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JKブラックアウト  作者: 胡桃藍藍
第一章
3/14

父からの電話

 神無の通う学校に怪しげな男たちが来てから何週間か経ち、その間はなんら変哲もない穏やかな日々を送っていた。そのため神無は相模のことをすっかり忘れていて頭の中は勉強のことでいっぱいだった。


 夏休みに入って最初の日曜日、神無はさおりと話題の映画を見る約束をしていた。小説が原作のアニメ映画らしいが、神無自身は映画なんて微塵も興味がない。しかしさおりは原作小説を読んでいたようで、どうしても神無と一緒に見たいと言うため、神無はよっぽど面白いのだろうと思って約束を組んだ。


「まさか本当に来てくれるとは思わなかった!」

「当たり前でしょ。友達との約束を破る人なんていないよ」

「それもそっか。神無だもんね!律儀な神無が友達との約束を破るはずないもんね!」


 さおりは、にぱっと笑う。

 明るい色が似合うさおりは白いTシャツとデニムパンツという夏らしい爽やかな服装で待ち合わせ場所に来た。頭には白いキャップを被っている。薄くメイクもしているようだ。元カレからもらったネックレスもしている。友人である神無から見てもかわいい子だと思う。通り過ぎる男たちはチラチラとさおりの方をすれ違いざまに見る。

 それに対し神無は暗めの色を好むため、紺色のブラウスに黒のジーンズという周りの人からすると暑そうな格好だった。しかし神無は人の目など気にしないし暑さも感じない人だった。


「上映まであと25分。映画館は混むだろうから早めに着いていたほうがいいね」

「異議ナーシ。上映前にトイレも済ませておきたいよね」


 そして二人は颯爽と映画館内に入っていった。


「ポップコーン、一人じゃ食べ切れない気がする」

「じゃあ二人で分けましょう。さおりは何味が好き?」

「せーので言おう?せーのっ」

「「キャラメル!」」


 二人の声は気持ちいいほどに揃った。顔を見合わせてクスクスと笑い合う。


「決まりだね」

「やっぱりキャラメルしか勝たんっ!神無もそう思うよね!」

「まあ、好きなものは人それぞれだと思うけど、私は断然キャラメル派」

「異議ナーシ」


 そう言って二人は仲良くキャラメルポップコーンの代金を割り勘して、大きなスクリーンがある劇場内へ入っていった。

 _____________________________________

「ああぁ、面白かったーー」

「意外と感動シーンもあるんだね」

「うん、原作の小説はもっと泣けると思うよ!神無も今度読んでみなよ」

「面白そうだから時間があるとき読んでみよっかな」

「ぜひぜひっ!映画の内容だと男主人公は手榴弾で自爆してるけど、原作では男主人公が後ろからナイフで刺されて死ぬんだ!面白いよ!」

「今、ものすごいネタバレを食らった気がする。ていうか、それだと原作と映画で内容変わり過ぎじゃない?」

 二人は映画館の近くにあるカフェに入り、見た映画の感想を伝えあった。雑談も交えてアイスコーヒーを飲みながらゆっくり時間を過ごす。穏やかな休日の午後である。

 映画の熱も冷めてきたため、カフェを出て近くの公園へ行こうとした時、神無のスマホが鳴った。


「お父さんからだ」

「え、珍しいね。神無のお父さん、スマホ苦手じゃなかったっけ」

「うん、だから滅多に電話はかけてこないし、かけ方も分からないんだと勝手に思ってたな」


 そう言って神無は違和感を感じながらも父からの電話に出る。

「もしもし、お父さん?」

 神無は恐らくスマホを片手に持っているだろう父に呼びかけた。しかし、電話の向こうから応答はない。かすかに聞こえてくるのは複数人の話し声と怒声、そして走る音。息切れた父の呼吸。

『そっちに行ったぞ』

『谷崎喜助を探せ!絶対に逃がすな、捕まえろ!もたもたするな、何やってるんだっ!』

 感の良い神無はじっと黙っている。きっと今、私が声を出すのはまずい。もし電話越しにいる人達に私の声が聞こえてしまったら父に危険が迫る。

  様子がおかしい神無を不思議に思ったさおりは心配そうに顔を覗き込んだ。

「.......どうしたの、神無?」

「しっ!静かに」

 神無とさおりは人目のつかない路地裏へそっと行き、電話から聞こえてくる音に耳をすませる。

 やはり聞こえてくるのは知らない男たちの声と父の押し殺した息。そして、数分経つと男たちの声は遠くなり静かに感じられた。

「......お父さん......?」

 神無は恐る恐る電話の向こうにいるであろう父に呼びかける。

『はぁ、神無か、......ぐっ、聞こえるか?』

「うん、聞こえてる。何があったの?」

 電話の向こうにいる父は苦しそうで、思わず手を差し伸べたくなる。しかし、たかが電話だ。手は届くはずがない。神無は何もできない。父はぽつりぽつり話す。

『神無、落ち着いて聞いてくれ』

 落ち着いて聞いてるよ、と言いたかったが、その次に来た言葉であまりにも驚愕して声が出せなかった。

『父さんは、もう死ぬ』

 電話から聞こえる父の声はとても弱々しく、小さく、震えていた。

 人が突然「もうすぐ俺、死ぬんだ」と言ったら、普通なら「何だそれ、変な冗談だな」と軽く笑い飛ばせるだろう。

 しかし、実際は違う。人は衝撃的事実を知ると声が出なくなるらしい。神無はそのことを自分の身を持って体感した。この状況で父がおかしな冗談を言うはずもなく、神無は不気味なほどにすんなりと父の言葉を信じた。

 父は徐々に苦しげになる息と声で神無に告げる。

『今、父さんの体は、一発の銃弾で肩を撃たれて出血がひどいんだ。もう長くは持たない。だから神無。神無に言わなくちゃいけないことが、あるんだ......』

「.......うん、何?」

 父は荒れていた息を整えて、しばし沈黙した後、開口して言った。

『......お腹すいた』

「我慢しろ」

 何を言い出すかと思えば、心底どうでもいいことをボソリと呟くので神無は思わず強めの口調で言ってしまった。隣でじっと耳を傾けていたさおりは「ぷはっ」と思わず笑ってしまっている。

 どんな状況でもマイペースな父親には度々呆れてしまうが、ふわふわしている父と会話すると張っていた気も緩み、安心する。

 電話している今もそうだ。父のおかげで緊張していた神無とさおりの表情は先程よりもほぐれている。

 神無は父親のこういったところを尊敬しているし、大好きなのである。







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