「私なんて」の過去。ー心の傷-
「本当にデブだよな。食べ過ぎなんだよ。」
「少しは気にしろよな。豚みたい!」
「そうだよね〜。嫌になっちゃうよ〜あはは!」
(何でそんなこと言うの?)
幼い頃から太っていた私。小学生の頃からずっと、体型のことをからかわれてきた。
心の中で傷付いてはいたが、嫌われたくなくて周りに合わせて自分をネタにして笑っていた。本当はずっと悲しかったけど、誰も気付いてはいなかっただろう。
こんなエピソードがある。小学六年生のある日、担任の先生と友達と話していると
「先生〜この間ね、琴音ちゃん机の間通れなかったの!面白かった。」
と友達が話し出した。
「面白いなんて言ってはいけませんよ。琴音さん大丈夫だった?」
先生は心配そうに聞いてきた。
この時、私は顔から火が出そうなほど恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。早くこの話題を終わりにしたかった。私が見た目を気にしていることを先生に気付かれたくない。
「いつものことだから!それに、みんな大きいパンダみたいって『パンちゃん』て可愛いあだ名を付けてくれたんです。」
とニコニコ笑顔で答えた。すると、
「そうなの。琴音さんは何かあっても明るく考えられるのは素敵な特技ね。」
と先生は褒めてくれた。
(これでみんなが怒られないで済む)
私はホッとした。
こんな風に私はいつも自分を偽って、笑顔の仮面をつけて過ごしてきた。家族の前でも。
中学生になっても、体型いじりは続いていた。年頃になりみんな見た目を気にし始める。からかわれる頻度は多くなり、言葉の強さもどんどんエスカレートしていた。
痩せようと思ってダイエットもした。だけど、変われなかった。辛い思いは食べることにぶつけてしまっていたのだ。食べている間は辛いことを忘れられたから。
でもね、それは一瞬だけ。食べ終わったら後悔が襲ってくるの。そしてずっと自分を責める。その繰り返しだった。
私なんて痩せることもできないんだと悲しかった。みんなにからかわれて当然だと全てを諦めていた。
周りの目が怖い。学校に行きたくない。誰にも会いたくない。消えたい。もう嫌だ。
高校生になり、女子校へ進学した。女子だけということもあり、体型をからかわれることはほとんどなくなった。私は安心して学校に通うことができていた。心が落ち着いたこともあり、少しずつ痩せられていた。それなのに...。
ある日を境に顔中に紫のしこりニキビが出来始めた。ボコボコで膿と血だらけになった顔。正直、とても酷かった。皮膚科に通い、スキンケアを頑張っても治らない。なんで?どうして?鏡を見る度に涙が出た。頑張れば頑張るほど酷くなる一方だった。
「琴音!ちゃんとスキンケアしてる?」
「ニキビどんどん増えてるよね」
友達から指摘されることが増えてきた。
私はその度に
「ニキビ酷いよね〜不摂生のせいかな〜あはは!」
と笑って気にしていないフリをしていた。
ニキビをバカにする友達はいなくて、心配してくれていた。
でもね、私はニキビについて触れられたくなかったんだ。
気にしていることを悟られたくなかったんだ。
『辛い』って言えばよかったのに。バカだよね。
そしてその頃から、私は妹の綾音と比べられ始めた。
綾音は幼い頃から痩せていて、顔も可愛かった。褒められることも多く、自慢の妹だった。喧嘩をすることもあるけど、大切な存在だった。なのに...
「琴音の妹ってめっちゃ美人なんでしょ?写真見せてよ!」
綾音の話を中学の同級生がしたようだ。
「いいよ!」
と写真を見せた私。
「めちゃくちゃ可愛いじゃん!琴音と似てないね」
「そうなの。全然似てないんだよ〜」
「琴音も痩せて肌綺麗にしたら美人になるんじゃない?家族だし!」
「そうだといいな〜」
その時はまだ、妹が美人と言われて嬉しいなくらいに思っていた。
でもね、気付くと妹の話題はあっという間に広まっていたんだ。
色々な人に声を掛けられ、その度に似ていないことを指摘された。
徐々に私は妹と比べられる事が辛くなっていった。
どうせ私はデブでニキビだらけの汚いブス。みんなの前では笑って誤魔化しても、家ではずっと泣いていた。綾音の顔も見られなくなり、自分の部屋に引き篭もることが増えた。
三年生になると、絢音が同じ高校へ入学した。
そして、入学してきた妹と直接比較された。
今まで辛い自分を隠してきたのに、笑うこともできなかった。
ついに私の心は壊れてしまった。
高校三年生の四月。私は学校へ行けなくなった。
そして私は言ってしまったんだ
「綾音の顔なんて見たくない!綾音なんていなければ良かったのに」
と。