表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

優しき天神は生贄を欲す 其の弐拾捌

「…何だよ?」


つまらなそうに、だが一応返事をすると、風玉は降りてこい、と顎で大地を示す。


舌を鳴らしながら飛び降りると、風玉は穏やかな風に髪をなびかせながら、木の根元に送る。


「…かつて愛した女を思い出していたか、珍しく感情に浸る事もあるのだな」


「てめえに関係ねぇだろう、クソ蛇」


「蛇ではなく龍だ」


「おんなじだろ」


そう言うと、琥珀は同じように木の根元を見下ろした。

もうこの地に、霈の魂はいないだろう。


こうしてこの巨木に執着するのも、意味がないのかも知れない。


「この山は私の加護どころか、もっと昔から呪われていたのやも知れんな」


「…急に何だ?」


「この地に古くからある伝説、妖と人間の悲恋物語は、この山の呪いなのでは…と思ってな」


「……」


そう言えば、この龍神もこの山で愛した女を亡くしている。

その女も、霈と同じ人間だ。


「この山では、妖と人間の恋物語は、上手くいかぬのかも知れん」


「…あぁ?」


なら霈が死んだのも、呪いのせいなのか?

違うだろう。


霈は殺されたんだ。

当時の朝廷、都の連中に。


そうでなければ、都を滅ぼした自分の気が晴れない。


「だとしたら、伽耶もお主と上手く行かぬのではないか?」


「…くっだらねぇ事言いやがる、あの人間の女が何だってんだ」


そう風玉の言葉を一蹴いっしゅうし、顔を逸らした琥珀の目に、ちょうど遠くからこちらに歩いて来る伽耶の姿が映った。












居間で皆んなで話をしていて、琥珀が出て行ってしまってから、随分と時間が経った。


疲れていたのだろう佐己を寝床に連れて行った後、私は琥珀と風玉様の姿を探して、山の中を歩いていた。


探すと言っても、琥珀にはお気に入りの木があり、姿が見えない時は、その木で眠っている事が多く、大抵はそこで見つかる。


だから琥珀を探す時は、真っ先にその巨木だ。


(琥珀…、心底佐己の事を嫌っているようには見えないんだけど…)


だがほとんど廃寺にいる事はなくても、人間である私が鬼である琥珀と暮らすのは、かなり稀な事である。


地域や場所によっては、妖は神格化されておらず、人間と混じって生活していると聞くが、この辺りではあり得ない話だ。


(きっと人間と暮らすのも初めてなはず、琥珀の優しさに甘えて、私が勝手に住みついただけだもの)


しかし最近は、琥珀との心の距離も近付いてきた…と、自分では思う。

そして、それがとても嬉しいのだ。


山で一緒に暮らし始めてから、少しずつ琥珀と話をするようになり、不器用な優しさを何度も感じた。

そして何度も助けて貰った。


(認めよう…、私は…琥珀が好きだわ)


これは魅了の力などではない。

今まで一緒に過ごして、そして見て来た琥珀自身に、私が惹かれたのだ。


そう自分の気持ちに気付いた私は、歩いていた足を止めた。


「…え、嘘…。顔が熱い…」


琥珀の事を考えていたせいだろうか。

気持ちに気付いた瞬間、胸が大きく高鳴る。


(し…深呼吸…!!)


人間である私からの好意など、琥珀には迷惑にしかならないだろう。

ここで琥珀と過ごしたいなら、この気持ちは隠さなければならない。


私は何度も深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けると、両頬を強く叩いて、また歩き出した。













(あ、見つけたわ)


やっぱりお気に入りの木の上だったか。

どうやら風玉様も一緒にいるようだ。


「琥珀、風玉様」


恋心に気付かれぬよう、普段通りに名前を呼ぶと、風玉様が最初に私を振り返った。


「おぉ、伽耶か。ちょうどそなたの話をしておったのだ」


「…え?私のですか?」


きょとんとしてしまう。

この二人が私の話をするなど、どういう内容なのか。


「なぁ、神鬼しんきよ」


「うるせぇな、してねーよ。…それより何だよ?探してたんだろ?」


相変わらず不機嫌そうな琥珀も、むすっとした顔で私を振り返る。


「はい、…あの…佐己の事なんですが…」


「…一緒に廃寺で暮らすんだろ?…勝手にすりゃ良いじゃねーか」


「ですが琥珀はお嫌なのでしょう?」


琥珀に心を奪われる前なら、或いは山を降りて佐己と二人で暮らす事も考えただろう。


だが今は、琥珀と離れたくないと、はっきりとした感情がある。

何とか琥珀と佐己、そして風玉様と、皆んなで山で暮らしたい。


そう思いながら琥珀の顔色を窺うと、隣の風玉様が口を開いた。


「さっきも言ったが、神鬼は妬いているだけだ。気にせずに佐己と暮らすと良い。…全く、そなたはあんな子供にも妬くのか」


「だから妬いてねーよ!勝手な事言うな!」


「…え」


風玉様の言葉が本当なら、琥珀は少なからず私を好いていると言う事になる。


自分の気持ちに気付いた直後に、両想いだと言う事も知れるなら嬉しい限りだが、琥珀はそれを真っ向から否定しており、私は複雑な気持ちで苦笑いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