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JKブラックアウト  作者: 胡桃藍藍
第一章
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異変の学校

 谷崎神無(たにざきかんな)はどこにでもいる真面目な高校3年生女子だ。

 黒くて長い髪を低い位置にひとつにまとめ、濃い青色で縁取ってある四角い眼鏡は太陽によって反射して、キラリと光る。

 誰も寄せ付けないような表情はいつも通りだ。同学年の女子平均身長よりも少し高い神無はその長い手足で学校までの道を単調に歩く。


 神無が通う高校は県内でも高い偏差値と大学入学率を誇る公立高校だ。故に真面目な生徒が多くいる学校だが、その中でも神無は真面目さが目立つ優等生である。部活には入っていないため放課後には学校のすぐ近くにある予備校へ行き、夜遅くまでそこで勉強する。

 友達はいる。ただし、自分にとって必要な人のみ。不要と判断した人とはあまり喋らない。恋人の必要性を感じることができないため、誰とも付き合ったことはない。神無はそのことを「他の人と少し価値観が違うだけで、何も問題はない。」と考える。

 神無は真面目であると同時に冷たい一面を持っていた。

 そんな神無の生活に、ある日突然変化が訪れた。


 まだ春の風は感じられるが、日に日に暑さは増している。クラス替えもあり四月の頃はよそよそしさがあったクラスだが、六月になった今は徐々にクラスの中でグループのような集団ができ始めた。

 神無はどこのグループにも所属していないため、登校すると自分の席でその日の授業の予習をしている。その日も神無は一人で黙々と勉強をしていた。そんな時、

「あ、あの...!困ります!勝手に生徒たちのいる階に行かれてはっ...!」

 朝のホームルームが始まる前だった。突然廊下が騒がしくなる。事務の女の先生の必死な声が教室にいた神無の耳にも聞こえた。廊下はたくさんの足音と生徒たちのざわめき声で溢れかえる。 

「ねえ神無、なんか騒がしいね」

 神無の中学校からの友人である宇山さおり(うやまさおり)が神無の席に近づいて話しかけた。

 さおりは背丈の低い女子で、肩までの髪は外側にはねている。女子バスケ部で活躍するその体は鍛えられていて、小柄だが筋肉はしっかりと付いている。活発そうな大きな目はいつもキラキラと輝いていて、神無にとってはそれが眩しく感じられた。今も大きく開かれている目は興味津々に廊下側に向けられている。

「なんだろう?転校生かな!」

「流石にこの時期に転校生は来ないでしょ」

「イケメンかな?」

「話聞いてた?」

 さおりは素直でまっすぐだ。だから神無は余計な気遣いや負担を感じさせないさおりと友人を続けている。そして何より一緒に生活していて楽しい。

 廊下は生徒地のざわめきが増し、たくさんの足音もだんだん近づいているように感じる。


「ねえ、なんか近づいてきてない?!」


 さおりも同じことを感じたようだ。


「このクラスに入ってくるかも!」

「だから、それはありえな」


 驚いた。

 なんと、教室の前方にある扉から黒いスーツを着た男たちがぞろぞろと入ってきた。

「え!やっぱりうちらのクラスじゃん!転校生はもしかしてお金持ちなのかな?!」

 さおりはますます目を大きくさせる。

 神無は信じられないという表情でスーツの男たちをまじまじと見た。

 男たちは全部で5人。20代くらいの若い男が後ろで体格のいい男たち4人を率いている。その若い男は、端正な顔つきで髪は七三オールバックにしている。手足はスラリとしていてまとっているスーツは上質であることを神無は遠目から思った。

 その整った顔は先程からずっと、にこりとも笑わない。クラスの女子達はかすかに頬を赤くしている。さおりもその一人だが、神無は全く表情を変えることなく冷静に状況を観察していた。

 若い男の後ろにいる男たちは皆サングラスをかけていて表情は掴めないが、ピリついた空気は感じる。こちらも若い男同様にそのスーツは高級そうだ。おそらく若い男の部下なのだろう。

 すると後ろで仕えていた部下の一人と目が合った。その男は神無と目が合うと、若いスーツの男に何やら耳打ちをして再度こちらを見る。若い男は神無の方を見ると数秒動きを止めたが、すぐに教室の後方にいた神無たちの方へ向かって大股でズカズカと歩いてきた。

「え、なになにっ?!こっちに来てるよ!」

 さおりは小さな声で興奮したように神無に言う。怖いという感情はさおりにはないらしい。

「お、落ち着いて、きっと私達じゃないから」

 一方の神無は自分に言い聞かせるようにして四分の恐怖と六分の冷静さをもって自分とさおりを落ち着かせようとした。

 しかし、若い男はついに神無たちの目の前で足を止めたのだった。

「ねえ、君が谷崎神無さんですか?」


 突然名前を呼ばれた神無は驚きのあまり声を失った。まさか自分とは。それも自分の名前が男に知られているとは思いもしないだろう。

「え、え、えっ?!」

 さおりも軽いパニック状態に陥っているみたいだ。周りのクラスメイトと教室の外にいる生徒や事務の女の先生、その全ての人が動きを止めてこちらを静かに見ている。

「そうですが、私に何か?」

 神無は警戒を解かずにキッとその男を睨みながら尋ねる。男は神無のその様子に若干驚きながらも期待通りという表情で満足気だ。

 神無はその男の様子にますます警戒心を強め、隣りにいたさおりの手をぎゅっと握った。

「こんにちは、僕とお会いするのは初めてですね。僕の名前は相模恭太郎(さがみきょうたろう)、以後お見知りおきを」

 そう言って若い男___相模恭太郎は表情を和らげて神無に深々と丁寧なお辞儀をした。

 それを見た神無は警戒を緩めることはないが礼儀は必要だと思い、お辞儀を返した。

 さおりは好奇心のこもった眼差しで神無と相模を交互に見る。

「神無の知り合い?!」

「まさか、神無さんとは初対面だよ」

 相模はさおりに人の良さそうな笑みを向けて答えた。

 さおりは神無に聞いたはずだったのだがスーツの男に返答されたため戸惑い、目を彷徨わせている。

「あ、あのー......。勝手に生徒に話しかけられては困ります、相模様...!早く会議室の方へお戻りいただきたいのですが......。」

 事務の女の先生が教室に入ってきて恐る恐る相模に話しかけた。

「ああ、たった今用事が済んだところです。すぐに退出しますよ」

 相模は英国の紳士のように穏やかに微笑んで教室の前方の扉に向かった。四人の部下はその後ろについて行く。

 扉から出る直前に相模は後ろを振り向き、

「すぐにまた会う機会があると思います。その時はよろしくお願いしますね、谷崎神無さん」

 絵本に出てくる王子様のような笑みで神無に微笑みかける。

 その瞬間、クラスの女子達の悲鳴に近い黄色い歓声が響いた。そして神無の席にどっと押し寄せ、神無はクラスメイトによる質問の嵐に襲われたのだった。



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