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DAY1

「そんな、あんまりですわ!」


 宮廷に響き渡る怒号。わたくし、アリアナ・バローチェは王太子妃になれるはずだった。しかし、それは叶わなかったのだ。何故なら――。


「なんでロザリーが選ばれるのよ!?」


 そう、わたくしを昔からいじめていた同い年のロザリーが王太子妃に選ばれたからです。


「ええい! 黙れっ!! この事はもう決まった事なのだ。お前がどう喚こうとも覆る事はない」


 わたくしの叫び声を遮るように怒鳴る父上。その顔には怒りがありありと浮かんでいる。


「それに、これは国王様からの直々の御命令だぞ?」


 そして、追い打ちをかけるように言う父上の言葉を聞いて、わたくしは理解した。ああ、やはりそういう事でしたか……。


「……わかりました」


 わたくしは俯きながら小さく呟く。すると、先程までの怒りの形相をしていた父上は満足そうな表情へと変わった。


「おお、わかってくれたか……」

「はい、よく分かりましたわ。私がいままでどれだけ努力してきたかを、父上は全く分かっていないことを……」

「いや、そんなことは一言も、あ、あれ……? おーい、もしもーし? 聞いてますか~?」


 何か言っているようだけど気にしない。今はただ、自分の気持ちに素直になるだけだ。


「そうと決まれば早速準備をしなくてはなりませんわね! さようなら、わたくしの父上!」


 そう言って部屋を出て行くわたくし。後ろで父上の慌てる声が聞こえるけど無視だ、無視! こうして、わたくしは家出の準備を始めた。

 それから三年後―――。


「ふぅ、やっと着きましたわね」


 わたくしは今、王都にある王立魔法学園の前に立っていた。この学園では様々な分野の優秀な人材が集まる場所であり、ここを卒業した者は将来有望と言われている。また、ここを卒業するだけで就職にも有利になると噂されている為、毎年多くの入学希望者がいるらしい。その為、入学試験も非常に難しくなっているそうだ。

 しかし、自信はあった。何故なら、この三年間ひたすら魔法の勉強に明け暮れていたからだ。しかも、それだけではない。礼儀作法についても猛勉強をした……といっても、これに関しては王太子妃になるためにしてきたことを学び直しただけなのですけど。


「深呼吸、深呼吸……」


 番号が貼りだされる。大丈夫、筆記も面接も完璧。筆記だって三年も勉強してきたし、ましてや面接なんて王太子に会うための礼儀作法を練習してきた私にとって満点が当たり前ですわ。

 136、136、136 唱えるように自分の番号を探し出す。


 合格者番号 ……128 132 138 143 151 164 167


「……うそ」


 信じられない。何故こんな結果になってしまったのか。試験問題も難しいものではなかったはず、なのに……なんで……


「だから、君は僕に選ばれなかったんだよ」


 コツン とわざとらしく音を立てながら誰かが近寄ってきた。遠目では分からなかったけど、近づいてきて分かった。知っている人物だ。


「やぁ、久しぶりだねアリアナ」


 私の目の前にいたのはこの国の次期国王となる男、アレクサンドラ・エルドレッド殿下だった。わたくしの……夫になるはずだった男。


「どうして、あなたがここに?」

「どうしてって? そりゃあアカデミーは僕の管轄だからね。優秀な人材をこの目で直に見たいだろ?」


 不敵な笑みを浮かべる。どうやら、私に嫌味を言いに来たようだ。


「私は落ちました。優秀ではありません。なのでどこか行ってください」


 彼が望むままの対応をする。これ以上傷を広げられるのはごめんだ。


「おやおや、もしかして婚約破棄したの怒ってる? だったら申し訳ないなぁ~どうしてあげよっかなぁ~」


 私の耳元に彼の顔がくる。急に近寄ってきたもんだから体が硬直してかわすことができなかった。


(特別に入学させてあげよっか? もちろん裏口だけど)


 は? そんな相談乗るわけないでしょ? 気持ち悪すぎて寒気がするんですけど。


「ま、ロザリーであればこんな手を使わずに学園に入学できるはz……」


 パン と乾いた音がした。彼の顔が横を向き、私の手がかすかに赤くなる。


「どこまで私を馬鹿にすれば気が済む気? いい加減にしなさいよ、あんた」


 彼は一瞬ものすごい形相で私を睨んできたが、すぐにへらへらした顔に戻った。そして、気が向いたらいつでもおいで、ベットの上ででもよければ話を聞こう、とだけ言い残し去っていった。


