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最も難しい依頼(上)

 オリビアの肖像画しょうぞうがを修復するために、再びウォード家を訪れる日になった。

 昼食を早めに食べてから、ドロシーとルルは昼前に仕事に出かける予定である。



 と……、その前に、ドロシーとルルは、ドロシーの両親と共に、セイナン町にあるケーラの墓を訪れたのだった。

 皆から愛された『修復魔術士』の墓は〈修復屋〉の近く、商店街の裏側にある林の中に建てられているようだ。


 ケーラの墓には、『偉大いだい功績こうせきを残した、とても素晴らしい貴女あなたをこれからも尊敬し続けます』と刻まれていた。



 ニックとキャロル、それからドロシーは、ケーラの墓の前に小さな白い菊の花を供えた。

 三人とも穏やかな表情をして、談笑しているようだ。


 ケーラの葬儀そうぎを過ぎてから日が浅かった頃、ドロシーは暗い顔をしていたのだが、今は良い意味で吹っ切れたようだった。ケーラの死を受け入れられたのか、哀愁あいしゅうに満ちた表情は一切していない。


「ケーラさん……、いやお義母かあさんが亡くなって、もう半年以上経つのか。時間の流れって、ホント早いなぁー」


「そうね。てっ……ソレよりも、お母さん聞いてっ!! ドロシーね、お母さんよりも早い年齢で【修復魔術】を全て習得したのよ! ねっ、スゴいでしょ??」


「嬉しかったことは嬉しかったけど……、正直、あまり実感が無いんだけどね」


 その発言と同時に、学院時代のトラウマが大き過ぎたからかなぁ……、とドロシーは思ったようだった。



 そして、亡き祖母への母親の発言を聞いて、彼女は悩みに悩んだ学生だった頃の記憶も、ぼんやりと思い出した。


 だが、辛かった出来事を思い出しても、ドロシーは決してしずんだ表情にはならなかった。

 同級生から、群を抜いて優秀な祖母と比べられたトラウマを完全に克服した訳では無い。……とはいえ、ずっとトラウマを引きずり続けることは無く、今は落ち着いた気持ちで、過去の自分を見つめ直すことができるようになったようだ。




 林の中にある集団墓地を後にすると、ドロシーと彼女の両親は〈宿屋オーロラ〉に向かった。

 三人が〈宿屋オーロラ〉に入ると、ゆっくりと昼寝をしていたルルが起きたようだった。


 ジェシカはエヴァンズ家のために、様々な温かい料理でもてなしてくれたようだ。ベンとキャロルにとっては、久しぶりの親族との食事であった。



 秋の間はニシノハテ公国を訪れる観光客が少ないため、宿屋は閑散期かんさんきである。

〈宿屋オーロラ〉のクック家も、のんびりと余暇を過ごすことができる時期なのだ。




 昼食をご馳走ちそうになった後、ドロシーとルルは先に外に出たようだ。

 昼前は青空がちょっとだけ見える薄曇うすぐもりだったが、昼過ぎになると空は分厚い雲でおおわれていて、小雨が降っている。


 ドロシーはかさを差して、ルルと一緒に〈ヒダマリ大聖堂〉前の広場に向かって、歩き始めたのだった。




 ドロシーとルルが〈ヒダマリ大聖堂〉の前にある広場に着いて、馬車の駅でしばらく待っていると、セイホク村行きの馬車が来たようだ。

 すると、ドロシーたちは、馬車の中から予期していなかった見慣れた人物が居ることに気が付いたので、彼女たちは非常に驚いたようだ。


「よっ、お疲れさん。……あ〜、今日一日、仕事が休みで時間あるから、迎えに来た。まっ、帰りは見送れないって理由もあるけどな」


「えっ……、と、あ……??」


 目の前で何か起きているのか、すぐに理解できなかったのか、ドロシーは言葉に詰まり、少しの間、外で突っ立っていたようだ。


「おいお〜い。れちゃうから、早くに中に入れよ? なに……、とっくに顔見知りだし、ある程度お互いのこと知ってるから、いろいろ遠慮えんりょする仲じゃねーだろ?? ……ほら」


 サイモンはそう言って、馬車の開いたとびらから立ちながら片手を外に出した。

 サイモンが紳士的、かつスマートに馬車の中へ招いてくれたことに照れてしまい、恥ずかしさでドロシーは体が硬直こうちょくしてしまったようだ。


「ドロシー、おくれちゃうよ〜」


 と、ルルのとっさの冷静な発言を聞いて、ドロシーはふっと我に返った。

 ドロシーは傘を閉じた後、顔全体を真っ赤にしながら、おずおずとサイモンの手を取って、ようやく馬車の中に入ったようだ。

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