし神無が復讐してお父さんが喜ぶと思う?!あの優しい人が、そんな事、神無に願うわけないじゃん......!」

 神無はさおりが誰かに対し怒っているところを見たことがなかった。怒るといってもクラスの一軍男子にそんなのやめなよーと呆れながら言うところは見たことがあるが、今目の前にいるさおりのように目を鋭く光らせているのは見たことがなかった。

 神無は呆気にとられ、脳内を満たしていた黒いものは一旦静かになる。

 「私も、神無のお父さんのお葬式の準備、手伝うから。だから、復讐だけは......っ!しないでっ!」

 さおりは溢れ出る涙を止めようとも拭おうともせず、ただただ涙を流して訴える。

 「......っ......ごめん、さおり......ありがとう......」

 神無はさおりの必死で強い感情に大きく揺さぶられ、さおりの言葉一つ一つを噛み締めて小さく頷いた。




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