「はっ、何よあいつ……」


 悔しくて涙が出そうになる。でも、ここで泣いたりしたらそれこそ奴の思う壺だ。


「絶対に見返してやるわ……」


 猛烈に腹が立った。それこそ婚約破棄された時以上だ。なにより今回は彼に対してもそうだが、自分自身に対しても腹がたった。プライドのない女だと思われていたことが悔しくて我慢ならなかったのだ。

 地面を踏んづけながら帰った。はやく借家に帰って寝て、今日のことはなにもかも忘れ去ろう。そう考えた。


「へぇ、面白そうな子がいるじゃん」


 声がした。一瞬、振り返ったが誰もいない。


「とうとう幻聴まで聞こえてきた。はやく寝ないと……」


 私は足を速めた。背後の物陰から現れる人影に全く気付くことなく。


***


「やぁ、合格おめでとう」


 朝日で目覚めることなく、私は彼の声で起こされる。昨日聞いた声と同じだ。


「はい、これ合格通知書。ぎゃふんといわせてやれ、あんなやつ」


 渡された封筒には確かに私が入学することが書かれていた。が、そんなことはひとまず置いといて……だ。


「だ、だ、だ、だ誰ですか、あなた!? 私の部屋に勝手に入ってきて! 泥棒ですか? 何も盗むものなんてありませんよ!?」

「いやいや、とりあえず落ち着きたまえ君。ん~っとそうだな、説明してもいいんだけどとりあえず……」


 彼の目線が下に落ち、私の胸元の所まで寄ってくる。


「とりあえず、着替えよっか……なんていうかその、目のやり場に困るし……」


 私の寝相はすこぶる悪い。寝る前と寝た後で頭の位置が逆になっていることなんてざらだ。

 くわえて寝巻はいつもルーズなものと決めている。だって寝る時まで体を締め付けたくないじゃん。てことはつまり、今の私の状況は……


「このっ、変態変態へんた……ど変態っっ!!」


 出てけ~! と盛大に叫びながら追い出す。彼も素直に従い、いったん避難。まったく、とんでもない野郎ですわ。でも……


(けっこう、かっこよかったわね……)


 とんでもない野郎だったけど、目が冴えた状態で見たから間違いない。美男子だった。それも一目見ただけで分かるほど。

 端正でありながらも男性らしい雰囲気が漂っている顔。額に広がる髪は、艶やかで繊細な光沢を放つ銀。瞳は、透明感溢れる深い青色。整った輪郭線は繊細ながらも力強さを秘め、肌は透明感がありながらも健康的な輝きを放っている。


(あんな魅力的な男性がいたら、普通の女性はイチコロよね。ま、私にとっては第一印象、最悪ですけど)


 すぐさま着替え、ドアを開けようとしたが一瞬考える。このまま兵士に突き出した方がよいのでは? ん~どうしよう。


(でも、この合格書は気になるし……まぁ、いざとなったら魔法ぶっ放せばなんとかなるでしょう。よし、決めた。そうしよう)


 自由を求めて始めた一人暮らし。部屋の中に閉じこもったってしょうがない。私は自分が思っている以上に、行動力のある女性になっていた。


「あの~、もう入っても大丈夫ですよ~?」


 恐る恐るという感じで入ってくる彼。どうやらさっきの出来事を気にしているらしい。まぁ、堂々と入ってきたらぶん殴るところだったけど。


「で、結局あなたは何者なんです? 不法侵入罪で訴えますよ」

「うーん、それはちょっと答えられないなぁ。あと、不法侵入罪ってなに?」

「は? 知らないの?」

「知らない。だって僕、ずっと森の中いたし」


 あっけらかんとした表情を浮かべる。どうやら嘘はついていないみたいだ。だが森はさすがに誇張しているはずだし、それくらい田舎から来た人間ってことでいいのかしら? ま、それはそうと……


「この合格通知書って本物? だとして、なぜ私に?」

「本物だよ。君に渡したら面白そうだし、渡しただけ。いらなかったら捨ててもいいよ。僕にはいらないものだし」


 ますます意味が分からない。王立魔法学園の入学なんて王国の誰もがうらやむエリート街道なのよ? それがいらない? いったいこの男の頭の中どうなってるのかしら。


「でも私が入ったところで弾かれるわよ。だって私とあなた……まったく似てないし」

「それもまったく問題ないよ。嘘だと思ったら学園に入学してみればいい」

「え? それってどういう……」

「あ、そろそろ時間だ。じゃ、また今度会おうね。アリアナちゃん」


 そういうと彼は消えた。まるで初めからいなかったかのように。


「何なのよあいつ……」


 呆然とするしかなかった。最初から最後まですべてが私の予想の範疇を超えていた。あぁ、私きっと疲れているんだわ。もう一回寝よ。

 私は横になり、合格通知書を眺める。さて、どうしたものか。今日中に結論を出さなくては。


本日中にあと三話更新します。

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