臨時休養
前日に早く就寝したドロシーだったが、彼女は目覚めがスッキリとはしていないようだった。頭もボーとしていたのも、何となくは自覚していたようだ。
窓の方からパラパラ……と音がしていたので、ドロシーは窓を覗いてみた。
空は多くの雲に覆われているようで、どうやら小雨が降っているようだ。
今朝は、すぐに体が冷えてしまうくらい寒いようだ。
それに、ドロシーは食欲があまり無かった。
一旦ベッドから離れたドロシーだったが、冷たい空気から逃れて暖を取るために、再びベッドに入ったのだった。
肩まで布団をかけると、ドロシーはクシュンッとくしゃみをした。
と、布団に潜り込んで、ベッドの下の方で寝ていたルルが起きたようだ。ルルは器用に布団の上に行くと、ドロシーの顔に近づいてきた。
「おはよう、ドロシー。……体調、どんな感じ??」
「うーん、いつもより眠気が残っている気がする……。だいぶ疲れが溜まってるのかなぁ……?」
弱々しい声で答えると、ドロシーは横になったまま欠伸をした。彼女の目もしょぼしょぼしているようだ。
「だと思うよ〜。あっ……、わたしもまだおなかが空いていないから、ベッドに居るね。もう少し寝ていたら?」
「うん、ありがとう……」
……どのくらい時間が経っただろうか。
一階のトイレに行くタイミングで、ようやくドロシーは完全に起床した。
ドロシーがトイレから出て、窓の外を見ると、ちらほらと傘を指した人々が通りを歩いているようだ。
太陽は雲に隠れたままだが、早朝よりも寒くは感じないので、昼頃になっているのだろう。
ドロシーはキッチンに入ると、まずはテーブルの近くにあった暖炉に火をつけた。
ルルも暖炉の真正面に来て、敷物の上で寛ぎ始めたようだ。
暖炉の前で体を温めた後、ドロシーはルルの食事を用意して、敷物に皿を置いた。
その後、ドロシーは昨日に作り置きした野菜スープを軽く食べて、ひと息ついていたのだった。
ドロシーが食器を洗い終わった時、玄関の方からベルを鳴らす音が聞こえたようだ。
彼女は「はーいっ」と声を出すと、玄関の方に行った。
(雨が降っているのに……。一体、誰だろう?)
ドロシーがゆっくり玄関のドアを開けると、意外な二人組が立っていたので、彼女は驚いた。
従弟にあたるノアと、最近顔見知りになったサイモンが突然訪ねてきたのだ。
「せっかくの休みなのに、悪いな。アンタに伝えたいことがあったから来たんだ」
「ボクもいるよ〜。入っていい?」
ドロシーが返事をした後、傘立てに傘を入れてから、ノアとサイモンが家の中に入った。
ドロシーは温かい紅茶を作ると、キッチンのイスに座っているノアとサイモンが居るテーブルに置いた。
自分の分の紅茶を持ってくると、ドロシーもイスに腰かけたようだ。
「……ああ。明日の仕事、三番地の精肉店からの依頼な、延期していいって。緊急性が無いらしい。ジェシカさんが話してくれて、一週間後くらいに来てくれても構わない、だとよ」
サイモンから予想外の伝言を聞いて、ドロシーはすぐに今の状況をポカンとしていた。
すると、ノアもドロシーに話を始めたようだ。
「あと、お母さんね、『しばらくシミ抜きやらの練習はダメだよ~』って言ってたよ。もしドロシーが倒れたら、一大事だって! ボクだって、元気じゃないドロシーを見るの、なんか嫌だしっ」
体調が良くないのを自覚していたドロシーだったが、仕事を依頼してくれた精肉店の主人に申し訳ないことをしたなと思ったようだ。
それ故、サイモンとノアの話を聞いて、すぐには返答できなかった。
……と、ルルはドロシーの膝に乗って、ドロシーの目を真剣に見つめた。
「ドロシー。とりあえず一週間、お仕事を休んでみたら?」
「使い魔さんの言う通りだな。ベンさんとジェシカさんも心配していたみたいだし、しばらく休んでもいーんじゃないか?? ああ、臨時休業……て言うか、臨時休養になるか?」
ルルの助言とサイモンの念押しがあり、やっとドロシーは「では、休ませてもらおうかな」と返答をしたのだった。
サイモンやノアだけでなく、ルルもドロシーが休養する提案を受け入れたので、ひと安心したようだ。
ドロシーとの会話が一段落すると、ノアは家の手伝いをするために、一人で帰っていった。
「そーいえば……。お仕事、大丈夫なんですか??」
「あー、恒例のサボりではあるけど、できるだけ早く仕事片付けたこともあるし〜。あと、宰相補佐官は数人居るし、オレだけじゃないから。優秀で寛大な先輩がちゃんとフォローしてくれてるから、ま〜一応、何とかなってる感じ」
と、サイモンはドロシーからの質問に答えた後、「あっ! 忘れそーになってた〜」と呟いた。
「そーいや、ベンさんから精肉店のおやっさんから渡された、豚肉の塩漬けを預かってたんだった。……受け取ってくれ、な」
「え……、あ。ありがとうございますっ」




