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DAY12

「ふわぁ、眠い」


 今日は一段と朝が早かった。なにを隠そう、本日は新入生にとって最初のイベント、林間合宿が行なわれるためである。


 目的地は近くの山……といっても杖に乗っても半刻ほどかかってしまうのだけど、そこに一晩だけ泊まる。クラス同士の仲を深め合うために、創立以来から欠かさず行われている行事らしい。


「眠い……本当に眠い」


 昨日、殿下の肩を借りてから記憶がない。気づいたら自分のベッドにいたのだ。きっと疲れて帰ってきた私を気遣って、殿下が運んでくれたのだと思う。

 

 おかげで今日は寝不足である。というか、私は朝弱いから常に寝不足のような恰好だけど。そんなことより、昨日よ昨日! 遂に殿下に認めてもらえたのよ! こんなの安心してぐっすり眠れって言われる方が無理じゃない!!


 私は有頂天になっていた。この世界で一番の幸せ者は自分であるという自信があった。だけど、そんな気持ちはすぐに終わってしまった。教室に入るとロザリーがすたすたと歩いてきて、話しかけてきたからだ。


「アリアナさん、ごきげんよう。お元気にしていらっしゃいましたか?」


 満面の笑みを浮かべる彼女を見て、私は一瞬にして冷静になる。そうか、ここは学園なんだ。ロザリーがいる以上、油断したら足元をすくわれる。だから気を引き締めないと。そう自分に言い聞かせると、笑顔を取り繕った。


「えぇ。ロザリーさんもお元気そうで何よりです」


 ロザリーが不満げに眉をひそめる。委縮しなくなった私を見て、不思議がっているようにも見えた。彼女はしばらく考え込んでいたが、やがて何かを思い出したかのように口を開いた。その声色はどこか弾んでいて、嬉しさを隠し切れていない様子だった。


「合宿、楽しみですわね」


 ロザリーはくるりと背を向けると、再び女生徒の輪の中に戻っていった。彼女の背中を見つめながら、私は少し不安になっていた。なんだか嫌な予感がする。考えようとしたが、それを遮るかのように始業のベルが鳴り響く。


 クラスに現れたのは、違う担任だった。猫背でぼっちゃりとしたとんがり頭の先生。およそクロヌス殿下とは似ても似つかない。そういや、今日はクロヌス殿下に会っていないわね……。


「えぇ、本日このクラスの牽引を務めさせていただきます、パモスといいます。クロヌス殿下は緊急の用事で本日これないようなので、代わりに私が担当させていただくことになりました。皆さんの合宿が良いものになるよう、精一杯頑張らせていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします」


 生徒たちのどよめきは無視され、合宿の日程について語られる。詳細はこうだ。移動は各人が所有する魔法のほうき。担任が先導し、生徒たちがその後に続く。体調不良者や魔力のコントロールが苦手な人は先生が乗せてくれるらしい。あの……私、ほうき乗るの苦手なんですけど。手を挙げ申告しようとしたが、結局やめた。なんだか先生の後ろに乗るのが恥ずかしいかったからだ。


(殿下の後ろだったらなぁ。全然大丈夫……じゃないな。うん、全然大丈夫じゃない。てことはどのみち、頑張らないといけない所よね。迷子にならないよう頑張ってついていこ)


 今回の合宿はクラスの親睦を深めることが目的なので、大掛かりなイベントは特にないらしい。ただ、夕食だけは全員で作ることになっている。調理場は野外にあり、野外実習の一貫として現地で食材を取るようだ。普通は食材を持ち寄ったりするのだが、さすがは王立魔法学園。他の学園とは違い、ガチ感が半端じゃない。


 説明が終わると、早速出発となった。クラスごとに並び、担任の後をついていく。私は飛び立つ前に、どうしても聞かなければいけないことがあった。殿下のことである。


「あの……パモス先生? 少しお聞きしたいことがあるのですが」


 走って先頭まで行き、肩で息をしながら聞いた。


「あぁ、なんですか。僕で答えられることであればなんでも」

「クロヌス殿下は……なぜ今日いらっしゃらないのでしょうか」


 やっぱり気になる。昨日の殿下が忘れられない自分がいた。もし殿下に何かあったりでもしたら……そんなことを考えると不安で押しつぶされそうだ。


 代理のパモス先生は空を見上げ、首を傾げた。歯切れの悪い声が、聞こえてきた。


「ん~、実は僕もよくわからないんだ。他の先生も首をかしげてたし、理由が言えないってことはよほどのことなんだろうね。王室関連……あるいは国家の機密事項に関する何か重大なことが起こったのかもしれない。何か分かったら伝えるつもりさ」

「……はい、ありがとうございます」


 私は礼を言うと、すぐにクラスメイトの元へ駆け寄り、ほうきに乗った。なんだか空が、薄暗く感じる。


「さぁ、出発ですよ!」


 空高く舞い上がると、見渡す限りの青。雲一つなく澄み渡っており、水平線の果てまで見える。遠くの方には森がうっすらと見えた。あれが目的地の山だろう。そう考えると、不安が高揚感に塗り替えられていく。だけど……この景色はやっぱり殿下と一緒に見たかったな。


 目的地に到着したのは、太陽が沈みかけた時だった。


本日の更新は以上です。

明日も投稿します。

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