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DAY13

 夕暮れに染まる山々は美しく、思わずため息が出るほど幻想的だ。


 生徒たちは各々荷物を置くと、担任の指示に従って動き出した。各班に別れ、火をおこす準備を始める。といっても私は何をすればいいのか分からず、立ち尽くしていた。


 火属性の魔法が使える人はヒーローだ。料理場では常に引っ張りだこだし、なんたってキャンプファイヤーの着火ができる。それに引き換え私は……なんてくじけたって駄目よね。殿下が戻ってきた時に自慢できるよう、活躍しなきゃ!


 私はクラスメイトに話しかけ、何ができるか聞いてみた。結果、薪の水分を取る係に任命された。え、まって。私の想定していた内容とはかけ離れているんですが……


 薪に手を当て、水分を抜く地味な作業。唯一の救いといえば、私がひと手間かけた薪が火に入るたびに、他の班よりも少し、ほんの少しだけ火の手が上がることくらいだ。なんか……地味ね、これ。


 といっても結局やることもないので、ひたすら薪に手を当てる。魔力が徐々に少なくなっていくのが分かるが、どうせ使わない水魔法だ。火が消えて私のせいにされるのも嫌なので、今ある魔力を全て使う。マナさえなくなれば、私のせいにされる心配はないからだ。


 ひたすら最高級品の薪を作っていると、他班から依頼が飛んできた。どうやら、火加減で負けたくないらしい。火って強ければ強いほどいいってわけではないでしょうに……男子が考えることって単純ね。そんなことを考えながら、他の班のも手伝う。


 だけど内心嬉しかった。自分の活躍の場ができたからだ。そうして私がほほ笑んでいるのを見たのか、はたまたたまたまなのか……ついに奴が現れた。


「わたくしのもお願いできるかしら」


 ロザリーが近づいてきて、私に言った。少し困った顔をして、眉をひそめている。私はうなずき、薪に手を当てる。さすがのロザリーとはいえ、断るのは少しかわいそうな気がした。それに、ロザリーに頼まれることが滅多にないため、少し嬉しい気持ちもあったのだ。


「終わりましたよ」


 全神経を集中させ、最大限の力を使って水分を抜いた。これで私の仕事は終わりだ。後は彼女が何とかしてくれるはず……と思っていたが、どうしたのだろうか。彼女は一向に動く気配がない。


 不思議に思い、顔を上げる。すると、彼女の視線がこちらに向けられていることに気付いた。私と目が合うと、彼女は少しだけ笑い、ありがとうとだけ言い残し去っていった。なんだ……てっきり大したことないとか、文句を言われるものかと思った。学園では上品なお嬢様を演じているのね。ま、本性を知っている私の前では無駄ですけど。


 全ての班の火が付いた。男子たちが火力勝負をし、火事になりかけた所もあったが私が止めた。感謝された瞬間を思い出すだけで、自己肯定感があがる。


(なんだ私、やればできるじゃないの)


 すっかり班のリーダーになった気分だ。殿下に自慢できることが一つ増えただけで、明日が楽しみになる。とても気持ちがいい。次の食材調達もなんてことない作業だ。一番心配していた作業ですら、私は手際よくこなせる自信があった。


***


「それじゃあ、行ってきます」


 マナの微調整が得意な生徒を残し、それ以外はみな食料調達に行くことになった。私が残ろうとも思ったが、魔力が底をつきかけているのもあり、他の生徒に任せた。まぁ、先生がついてるし何とかなるでしょ。


 炊事場からは煮込まれているオグル牛のいい香りが漂っている。オグル牛とはこの王国のブランド牛で、一頭うん千万もする超高級食材だ。この国を担う若者のためにと、国王が新入生に対し、毎年プレゼントしているらしい。それを贅沢にも野外で煮込み、採れたて新鮮な山菜で見た目を彩るのが本日のメインディッシュだ。もっとも新鮮な山菜というのは、これから取りに行くやつのことなのだけど。いやいや、新鮮すぎるでしょ!


 芳醇な香りと、口の中でとろける肉汁。噛めば噛むほど甘みが増す一級品のお肉を、特製のソースで煮詰めた逸品。あぁ……早く食べたいわぁ。よだれが出るのを我慢しながら、山へ入ろうとしたとき、後ろから声が聞こえた。パモス先生だ。


「アリアナさん、頼みごとがあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか」

「実は一人見張りが足りなくてね。アリアナさん、水魔法使えるし、何かあった時のために残ってくれないかな」

「えぇ、別に構いませんよ」

「ありがとう! それじゃあ、見張りよろしくね!」


 パモス先生はお礼を言うと、すぐさまどこかへ行った。先生という職業の大変さがよくわかる。


「それじゃあ、私は残りますけど、みなさんは……」


 振り返るが心配そうにしている人は一人もいない。むしろ、半分肝試しみたいで喜んでいる男子までいた。


(山の中に入るのがそんなに楽しみなのね。山って暗いしこわいし……なにより虫だって出るじゃない。まぁ、行きたい人が行ければそれに越したことはないわよね。炊事場で待つことにしよ)


 私は炊事場に、皆は山の方へと入っていった。危険な生物はいないらしいがやはり心配ではある。先生が見回りをしているらしいので、大丈夫だとは思うがなんかこう……言葉にできない不安があるというか……


 日の入りが近かった。遠くの方で鳥が、鳴いていた。


明日も更新します。

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