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JKブラックアウト  作者: 胡桃藍藍
第二章
11/14

お屋敷

 ほっこりとした時間が神無と叶夢の間に流れている。

 神無が住むぼろぼろのアパートで叶夢と父、そして母の話を聞いた神無は一つ疑問があった。

 「あの......叶夢さん。一つ聞きたいことがあるのですが」

 「いいですよ。何でも質問してくださって構いません」

 にっこりと叶夢は微笑んだ。

 「......なぜ今まで......、父と母に会おうとしなかったのですか?」

 「っ!」

 叶夢の息を呑む音が神無の耳に入る。叶夢は途端に目を彷徨わせた。震える手をぎゅっと抑え込んでいる。

 「......あ、あぁ......。ぁ......」

 「......叶夢さん......?」

 神無は訝しげに叶夢を見た。

 叶夢の顔は青白く、目は一点に定まることを知らない。手は震え、過呼吸。

 「か、叶夢さんっ!落ち着いてください」

 「......あ、ぁあ......、......すみません......すみませんっすみませんっ!すみませんっっ!!」

 突然叶夢は泣きながら神無の前でうずくまり、頭を抱えて謝り始めた。何も無いところに向かって頭を下げる。

 「や、やめて......。やめてくださいっ!ああ!ああぁぁああああぁあ!!!」

 「叶夢さんっっっ!!!」

 神無は様子がおかしい叶夢に肩を寄せ、その背を優しく撫でる。

 「落ち着いてください、何もないです......。誰も、怒ってないですよ......?」

 「......あぁあ、あ、あ......」

 「だいじょーぶですよー、なーんにも怖くないですよー」

 神無が母のように宥めると叶夢はだんだんと落ち着いてきた。

 「......あ、......神無さん。すみません、取り乱してしまい......」

 「いえ、私は大丈夫です。......それより、どうしてそんなに怯えているんですか?」

 神無がそう聞くと叶夢は悲しげで苦しそうな顔をした。しばらくの間、沈黙が続く。そして意を決して叶夢は口を開いた。

 「......お話させていただきたいのですが、少し場所を変えさせていただいてもよろしいですか?」

 「なぜ?」

 「神無さんをお連れしたい所があるのですが、そこでの方がお話をする点では都合がいいのです」

 正直、怪しいと思った。出会った一日ばかりの人間をそんなに信用してついて行って良いのだろうか。

 しかし、叶夢が嘘をついているようには見えず、先程の何かに怯える様子が演技だとは到底思えない。それにここまで父と母と叶夢の話を聞いたため、今さら目を背けられない。

 「......分かりました......」

 「......あ、え?......あ、ありがとうございます......では、私の車で向かいましょう」

 叶夢は神無が了承するとは思わなかったのだろう。驚きのあまり神無を凝視している。

 「......そ、そんなに驚きます?」

 「はい、まさかオッケーが出るとは......。当然断られるかと思っていました。鳩が豆鉄砲を食らうとはまさにこのこと」

 「はいはい」

 神無は適当にあしらい、外に出る準備を始めた。


______________________________________________________


 神無月は叶夢の車の助手席に座り、叶夢が言う”連れていきたい”場所に向かうことにした。

 その場所に着くまでの間、二人はしりとりをして距離を縮めた。お互いに好きな食べ物や動物、趣味などを共有し、相手がどういった人物なのかを段々と分かってきた。神無が「勉強が好きです」と言った時、叶夢は目をこれでもかというくらい見開き、神無を凝視した。危うく事故りかけた。よく運転免許が取れたものだ。神無は叶夢が運転免許を持っていることに心底驚いていた。叶夢のように思いっきり表情に出すことはないが......。

 そうこうしていると、叶夢の目的地に着いた。

 「......ここが、連れて来たかった場所?」

 「そうです、私が現在住んでいるお屋敷でございます」

 「え」

 眼の前にあるのは、とても大きな屋敷。神無が住んでいるあのボロボロアパートとは比べられないほど大きい。和風の屋敷をぐるっと囲むのはよく手入れされていて整っている生け垣。丈夫な門から敷地内に入ると、美しい和風庭園があった。池には大きくて色鮮やかな鯉が二匹、優雅に泳いでいるのが見えた。とにかく広いこの屋敷は、高級旅館だと言われても納得してしまうだろう。

