運命の人
隣のクラスのHRがなかなか終わらない。
R奈はイライラしながら、彼が出てくるのを待った。
(はやくはやく、終われ~)
腕時計を見ながら廊下の角から頭を出してはひっこめて様子をうかがう。
そのときだった。
ガタガタっと一斉に椅子を引く音が聞こえた。ようやく終わったようだ。
教室の前の扉が開き、バーコード禿とメガネでおなじみの担任が出てきた。
R奈の位置とは逆方向の職員室へ向かってすたすたと歩いていく。スリッパの音とともに彼の姿が
反対側の廊下の角へ消えていく、と同時に少し遅れて生徒たちもわらわらと出てきた。
しばらく頭を出しては引っ込めて見ていると、ようやく教室の後ろの扉からお目当ての彼、A君が出てきた。
R奈はすばやく鞄からスマホを取り出すと、操作をし始めた。・・・正確には操作をしているフリをしながら、少しだけ勢いよく廊下の角から飛び出した。
途中、何人かの生徒にぶつかったような気がしたが、今は気にしていられない。
口ではごめん、とつぶやきつつも
相手を見る事もなく、ただただ標的に向かってばく進していく。
そして・・・・・・
ドン!!!
「きゃっ」「!」
R奈はわざとらしく悲鳴を上げ、彼の胸元に頭突きした。そして上目遣いでせいいっぱい可愛らしさを
意識しながらAを見上げる。
相手も不意打ちだったが、特に驚いた様子もなくR奈を見下ろす。
「ごめんなさぁい」ワントーン高めの声で甘えたように謝ってみる。
「いや・・大丈夫」A君はその仕草にまんざらでもない様子で、へへっと笑い、そのまま横を通り過ぎて行った。
彼の後姿を見送りながら、R奈は内心でほくそ笑んだ。
・・・今日もうまくいったわ。
実はこうやってR奈はたびたび彼とぶつかってきたのだ。
偶然を装って。
廊下の角で、校門で、通学路などいたるところで。
普通に告白する勇気など到底無かった。もともと何の接点もなく、告白しても断られる可能性もあるため
それだけは避けたかったR奈はどうしたものかと思案していた。
そんな時、いつも読んでいるファッション誌のメイク特集のページに『インパクトが大事』というフレーズがたまたま目に入ったR奈は、”出逢いにもインパクトが大事”という結論に至り、今の方法を思いついたのだ。
”接点がなければ作ってしまえばいい” というのが結論だというわけだ。
演劇部所属なので自然な演技をするのにはいくらか(?)自信があった。色々な衝突パターンを試し、
徐々にR奈はAに自分の存在を認知させていった。何回か実践していくうちに、彼はR奈を意識しだしているのを感じ取れて、ぶつかるたびに何とも言えない達成感を覚えるようになってもいった。
さっきなんて、A君、ちょっと顔を赤くしてなかった? さすが、私、女優として完璧!
A君はそこそこ女子に人気がある。だけど、それを前面に押し出していないところに好感がもてる。
だからモテるんだろうけど。
・・・もちろん、私よりかわいい子なんて校内にいくらでもいる。でもその部分はこの類まれなる演技力でいくらでもカバーできるわ、ウフフ。
と、R奈はひとりで悦に入り、部活に行くためにひきかえした。スキップをしそうな勢いでその場をあとにする・・。
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そんな彼女の後姿を物陰から見送る少年が一人いた。
最近毎回毎回、自分にぶつかっておいて謝りもせず、自分の事を一切、見ようともしない彼女、R奈を。
たしか、演劇部だったよな。 文化祭のたびに思う。いつ見てもわざとらしい演技だなと。
でも可愛いから、今度、声かけてみるか。
正面から。
モデル経験があり、イケメン過ぎるがゆえに、ほとんどの女子が緊張から気軽に話しかけられない隣の隣のクラスのB君は、R奈を見て不敵な笑みを浮かべたのであった。
完