故郷へ(2)
石畳の道がしばらく続き、馬車はマンナカ城の城壁沿いを進んでいく。
朝日を浴びながら、馬車は静かな街を通り抜けていくようだ。
馬車がマンナカ城から離れて、民家の横を通り過ぎると、周りの景色が徐々に変わってきた。セイナン町とセイホク村の境に近づいていくと、緑が多くなってきたらしい。
森の中を抜けると、馬車はセイホク村に入った。
その頃には、山に隠れていた太陽は昇っていたようで、辺りは明るくて柔らかな光が満ちていた。
リンゴの果樹園の間を通りながら、馬車は緩やかな下り坂を進んでいく。いくつかの集落を通過すると、今度は広い小麦畑が見えてきた。
馬車は小麦畑まで来ると、平らで真っ直ぐな道をひたすら走っていく。
小麦畑から少し離れたところには、ベリー農園があるようだ。
黄金色の巨大な絨毯のような小麦畑に挟まれた道から、マッシロ山のある北に曲がると、馬車は再び集落の方に入っていく。
幅広い土の道を進み、民家の横を通り抜けると、ドロシーたちを乗せた馬車は、ようやく村の公民館に辿り着いたのだった。
ドロシーとルルが馬車から降りると、多くの村人が公民館前の広場に集まっていた。
村人たちは鍬や鋤やスコップ、それから木製の籠やリヤカー等を持ってきているようだ。ドロシーは、これからセイホク村に住む農民たちが使う、様々な農機具をまとめて修復することになっているのだ。
「久しぶりだね。よく来てくれた、ドロシー。今日の昼前は忙しいと思うけど、よろしく頼むよ」
広場でドロシーがキョロキョロとしていると、顔見知りの村長が彼女に声をかけた。
ドロシーが慎重に礼儀正しく挨拶すると、村長は彼女を仕事場に案内したようだ。
ドロシーたちと村長は、大きな台が置かれている場所に着いた。
村の若者たちが誘導係になり、村長が依頼の伝達係になるようだ。大規模なドロシーの仕事が始まった。
ドロシーが効率良く動けるよう、村長が村人が並んでいる列に行き、あらかじめ農機具等の修復をお願いする村人に、並び順に依頼の内容を聞いていく。
ドロシーに修復してもらう時に、ドロシーは村人に依頼の内容を再確認した後、次々と修復をこなしていった。
列の最終に並んでいた人たちがドロシーの前まで来た時、彼女とルルは見覚えのある夫婦が居ることに気が付いた。
それは、ドロシーの両親であるニックとキャロルだ。
「ドロシー、久しぶりねっ!」
「元気そうで良かったよ。サイホク村まで本当にお疲れ様」
両親から声をかけられた後、ドロシーは少し恥ずかしそうに「……うん」と行った。
そして、いつも通り平常心で両親の鍬と籠を修復し終えると、ドロシーはふう……と大きく溜め息をついたのだった。
セイホク村での大仕事が終わると、ドロシーとルルは、ニックとキャロルのあとについてドロシーの実家に向かった。
ウォード一家が歩き始めて、ドロシーの実家はすぐに見えてきた。広場からは近いようだ。
草の多い土の道を進んでいき、皆は短時間でウォード家に着いた。
ドロシーの実家を含めて、セイホク村は民家と民家が離れているところが多いようだ。そのため、田舎らしく近所の人の声が聞こえない程、家の周りは非常に静かだ。
ちなみに、キャロルは小麦農家に嫁いだ。とはいえ、彼女は毎日、仕事やら家事やらの日課に追われて、今は【修復魔術】を使うことがほとんど無いため、若い頃よりはあまり上手く使えないらしい。
あと、ニックは全く魔力が無い。彼は七人兄弟の四男であるため、現在キャロルと住んでいるのは分家の小さな家である。
それから、小麦農家の跡継ぎを気にしなくて良い立場である上、彼の希望で『ウォード』という苗字を継ぎたいということで、形だけは婿養子となっているようだ。
ニックは〈修復屋〉を開業した故ケーラだけでなく、ケーラの遺伝で稀有で貴重な【修復魔術】を使えるキャロルやドロシーも大尊敬しているのだ。
ケーラの葬儀以来、数ヶ月ぶりに実家に帰ってきたドロシーだったが、彼女はとても懐かしい気持ちになったようだ。
玄関から入って、廊下を通った時に、ドロシーは学生時代の自分の部屋を覗いた。ベッドはだいぶ古かったので、〈修復屋〉に引っ越した後に処分したが、勉強机やイス、それから洋服ダンスや棚は、そのまま大切に残されている。
部屋は綺麗な状態のようなので、ドロシーがいつ帰って来てもいいように、きっとキャロルがこまめに掃除をしているのだろう。
ドロシーとルルがキッチンの近くで、座ってひと休みしていると、キャロルが昼食を作ってくれたようだ。
ルルを旬の干し小魚を食べていた間、ドロシーはレタスとハムが挟まった丸パンとミネストローネを味わっていた。