 「神無さん、こちらです」

 いつの間にか少し先を歩いていた叶夢に手招きされ、神無は美しい庭に見とれながらも足早に叶夢のもとへ行く。

 「ひ、広いね......びっくりした」

 「元々は私の祖父が所有していた土地であり、その御方がお孫さんに譲渡したのですが、お孫さんが私を特別に住まわせてくださるので。住んでいると言っても居候です」

 「この土地、孫である叶夢さんにも譲渡される権利があったのでは?」

 「私は、まあ、養子なので......」

 「ああ、理解」

 二人は会話しながら広い敷地内を歩き、厳格な扉の前で立ち止まった。

 「いいですか、神無さん。今回は屋敷の人間の許可を一つも頂いていないため、侵入していることがバレたら死にます、私が」

 「な?!なんで許可取ってないの?!不法侵入ってこと?!」

 「しーっ!勝手に屋敷に人を入れていることがバレたら死ぬんです、私がっ!」

 叶夢は口の前に人差し指を出し、声を小さくさせて神無に言った。神無もそれに合わせ、声を押し殺しながら言う。

 「なんで誰にも言わなかったのさっ!」

 「だって、屋敷の人たちみんな怖いんだもんっ!」

 「しらねーよ!」

 「と、とにかく入っちゃってください!こんなところ誰かに見られでもしたら......」

 「はいはい、分かりましたよっ!入ればいいんでしょ、入ればっ!」

 神無は叶夢に押されて重たそうな扉をそーっと開いた。

 

 

 

〜車内でのしりとり〜

叶夢「りんご!」

神無「五胡十六国時代」

叶夢「いちご!」

神無「ゴンドワナ大陸」

叶夢「くつした!」

神無「炭酸ナトリウム」

叶夢「む、む、胸板!」

神無「炭酸水素ナトリウム」

叶夢「な、なんでそんなに難しい言葉使うのですか!」

神無「だめなの?」

叶夢「い、いえ。だめではないですけど、なんで難しい語がそんなにスラスラと出てくるのです?」

神無「私、勉強が好きだから」

叶夢「ほへ?」

神無「ま、前見て!危ないっ!!」

叶夢「う、うわあああ」

神無「よくそんなので免許取れましたね」

叶夢「ふふふ私の才能ですよ。それよりも、勉強が好きってどういうことですか?」

神無「だめなの?」

叶夢「い、いえ。だめではないですけど......。初めて見ましたよ、勉強が好きな人」

神無「だめなの?」

叶夢「い、いえ......。」

神無「叶夢さんは何か趣味とかあるんですか?」

叶夢「私は漫画を読むのが趣味です」

神無「へぇー」

叶夢「自分から聞いといて興味がなさそうなの、やめていただけます?」

神無「嫌いなものは?」

叶夢「え、無視ですか、傷つきますよ......」

神無「嫌いなものはなんですか?」

叶夢「ぐっ、それこそ私、虫が苦手ですよ......。今、神無さんに無視されたのも悲しいです」

神無「え、そっちのムシ?どっちのムシ?」

叶夢「どっちもですよっ!もうこの話は終わり!神無さんの苦手なものはなんですか?!私が答えたんですから、神無さんも答えないと不公平です」

神無「ええー、なんだろう......。あ、私、狭くて暗い所が苦手です」

叶夢「え、意外ですね。苦手なものとかなさそうに見えたのですが......」

神無「小さい頃に、ちょっとね」

叶夢「あ、トラウマみたいなものですか」

神無「たぶんね」

叶夢「......。何か別の、楽しい話題をしましょう!好きな食べ物とか動物とか!」

神無「......そうですね、そうしましょうか」


そう言って二人は目的地につくまでの間、お互いのことを質問し合ったのだった。


二人は仲良くなり、神無は叶夢に敬語を使うのをすっかり忘れ、とっくに警戒や緊張を解いていた。




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